quest!   作:resot

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少しずつ、暖かくなってきたでしょうか。
筆者は東京なので、そう感じるだけかもしれません。

北信越は、大変そうですが…

ご無事を、お祈りします。

それでは、続きです。


第7話 復活!

ーーーF。

 

それは、私たちハンターにとっては、一つの目標でもある文字である。ちなみに、エフと読む。

 

実力のあるハンターのみがそこでハンターをすることを許される街、王都メゼポルタ。

そこのギルドの人々はFハンと呼ばれ、尊敬されている。

 

周囲に現れるモンスターは、あまりにも圧倒的に強い。

 

 

もはや人間が退治できるレベルはとうに超えている。

 

 

 

その中で、命のやり取りをすることが許される者たち。

彼らが紛れもなく、ハンター界の頂点をいく者たちだ。

 

 

そして、私の目の前に、突然現れたFの名を持つハンター。

 

圧倒された。すごかった。

 

サツキが、私を助けてくれたのだ。

 

彼女は、私と同い年。それなのに、私の知らない武器を使いこなして、次々と攻撃を決めていく。

 

明らかに慣れた身のこなし。予測。武器を振る、その的確さ。回避の仕方。

 

 

 

全くハンターを辞めていたとは思えないその力。

 

正直、私なんかとは、格が違った。

 

ひょっとしたら、勝てるんじゃないか。

そう思った。

 

 

でも、あのモンスターは何かが違った。突然、雷が鳴ったような音がして、サツキの身体が吹っ飛んだ。

 

辺りがまるで昼のように輝く。

中央のモンスターは、背中にバチバチと電気を纏った。

 

ユクモで現れるような、モンスターじゃない。

 

それを悟った。

 

放電が収まらない。周りの木々が、次々と倒れる。

 

その中に、サツキは倒れ込んだ。

 

 

やばい。サツキが危ない!

 

ーーー助けなきゃ!

 

そう思ったら、ダメージを負っていたはずの身体が軽くなった。

 

 

 

その瞬間、おかしなことが起きたのだ。

 

 

 

 

目の前の光景が、写真のように止まって見えた。

 

モンスターの尻尾がみえる。小さな鱗まで、鮮明に。

 

どこが弱いか。どこを切るべきか。

 

全て見通せた。だから持っていた、双剣を振り抜いた。

 

それだけだ。

 

ーーーあの感覚は何だったのだろう。

 

とにかく、魂が震えるようだった。

 

でも、あのモンスターには逃げられてしまった。少ししてミルさんとセリアさんが見つけてくれるまで、私たちは動けなかった。

 

雷狼竜、ジンオウガ。

 

それが、私たちの遭遇したモンスターの名前だった。

 

「・・・ジンオウガは霊峰に古くから生息するモンスター。雷の化身とも言われる、それも、伝説級に珍しい、普通なら遭遇するはずのないモンスターです。私たちの集落の近くになど、降りてくるはずがありません。」

 

村長さんの声を思い出した。

 

やはり、何かが、おかしいのだ。

 

リュウさんは引き続き調査を続けるという。

私たちは生き残ったけど、解決されるべき物事が多すぎた。

 

 

 

 

でも、いいこともある。

紅葉は、4人になったのだ。

 

「何よ、こっち見て。」

 

かつて双星と言われた二人組チームの一人で、当時の新人ハンターの代表格。

 

Fの名をもつメゼポルタのギルドから来たハンター。

 

 

サツキが、目の前にいる。

 

彼女が、ハンターに復帰したのだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ねえ、おじさん。お願い!もうちょっとだけ!」

 

「何言ってんだよカンナ!これは俺が取ってきた薬草だぞ。これ以上値切れるかっての!」

 

「ぶー。けちー!」

 

目の前の明らかに幼い女の子は、実は私と同い年。

 

それも、ハンター。

 

 

ーーーほんとに、この子ハンターなのかしら?

 

 

ちなみに彼女は、先日、単独行動の件でリュウに滅茶苦茶怒られていた。

 

のに、全く反省の色が見られない。

 

今彼女はクエストの準備中。後10分。なのに、なぜか雑貨屋のおじさんに、薬草の値切りを始めた。

 

「ほら、カンナ。遅刻するよ、急ごう。ハンターなんでしょ?お金あるでしょ?」

 

「財布忘れた!」

 

「何してんのよ!」

 

「て、てへぺろ…」

 

「それでごまかさないの!何なの?あなたクエストに忘れ物する人でしょ、絶対!」

 

「い、いやー、そんなこと…」

 

「砂漠行くのにクーラードリンク忘れる人でしょ?」

 

「ど、どうしてそれを….」

 

やっぱりね…。

 

こんな子が、ほんとにオールラウンダーになれるのかしら。いや、無理よね。

 

オールラウンダー。とは何か。

 

それは、「ハンター最大の名誉」と言われる称号のことだ。

 

今現在、世の中ではさまざまな武器が使われている。

 

その元は、モンスターを狩ったり、採取したりして得られる、素材である。そして、モンスターを倒し、得た素材素材の中には、「魂」が宿る。

 

それからできる武器には、それぞれ狩ったモンスターの魂なるものが宿っている。それと本人の力が組み合わさると、各武器種に応じた特殊な力を使えるようになるのだ。

モンスターの魂を自分のうちへ呼び込む、ということ。

 

 

 

勿論、体への負担は大きいし、魂なるものが何かはよく研究が進んでいない。

ただ、そう体に害がある事例もなく、経験則的に使用されている。

 

 

 

そうして、魂の宿った素材を見極め、武器や防具に組み込む加工屋さんがいてこそ、私たちはより楽な狩り、強大な相手に対する狩りができるようになった。

 

そうやって繰り出される強力な攻撃。

 

例えば、双剣なら「鬼神化」となる。

 

そういった攻撃を、「解放攻撃」と呼ぶ。

 

その解放攻撃。実は、もう一段階上がある。

 

ただし、あまりにも大きい力を制御しなくてはならないため、各武器種で一定の実力、成果を残したものにのみ、その秘伝の力の引き出し方が秘伝書として与えられる。

 

実際、私も持っているのだ。主に使う、穿龍棍一枚だけだけど。

簡単に言えば、その武器種の免許皆伝みたいな役割を示している。

 

 

その秘伝書をすべての武器種で集めた者。それが、オールラウンダーである。それは、この世にある全ての武器種を自在に使いこなせる実力の持ち主。今現在その称号の持ち主は5人。

 

 

全員がハンターランク900を超えるまさに「最強」の人たち。メゼポルタに4人と、後はドンドルマという街のギルドに一人。

 

その中でも特に、重い武器を扱いにくい女性はたった一人。その異次元の称号を、彼女は得たいらしい。

 

ちなみに、その女性のオールラウンダーというのも、よく知る人物だったりするのだが。

 

 

 

 

 

 

だけど、この子もこの子で、何かが違う。あの時見たこの子の力。よくわからないと本人も言ってたけど、普通双剣一本でモンスターの尻尾が切れるなどありえない。

 

ーーーこの子にも、何かがある。

 

 

 

 

 

 

まあ、難しいことはリュウに任せておけばいい。それに、私の復帰する目的はこの危なっかしい時限爆弾を守ることと、あくまであるてががりを探すこと。

 

 

ハンターになれば、手かがりも見つかるだろう。

 

「ほら、いくよ。」

 

「はぁい…。」

 

カンナを引きずって、私は集合場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

復帰戦が遠征任務とは、かなーり心細いんだけど…。

 

ジリジリと、太陽が照りつける一面の砂景色。

 

というわけで、私たちは砂原のベースキャンプに来ている。

 

「お兄さん、無理しちゃダメだよー?」

 

「ああ、本当にすまない。」

 

そして、セリアさんが介抱しているのが、今回の依頼者。というか、救援を求めて来たハンターである。

名前は、オスロさんと名乗っていた。

 

 

今朝、ベースキャンプに置いてある予備の通信機から、救援が入ったのだ。

 

偶々ユクモに用事があって来たらしいが、途中でモンスターに出くわし、あえなく・・・というわけらしい。

 

「準備できたか?そろそろ作戦会議をしよう。」

 

ミルさんの周りに集まる。

 

「オスロさん、どんなモンスターだった?」

 

「獣脚類型のモンスターで、固すぎて攻撃が通らなかった・・・あと、突進で何度も天高く・・・」

 

「なーるほど。きっと、ボルボロスちゃんだねー?」

 

「そうだな。」

 

「ボルボロス・・・?」

 

「カンナは初めて狩るのか。」

 

「私もですが。」

 

「土砂竜と言われていてな。普段は泥の中で住んでるんだが、物音一つで飛びかかってくる。縄張り意識が強いんだ。それに、泥を全身に纏っていて、攻撃が通りづらい。」

 

中々厄介そうだ。獣竜種か、しかも。私の苦手な種類だからなぁ…。

 

「作戦は?」

 

「まあ、私とセリアがいればそう問題ない。回復薬はカンナ、特に多めに持っておけ。サツキは誘導、頼むな。全員、突進には注意しろ。」

 

ちなみに、事情は言わなかったけど、私はモンスターの目を見るとああなる、ことだけは説明した。

 

 

みんな、わけを聞きたそうだったけど、話すのが怖かった。

 

 

 

ーーーもう、思い返したくもない。

 

 

「それじゃ、行くか。」

 

 

今回は、セリアさん、ミルさんはいつも通りの片手剣とランス。

 

カンナはハンマーを担いでいる。

 

ほんとに、オールラウンダー目指してるんだな…。

 

 

 

<私、オールラウンダーになりたいな、サッちゃん!>

 

 

頭の中に響く声を、封殺する。

 

そんな夢を持つ馬鹿な女の子が、まだいたんだな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

今回のクエストは、土砂竜ボルボロスを討伐するとともに、オスロさんを連れ帰ること。

 

狩猟達成に向け、私たちは、荒野を進んでいた。

 

途中、ジャギィの一団に会ったが、殲滅した。

サツキが入ってから、連携も取りやすくなった気がする。

 

私が突っ込んでもカバーがちゃんといるし、特にサツキは注意力が超高い。

彼女はモンスターの目が見れない。

 

それは視点を変えざるを得ないということ。

それで狩りをするなど、生半可なことではない。

 

やっぱりすごい。

 

それに、見るたび、思う。

 

「サツキー、もっぺんみせて?」

 

「だめよ。先を急ぐんだから。」

 

前を歩くサツキの背中に綺麗に収まった二つの棍。

 

穿龍棍。ギルドはまだ広く公開していなかったし、雑誌には武器のことなんて書いてないし、初めて知った。

 

見た目はただの二つの棍棒って感じのような見た目。

 

何より、すごく動きやすそうだ。

か、かっこいい…

見てて惚れ惚れする。

 

「・・・ん?」

 

よく見ると、穿龍棍の外にいくつも穴が空いている。

 

「サツキ、この武器、穴空いてるよ?」

 

「そーそー!それ私も思ってた!なんなの?」

 

セリアさんものってくる。

 

「あー、これはですね・・・これがそもそも、まだ実用段階をこの武器が抜けれない理由なんですが・・・でも、言う必要もないんですが?」

 

「そんならいいやー!」

 

「いや、知りたくないんですか?」

 

「んー、別にどっちでもいい!」

 

セリアさんの呑気さにはいつも振り回される。

 

これでこのチーム最上位ハンターである。

狩り以外ではほんとのんびり屋さん、って感じなんだけどなぁ。

 

「私も知っておきたいな。ギルドがこんな使いやすそうな武器を世に出さない理由がわからん。」

 

ミルさんも質問する。

 

「まあ、この穴はですね。こんな風に使うんです。」

 

サツキは武器を出して手にはめた。

 

次の瞬間、猛烈な風が吹いた。

 

「…!?」

 

砂埃が舞っている。パラパラと顔に吹き付ける砂。

 

 

 

とてもまともに動けない。

 

風に押されながら見上げると、サツキの体が「浮いていた」。

 

文字通り、宙に。

 

と、風がやむ。

サツキは、そのままふわりと着地した。

 

「空気を噴射して、体を浮かす。この武器は、空中戦ができるんです。

ーーーモンスターとわれわれ人間との大きな違いは重力による制限。それを取りはらえるメリットはあまりにも大きい。

ただ、わかるでしょう?防具を着た人一人浮かす風、この風は他のハンターには害悪すぎる。

故に、普段通りのチームが組めないわけです。チームが組めない。その危険度については、カンナ?わかるよね?

だからと言って、これを使わなければ、ただのリーチの短い棍棒。新武器の意味もない。だから、ギルドも一部の人にしか使用を認めてない。」

 

「へ、へええぇ。すごいね。」

 

「嵐の時の風みたいだった!」

 

「いや、この武器、嵐を起こしたりはできませんよ?」

 

「いや、そこじゃないでしょ、サツキ…。」

 

「天然?」

 

「は?」

 

「いや、なんでもないよ、サツキ。気にしないで。」

 

首を傾げないでほしい。私の中でサツキに関して一つ、特性が追加された。

 

「それなのに、お前は新人で使用を認められた、と。大したもんだな。」

 

ミルさんが褒める。

 

「いえーーそれにも、色々あるんですよ。」

 

納刀しながら話すサツキ。

 

「ほんと、すごいなぁ。ねえ、いっぺんやらせてくれない?」

 

「だめ。これはハンターランクがたったの10の人には渡せないの。」

 

「う・・・」

 

サツキのランクは150。ハンター歴一年でそこまで上がるのには、そういうわけがあったのか。同い年なのに文字通り、桁が違うとはこういうことだ。

 

「みんな、遊びできてるわけじゃないからな。そろそろ行こう。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

荒野を抜けると、目の前には少し開けた場所がある。奥には泥だまりが見えた。

 

「ここからは静かにねー?」

 

セリアさんが小声で注意してくる。私たちは頷いて、奥をじっと見つめた。

よく見ると、泥から白い煙が上がっている。

 

それは、湯気とかの類いじゃないだろうな。

多分間違いない。

 

「あれは鼻息だからな・・・ああやって呼吸しているらしい。ドンピシャだ。やっぱりここだったか。」

 

ちなみに私は、泥に潜るとか、そういう類のモンスターは散々狩ってきた。

気が引き締まる。

 

「カンナ、行くよ?」

 

目の前の爛々と光る目を持つ女の子に声をかけておく。

危なっかしくて見てられない。

 

「セリア、まず頼む。後に続け。」

 

セリアさんは頷いて、走っていく。

20メートルくらい前にセリアさんが達した時、泥の中から咆哮とともに、そいつは姿を現した。

 

全長6、7メートルくらいだろうか。

 

全身に泥を纏ったその姿。異様にでかい頭。

 

ボルボロス。しっかりと頭に刻んだ。

 

「さあ、狩りの時間だ!」

 

セリアさんに続いて飛び出した。

こっちを向いて咆哮。うるさいな、全く。

 

セリアさんはもう切りかかっている。

私も最善を尽くそう。

 

まずは下を向いて、目を合わせない。

 

足元をじっくりと観察する。

よく見ろ。集中しろ。全てを研ぎ澄ませ。

 

どうやら、ボルボロスは尻尾を振り回している。ミルさんががっちりランスでガードするのが見えた。さすが、ランク200越えは伊達じゃない。

 

しなる尻尾を、しっかり正面から捉えている。

 

「ふぎゃ!」

 

聞かなくてもわかる情けない声。

 

「カンナちゃん、大丈夫?」

 

セリアさん、その子はほっといて大丈夫ですよ。

そんなくらいで死にはしない。

 

足の爪がこっちを向いた。何かくる。

頭の上が見えた。

 

反応!

突っ込んでくる!

 

体がそう思った瞬間、横に吹っ飛ばされた。受け身を取ると、そこにいたのはミルさん。ボルボロスは、すごいスピードでミルさんに突っ込んでいく。

でも、ミルさんは盾で軽く受け流した。

 

「余計だったか?あれには気をつけろ!」

 

「了解です!」

 

間に合ってはいたと思うが、そういう助けは有り難い。

 

にしても、かなりあの突進は早かった。

あれには気をつけないと。

 

目をやると、カンナが突っ込んでいる。

 

彼女のもつハンマーという武器。

基本はやはり、殴る、殴る、ひたすら殴る。

 

ただ、ハンマーは、意外と機動性に優れた武器。

 

カンナは、足を狙って、思い切り一撃叩き込む。

 

ボルボロスはたまらずのけぞった。意外と効いてる。

 

あの子、攻撃は問題なさそうね。

 

「って、うわ!?」

 

カンナの情けない声。

 

見ると、泥まみれの泥団子状態のカンナがそこにいた。

 

「気をつけろ!泥はそいつの武器だ!」

 

泥…。なるほど、だから泥の近くで戦ってるのか。

 

それにしてもミルさん、言うの遅いです。

泥団子みたいにまん丸のカンナ。もがけばもがくほど、固まっていくようだ。

その瞬間、カンナの体が消えた。

 

しなる尻尾。吹っ飛ばされたのだ。まずいな。

こういう時が私の出番。

 

全力で奴の前を走り去る。それを見て、奴は追ってきている。よしよし、誘導成功。

 

飛びかかってこい・・・きた!

 

私に課せられた役目は、紅葉の後詰め。

 

つまりは、狩りの「助っ人」である。

 

 

ボルボロスが後ろから追ってくる。

 

しかし、私の頭は冷静だ。この体勢から導かれる攻撃の種類は、巨体を活かした体当たりの説が濃厚。

 

つまり、モンスターの距離感を意図的に変えてやる。

 

的を絞らせない。1、2と数えて急に停止。

 

その瞬間に、振り向いて、足の下を抜ける。ついでに一発腹を棍で殴ってやった。顔を上げると、既に薬を飲んだカンナ。

 

私の時間稼ぎが、回復の隙を与える。

 

これが私の役割だ。

 

「大丈夫?」

 

「うう…痛かった…。薬って偉大だよね」

 

回復薬は体への負担も大きい。

ハンターというのは軽く薬中毒になるものだが、この子はむやみに突っ込むし、無事に投薬エースになりそうね…。

 

目を戻すと、ボルボロスは先ほどの突進の構え。

だけど、今度は見えてる。横に回避する。ボルボロスは体勢的にも、前が見えてないからか、そんなに追尾してこない。

そのまま足に叩き込んだ私の棍とカンナのハンマーが、ボルボロスの体の泥を落とした。

茶色の体があらわになる。

 

「いいぞ、泥を落とせばそこは弱点になる。一気に行くぞ!」

 

「ううー!サツキ、行こう!」

 

「おっ…けえ。」

 

ふと横を見る。

 

カンナの顔が、変わった。真剣な顔。

 

だけど、普段とは比べ物にならないその顔に、違うものを感じた。

 

 

 

何か、恐怖のような。

 

 

 

 

この子は、何発食らってもめげない。その原因は基本的には馬鹿だからなんだけど、この感覚。

 

何か、覚えがある。

 

メゼポルタにいた頃、何回も感じた。

 

 

 

ーーー天才と呼ばれる人の隣にいる感覚。

 

 

 

はあ。

 

ポーチから閃光玉を取り出す。さあ、狩ってきなさい。

 

後ろには控えといてあげるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大分ダメージも与えたろう。こっちの動きに余裕はあるが、相手の動きは鈍っている。今回はこともなく終われそうだ。

 

「カンナ、最後だから。」

 

横のカンナに声をかける。

殺気が一段と増している。

 

「・・・・・」

 

「カンナ?」

 

「うん、わかってる。」

 

思い切り外に走る。

私が誘導して、その隙にみんなで攻撃して終わりだ。

 

「サツキちゃん!もう少しお願い!」

 

「了解です!」

 

大きく迂回して、側面に回り込む。

感覚で追われているのがわかる。

 

一気に近づいて、横を抜けた。その隙に、横からミルさんとセリアさんが斬りかかる。

だが、こっちを向いたボルボロスは、逆にこっちに突っ込んできた。

ブン、と武器が空を切る音。どうやら失敗したらしい。咄嗟に回避をとった。

 

真横をボルボロスが通り抜ける。

 

ふと後ろを向くと、カンナが突っ立っている。

 

そこに向かってボルボロスは突っ込んだ。

 

 

「…ちっ!」

 

初めからカンナ狙いか。

 

「避けて!」

 

でも、カンナは動かない。

あの子、何してるの?

 

パァン!!

 

その音とともに、ボルボロスの大きな頭が吹っ飛んだ。

 

ボルボロスは天に向かって一つ吠えたかと思うと、ピクピクと痙攣して、そのまま倒れた。

 

「・・・は?」

 

見ると、カンナは呆然と立っている。

 

「カンナちゃーん!」

 

セリアさんが走り出すまで、私たちは動けなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

まただ。段々と、周りの音が聞こえなくなってくる。

 

それで、全てがスローモーションになって、目の前のモンスターのことしか考えられなくなる。

 

突っ込んでくるモンスター。

 

モンスターの名前すら頭に浮かばない。

ただ、横にあるスペースと頭の形だけがやけにはっきりと見える。

 

思い切り振り抜いたハンマーは、奴の頭を吹っ飛ばすとともに、息の根を止めた。

 

 

 

 

 

ここは庭。私が一人で住む家だ。

庭で双剣を振っている。右、左。何度も何度も振る。

暇なときはこうして練習するのが日課なのだ。

 

目の前にモンスターがいるように。

 

右から回転して、振り下ろして…。

 

最後に、鬼神化。一連の流れは完璧。

でも、あの時の変な感覚とは程遠い。

 

「おーい、カンナ。いるか?」

 

ひょこっと門から顔をのぞかせたのはミルさんだった。

 

「はい。どうしました?」

 

「いや、素材。届いたぞ。取りに来い。」

 

あ、はい。わかりました。

 

ミルさんは私の服と手の双剣を見る。

 

「朝早くから頑張ってるな。」

 

「いえ・・・」

 

「…やっぱり、あれが何なのかはわからないか?」

 

「はい。」

 

「そうか・・・」

 

ふと、遠くを見る。

 

遥か遠くに見える霊峰。

天辺は相変わらず雷雲に覆われている。

 

時折、雷の光の筋が光るのが見える。

 

今頃、ギルドの職員さんたちが派遣されているはず。

その結果がどうあれ、いい予感は何もしなかった。

 

私は、一体どうしちゃったんだろう。

 

ーーー今、何が起きてるんだろう。


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