昔々、ある所に王様が治める国がありました。
王様は肉と卵が大好きで、三度三度の食事に血の滴るミディアムレアのステーキと、卵料理を求めました。
これを聞いてお医者さんが諌めました。
「王様、肉と卵の食べ過ぎは血中のコレステロールが高まって脳卒中や心臓病に成ってしまいますよ」
王様はこくんと頷く程に素直ではありません。口を尖らせて言いました。
「それは分かる。しかし、わしはこの国で一番偉い王様だ。お前達に王の何が分かる? わしに逆らう者は牢屋に入れてしまえ!」
この会話と流れはいつもの事になりました。悪い噂は事実として伝わるのも早いのです。
結果、王様に意見する者はみんな居なくなってしまいました。
とは言え為政者としての統治能力は優れており、蛮族の侵略から国を守り、ライフラインの整備や税制改革等で、臣下の提言を採択するだけの技量は持っておりました。
そんな王様には三人の王子様が居ました。
長男の王子様は白馬に乗り、白馬将軍として蛮族の征伐に出かけていました。戦では敵も命懸けなので、死に物狂いで抵抗します。だからバッタバッタとぶった切る武勇は本物です。
次男の王子様は留守を守って、王様の国政を補佐していました。塩や金属の製錬は国営で、国庫を潤わせる物でした。徴税官の不正を正したり、割りと忙しい日々です。
末っ子の王子様は国を継ぐ事も無いので、気楽なもので、毎日、遊び歩いていました。
ある時、末っ子の王子様が森の中で迷ってしまいました。
「もし。そこのお方、お困りでしょうか?」
すると、一人の少女が声をかけてきました。
「君は誰だい?」
伝説のエルフでしょうか。
「私はこの森の奥で暮らす魔女の弟子、魔女見習いです。この森には侵入者を阻む魔法がかかっているので、迷わせるのです」
「あ、そうなんだ」
魔女見習いの少女と出会った王子様は、無事に森の外に送り届けて貰いました。
「ありがとう、可愛い魔女見習いのお嬢さん」
魔女見習いの少女は王子様の目に、これまで出会ったどの女性よりも魅力的に映りました。大臣の娘、貴族の娘、大商人の娘。みんな容姿や財力、権力はありましたが、王子様の肩書きに寄って来たのです。
ですが魔女見習いの少女は王子様の肩書きを知らずに出会ったのです。
王子様が魔女見習いの少女に恋をし、それから彼女に会う為、何度も森に訪れました。
そして王子様の情熱が伝わり相思相愛と成った頃でした。
王様は暴飲暴食を止める事が出来ませんでした。それも、重責の心労を食べる事で発散していたいからです。ステーキと卵の食べ過ぎで亡くなってしまいました。
「陛下が崩御なされた」
「諸君、今こそ立つべき時だ!」
この事態に、王様の圧政に憤りを覚えていた大臣と貴族の一部が反乱を起こし王都を制圧してしまいました。中枢さえ押さえればクーデターと言う物は成功します。
決起部隊の迅速な行動により、秘密保全の観点で行う秘文書の処分さえする暇もありませんでした。
王弟の宰相も今回の政権奪取に際して排除されました。担ぎ上げる御輿にするには、王家の血が濃すぎたのです。
お風呂で側室を侍らせ楽しんでいると、部屋に飛び込んで来る武装集団がありました。
「宰相閣下のお命、頂戴する。御覚悟!」
斬りかかる騎士の傍らで側室は微笑んでいます。確か、この騎士の妻だった所、宰相に見初められ側室に迎え入れられたのでした。
「うわ、なにをする!」
宰相は寛いでいた事もあり、回避する事は出来ませんでした。討ち取られた後は、他の一門の者と共に晒し首となりました。
更に次男の王子様も貴族の館で歓待を受けており、美女に勧めるられるまま飲み過ぎました。ほろ酔いになった所で刺客に殺害されてしまいました。
そして長男の王子様が帰還して来るのを阻もうと、後方連絡線の遮断に動きました。
反乱軍の兵は多くありませんが、蛮族との戦いで疲弊していた遠征軍は後方遮断されると士気が低下し戦線が崩壊してしまいました。
津波の様に押し寄せる蛮族の攻勢に近衛騎士は立ち塞がり、頑強に抵抗しました。激しい剣戟の音は本陣の天幕にまで聴こえました。
「殿下、ここは我らにお任せ下さい。殿下は生きて本国へお戻り下さい」
苦渋の判断で僅かな供回り連れて脱出をしました。
しかし長男の王子様は、帰路に反乱軍の買収を受けた家臣に殺されてしまいました。
「無念だ……」
買収とはその人の望みを叶える事であり、王子様の命より、高級焼き肉店の奢りに重きを置く者も世の中には居るのです。
いずれにしても主だった王族は討たれました。
さて、残った三男の王子様はどうでしょう?
「まだ見つからんのか!」
大声を上げるのは首魁と成った大臣の一人で、政敵となる他の大臣は排除しました。
「殿下は何時も行き先を告げずに出歩かれておられたので、目下の所は捜索中です」
反乱軍は王党派を粛清しながらですので中々、捜索も捗っていませんでした。
それも仕方ありません。最後に残された王子様は森で魔女見習いの少女とチュッチュッ、イチャイチャしていたのですから。
イッパツこましてスッキリした王子様が森から出ると、王軍の残党が王子様を保護しました。
「殿下、既に王都周辺は賊軍の手に落ちました。ここは隣国に落ち延びましょう。兵を募り、再起を計るのです!」
「え。あ、うん」
賢者タイムで倦怠感のあった王子様は、忠臣達に囲まれあれよあれよと言う間に、隣国へ亡命しました。
そして隣国の王様に援助を願い出ました。
「ズバリ、金と兵隊を貸してください」
投資では元本保証とはいきませんが、利息分は分割で払うよと言う考えでした。
「よっしゃ、どーんと大船に乗った積もりでわしに任せなさい。あんたの国を取り戻したる。わしが王様にしたる!」
そうは言うものの、国と国の間に真の友情は成立しません。全ては国益の為です。
隣の王様は、正規軍を派兵すれば他の国も手を出して来るかもしれないと考えました。
そこで亡命して来た王軍の兵を武装させ、送り返す事にしました。これなら不正規の越境作戦で国際社会から批難される恐れもありません。
「クリスマスまでに王都を取り戻そう!」
王子様を新たな王様として戴冠させるべく王軍の忠臣達は士気を高めました。
王都奪還作戦は迅速に行わねばなりません。
隣の王様から資金援助を受けて傭兵を募集しました。
お陰で旅団規模の人材が揃い、大隊規模の戦闘団を数個編成する事が出来ました。
いざ攻撃が始まれば、王軍の職業軍人が指揮官と言う事で、烏合の衆な反乱軍は蹴散らされます。
電光石火の攻撃。先手さえ受けなければ王軍は反乱軍に負けませんでした。
王都に突入した王軍は反乱軍首魁に容赦をしません。
「ぎゃわあああ!」
かくして悪者達は倒され王子様は王都を取り戻したのでした。
戦いが終わってもライフラインの復興や、なんやかんやとお仕事が山積みです。
「マジでか……」
「仕方ありません殿下。賊軍によって政を司る官僚がことごとく討たれたのですから」
そうなるとにっちもさっちも行きません。
「じゃ、王様に成ってわしの娘を嫁に貰ってくれや」
最大の援助者である隣の王様にそう言われました。
王子様には魔女見習いの少女と言う想い人がいましたが、断ると言う選択肢はありません。
それから隣のお姫様を王妃に迎えました。
隣のお姫様も王妃に相応しく成ろうと尽くして、夫婦仲は悪くありませんでした。見た目が良くて、性格も良いならコロリと行ってしまいます。
やる事も確りやってたので、数年後には王妃様のご懐妊で国中が沸いていました。
一方、魔女見習いだった少女は、おっぱいもお尻も成長し立派な魔女と成っていました。
「あの人が妻を迎えた?」
たゆんたゆんと揺れる胸はともかく魔女はショックを受けていました。
愛してる言ってくれた恋人に裏切られたのです。
「許さない! 絶対に許さない!」
魔女は復讐を誓いました。
そしてどうしたら復讐になるか考えました。
相手の大切にしてる者を奪う事です。
国、それとも王妃様? 生まれてくる子供?
その全てを奪うのはどうでしょう。
そして結論が出ました。
「呪ってやる」
その後、魔女の呪いで国は化物に成る病が流行り、滅んでしまいました。
どっとはらい。