カーマインアームズ   作:放出系能力者

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番外編:大解剖ギアミスレイニ!

 

「うわぁ、真っ暗で……何も見えない」

 

 海底深度1000メートル付近を航行中の潜水艇『マクマイヤ号』の中には、クイン、ルアン、そしてゴンとキルアの4名が乗り込んでいた。外の映像を見ながらキルアがつぶやく。

 

「最初は潜水艦っていうからワクワクしてたけどさ、実際乗ってみたらなんか普通」

 

「ナニィ!? ロマン感じるでしょ!? 君たちもっと子供らしくはしゃいでもいいのよ? 私なんか嬉しくて三日くらいここで泊まったんだよ?」

 

 本艦の整備ほっぽり出してな、とクインがルアンにツッコむ。

 

「だってなんか白いゴミがいっぱい浮かんでるだけじゃん」

 

「……少し待ってください。潜水艇らしさを演出するため、適当な岩にぶつけて浸水させます」

 

 やめろとクインがツッコむ。飽きた様子のキルアと違って、ゴンは食い入るように映像を見つめていた。

 

「十分、楽しんでるよルアンさん。海底の世界って地上に比べればわかっていることはほんのわずか。気づいていないことにも気づかない未知があふれてる」

 

 

 

 

 ゴンとキルア、ビスケの三人はグリードアイランドをクリアした後、消息を絶ったシックスの行方を捜していた。手がかりを求めて大破壊の爪痕を残すオチマ連邦ジャカール諸島を訪れる。

 

 そのとき彼らのホームコードに意味深な連絡が入ったのだ。世界中を忙しなく飛び回ることが多いハンターは、仕事の依頼などを受け取る受信専用ダイヤルを持っている。

 

 その連絡を入れた人物こそクインだった。パリストンに協力してもらいシックスの足跡をたどる過程でゴンたちの存在を知る。真っ先に、彼らには真実を伝える必要があるとジャカール諸島へ潜水艇を向かわせたのだった。

 

 しばらく同じ時間を過ごした彼らはシックスの死を受け入れ、クインらと友誼を交わした。そして現在、GIをクリアして他にやることもなかったゴンとキルアは潜水艇に乗って深海へと来ていた。

 

 ちなみにビスケは来ていない。選挙とかハンターの仕事が立て込んでいるらしい。無理をしてシックスの捜索に時間を割いてくれていたようだ。暇になったら改めて行くと言っていた。

 

 潜水艇は南アイジエン大陸の西岸部をなぞる大海溝を進む。人類はまだその場所の多くを知らない。深海探索艇による局所的な調査が関の山だ。人類領海域の中でさえ、そんな場所はあふれていた。

 

「さあ、見えてきましたよ! あれが私の海底戦艦『ギアミスレイニ』です!」

 

 おまえのじゃねぇとクインがツッコむ。自慢するルアンだったが、潜水艇のライトしか光のない深海では船の全容はわからない。近づいてもわかるのは巨大な壁があるということだけだ。

 

 だが、その禍々しい巨大な姿は動画の中で何度も見ていた。ゴンとキルアは思わず息をのむ。潜水艇が近づくと、壁の一部が動き出した。格納室のハッチが開いたのだ。

 

「おぉ~」

 

 艦内に潜水艇が帰還する。ハッチが閉まり、格納室を満たしていた海水が外へ排出されていく。これにはつまんねーと言っていたキルアも少年心をくすぐられたのか、そわそわしていた。

 

「お待ちしておりました、ゴン様、キルア様。わたくしは当傭兵団の使用人、アマンダ=ロップと申します」

 

「おじゃまします!」

 

 外に出るとスーツをかっちり着こなした女性が一行を出迎える。生まれた時から身の回りに執事がいたキルアにとっては使用人と言っても物珍しさはない。ゴンは律儀にお辞儀を返している。

 

「差しつかえなければ私が艦内を案内させていただきます」

 

「いいよ。堅苦しいの嫌いなんだよね」

 

 キルアは少し邪険な態度だった。というのも、アマンダの視線に何か妙なものを感じたのだ。実はゴンも同じ違和感を覚えていた。例えるなら、背後からヒソカにケツを見られた時のようなぞわぞわする感覚である。

 

(お二人とも可愛らしいお洋服が似合いそうな少年ですね。キルア様なら素材の味だけで十分イケます。ゴン様の方はヘアスタイルをセットし直して……)

 

 目測でミリ単位まで正確な採寸を可能とするアマンダの計測眼がゴンたちを舐め回す。その不穏な空気に気づいたクインが変態使用人を追い払った。

 

 ルアンも船の計器のチェックに行くということで一度別れることになった。客人の案内はクインが引き受ける。

 

「へー、外観は不気味だったけど、中は意外とまとも」

 

 内部は至って普通の構造だった。大型飛行船の旅客部と大して変わらない。普段暮らしに使う区画なのだからそんなアトラクションじみた造りにされても困る。クインは主要な部屋を案内していくことにした。それと平行して出会った団員の紹介をしていけばいい。

 

 まずは事務室。傭兵団の仕事はこの部署なくして成り立たない。経費の処理、顧客の対応、仕入れ、外部機関との交渉、その他諸々の裏方仕事は全部ここにぶちこまれてくるぞ。そのほとんどの仕事はカトライが担当する。

 

 だが、所詮は小規模な傭兵団なので事務仕事もそれほどなく、忙しい時はクインやアマンダがヘルプで入る。ブラックな環境ではない。

 

「あぁ~……パリストンさん……あぁ~、パリストンさん……」

 

 書類が山積みになっている事務室の中にはデスクで頭を抱えたカトライがいた。うわ言のように誰かの名を口にしている。恋する乙女のつぶやきではないことは、その疲弊しきった顔を見ればすぐにわかった。パリストン案件だ。

 

 ちなみに今日はナース服姿だった。むしろ看護が必要な立場だろう。使用人に遊ばれたその姿は謎の郷愁をそそる。クインは静かにドアを閉めた。ゴンたちの案内が終わったら手伝おうと。

 

 カトライはちょっと取り込み中のようだったので紹介は後回しにすることにした。気を取り直して次は食堂へ向かう。

 

 みんな大好きな食事の要所、コックのクインにとってはメインの仕事場である。広々としたダイニングキッチンになっており、気分を和ませる観葉植物もそろえてクインが世話していた。

 

 そんな憩いの空間には先客がいた。誰かが冷蔵庫を漁っている。片目を眼帯で覆い隠したミリタリ系の少女が数本の魚肉ソーセージを取り出して頬ばっていた。

 

「ギョニソギョニソギョニソー♪ おいクインー、あれ作ってくれよー、ギョニソ油で揚げたやつ作ってくれよー」

 

 誰かが部屋に入ってきたことには気づいていたチェルだったが、どうせクインだろうと気を抜いてた。冷蔵庫の中を物色し終えて、顔を上げた先にいる少年二人の姿をようやく確認した。

 

 完全にオフの気分だったチェルはぎょっとする。誰!?と思ったがその疑問を口に出すこともできず空気が凍る。

 

「ぎょ……ギョニソいる?」

 

「いや、別に」

 

「う、うまいよね、これ」

 

「そうだね」

 

 クインはそっとドアを閉めた。チェルはいつもカッコよく団を引っ張ってくれる頼もしい存在なんだ。団長はクインだが、もし副団長を決めるとすれば真っ先に彼女を選ぶことだろう。ただ、ちょっと今は間が悪かった。

 

 落ち着くための時間が必要だろうと、チェルの紹介は後回しにすることにした。まだまだ他にも案内する部屋はある。次は鍛練場に行くことにした。

 

 居住区画の中でも最も広い部屋で、隣には射撃場も併設されている。傭兵として戦闘力を磨くことは当然。日々の鍛錬に欠かせない施設である。当初は様々なトレーニング器具が設置されていたが、全部ぶっ壊されたため、今はただ広いだけの空間になっている。

 

 この時間帯ならばアイクがサッカーでもしているだろうと予想する。ゴンたちの遊び相手になってくれればすぐに打ち解けるかもしれない。クインは鍛練場の入口を開けた。

 

「「「――!?」」」

 

 その瞬間、部屋の内部から噴き出す殺気。キルアなど、それを感じ取るや否や逃げ出して蜘蛛のように天井際の壁に張り付いていた。

 

 アイクは鍛練場の奥で静かに座禅を組んでいる。その表情は、こころなしか、劇画タッチ。彼女を中心として広がる威圧は、加減しなければ数里先まで届き深海生物たちを退けていただろう。

 

 クインはすぐに入口を閉じた。金縛りから解かれるようにゴンとキルアの体に自由が戻ってくる。

 

 クインが時計を確認すると午後3時をわずかに過ぎていた。サッカーで遊んでおやつを食べ一息ついたアイクはその後、目もくらむ恒星のごときオーラをその身に宿した精神統一の業に入る。その日課をすっかり忘れていた。

 

 あと2時間はあのまま動かない。紹介は後回しにするしかなかった。どっと疲れた様子のゴンたちを引き連れ、次は団員の個室エリアを案内することにした。

 

 団員には一人一人、プライベートに使える私室が与えられている。もちろん、団員不在の部屋に勝手に入るわけにはいかないが、メルエムなら自室にいるだろうと思い、ノックしてドアを開けた。

 

 そして広がる異次元の気配。先ほどのアイクの精神統一を膨大な広がりを見せる宇宙に例えるなら、メルエムのそれは小宇宙的だった。

 

 少女が盤面に駒を打っている。軍儀というボードゲームだ。一人将棋ならぬ一人軍儀である。ただそれだけの遊戯であるにも関わらず、尋常ではない気迫があった。

 

 駒が並ぶ盤上に構成された世界。少女の一手がその世界を作り変えていく。ルールを全く知らないゴンたちでさえ、魂を吸い込まれるかのような深淵の一端を垣間見た。

 

「何用で参った?」

 

 その淡々とした物言いとは裏腹に、下手なことを言えばその瞬間くびり殺されるかのような殺意が感じ取れる。クインはそっとドアを閉めた。後回しだ。後回しにするしかない。

 

 だがもう残る団員はというと、この艦のオーナーこと、引きこもりのモナドしかいない。モナドが今日訪ねてきたばかりの他人と顔を合わせる光景が想像できないのだが、仲間外れはかわいそうだ。

 

 ここまで来たらダメ元で行ってみようと、クインはモナドの部屋に向かった。この個室エリアはゲストルームを兼ねているので団員の数以上の空き部屋がある。モナドの部屋はその突き当りにあった。クインはノックしてドアを開ける。

 

「偉大なるルキフゲ・ロフォカレ閣下! なぜお越しくださらないのですか!? どうかすぐにその姿をお見せください! さもなくば72柱の悪魔を従えし王の呪文が閣下を苦しめます! XYWOLEH・VAY・BAREC・HET・VAY・YOMAR・HA・ELOHE・ELOHIM・ASCHER・TYWOHE・HYTHALE・CHUABOTAY・LEP・HA・NAWABRA・HAMVEYS・HA・HAKLA・ELOHIM・HARO・HE・OTYMEO・DY・ADDHAYON・HAZZE・HAMALECH・HAGO……」

 

 ダメだった。ちらっと見えた部屋の中ではモナドが床に赤い染料で魔法陣らしきものを描いていた。クインはドアを閉める。

 

 どうやらモナドは悪魔召喚の儀式の最中のようだ。アニメか漫画の影響だろう。彼女は現実とフィクションを区別する脳の機能が死んでいるのだ。結局、団員の紹介はままならなかった。

 

「話には聞いてたけど、ある意味すごい人たちだったね……」

 

「おまえんち、やべーやつしかいないじゃん(ブーメラン)」

 

 しかし、何も今すぐ全員と顔合わせしなくてはならないわけでもない。一度食堂に戻ってお茶でも淹れようと、来た道を戻っているとちょうど通りかかったキネティと出くわした。

 

「ああ団長、そう言えば来客があると言ってやしたね。傭兵見習いのキネティです」

 

「オレ、ゴン! よろしくね!」

 

「やっとまともそうなヤツがいた……!」

 

 キネティは年頃もゴンたちと同じくらいで、人間性もごく普通のものだったのですぐに打ち解けた。ゴンとキルアは普通が一番なんだなと実感していた。

 

 しかしその安らぎの時間も束の間、突如としてけたたましいサイレンが艦内に鳴り響いた。

 

『エマージェンシーコードR! 第7区画にて敵性反応確認!』

 

 よりによって来客中に敵襲かとクインは眉をひそめる。

 

「敵襲って、ここ深海なんだよね?」

 

「ダイオウイカがぶつかって来たとか?」

 

 暗黒海域ならまだしも、人類領海域の深海生物はギアミスレイニの脅威足り得ない。この船はもっと厄介な問題を抱えているのだ。ひとまず詳しく説明するよりも先に中央管制室へ急行する。

 

 ギアミスレイニのメインコントロールルームである。団員の生体情報を読み取って自動開閉する隔壁を抜けると、大小さまざまなモニターが置かれた広い部屋に出た。ここでは艦内のあらゆる情報を集積し、解析している。

 

 艦外の情報も集めてはいるが、もっぱらその役割は内部の監視にあった。生物に例えるなら免疫系に相当する。クインよりも先に来ていたルアンは既にトラブルの解析処理を進めていた。カトライもその隣で補佐している。

 

「おかしいですねぇ。殺虫剤『メルサン』ならこの前散布したばかりなんですが……映像出します」

 

 ルアンがキーボードを操作し、モニターに映像を拡大表示した。そこには岩のような歪な形をした白い何かがもぞもぞと動く姿が捉えられている。

 

「形状はだいぶ変異していますが、これはアンコクグソクムシですね」

 

 深海には地表付近に生息する同類と比べて生物が巨大化する現象がみられる。例をあげればダイオウイカなどがある。その中で、世界最大の等脚類とされるダイオウグソクムシもまた有名な部類だろう。ダンゴムシやフナムシの仲間だ。

 

 環境が変わればそこに棲む生物の生態も、強さも変わる。ルアンが命名したこの等脚類、アンコクグソクムシは暗黒海域原産の生物だ。この虫だけでなく、様々な暗黒海域の生物が艦内に乗り込んでいた。

 

 もともとはギアミスレイニが交戦した生物の一部をモナドがアルメイザマシンによって封印して持ち込んだものだった。それが時間をかけて自力で活動を再開したり、ルアンが実験に失敗して外に出したりして艦内に居座り始めたのである。

 

 傭兵団は全力でこれらの駆除に当たったのだが、それでも完全に死滅させるには至らなかった。奴らは当然のようにアルメイザマシンに対する耐性を獲得していた。徐々にその生態系は拡大し、甲板を除く艦内全12区画のうち、人間がまともに生活できる環境は第1区のみとなっている。

 

 今クインたちがいる居住区だけが何とか平穏を保っていた。あとは人外魔境、バイオでサイバーな空間になってしまった。これが抑えきれなくなり、万一外へ流出する事態となれば第二、第三のキメラアントの悲劇へ発展しかねない。

  

「安心せい、そうならないためにワシらがおる」

 

「金稼ぎの依頼をこなすだけが傭兵の仕事じゃねぇのさ」

 

 アイクとチェルが中央管制室に入って来た。緊迫した面持ちのゴンとキルアに心配はいらないと声をかける。世界の平和を守っているっぽい雰囲気を醸し出しているが、元はと言えばお前らのせいだろとキルアは思った。

 

「概念汚染係数0.001未満、評価に値する点は殺虫剤への耐性を獲得したフィジカルくらいのものでしょう。推定危険度C++と言ったところですね」

 

 要するに雑魚らしいが、ゴンたちから見れば強さの問題以前に異質だった。生物は遺伝子の中に設計された種の形を持っている。その多様な形態は時に美しく、時に恐ろしく、自然界の理を表現している。

 

 だが、目の前に映る存在はその均衡が致命的に崩れていた。歪んだ甲殻の隙間から無節操に生えた多脚を動かし、複眼の塊が痣のようにいくつも浮き出ていた。しかもそれが俊敏に動き回る。白く透き通った殻の内側でグロテスクに脈動する臓物の様子が観察できた。

 

 見ていて気持ちのいいものではないことは確かだ。このような生物が他にも艦内をうようよと徘徊している。だが、その全てが駆除の対象となっているわけではなかった。

 

 一度は艦内に取り込まれ封印されていた生物たちはアルメイザマシンの影響を強く受け、この環境下に適応している。中には害をもたらすばかりではない種や、他の危険生物と戦い合って個体数の制限に役立っている種もいた。

 

 いわば艦内フローラとでも呼ぶべき生態系が成り立っている。人間の体にも膨大な数の微生物が住み着いており、その中には善玉菌もいれば悪玉菌もいる。傭兵団の役割は、この生態系の自浄作用を超えた有害種の排除にあった。

 

 今回のアンコクグソクムシ変異種は放っておけば新たな耐性個体の増加を引き起こしかねない厄介な生物である。弱いからと言って見過ごすことはできない。クインは早急な駆除に乗り出すことを決定する。

 

「『強制終了システム』起動準備」

 

「了解」「了解」

 

 ルアンとカトライが忙しなく装置を操作する。クインは部屋の中心に位置する団長席に颯爽と座る。するとその席が一段高くせり上がり、頭上から柱が降りてくる。クインは何本ものケーブルにつながれたヘッドギアを装着した。

 

「タリスマンアブソーバー起動、意識集合体ネットワーク『渦』との接続を開始します」

 

「敵対象の因果力測定中……暫定値160cep、捕捉完了。疑似量子演算装置『王の盤戯』は判定に成功。確率の計算に入ります」

 

 クインの頭上に降りてきた柱に光が灯る。ヘッドギアからケーブルを通して流れ出た光が柱へと注ぎ込まれ、満たされていく。

 

「なんか……ジャンルがちがくね?」

 

 キルアの素朴な疑問をよそにクインたちの作業工程は佳境に突入する。

 

「因果律分離シークエンス……まもなく再結合が完了します」

 

「バタフライエフェクト防止プログラム動作、良し。過程改竄ルート、計測誤差±0」

 

「システムオールグリーン」「システムオールグリーン」

 

 

 

「強制終了システム【デウス・エクス・マキナ】、実行」

 

 

 

 クインの指示と共に装置がひと際強い光を放った。ゴンたちはその閃光の中で、これまでに体験したことのない感覚を覚える。テレビ画面の映像がフリーズしたかのような、そんな感覚が現実の世界そのものに生じてしまったかに思える現象だった。

 

 だが、それも一瞬のことである。すぐに光は消灯し、大掛かりな装置は元の形に収納されていく。モニターに映っている敵の姿に変わりはないように見えたが、よく観察すると動いていなかった。透けて見える体内の臓器の鼓動も完全に停止している。

 

 それはメルエムの能力である確率操作と、渦のネットワークを利用できるクインの協力によって成し得る技だった。ギアミスレイニの艦内のみという範囲の制限と、もたらす結果は「死」のみという制約はあるが、発動に成功すれば敵は死ぬ。

 

 特別な代償もなく敵を即死させる脅威の性能である。ただし、この技の成否は敵の『因果力』によって左右されるところが大きく、確率を歪めるほどの概念汚染力を持つ生物に対しては効果が低い。

 

 今回の変異種に対しては問題なく効果があったようだ。無事に駆除を終えたかに思われた。しかし、そこで計器から異常を知らせるアラームが鳴り響く。

 

「なんですと!? 同種と思われる変異体の反応が複数出現! 卵から孵化したものと思われます!」

 

 敵は既に繁殖し、いくつもの卵を産み落としていた。次々に反応は増えていく。強制終了システムで処理できる範囲を超えていた。

 

「ふん、ならば現場に直接おもむいて試合うしかあるまい。チーム・ゴラッソアルメイザ、出場じゃ!」

 

 結局、いつものやり方で駆除することになった。アイクとチェルが出張る。自分たちの船なのに、まるで未開の地の探索に当たるかのようだった。

 

「あの、良かったらオレもついて行っていい?」

 

「何言ってんだ、ゴン!? ここの連中はオレらとは違う……ジャンルが!」

 

 居住区から一歩外に出れば別世界だ。いかにゴンが才気にあふれた念能力者だと言っても命の保証はない。さすがにキルアもクインも引き留めた。

 

「でも本当の暗黒大陸はこんなものじゃないんでしょ。いつかオレはその場所に行ってみたい。軽い気持ちでは決してないけど、予行練習として体験しておきたいんだ」

 

「ほっほっ、なかなか肝の据わった坊主じゃ。来たければ来い。ちょうどチーム要員が一人足らんかったところじゃ。わしとチェルのそばから離れなければ問題ないじゃろ」

 

 それでも危ないとクインは止めたがゴンの決意は固いようだった。それを見たルアンがごそごそと何かを取り出す。

 

「では、これを着てください。こんなこともあろうかと準備しておきました」

 

 ルアンが開発した一般人向け暗黒大陸調査装備だった。質量軽減処理を施したアルメイザマシン合金を使用した全身アーマーだ。さらにアーマーと肉体の隙間はヌタコンブ成分由来の衝撃吸収ジェルで埋め尽くされており、防御力は折り紙付き。酸素ボンベを搭載し、外気までシャットアウトできる。

 

「なんかジャンルがちがくね?」

 

 ついでにプロトタイプの改造コイルガンも装備させた。やたらカッコいい近未来的デザインのフルアーマーに、物々しい銃器のセット。ここに完全武装形態ゴン=フリークスが完成する。

 

「ジャンルがちがくね?」

 

 そのキルアの心配を払拭するように、アイクは持ち出したサッカーボールを華麗にリフティングし始めた。

 

「わしらの超念力フットサルに不可能はない。チームとボールを信じるのじゃ!」

 

「ジャンルがちがくね?」

 

 その後、アイク、チェル、ゴンの三名からなるチーム・ゴラッソアルメイザは第7区画へ向かった。1分間に約2500個の卵を産む巨大ダンゴムシ変異種の驚異的繁殖力によって一時は区画全域が占拠されかけたが、ダンゴムシをボールに見立てた発想の転換により敵そのものを強力な武器としたアイクのスーパーシュートが炸裂。大量得点を重ね、見事チームを優勝へ導いたのだった。

 






ダイオウグソクムシはダンゴムシよりフナムシ寄りの生き物みたいです。
それはさておき、鬼豆腐様より支援絵を描いていただきました!

【挿絵表示】

ウイングさんかっけぇ……たぶんこの後アイクのおもちゃにされそうだけど、かっけぇ……

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