カーマインアームズ   作:放出系能力者

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102話

 

「何、してんだ……?」

 

 レオリオは我が目を疑った。メルエムの足元で、機械仕掛けの猫が何かを食らっている。そのすぐそばでは割られた樹脂ケースから内容液がこぼれ出ていた。

 

「何を……!」

 

「見てわからんのか。エサをやっている」

 

 メルエムはまるで動じない。念獣の猫がもう片方のケースに鋭い爪を突き立てる。羊水に浮かぶ胎児のように、ケースの中で緋色の瞳が揺れていた。

 

 ピトーは緋の眼を食った。そして残された片眼をも口に入れようとしている。あまりの事態にレオリオは言葉を失い、立ち尽くしていた。

 

「は、話が違うぞ! お前はオレの助っ人として……」

 

「我ら傭兵団が受けた依頼は『ゼンジ=ヴェンディッティの護衛』だ。ゆえに余がここに来た理由は一つ。そこで手をこまねいている能無しどもの交代要員だ」

 

 メルエムの目は同じ傭兵団の仲間たちへ向けられていた。アイクは静かにたたずみ、チェルはメルエムに敵意さえ含んだ表情を向けている。

 

「なぜ“こう”しなかった? たかが護衛の分際で、余計な私情を挟む必要があったか?」

 

「余計な不和を招く必要もねぇだろ!」

 

「雇い主のために最善を尽くすのが傭兵だ。敵にほだされ、踊らされ、誰のために戦うべきかも定まらぬ。今の貴様らにこの仕事は務まらん」

 

 先ほどまでは打って変わり、メルエムへ飛びかかろうとするチェルをアイクが引き留めた。

 

「よい。わしらはここでお役御免じゃ」

 

「でも……!」

 

「これが団長の判断というのであれば是非もないこと」

 

 なぜこんな事態になってしまったのか、レオリオは大きな混乱の最中にいた。確かに傭兵団の団長であるクインと約束したはずだった。ゴンの話からしても彼やキルアの友達であることは間違いない。だから信用に足る人物だと思ってしまった。

 

 だが、実際には騙された。裏切られた。

 

 先に契約を交わしたのはゼンジであり、その任務を優先することは傭兵として見れば間違っていないのだろう。結局のところクインは友人のつながりよりも、仕事を取ったのだ。傭兵は金で動く。友情よりも確かな契約に基づく報酬を選ぶような連中だった。

 

 世の中を、人を動かすのはいつも金だ。レオリオの心中に、沸々と煮えたぎるような怒りがこみ上げる。

 

「返せよ……その緋の眼! 片方はオレたちのものだ!」

 

 一つは潰されてしまったが、まだもう片方が残っている。もともとゼンジから片方だけは譲ってもらえるという約束だった。今は潰された眼のことを気にするより、何としてでも無事な方の緋の眼を死守しなければならない。

 

「違うな。お前はゼンジから差し出された条件を自ら蹴った。一つ手に入った時点で満足して引き下がればよいものを、飴玉を欲しがる子供のようにそれもこれもと欲をかくから全てを失うことになる」

 

 メルエムは素直に渡すようなそぶりを一切見せない。その言動は明確な拒絶を表している。

 

「やめてくれ……」

 

 消え入るような言葉を発したのはクラピカだった。意識を保っているのもやっとの状態である彼には、もはや懇願することしかできなかった。青ざめた表情で見つめる先には、まるで見せつけるかのように緋の眼を口に咥えたピトーがいる。

 

「くだらん。死人の目玉ごときに何を拘る。命の抜けた遺骸など、いつか土に還り消えゆくもの。浅ましい生者の執着がこの形を留めているに過ぎん。こんなものは」

 

 猫にでも食わせてしまえ。

 

 ピトーは口を閉じた。ゼリー状の汁気をまき散らして眼球が潰れる。味わうように咀嚼される。地面にこぼれた汁まで丁寧に舌で舐めとって食らい尽くした。

 

 クラピカは村を旅立ったその日から、必ず仲間の眼を取り戻して弔うことを心に誓った。その誓いを果たせぬまま、一人の眼は永遠に失われる。

 

 その無念に苛まれ慟哭する。ここまで感情を取り乱した彼の姿をレオリオもセンリツも見たことがなかった。仇である旅団を相手取るときでさえ、怒りの色で眼を染めながらも凛とした態度を崩さなかった。

 

 やがてこと切れたように彼は意識を失った。降りしきる雨音を残して静寂に包まれる。ゼンジは鬱屈した感情を吐き出すように大きく息をついた。晴れやかとは言えないが、ようやく胸のつかえが取れたような気分だった。

 

「よくやった、カーマインアームズ。契約の期間は三日の予定だったが、これで完遂したものとみなす。もう自由にしていい。約束の金は指定の口座に振り込んでおく」

 

 ヴェンディッティ組は黙々と引き上げ始めた。ジンジは残ろうとしたが、組員に促される形で車へ乗せられる。彼自身情けなく思いながらも、かける言葉が見つからない心境だった。

 

「センリツ、クラピカのことは任せた」

 

 レオリオは懐から折り畳み式のナイフを取り出し、構えていた。そんな武器で何かできるとは思えない。彼の心中を埋め尽くす感情は敗北感だった。

 

 これまで勝てないと思った相手はいくらでもいた。中には死を覚悟するような実力者もいた。だが、これほどまでに負けを確信させられたことはない。見ただけで精神が折れてしまうレベルのオーラとその異質さに圧倒される。まるで巨獣の足に押さえつけられているかのように身動きが取れない。

 

 だが、その人間の域を凌駕したオーラを前にしても彼の戦意が失われることはなかった。硬直の封印を解くようにナイフを振り払う。その姿に、初めてメルエムは興味を示す。

 

「待って、レオリオ! その人は――!」

 

 センリツの制止を振り切り、レオリオは駆けた。どれだけの実力差があろうと関係ない。友のために、その心を踏みにじった敵を許してはおけなかった。

 

 そして、敵を目前とした彼の視界は闇に包まれる。スイッチが切れるように意識が暗転した。

 

 

 * * *

 

 

 ヨークシンシティは朝を迎える。日は既に高く現在は午前11時、昨日の疲れのため休んでいたクラピカは起き上がれるくらいには体調が回復していた。宿泊していたホテルのロビーへと降りていく。

 

「おう! もう体の方は平気なのか?」

 

 ロビーではレオリオがソファに座って新聞を読みながら待っていた。その周りでは三人の少女たちが思い思いにくつろいでいる。装いは昨夜と変わっている。

 

 チェルの恰好はダメージありありのTシャツデニム姿で足元はブーツ、首からはドッグタグをぶら下げている。そこまではまだ擁護できるとしても毒々しいカモ柄コートが全てを台無しにしていた。センスだけでなくティーン向けとは程遠いファッションが壮絶に素体の味と噛み合っていない。

 

 アイクは落ち着きのあるカジュアルなブラウス、スカートのコーデにキャスケットのアクセントを添えた白系のガーリーファッションで、予想外の着こなしを見せている。モデルとしてそのまま紙面を飾っても何ら違和感のない完成された装い。チェルにも言えることだが、本体を入れるためのバッグを持っている。

 

 メルエムはモノクロ調ゴシックアンドロリータである。装身具の一つに至るまで、ヨークシンに一件しかない専門店で買い求めた珠玉の逸品だ。金がかかっているだけでなく意識レベルからして洗練されたその着こなしはファッションというよりファンタジーの域に達していた。

 

 これら服装の費用は全てレオリオの財布から出されたものだった。荷物持ちまでやらされている彼の傍らには多くの包みが積まれていた。クラピカはその奇妙な一団を横目に見ながらレオリオに応対する。

 

「ああ、問題ない。もう大丈夫だ」

 

「嘘ばっかり。本当は無理してるのよ。後でちゃんと休ませるから今は大目に見てあげて」

 

「クラピーの看護はあたしに任せてよね!」

 

 センリツがクラピカの状態について補足を入れる。その隣に付き添っているキャバ嬢のような女が合いの手を入れるが、レオリオは誰だこいつはと胡乱げな目を向けていた。

 

 彼女はキャロリーヌ・モリス。クラピカに傷の治療をしてもらったことで愛に目覚めただのほざき始めた彼女はいまだにこの場所に留まっていた。それどころかノストラード組に入れて欲しいとまで言ってくる始末だった。

 

 クラピカは昨夜の一件の後、ショックと疲労で他人に構っていられるような状態ではなかったのだが、あまりにしつこく泣きついてくるキャロルを仕方なく治療した。本音を言えば、さっさと帰ってほしいと思っている。

 

 さらにキャロルだけでなくゼンジ護衛チームの一人であった蝙蝠までもがクラピカにノストラード組で雇ってほしいと申し出てきた。その蝙蝠はというと現在、ロビーでバルーンアートを作ってアイクに渡している。

 

 本当はカーマインアームズに入団したかったらしいが、チェルに速攻で生理的に無理と拒絶されたので、じゃあノストラードに入りますとなったらしい。じゃあってなんだよ……本当に帰ってくれないかとクラピカは切に思っていた。

 

 しかし二人とも念能力者としての実力は相当なものがあるので、人材不足気味のファミリーとしては雇い入れることも条件次第ではやぶさかでなかった。ひとまず、変なことをしたら殺すことを宣告した上で二人の心臓に『律する小指の鎖』をぶちこんでいる。

 

「まあ、いいや……それじゃこれ、渡しとくぜ」

 

 レオリオはアタッシュケースをクラピカに手渡す。その中には一対の緋の眼が無事に収められていた。

 

 それは昨夜、確かに念獣に食われた緋の眼だった。その犯人たるピトーはメルエムの腕の中にだっこされている。『玩具修理者の腕(Dr.ブライスMK.Ⅱ)』の名を持つその猫は、生物体の修理改造能力を持っている。死人を生き返らせるようなことまではできないが、破損した眼球を元の形に戻す程度のことは可能だった。

 

 ゼンジの復讐心を発散させるため、ピトーを使ってメルエムが一芝居打ったのだ。ゼンジも含め、クラピカもレオリオもまんまとその思惑に乗せられてしまった。逆に言えば、嘘偽りない反応だったからこそゼンジもクラピカの姿を見て溜飲を下げたのだ。

 

 ちなみにこれはクインの指示ではない。クインがしたことはメルエムを送り込むところまでで、後は全てメルエムのアドリブだった。しかし、そのおかげで円満にこの一件を解決できたとも言える。

 

 緋の眼落札のためにオークションにかける費用として用意した大金も支払わずに済んだ。ヴェンディッティ組に20億の謝罪金を払うと約束したが、緋の眼の引き渡しが成立しなかったことでその話もうやむやになった。

 

 むしろ若頭のジンジから詫びの一報が届いたくらいだ。これでヴェンディッティ組との確執は完全に解消されたものと考えていいだろう。

 

 幻影旅団と遭遇しながらも誰一人仕留めきれなかったことは残念だったが、旅団の戦闘光景を実際に観察することができた。その戦い方や能力についても大きな情報を得られたと言える。

 

 また、旅団がクラピカの能力について一定の情報を得ているということも知ることができた。この情報を知っているのと知らないのとでは今後の行動に伴うリスクが全く異なってくる。

 

 そして最大の収穫は緋の眼を手に入れることができたことだ。当初の目的であったとはいえ、込み合った様々な問題の数々を経てここまで至る道のりは生半可なものではなかった。損失らしい損失は出なかったが、飛び切りの労力を要したことは間違いなかった。

 

「恩に着る」

 

「水臭いこと言うな。そもそもオレはあんま役に立たなかったし……まあ、なんだかんだでコイツらが頑張ったおかげなんじゃねぇか?」

 

 役に立たなかったなどとんでもない。レオリオの協力がなければ立ちいかない事態に直面していただろう。そして彼がコイツらと称したカーマインアームズの面々についても同じことが言えた。敵対されてもおかしくない関係だったにも関わらず、最終的にはクラピカの味方になってくれた。

 

「感謝する。謝礼金については……」

 

「それはもういいって! お前、ことあるごとに金金言ってないか?」

 

「誠意を形として示すことも大事なことだ」

 

「そうだけどさ……」

 

 金で雇われることを生業とする傭兵にしては謙虚というか歯切れの悪い態度をチェルは見せた。いずれにしてもこの傭兵団を普通の傭兵とひとくくりにして考えるのは無理があるのかもしれない。

 

「おぬしたちはゴンとキルアの友達だったようだし、依頼料も初回限定お友達特価じゃ。今回の依頼の報酬はそこのグラサンに払わせるゆえ気にする必要はないぞい」

 

 メルエムの貸し出し料としてクインはレオリオに『三人娘の今日一日お世話係』を頼んでいた。そのくらいなら安いもんだと安請け合いしたレオリオだったが、早朝から叩き起こされて買い物に付き合わされた彼は早くも後悔し始めている。

 

「この後はすいーつのうまい店あたりを食べ歩きしたいところじゃのう」

 

「ふん、既に目ぼしい店は調査済みだ」

 

「お前どんだけ食べたかったんだよ、このガイドブック付箋の貼り込みが半端ねぇ……」

 

 スイーツ!スイーツ!と騒ぐ子供に腕を引かれるレオリオの姿は休日に家族サービスをねだられるお父さんさながらだった。そのくたびれ具合も酷似していた。

 

「だーっ! わかったから別れの挨拶くらいゆっくりさせろ!」

 

 纏わりつく少女たちを振り払ってレオリオは佇まいを正す。

 

「じゃあな。なんかあったら連絡くれ。話くらいはいつでも聞いてやるからよ」

 

「ああ、その時は頼りにする」

 

「……いや、やっぱ信用できねぇ。お前のことだからどうせ全部ひとりで抱え込もうとするに決まってるぜ。だから抜き打ちで無理やりにでも顔を出してやる。覚悟しとけよ」

 

 敵わないなとクラピカは苦笑した。得難い友の背中を見送る。今年もまた、ヨークシンシティの大競り市は閉幕した。連日に渡り降り注いだ雨模様は消え失せ、一夜の夢から覚めた灰色の街は晴天の空の下にあった。

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 完全な余談だが。

 

「そういやさぁ、もしアイクとメルエムがガチでバトッてたらどうなったんだろうな」

 

 有名フルーツパーラーにやって来た一向はデザートバイキングを堪能していた。レオリオだけは何やら店員と話し込んでいる。

 

『見ろ、あの美少女三姉妹を。通行人も思わず足を止めるくらい絵になってるだろ?』

 

『はぁ、そう、ですね……』

 

『集客効果抜群だぜ。そのためにわざわざテラス席に座らせたんだ。つまり、わかるな?』

 

『いや、これ以上のお会計の値下げはちょっと……』

 

 食べ放題プランをさらに値切ろうと食い下がるレオリオと、フードファイトでもしに来たのかという勢いで次々にスイーツを平らげていく少女たちに店側は困り果てていた。

 

「昨夜のことか? まあいかにメルエムとて、わしとチェルの最強コンビネーションプレイでボコボコにされておったじゃろうな」

 

 アイクが素手でショートケーキを貪りながら答える。テーブルに肘をついて行儀悪く指についたクリームを舐めるアイクとは対照的に、メルエムは高級レストランにでも来たかのようにエレガントなマナーを守っていた。堅苦しいとも言える。

 

 アイクの挑発にも乗らず、自分のペースで食事の手を止めたメルエムはナプキンで口元を拭いてから答える。

 

「その未来、知りたいか?」

 

 メルエムの能力『過去視』の応用により、起こり得た過去の可能性を洗い出すことで『分岐した世界』を再構成することができる。あくまで仮定でしかなく、また過去の出来事を追体験する形で見ることができる能力に過ぎないのであまり役には立たない。

 

「それ、おぬしにとって都合の良いただの妄想なのでは?」

 

「真実はお前たち自身の目で判断するがいい。フラッシュ!」

 

 メルエムの手から放たれた光子状のオーラが眩い光となってアイクたちの網膜に焼き付けられる。そのオーラから転写された膨大な情報が二人の脳を侵略した。アイクは目を見開いたまま死体のように椅子の上でだらけ切り、チェルはテーブルに突っ伏して食べかけのモンブランを顔面で押し広げた。

 

 光を見ただけでありもしない過去の世界に誘われてしまうこの能力、役に立たないと言うにはいささか語弊のある代物だった。沈黙した二人をよそに、メルエムは優雅に中断した食事を再開していた。

 

 

 

 

「なぜおぬしがここにおるのじゃ! メルエム!」

 

 深夜の闇、土砂降りの雨、昨夜の状況が再構築されていく。ヴェンディッティ組の者たちやクラピカやレオリオの姿も当然のようにあった。アイクとチェルはこの光景がまやかしであることを理解しながらも、自分の身体が意思によらず自動的に動かされる状態に戸惑いを覚える。

 

「鬼! 悪魔! キメラアント!」

 

「こうなればこちらも死力を尽くすまでよ。わしが目指した武の極みとは、敗色濃い難敵にこそ全霊をもって臨むこと。見せてやろう、千百式の千百を」

 

 だが、慣れてしまえば映画を鑑賞するように楽しめた。臨場感は比較にならない。何せ本当の現実のように肉体の感覚までもが再現されている。戦いになれば疲労や痛みなどの感覚も味わわされることになるだろうが、アイクにしてみればそれもまた面白く感じる。自分の戦闘をこれほど客観的に観察できる機会もそうはない。一方、チェルは夢なら覚めてくれと懇願していた。

 

「よくさえずる老兵だ。すぐにそんな元気も出なくなるほど遊び倒してやろう……」

 

「でも、相手は二人だぜ。本当に全部任せて大丈夫か?」

 

 レオリオが心配するような声をメルエムにかけた。そこで少し不機嫌そうな顔を見せるメルエム。レオリオは純粋な気遣いを向けたのだろうが、それが彼女の気に障った。

 

「余の力では不服と申すか。まあ、依頼人の不安を拭うのも仕事のうちか……ならば見せよう。余の新たな力を」

 

 見せなくていいですというチェルの声を無視してメルエムは跳躍した。

 

「ゆくぞ、ピトー」

 

『ニャン!』

 

 空高く飛び上がったメルエムに続き、猫の念獣が後を追う。だが、ピトーはジャンプしながらバラバラに分解してしまった。もともとブリキのおもちゃのような外見をしていたのでバラけ散ってもグロテスクなことにはならなかった。

 

 そのパーツがメルエムの身体に吸い寄せられる。元はキメラアント護衛軍ネフェルピトーの強大な念が死後強まりさらに強化された念獣である。我が身を分解し、改造することで主の力となるため鋼の鎧と化した。

 

 ゴスロリ服を補強するようにパーツが組み合わさっていく。それは守りというより攻めのための鎧だった。特に目立つのは三節棍のような構造をした刺々しい尾、そして両腕を保護する長大な鉤爪。その腕部には片方ずつ、取り込まれた緋の眼のケースがおどろどろしい管でつながれていた。

 

 クルタ族の眼に宿る潜在的な能力を解析したピトーはその力を取り込んでいる。六系統全ての相性を最大まで引き出されたメルエムのオーラはさらなる高みへと至る。その力に呼応するように緋の眼が妖しく発色した。

 

 そして、最後の仕上げにメルエムの頭部に猫の付け耳が装着される。様式美である。変身を終えたメルエムが着地すると同時に、光のオーラが後方からその全貌を照らし出した。爪を交差させ、雄々しくポーズを決める。

 

「刮目せよ、これが」

 

 

“ゴシックアンドロリータアンドパワードスーツ『NEFERPITOU』スカーレットアイズモード”

 

 

『ニャオオオオオオン!!』

 

 その雄姿とほとばしる計り知れないオーラを前にして、戦いに臨む二人の少女が浮かべた表情とは。

 

 それはそれは見事な真顔だった。

 


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