赤道に近いバナナン海に浮かぶロコモコ島。
今では中華人民共和国に租借地として99年支配されていますが、カルパス王国がバナナン海を統一する前、大小の国に分かれていました。
インド洋で発生した地震はアラビア半島やインド亜大陸に限らず、東アフリカのインド洋沿岸部にも津波の被害を与えました。
死者2500万人。男性の死亡率は63%で人的資源の面でも被害は大きい。史上最大の震災被害となったのです。
欧米では三分の一の食糧を捨てている現状でありながら、第三世界は食糧難と疫病に苦しめられました。人心は離れ世情不安な中で、ソ連の庇護下に入った国も多い。
中華民国総統に就任したばかりの
そもそも東側諸国では治安維持の観点からも外国人、特に西側の入国を原則的に禁止としている。そう言う理由もありました。
インドシナ半島では生産、加工、物流、小売りと言ったライフラインは止まっており、カンボジアのクメールルージュは業務改善の指示を各企業に出したが、復興や地方行政の維持以前に、ロン・ノルやポル・ポト以外の誰が政権を握ろうと、今や出来る事の限界はこえていました。
インドからビルマ経由でタイに雪崩れ込んだ難民は最悪でした。不逞の輩は40万、避難場所確保にも事欠く有り様で、スラムが形成され、タイの国内では疫病が流行り、死傷者は指数関数的に増加の傾向を辿っていると言う事態に陥り混迷を極めている。
そんな余波がロコモコ島にもやって来ました。
それは昔々、人々が神様を信仰して精霊の力を借りて魔法を使えた頃。
バナナン海に軍事革命を起こした大王リレーバーゲンの御代、大王はロコモコ島のニャアル氏族を征討にやって来ました。
この頃、大王はまだ女王と呼ばれていました。
「射撃用意、中隊効力射、氷の矢、20発、秒時12.50、魔力緑5!」
「方位角5800、射角300、準備よし!」
青空に響く復唱の声は魔導師の射撃中隊です。偽装網の下で水平工事を行った射撃陣地は、周囲の植生と合わせて巧妙に偽装、隠蔽されています。まさに巧みの技と言えるでしょう!
「射て!」
次々と放たれる氷の塊が敵の軍勢に降り注ぎます。倒れる兵馬の姿は費用効果の良さを表しています。
戦場で重宝されたのが魔導師達で、転移魔法で大量の糧秣や略奪品を運んだり、特大の魔法で敵軍に被害を与えたり大活躍です。
敵の攻撃を破砕すると逆襲が始まります。
カビバラに騎乗した騎兵の予備隊が投入され、戦果拡大が目指されました。そうなると後はルーチンワークです。
カビバラの突撃で敵は逃げ出しました。追いかけて首を刈り取るだけです。
戦が終わり宴が開かれています。和気藹々、ざっくばらんに談笑しながら食事を楽しんでおりました。
晩年はガリガリに痩せ細った大王もこの頃は年若く、妊娠太りから戻らずぶよぶよのデブチンでした。
「……なぁマヤ」
「ふぁんでふかへいふぁ(何ですか陛下)?」
テーブルの上の肉を自分の皿に転移させ頬張る女性を見て、王は声をかけました。いささか無礼ではありますが、女性は唇から骨をはみ出したまま返事を返しました。
マヤケーブル・シタァーは大王が幼い頃からの学友で、襲ってくる暗殺者や変態紳士相手に幾度も戦い抜いた戦友でもありました。お互いが伴侶を得た後もその友情に代わりはありません。
「人や馬を転移させる事は出来ないのか? 敵の本陣を不意急襲で叩けたりして楽だろう」
マヤはこてんと首を傾げて答えます。
「昔から試していたそうですけど、生きてる者は無理なんです。皆、死んじゃうんで人を転移させるのはアカン、と代々禁止と伝えられています」
王は考えます。でぶちんでありながら考え込むその横顔は、無駄に
「皆、死ぬのか」
「はい、そうなんです陛下」
王は何やら考え込みます。そして笑みを浮かべました。
「それ、すごく良いじゃないか」
「へっ?」
次の戦で王は魔導師達に命じました。
「敵の本陣を空に転移させてみろ」
「は、はぁ?」
魔導師達は言われるまま転移魔法を錬成しました。
次の瞬間、天幕や敵の高級将校が空からバラバラと降り注ぎます。
王は予想通りと小躍りしていました。血なまぐさい行為ですが、子供のように表情は光輝いています。
「よーし、よーし、よーし!」
落下物は地面に落ちれば飛び散り破片効果があります。直撃するだけでも凶器です。
環境に優しく、大地を潤す肥料にも成ります。資源の有効活用と言えるでしょう。
「王よ、敵が後退して行きます!」
風が吹き抜けて、血の臭いがひときわ増しました。はっとした側仕えの者が報告します。
「うむ。追撃し海に叩き落としてやれ」
王は命じた後、振り返るとへたりこんでいるマヤ声をかけました。
「マヤ、まだ魔力は残っているか?」
「ちょっとキツいですけど、転移以外なら出来ます」
魔導師は魔力を消費して魔法が使えます。王はマヤの様子から転移は連続で使えないとがっかりしました。
ですが、味方に同じ攻撃を食らえば厄介です。
戦の後は、対転移魔法の呪符を刻み、街や城に転移が出来る場所を制限させました。純粋な輸送以外に使えなくしたのです。戦場でも陣地や天幕に呪符をして対策を施しました。
こうして王は、電撃的に周辺の敵対勢力を征伐し生存圏を拡げるのでした。
そして時は進みます。
数百年後に中共軍が侵攻して来た時、王国の魔導師は揚陸艦を空に上げて叩き落としたり勇戦しましたが、物量には勝てず魔力も涸渇し疲弊しました。
「おのれ、
王は怒るがその間にも味方の苦境が次々と報告されて来ます。
「ううむ。ここは朝鮮人どもの言う通り、自走砲を買っておくべきだったか……」
王国は国民皆兵制度を取っており、魔法の素養がある者は有事に魔導師として召集されるのでした。
王国の軍は生き残る為、最低限度の軍備です。
なので常備軍の装備として自走砲を導入すれば、クレ551、モリブデングリスやキムワイプ、裁断布など消耗品を使った日々の車輛整備があります。そう言う事を考えれば維持費が許容範囲を超えてしまいます。
「確かにドイツ製が1台の価格に対して、連中は2台買えば装甲弾薬運搬車を1台付けると申しておりました。幾らなんでも安すぎと思い断りましたが、早計でした」
そうこう言ってる内に、空爆と海からの攻撃で、陸戦隊によって橋頭堡が確保されました。王宮に向かって陸揚げされた戦車や装甲車の車列が向かってきます。
こうなってはもうおしまいです。
「陛下、最早これまでかと」
王は日本商社から贈られた黄金の鉛筆を突きつけました。
「王宮から直ちに退去せよ。その方達が退去した後は、余自らが王宮を転移させる。侵略者に鉛筆一本渡すな」
「……承りました、陛下」
王家は滅んでも民は残ります。意地を見せる事で、中共の指導者にこの国を力で統治するのは困難だと思わせる事にしたのです。
王宮を敵が包囲、突入して来ました。雪崩れ込んで来る敵を前にして王は、最高の笑みを見せます。
「シナチク共め。余の勝ちだ!」
大王によって発見された転移魔法の攻撃利用。それは最後の時も有効でした。
上陸部隊が壊滅した以上、侵攻計画は頓挫しました。
再びやって来た中共の外交官は不利に見える様でしたが、中華民国との国交断絶と99年の租借を条件に復興支援を申し出ました。大幅な譲歩と言えるでしょう。
王国は資産に対して、復興による負債でマイナスの債務超過になる可能性もあり、金を貸してくれる国がなければ国家の崩壊になり得ました。遂に吸収合併に近く、中共の軍門に降るのでした。