カーマインアームズ   作:放出系能力者

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36話

 

 道路に沿って歩き続けた。目的地はない。自らの死を受け入れられない亡霊のように、自分が何者かもわからないままさまよい続ける。

 

 便利な能力を発見した。少女の体を覆う生命力はある程度コントロールが可能だとわかった。これをなるべく体の中に引っ込めるようにすると、生物としての気配が驚くほど希薄になる。

 

 この能力によって街中を歩いても声をかけられることはなくなった。動物も近寄って来ない。存在を認識されなくなるわけではないらしく、前から来る歩行者とぶつかるようなことはなかった。

 

 どうやら“存在感”がなくなっているようだ。見えてはいるが、関心は向かない。あってもなくてもどうでもいい。その程度の存在としか目に映らない。その不自然な認識のされ方は、幽霊よりも異質なものになってしまったかのように感じる。

 

 この無関心状態になると、身体能力が落ちるようだ。いつもより力は発揮できなくなるが、それでも一日のほとんどをこの状態で過ごしていた。この少女の格好は目立つ。浮浪者か孤児のように見えるらしく、通報されかけたこともあった。警察の厄介にはなりたくない。

 

 何よりも、楽だった。人目を気にせず街に入ることができる。他の人と同じように、人ごみの中を歩いて行ける。自分が普通の人間になれたような気がした。人間という群れの一員になれたように感じた。

 

 理想と現実の乖離は大きくなる一方だというのに。

 

 昼夜問わず進み続けた私は大きな街にたどりつく。都会と呼んで差し支えない規模の街だ。ビルが立ち並び、道路には車が溢れ、絶え間なく人が往来する。見ていて飽きることがない。

 

「どこだっ!? 確か、このへんで見かけたはず……どこに行っちまったんだヨー!」

 

 今もちょうどおかしな人を見つけたところだった。バイク乗りが着ていそうな黒のジャケットにサングラス、シルバーアクセをじゃらじゃら身につけ、指抜きグローブをはめた目立つ男が歩道で騒いでいる。何かを探しているらしく、しきりに周辺を見回していた。

 

 私がそのまま横を通り過ぎようとしたとき、男のポケットから財布が落ちた。よほど探し物に集中しているのか、財布を落としたことに気づく様子がない。

 

 拾ってあげるべきだろうか。だが、あまり関わり合いになりたくもない。どうするか迷っていると、通行人の一人が歩み寄ってきた。財布を拾おうとしている。だが、その動作が不審だった。サングラス男の方を横目でうかがいながら、こっそり素早く財布をかすめ取ろうとしている。

 

 明らかに親切で拾おうとしている者の態度ではない。私はとっさに横から財布を拾った。黒い皮の財布はずっしりと重く、札でぱんぱんに膨れている。手を伸ばしかけていた通行人は、目の前で目的物を見失って驚いている。が、その視線が私の方に向けられた。

 

 まずい。存在感がなくなる無関心モードも万能ではない。透明人間のように姿を認識できなくなるわけではないのだ。例えば相手と体がぶつかったりすると、さすがに気づかれる。何か注意を集めるような行動をしてしまうと、このモードの効果は半減してしまう。

 

 通行人は私の姿を捉えてぎょっとしていた。そして、私の手に握られている財布に視線が移る。

 

「ど……泥棒だああああ!!」

 

 通行人が叫んだ。少女の首根っこを掴んでくる。突然の事態に状況が飲み込めず、あっさり捕まってしまった。

 

「そこのあんた! こいつがあんたの財布をスリやがった! 俺は見てたんだ!」

 

 通行人がサングラスの男に呼びかける。ここに来て、ようやく嵌められたことに気づいた。自分が盗もうとしていたくせに、他人に罪をなすりつけようとしてくるとは。だが、状況的に男の証言には信憑性が生まれてしまう。実際、私は財布を持っている。

 

 サングラスの男がこちらを見た。このままでは通報される。逃げようと思えばできないこともないが、それこそ警察沙汰になってしまうだろう。なんとか無実を主張したいが、果たして信じてくれるかどうか。

 

「セイッ! でかしたブラザー! 恩に着らッチョ!」

 

 サングラス男はよくわからないことを言いながらポーズを決めている。私と通行人はその雰囲気にのまれ、しばし硬直した。

 

「あ、ああ……で、どうする? 子供だからって盗みは許されねえよな」

 

「セイセーイ! それには及ばないぜブラザー。そんなはした金、どうでもいい」

 

「え? あんた、この財布を探してたんじゃないのか?」

 

「違うねぇ……オレサマが探してたのはこのキューティキティさ」

 

 男はサングラスを額へ持ち上げた。その目は少女を値踏みするかのような視線を送る。

 

 もしかして、私を探していたというのか。ということは、私のことを知っていたことになる。無関心モードを見破られたからこそ、この距離まで接近を許したのではないか。

 

 脳裏に思い出したくない記憶がよみがえる。シロスズメ島でこの少女を狙っていたモックやペッジョ、もしやあいつらと同類ではないのか。いまだモックたちの目的は不明だったが、だからこそ可能性がないとは言い切れない。

 

 だとすれば、このまま何もしないのはまずい。敵だという確証はないが、もしそうだった場合は危険だ。私はすぐに離脱を図った。掴みかかっていた通行人を押しのけて拘束から脱する。

 

「ウェイッ!? 待ってくれビューティキティィィィ!」

 

 こちらを追いかけてくる声をしり目に、私は全力で逃げ去った。

 

 

 * * *

 

 

 彼の名はポメルニ。今をときめくアーティストにしてクリエイター。若者の間で絶大な人気を誇る有名人だ。リムジンで送迎の最中、今日のスケジュールについてマネージャーと確認を取る。

 

「このあと10時からカンパレッジ大学で講演会です」

 

「セイ」

 

「昼食会の後、3時からプラスランナ社の新商品『ジャンピングホッパーくん』のプレスリリース動画撮影があります」

 

「セイ」

 

「実は、先ほど本社から連絡がありまして、撮影会場が急遽変更になりました。タワーブリッジの主塔の頂上で、水着を着用してほしいとのお達しです」

 

「セ……橋の上で? 水着で?」

 

「はい」

 

「雪が……降ってるんだが」

 

「そうですね」

 

「オゥケィ、ブラザー。なに、これは武者震いってやつさ」

 

 彼が震える手で葉巻をくわえると、すかさずマネージャーが横から火をつけた。

 

 彼の名はポメルニ。飛ぶ鳥を落とす勢いの大スター。まさに怖いもの無し。弱冠、20歳後半にして誰もが羨む富と名声を手に入れた男。

 

 しかし、そんな彼にも悩みがある。上に立つ者には、相応の重責がある。彼は気だるげに街の雑踏を見ていた。窓に吐息の靄がかかる。決して、今日の仕事行きたくねーだとか、そういうことは少ししか考えていない男。それがポメルニ。

 

 窓の向こうを通り過ぎていく街並みを眺めていた。そんな彼の視界に、一瞬だけ映った銀色の輝きがあった。

 

「ヘイ、ドゥライヴァー! 車を停めてくれ」

 

「トイレですか?」

 

 違う。マネージャーの気遣いを訂正している時間も惜しんだ彼は、飛び出るように車を降りた。運転手はその様子を見て、もっと早く言ってくれれば余裕をもってトイレまで連れて行けたのにと彼の身を案じる。

 

 彼は走った。ほんの少しだけしか垣間見ることはできなかったが、間違いなく原石。雑踏を行き交う有象無象の輩とは異なる。宝石の原石だと直感できる者がいた。

 

 だが、見失う。彼女を見かけた場所に戻ってきたとき、そこには誰もいなかった。それほど時間は経っていない。近くにいるはずだと探しまわる。

 

「泥棒だあああああ!!」

 

 突然、そばで騒ぎ始めた通行人の方を見たとき、ついに彼は探し求めた原石を目にした。通行人が何か言ってくるが、かかずらっている気分ではない。

 

 銀色の髪はまるでその周囲にだけ雪の結晶が漂い輝いているかのようだった。彼はこんな髪色を今までに見たことがなかった。人工的な発色によってこの輝きが再現できるとは思えない。それほど神秘的な色合いがある。

 

 みすぼらしい服装をしているが、隠しきれない美しさがある。美人は何を着ても似合うと言うが、庇護欲をそそるという見方をすればむしろ魅力を引き立てているような気さえしてきた。不安げにこちらを見上げる瞳など、思わず手を差し伸べたくなるような儚さがあった。

 

 まるで捨てられた子猫。しかし、それでいて気品に溢れた雰囲気を持ち、強かに生きようとするワイルドさも感じる。ミルクと最高級の紅茶が絶妙のバランスでブレンドされたかのような香り高く、甘くほどけるハーモニー。

 

 想像以上、特大級の原石を前に心の中でほくそ笑む。だが、その彼の態度に不穏なものを感じ取ったのか、少女は一目散に逃げてしまった。まさに子猫のような目にもとまらぬ身のこなし。慌ててポメルニが追いかけるが、最近ぽっちゃりしてきた腹まわりの彼ではとても追いつけそうにない。

 

「シィッ、仕方がない。かくなる上は……カモン! キティズアンドブラザァァァァズ! オレサマの魂のサウンドゥゥゥゥんん†聞☆け†!」

 

 彼は歌う。路上で始まるゲリラライブ。次第に人が集まり始め、雪を溶かすほどの熱狂が舞い降りた。

 

 

 * * *

 

 

 何をやっているんだ、あの男は。

 

 無事に逃げ切り、無関心モードで再び気配を消す。そのまま遠く離れたところまで移動する気だったのだが、男が始めた奇行を見て足を止めてしまった。

 

 なぜか突然、歌い出したと思いきや、そこに人が群がっていく。周辺は興奮のるつぼと化していた。彼の歌のどこがいいのか私には理解できなかったが、その異様なまでの人気ぶりからみて相当な有名人なのだろう。

 

 曲の合間に『隠れてないで出ておいでキティ!』とか『オレサマは危害なんて加えないぜ!』とか叫んでいるが、あれはもしかして私に向けた言葉なのだろうか。

 

 私の手元には男の財布がある。あの場に捨てて行けばよかったものを、思わず持って来てしまった。財布の中に入っていたカード類を見たところ、男の名前はポメルニというらしい。

 

 どうしたものかと悩む。なんとなく危険な感じはしないようだが、それでもやはり積極的に関わり合いになりたい人物ではない。しかし、財布を持ち逃げする気もなかった。別に今のところ金に困っているわけでもないし、それより被害届など出されると面倒だ。

 

 だが、あの人ごみの中に入っていくのもためらわれた。この短時間で、ものすごい数の人が集まっている。あの人の列を押しのけて、主役を飾るポメルニのところまで行くだけで大変そうだ。

 

 なんだか住む世界が違うような気がした。彼は『特別』なのだろう。人の心を動かす力がある。私が関わっていい人物ではない。

 

 しばらくすると、スーツを着た男性がやってきて群衆の中からポメルニを連れ出した。ブーイングが巻き起こる。路傍には彼を迎えに来た高級車が停まっていた。車へと向かうポメルニを追いかけようとファンが殺到するが、スーツの男が必死に食い止めていた。

 

 今しかない。私は高級車の横まで行き、車内に財布を放りこんでおく。これで気づいてくれるだろう。無関心モードを継続したまま、誰に気づかれることもなく歩き去る。

 

「キティ」

 

 背後からかけられた声に振り返ると、こちらに向けて何かが投げられていた。反射的にそれを掴む。

 

「少し早いが、クリスマスプレゼントだ。取っときな」

 

 それはスマートフォンだった。なぜこんなものを渡されたのかわからない。プレゼントと言ったが、いきなり携帯を渡されても困る。

 

 だが、私が何か言う前に、彼が乗り込んだ車は発進してしまった。呆然と車を見送っていた私の手の中で、スマートフォンに着信が入る。画面にはポメルニの名が表示されている。とりあえず、出ることにした。

 

『セーイ! 久しぶりだな、会いたかったぜマイキューティキティ! どうやらオレサマのサウンドは君に届いたみたいだな。必ずオレサマの前に姿を現してくれると思ってたぜッッッッッッ!!』

 

 ……これ、捨ててもいいかな。

 

『ウェイウェイッ! まあ、待ちな。そのスマホがどれだけの価値を持っているか、決めるのは話を聞いてからでも遅くはないと思うぜ。あ、あと喋り方なんだけど、素にもどしていい? このキャラ作るの疲れるんで』

 

 勝手にしてくれ。いったい何が目的なのか、第一にそれを知りたい。

 

『まずは自己紹介をしようか。俺はポメルニ。アイチューバーをやっている』

 

 アイチューバーとは、大手動画共有サイト『アイチューベ』に動画を投稿して、その広告収入で生計を立てている人のことを指すらしい。動画が再生されるとそこに広告が表示され、投稿者に微々たる広告料が入る。しかし、塵も積もれば山となるようで、この広告料だけで生活ができるどころか億万長者になる人までいるという。

 

『単刀直入に言おう。君、アイチューバーになってみないか?』

 

 何がどうなってそういう結論に至ったのか理解できないが、はいなりますと返事ができるようなことではない。当然、断った。

 

『そうか。うん、まあ妥当な判断だ。むしろ簡単にこんな話に飛びついてくるよりは賢明だろうな』

 

 自分から話を振ってきておいてあっさり引き下がるとは、本当に何がしたいのかわからない。

 

『動画を撮影して投稿する。子供だって簡単にできる時代だ。そして再生数さえ稼げれば金になると、単純に考える連中が増えた時代だ。世の中には確かに“うまい話”がある。そして、それを自分も掴みとれると盲信している』

 

 アイチューバーについて詳しく知っているわけではないが、誰もが楽に金を稼げるようなシステムではないのだろう。いや、一見してそのように見えるが、実情は異なると言ったところか。

 

『食っていけるだけの金を稼げる奴は一握りしかいない。上に登りつめるためには何が必要か教えてやろう。それは、運だ』

 

 身も蓋もない言い方だ。それはそうなのだろうが、実力があって面白い動画を作ることができるからこそ人の目に留まるのではないのか。

 

『まぁな。箸にも棒にもかからないような動画しか作れないんじゃ話にならない。だが、毎日毎日必死になって作り込んだ動画が評価されないことなんてざらだし、その一方でなんでこんな駄作に視聴者が集まってくるんだと頭を疑う動画もある。狙って結果が出せるのは、最初から“持ってる”奴だけだ。人気のある投稿者は雪だるま式に再生数が増えていく。金のあるところに金が集まる、経済の仕組みと一緒さ』

 

 その“持ってる奴”になるために必要なものが、ポメルニいわく運らしい。

 

『俺は今でこそもてはやされているが、最初はただの売れないミュージシャンだった。さっきの路上ライブを見ただろ? アカペラで馬鹿みたいなキャラ作って熱唱して……数年前の俺なら誰も見向きもしなかったはずだ。罵声を浴びせられていたかもな』

 

 それが今では引く手あまたの大スター。彼は自分に音楽の才能などないと言った。容姿が整っているわけでもない。学歴もない。人に誇れるようなものは何も持っていないと。ただ、運がよかっただけなのだと。

 

『持って産まれたタレントってやつは確かにある。だが、逆に言えばそんなもの何一つ持ち合わせていなかった俺が大物アイチューバーになっている。結局、人気とかカリスマとか、そういうもんは本人の資質じゃねぇ。運だ、運。持たざる者は、ちょっとばかしその運に頼る要素がデカイってだけに過ぎない』

 

 本人はそう言っているが、諦めずに努力を続けてきたから今の彼があるのだろう。それこそが彼の才能なのではなかろうか。いずれにしても、私には縁のない話だった。

 

 結局、どうしてアイチューバーになることを勧められているのかわからなかった。彼の話を聞く限り、成功するかどうかは運次第ということになる。勧誘する気があるのかどうかもわからない。

 

『どうして勧誘したのかだって? それは色々理由があるが……一番は君の目が、昔の自分に似ていたからだ』

 

 昔の自分とは、彼がアイチューバーとして人気を博する以前の下積み時代のことを指しているようだ。今の私の境遇とはかけ離れているような気がするのだが。

 

『学生時代からつるんできたバンド仲間は辞めていった。いつまでも夢を追いかけて音楽にしがみついていたのは俺だけだ。路上演奏しても見向きもされない。誰も俺の声を聞いてくれない。俺が今までやってきたことは何だったんだろうと思った。このまま誰の心にも残ることなく、誰にも知られず死んでいくような気がしていた』

 

 ちくりと胸が痛む。似ていると言われればそうかもしれない。毎日気配を消しながら歩いていると時折、自分でも自分がいるのかいないのかわからなくなってくるときがある。いてもいなくてもどうでもよくなっているような気がしてくる。

 

『それでもたまに、本当にたまにだけど、足を止めて聞いてくれる人もいたんだ。がんばれと声をかけてくれる人がいた。涙が出るくらい嬉しかったよ。あの人たちがいなかったら今の俺はなかった』

 

 それは……。

 

『だから、君のことを見つけたとき、目を離しちゃいけないと思った。本当に、雪の向こうに滲む幻みたいに消えてしまいそうだった。だから教えてやりたかったんだ。お前を見てる奴がいるんだぞって。俺がここで見失うわけにはいかないって直感した』

 

 ……。

 

『もう一度言うぞ。アイチューバーになる気はないか? 良い奴ばかりじゃない、クソみたいな連中もたくさんいるけど、誰かが君のことを見てくれるはずだ。幸いにして、君は強運に恵まれている。なぜなら、この広い世界の中で俺とこうして出会ったんだからなッ! チェケラッ!』

 

 電話の向こうの声は、ごまかすように喧しい口調に変わる。

 

『そのスマートフォンは特別製だ。その機体からアイチューベに登録することで、『公式ポメルニチルドレン』を名乗ることができる』

 

 アイチューベにおける彼の動画の影響は大きく、他の投稿者の中にはその人気にあやかって彼と似た内容の動画をアップする者も多い。悪く言えば二番煎じだ。それらの投稿者は半ば蔑称するような表現として『チルドレン』と呼ばれている。

 

 だが、ここで言う『公式チルドレン』はそれとは全く異なるものらしい。公式の名の通り、ポメルニ自身が真贋を見極め、実力が認められた者にだけ与えられる称号だそうだ。

 

 この称号を得た投稿者は、アイチューベのトップページに公式チルドレン枠で動画をピックアップしてもらえるらしく、それだけでスタート段階からして一般会員よりも数段上の再生数が約束されたようなものらしい。そんな一ユーザーの権限を遥かに超えた企画を通せるとはこの男、並みのアイチューバーではないようだ。

 

 だが、その地位にあぐらをかいてはいられない。規定の再生数を稼げなかった投稿者は即座に一般会員落ちする。また、チルドレンの広告利益の数%が上前としてポメルニに入る仕組みになっている。慈善事業ではないようだ。

 

 このスマートフォンはポメルニの名義で契約されており、今月分の使用料金については彼が支払うが、来月分からは広告収入で得た電子マネーによって決済される。それをまかなうだけの再生数が稼げなければ自動的に契約は解除されて使えなくなるという。

 

 今のところ公式チルドレンは10名ほどしかいない。その誰もがそれまでに投稿者として活躍を見せた者たちであり、私のように全く無名の新人を起用することは初の試みだという。なぜだかわからないが、不相応な期待が寄せられている。

 

『駆け上って来い。アイチューバーの高みへ、な』

 

 まだ、なると答えてはいないのだが、ポメルニは確信した様子で要件を伝え終えると電話を切った。

 

 手元に残された黒いスマートフォン。少女はどうしたものかと頭を抱えた。

 

 

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