不殺を貫く魔術師の放浪日記   作:春野龍助

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俺達が講演を開始して半日が経った。

今は昼ご飯を食べ休憩しているが、慣れない仕事というのは実に大変だ。

ま、後半は少し生徒達にも手伝ってもらって少しは楽になったのでそこは素直に良かったと思う。


西暦2025年6月5日:昼休みにて

「ふぅ・・・疲れたな」

 花畑で遊んでいる学院の生徒を見ながらルーファス特性弁当を食べ独り言を呟いた。

水着を着て川で遊んでいる者も何人が居るようだが、風邪を引かないか心配になってくる。

因みにルーファス本人だが、アイツも生徒に混じって遊んでいる。思ったより溶け込んでいるものだから、制服を着ていれば生徒の一員となっていても不思議は無いくらいだ。

 

「いやはや、実に元気で良いですな・・・そう思いませんか?シルクリット講師」

弁当を食べていると隣にファナリア学院長がやって来た。

「講師なんて大層な者じゃないですよファナリア学院長。これでもまだ高校を卒業して1年も経ってないんですから」

 

「なんと・・・それは驚きですな。外見や喋り方から見ててっきり大人だと思ってしまっていましたので兄妹で旅をしていたものだとばかり思っていましたよ」

 

「そういう風に見られていたとは・・・私も驚きですよ」

 

そう、俺はまだ旅を続けて1年所か要約半年といった所だ。

本来なら職探しや進学に時間を費やすべき年齢の俺がその日暮らしでただ旅をして過ごしているだけなのだ。その結果俺は人に何かを教える立場に就くのは早いとこの仕事で実感した。

 

「もし宜しければ、何故その年齢で彼女と二人旅をしているのか教えて頂けますかな?」

 

「そんな難しい理由じゃないですけど、ただ単に”一度っきりの人生を自分が馴染んだ空間だけで終わらせるのは惜しいと思った”んですよ・・・自分で色んな経験をして、知識を深めて自分の知らない世界を知るというのは同じような日常をずっと過ごすより面白いですから。因みにルーファスはその旅の途中で着いてきた相棒です」

 

簡単に言えば時間や人に囚われず自由に過ごしたいというだけの単なるワガママなんだが、実際に授業で習った場所に行ってみたりするとその場所でしか教えられないような知識も教えてもらえるから、案外面白いものだというのも事実だ。

 

ま、当然ながらこれだけの理由で旅を続けている訳では無い。

 

「聞けば聞く程シルクリットさんは凄いですね。その年でそこまで考えて行動出来る人は中々居ませんよ。ご家族やご友人からは反対されなかったんですか?」

 

「家族」というワードが出た俺は一瞬固まってしまった。ファナリア学院長が意図的に言った訳では無いのは知っているが、それでも俺は動揺を隠せなかった。

 

家が焼かれる光景、家族が目の前で死んでいく最中目の前には黒いローブを纏った男が一人笑っていたあの日の思い出が蘇ったからだ。

 

「家族は・・・私が小さい時に全員亡くなりました。幸い学校は寮生活だったので魔術関連のバイトをしたり返済無しの奨学金で過ごしていました」

 

ここまでならただの苦学生、だと思うだろう。良くある事では無いが起こりそうな内容ではある。

 

なので話すのはここまでにして、それ以降は語る事をやめた。

 

「そうでしたか・・・すいません、そうだとは知らずに軽い気持ちで聞いてしまいました」

 

「いえ、こちらこそ暗い話に持って行ってしまってすいません。昼飯時にする話じゃ無かったですね、もう少し明るい話でもしましょうか」

 

生徒達に目を向けて、話を少し強引だが変える事にした。

こっちの方がお互い変に遠慮せずに済むと思ったからだ。

 

「そうですな、こんなに笑いや笑顔が響く中で暗い顔は似合いませんしね」

 ファナリア学院長も察してくれたのか、俺の過去をこれ以上詮索しようとはしなかった。

確かに、今は全校生徒が遊んだり飯を食べている時間だ。こんなくらい話は似つかわしくないな。

 

「ファナリア学院長は生徒思いですね・・・生徒もさぞ幸せでしょう」

 

「いやいや、私はまだまだですよ。生徒の自主性を重んじて望みを叶えるように努力するという今のスタイルは先代の学院長が編み出して、私はそれを守っているだけですからね」

 

それに、こう言えば聞こえは良いですが本当は全部生徒に丸投げしているだけですから、とも言っていた。

なるほど、この人は自由性を残しつつある程度課題を課して正しい方向に生徒を導きたいようだ。

 

「という事は、この講演そのものがファナリア学院長の考える”理想”の第一歩という事になりますね」

 

「そういう事になりますな。先代の考えを尊重しつつ私自身の考えで方針をさらに改善出来ればと思ったのですよ」

 

苦笑しながら答てはいたが、この気持ちは本物なのだろう。

このご時世、こんなに考えてくれる大人というのは中々居ない。全く、生徒は良い学院に入ったものだと素直に思う。

 

「それでは、その理想に近づけるように私も午後からは頑張らないといけませんね」

 

「そこまで力まなくても大丈夫ですよシルクリット講師。貴方と助手のルーファス君の教え方は実に素晴らしく分かり易いのですから、そのままの調子で続けて下さい。」

 

「ありがとうございます。ですがただ話を聞いているだけというのは退屈なものですから、午後からは生徒全員に分かり易く印象深くするためにもう一工夫させてもらいますよ。」

 

「ほう、それは実に楽しみですな。いやはや、貴方のような方に来て頂けて本当良かったですよ。」

 

「それは、講演が終わってから聞くべき台詞だと思いますよ?ファナリア学院長。」

 

「おっと、それもそうですな・・・さて、私はそろそろ生徒達が集まるように号令をかけてきますね」

 

その言葉を聞いて時間を確認すると俺が予め指定していた昼休みの終了時刻の5分前となっていた事に気が付いた。

 

「あ、それではお願います。俺もルーファスと合流して午後の準備に取り掛かろうと思います。」

 

「えぇ、頼りにしていますよ。午後の講演も頑張ってくださいね。」

 

そう言い残すとファナリア学院長は号令をかけに歩き出した。

残っていた弁当の中身を食べ終え、俺もルーファスを呼び戻そうと歩く。

 

歩いていると涼しく心地の良い風が体を包み込んで、甘く優しい香りが漂って来る。

改めて、この場所は良い所だと気づかされる。

 

ルーファスも俺の事に気づいて走って戻って来た。

「よう、随分楽しそうに遊んでいたが体力は大丈夫なのか?」

 

「このくらいで疲れる程やわじゃないですよ!まだまだいけます!」

 

相変わらずの体力バカだな・・・ま、そのくらいの方が年相応なのかもしれないな。

 

「よし、それじゃその調子で午後からも頼むぜ?相棒」

 

「はい、任せ下さい!」

 

軽く頭を撫でると笑顔で元気よく返事をした。

だが、午後からは食べたり遊んだりして体力を消耗している生徒も居るだろう。

この状態でまた午前のように話すだけなら居眠り続出だ。

 

だからこそ、ファナリア学院長にも言ったように「一工夫」しなければならない。

だからこそ俺はルーファスに質問した。

 

「そういや、お前が企画した”遊び”の準備は出来ているのか?」 

 

「もちろんバッチリです!遊んでいる最中に仕掛けて来たので!」

 

「それを聞いて安心だ。それじゃそろそろ戻るぞ」

 

「了解です!」

 




最後までお読み頂きありがとうございます。

そのまま午後の講演をすすめようかなと思っていたのですが、折角ですし学院長とシルクリットの雑談を交えて今後こんな感じでまったりな雰囲気になりますよというのを伝えようと思って書きました。

ほんの少しシルクリットの過去が出ましたが、彼が真実を知るのはまだ先の事になりそうです。


それはさておき、後一話で完全に終わるので、それまで楽しみに待ってて下さいますと嬉しいです。

それでは、最新話でまた会いましょう
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