巨大飛行船は内部に様々な娯楽施設が置かれている。客だけではなく、それらの施設を運営する人間もまた大量に必要となってくる。しかし、飲食店やブティックなどが立ち並ぶ商業区画には誰の姿もなかった。
まるで巨大なクジラの腹の中にでも迷い込んだかのような閉塞感。臓器のように立ち並ぶ店々は、どこも閉店の看板が下げられていた。訪れた客を楽しませるために作られた小さな町は照明だけを灯して、ひっそりと静まり返っている。
「これはすごい……力がみなぎってくる……!」
その虚飾に満ちた通りの一角に、怪しげな集団がたむろしていた。全員が同じデザインのローブを身に纏っている。フードが付いた大きなローブは、着た者の姿をすっぽりと覆い隠してしまう。身長の差などを除けば見た目だけで個人を見分けることは難しいだろう。
その一団はメンタリズム系アイチューバー、銀河の祖父をリーダーとする『茶チーム』だった。このローブもたまたま同じものを数百着も用意していた、というわけではない。これこそが彼の念能力である。
『誰よりも誠実な詐欺師』を自称する占い師、銀河の祖父。彼にとって占いとは、あくまでも人心掌握をしやすくするための導入に過ぎない。最初から騙すことを公表してくる彼に対して、初見の客は当然のようにこう思う。「誰が騙されるものか」と。
しかし、ひとたび彼の占いを受ければその考えは180度変わってしまう。占いと称しているが、その本質はただの悩み相談に過ぎない。どんなに幸福な人間だろうと、悩みのない人間はこの世にいない。彼は巧みに心の闇を暴き出すテクニックと話術を持っている。
人間の悩みとは、その多くが克服困難なものである。簡単に解決できるならそもそも悩みはしない。そしてその壁を前にして、ほとんどの人間は乗り越えることができずに立ち止まる。努力によって真っ当に壁を打ち破れる人間など、ほんの一握りしかいない。たいていはただ立ち止まったまま、別の誰かや時間が解決してくれるのを待つのみだ。
だが、立ち止まっている時間が長いほどに、人は前に進もうという気力を無くしていく。そういう人間が次にやるのは、問題を忘れようとすることだ。壁を乗り越えられないから、妥協して別の道を選ぶ。その方法が成功することもあるが、根本的な解決にはならないし、次の壁にぶつかる悪循環に陥ることの方が多い。
心の傷は一度治ったように思えても、ふとした瞬間にぶり返す。完治させるためには、現実を直視して立ち向かわなければならない。それが最善の対処であり、そして最も苦痛をともなう選択でもある。未来に進むためには、辛くとも不幸な記憶と向かい合い、その上で過去は過去として納得することが必要である。
銀河の祖父は占いによって悩みそのものを解決できるとは思っていない。相手に自分の本心を自覚させ、それを受け入れさせればそれでよい。やっていること自体は特別なことではなく、普通のカウンセリングでも行われているような本人の自立を促すサポートであるが、その手並みがずば抜けていた。
他人の心を言葉巧みに誘導するそのあり方は操作系能力を彷彿とさせるが、彼は具現化系能力者だった。その能力は『無差別殺仁(セルフライアーズ)』と言い、彼がいつも着ているローブを具現化することができる。これは操作系と具現化系の複合能力である。
このローブを着た者を操ることができるのだが、具現化系は操作系と相性がそれほど良くない系統であり、あまり強力な精神干渉はできない。その運用法は『要請型』と呼ばれる分類となる。
操作系能力には大きく三つの分類があり、心身ともに完全に操る『強制型』、体の自由を奪う『半強制型』、そして操る対象に協力を求める『要請型』がある。要請型は対象の制御は難しいが、他の二つと比べて少ないエネルギーで多くの対象を同時に操れるという利点がある。
「むやみにその力を使ってはなりません。そのローブはあなた自身の力を引き出すもの。エネルギーを消費すれば、当然あなた自身も体力を消耗します」
『無差別殺仁』の最大の特徴は、操作対象が念能力者ではない一般人だった場合に、簡単な念を使わせることができることだ。
基本的に操作系によって操られた一般人は、その攻撃によって精孔が開くケースは少ないのだが、中には念能力やそれに準じる力の行使を可能とする場合もある。『無差別殺仁』は精神干渉能力を薄めた代わりに、協力に応じた見返りとして念能力が使えるようになる効果があった。
しかし、それによって使えるようになる力は『纏』と『練』だけだ。『練』はちょっとだけ攻撃力が上がるくらいの粗末な精度で、たいした威力ではない。本物の念能力者が一対一で戦うとなれば、まともな相手にはならないだろう。この効果はローブを着ている状態限定のものであり、脱いだり破損したりすれば使えなくなる。
みだりに一般人に念の存在を教えてはならないという掟があるため、銀河の祖父はこの能力を、宇宙から降り注ぐ銀河のパワーをローブが受信して潜在能力を引き出しているのだと説明している。うさんくさいにもほどがある説明だが、信者はその言葉を完全に信じ切っていた。そもそも疑心が少しでもあるような人間は、こんな怪しげなローブを着ようとは思わないだろう。
「おお、なんということでしょう。本当なら、あなたがたを巻き込みたくはない……私の能力でどうにか皆さんを守ろうと考えましたが、それも難しいようです……」
さめざめと涙を流す銀河の祖父に対して、集まった賛同者たちは声をあげた。
「何をおっしゃるのですか、先生! むしろ、嬉しいくらいですよ。私たちでも先生の力になれるというのなら、協力は惜しみません!」
「ここにいる人たちは、みんな先生に心を救われた者ばかりです。今度は私たちが先生を助ける番ですよ。一致団結してこの難局を乗り切りましょう!」
銀河の祖父は泣くふりをしながら仮面の下で笑っていた。確かに彼の能力にはデメリットが多いがその分、数を生み出すことに特化している。百着以上のローブを具現化しているが、まだ彼には余裕があった。
個人でみれば大したことのない戦力でも、それがこれだけの数集まればまさに百人力。一般人が何人集まろうとも念能力者には勝てないが、それが多少なりとも念を使える能力者もどきとなれば全く話は変わってくる。正面から数の力で圧殺することも可能だ。厄介な能力を持つ者がいたとしても数の力に物を言わせれば様子見ができる。そういう能力者は一度タネが割れれば対処が容易である場合がほとんどだ。
ローブを着たファンの一人が近くにあった建物の壁を殴った。そのただのパンチで、コンクリートでできているはずの壁が砕け、拳の跡がくっきりと残っている。
「す、すげぇ……この力があれば……!」
彼は一言も助けてくれと言ったわけではない。ゲームに協力して優勝しようだなんてけしかけることもなかった。直接的な方法を取らずとも、自然に人々の意思を誘導する術を知っている。それこそが彼のメンタリズム術。
彼は確信した。心を制する者が勝負を制する。この観客を巻き込んだ全員参加式のルールも彼に味方している。いや、もはや彼のために作られたルールと言っても過言ではないだろう。
彼はこのゲームの勝者になろうとしている。
『5秒前! 4、3、2、1……ゲームスタート!』
ついにゲームの開始を告げるアナウンスが船内に鳴り響いた。麻酔銃のロックが外れたはずだが、そんなものは必要ない。一般人の対処用に使えば十分だ。
「先生、これからどういたしましょう」
「慌てることはありません。何事も起きないのが一番です。まずはここで身を隠し、ゲームの行く末を見守りましょう」
焦る必要はない。ツクテクのような危険な輩もいることだし、血気盛んなアイチューバーたちが潰し合ってから行動を起こした方が消耗も少なくて済む。兵力は集まった。後はそれを投入する機をうかがうのみだ。
「しかし、どこから敵が襲いかかってくるとも限りません。みなさん、警戒だけは怠らないようにお願いします。まだ始まったばかりですから大丈夫だとは思いますが」
「……いえ、どうやらそうも言っていられないようです」
それは招かれざる客の知らせだ。まさか他のアイチューバーに早くも見つかったかと思ったが、その心配は杞憂だった。
「おー、なんか見るからにやべー奴らが集まってるな。黒ミサか?」
「確か銀河の祖父が似たようなローブを着ていましたが、どれがどれだかわかりませんね」
「えっ、ちょっ、いきなりこの数はまずいでしィ!? 逃げ……戦略的撤退しましィ!」
「お前はそれでもシックスちゃん親衛隊か!」
現れたのは、たった五人の敵チームだった。リストバンドは銀色の光を放っている。その色が誰のチームであったか銀河の祖父は忘れてしまったが、覚えていなくとも問題のないことだ。たった五人の一般人など、彼の軍勢をもってすればひとひねりの内に始末できる。
「我らが主に仇なす者は排除する」
「銀河の祖父こそアイチューバーの王にふさわしい!」
「邪魔する奴らに容赦はしない……」
百人以上のローブ姿で統一された集団が、ゆらりと動く。五人の哀れな迷い子を包囲していく。その光景を前にすれば、誰もがまるで底なしの淵に引きずり込まれるような恐怖を覚えることだろう。
「なんだ、やる気があるんなら話が早い」
だが、銀河の祖父は違和感を持った。五人のうちの三人は身を寄せ合って震えあがっているが、二人は欠片の動揺も見せていなかった。ただの蛮勇なのか、それとも何か策でもあるのか。自然体で構えるのみで、配布された麻酔銃さえ手に持っていない。そんなものは必要ないとでも言うかのように。
何か確証があるわけではないが、彼は直感した。この二人を敵に回すのはまずいと。
「みなさん、落ちついてください。ここはひとまず態勢を整えて……」
「銀河の祖父に勝利を!」
「うおおおお!! 俺たちの力を思い知れえええ!!」
「ちょっ、私の話を聞いてくだ――」
獲物に群がる肉食獣の群れのように、興奮状態の群衆が蹂躙を開始する。だが、彼らはすぐに現実を知ることになるだろう。どちらが狩り、狩られる側であるかということを。
* * *
華々しいステージの上で、たくさんの人の歓声を受けながら歌を披露する。それが彼の夢であり、子供の頃からの憧れだった。彼の母親は歌手であり、その姿を見て育った彼もまた、同じ夢を志した。
彼の前には二つの道があった。一つは、歌手となる道。そしてもう一つは医者となる道である。彼は代々、優れた医師を輩出する名家に生を受け、生まれながらに医者となるよう教育されてきた。
本当は歌手になりたかった。だが、そんな考えが許される家ではない。彼は医者になることを決めた。だが、それは嫌々選んだ道ではなかった。家の方針だけでなく、子供の頃からの夢を捨て去ってでも医者にならなければならない理由が彼にはあった。
母親が重い病に冒されたのだ。現代医学ではまだ治療法も確立されていない難病であった。取りうる手段を全て尽くしたが、快方へ向かうことはなかった。彼は大学へ進学し、その病の研究に没頭した。日に日に悪化していく母親のために、寝る間も惜しんで治療法を探した。
今でも多く夢に見る。白い病室の中、無数の管がベッドの上につながり、自力では息をすることもできなくなった母の姿が瞼の裏に焼き付いている。その全身にはどす黒い斑紋が浮かび、かつての美しい姿は見る影もなかった。
言葉をかけても、やせ細った手を強く握っても、返してくれる反応は何もない。意識を失ったまま何年も経過していた。だがそんなある日、彼女は一度だけ口を開いた。
ノア。
それが最後の言葉だった。
* * *
ついに最悪のゲームがその幕を開けた。始まりを告げるアナウンスが放送される。その声はポメルニのものだ。不愉快さと焦燥を感じずにはいられない。
そして、早くも電光掲示板から一人の名前が消えていた。どうやら銀河の祖父が倒されたらしい。他のアイチューバーの仕業か、それとも銀チームが倒したのか。
私を応援してくれている銀チームの五人に対して、私はどのように接していいのかいまだに考えを決めかねていた。これがただのファンだったのなら話は単純だったのだが、想像もつかない方向に事態は進んでいる。
ブレードはその人たちをサヘルタ合衆国という国が送り込んだスパイだと言う。しかも、なぜか私の命を狙っているらしい。その理由については教えてもらえなかった。彼は何らかの依頼人からこのオフ会期間中、私を護衛するように頼まれているそうだ。
理由を聞かないことには、その話を信用していいのか判断できないが、ブレードの人柄はそれなりに信頼できる。こじれないようにもっとうまくごまかすこともできただろうに、あえて守秘義務を理由として話を濁さなかったことは彼なりの誠意の表れなのかもしれない。不器用なだけかもしれないが、どちらにしても嘘はつけない性格に思える。
一方で、銀チームに対する不信感というのもそれほどなかった。怪しいことは確かであり、もちろん全面的に信用しているわけではないが、どうにも疑いきることができなかった。彼女たちにもブレードと同じような誠意があるように感じたからだ。
コスプレの二人組には会場に入る前から助けられている。殺すつもりがあるのなら機会はあったはずだ。その強さは何となく察することができた。チェルという女性一人だけでブレードとベルベット、二人の能力者を萎縮させるほどの実力がある。
しかし、私は結論を出すことができずにいた。結局ベルベットの提案のまま、銀チームは他のアイチューバーへの対処に駆りだされてしまい、詳しい話を聞くこともできなかった。
謎は深まる一方だ。なぜ私がサヘルタに狙われているのか。ベルベットは私に、もしかして本当にどこかの国のお姫様か何かかと尋ねられたが、私にわかるわけもない。
とりあえず今は様子を見るしかないだろう。このゲームが終わらないことには落ちついて話もできそうにない。幸いにして味方は多い。全員が協力しあえば早々にこのゲームを終わらせることもできるはずだ。
「それにしてもこのゲームの主催者は何の得があってこんなことをしているのでしょうか。目的が読めませんね」
「吾輩たちが念能力者であるとわかっていたから、これほどの大規模な戦いの場を作ったのか。吾輩たちの潰し合いが目的ッスルか? しかし、それならば力なき一般人を巻き込むようなルールをわざわざ作る必要はないッスル。いずれにしてもこれほど莫大な金をつぎ込み、大きな事件にしてまでやらなければならないことなのかと言われると……」
今後の動き方についてはベルベットとブレードの二人が話し合っているところだ。口下手な私がその会話に混ざってもあまり役に立たないことはわかっているが、蚊帳の外に置かれているような気がして釈然としない。手が余っている私はノア・ヘリオドールの介抱に回されていた。
実は先ほど銀チームとの対話が行われていたとき、チェルはブレードに威圧を放つ片手間にベルベットの方へ牽制の気を飛ばしていたらしいのだが、瞑想中だったノアの方にもついでに牽制していたようだ。そのせいでツクテクに続いて二度目の威圧を受け、ノアは失神してしまった。
ただ、このショックによって精孔を開くことができたようで、ノアは気絶していながらも『纏』を習得できていた。今後は威圧だけで気を失うことはないと思われる。
よほど精神に堪えたのか、冷や汗をかいてうなされている。ベルベットはひっぱたいて起こせと言っていたが、さすがにこれほど弱っている人間に鞭を打つような真似はできなかった。うなされているということはすぐに意識を取り戻すだろう。
介抱するとき、一応脈などを確認した方がいいかと思い手を取ったのだが、その際になぜかこちらが手を握られてしまった。無意識のことだと思うが、近くに誰かいるとわかることで安心したのかそれによって容体が少し落ちついた。振りほどこうとすると嫌がって強く握り返してくるので、そのままにしている。
「ノア様から離れろ! このビッチが!」
「ガキのくせに色目使ってんじゃねーぞ! そこ代われ!」
だが、やっぱり無理にでも振り払った方がよかったかもしれないと思い始めていた。会場に集まったノアのファンらしき人たちからものすごいブーイングが浴びせられている。まるで崇拝に近い感情を持ったファンたちからすれば、ノアに対してなれなれしく接している私に不満を持つこともわかるのだが、あまりにも口汚い言葉で罵られるため辟易としてしまう。
「だいぶ観客も荒れてきましたね。そろそろ放置しておくのはまずいでしょう。きちんと説明した上で納得させられればいいのですが」
ここにはノアのファンである緑チームだけでなく、ブレードの黄チームも集まっている。ベルベットのチームは誤差みたいな人数しかいないが、とりあえず掲示板に表示されている人の数を全て足せば1293人。観客の半数以上はここに集まっていることになる。
それらの群衆がゲームが始まってなお、何の説明もされずに待たされていれば事態は悪い方向へ傾いていくだろう。だが、説明すればそれで済むかと言えば一筋縄でいくものではない。そのまま何もせず、じっとしていてくれるのが一番いいのだが、全員が簡単にこちらの言うことを聞いてくれるとは思えなかった。
ひとまず、最大人数を誇る黄チームのリーダーことブレードが壇上に立って説得を試みることになった。ベルベットも弁は立つのだが炎上系アイチューバーというスタンスがあるため批判を集めやすい。ここはブレードが適任だろう。
「皆の者! どうか吾輩の話を聞いてほしいッスル! 現在、この船は……」
しかし、話し始めたブレードの声をかき消すほどの勢いで会場から熱狂の叫びがあがった。ついにゲームが動きだしたと勘違いしたのか、観客たちはブレードの言うことなどお構いなしに騒ぎ始める。そして、恐れていた事態は唐突に訪れた。
会場の各所で麻酔銃を使用する者たちが現れたのだ。銃で撃たれてその場に倒れ伏す者の姿も見受けられる。こうなってはブレードが何を言ったところで無駄だ。言葉で制することができる段階ではなくなった。
「こうなることも想定はしていましたが、思っていたより早かったですね。こんな密集地帯で撃ち合いを始めるとは、想像以上のお馬鹿さんたちです。というか、様子がおかしくありませんか?」
確かにいくら興奮しているとはいえ、あまりにも短慮な行動である。言われてみれば観客たちの表情や挙動からは正常とは思えない様子が見て取れた。まるで理性のたがが外れた獣のように周りの迷惑を考えずわめきちらし、武器を構えている。早くも装弾数の10発を撃ち終えたのか、それでも気がおさまらず銃身で殴りかかろうとしている者の姿も見えた。
「念によって操作されている気配はないッスル……しかし、精神に異常をきたしていることは明らか。となれば、何らかの薬物による影響かもしれないッスル」
これだけの数の人間に気づかれず薬物を投与するには経路が限られてくる。飲食物に混ぜても全員が食べるとは限らないし、これほど一斉に効果が表れ始めるのは不自然だ。空調からガス性の薬物が散布されたのではないかとも疑われた。それが事実なら、私たちも他人事ではなく影響を受ける可能性が出てくる。
「ふむ……コンディション、オールグリーン。今のところこの周辺に薬物の反応はないッスル」
ブレードがおもむろに服の袖をまくりあげ、力コブを作って見せる。彼曰くピクピクと動く筋肉の微細動から自分の肉体の詳細な現状を把握することは容易だと言う。これが彼の念能力『筋肉計測器(コンディションチェッカー)』だ。
「戦闘では役に立ちそうにありませんね」
「何を言うッスル! 敵を知り己を知れば百戦危うからずッスル! 常に自らの正確なオーラコンディションを把握することで、より十全に筋肉を活用する戦闘を実現できるッスル」
彼の発は正確には十の筋肉奥義から成る『筋肉大博覧会(マッスルミュージアム)』と言い、『筋肉計測器』はその一つらしい。
ともかく、精神に異常をきたした観客をこのままにしておくわけにはいかない。撃たれた人もただ眠っているだけとはいえ、この騒動の中を転がっていれば踏みつけられて大怪我をすることもありえる。
ベルベットは殺気で抑え込もうとしたらしいが、精神が高ぶった状態の人間にはあまり抑制が効かないという。本気でやれば抑え込むことも可能らしいが、それをやると本当にショック死する人間がでるかもしれないので、できればやりたくないと言っていた。死ぬほどのオーラをぶつけられないと止まらないほどに精神がおかしくなっているとも言える。
「やれやれ、面倒ですが手動で片づけた方が事故は減らせるでしょう。というわけで、頼みましたよ」
「できれば手伝ってほしいところッスルが、まあここは吾輩だけで十分ッスル。お見せしよう、十の筋肉奥義が一つ……『筋肉瞬間脱衣(キャストオフ)』!」
その掛け声と同時にブレードの上半身の服が弾け飛んだ。上半身の筋肉に力を込めることでもともとパツパツだった服を一瞬のうちに破り捨てたのだ。首元の襟と蝶ネクタイだけを残して衣服がこま切れとなる。
脱ぐ必要はあったのかという疑問は浮かんだが、既にステージ上には大勢のファンが上がり込もうとしていた。本丸である敵アイチューバーを直接落としにきたのだろう。物怖じする様子はない。特に女性ファン、おそらくノアのチームと思われる人たちの気迫がすごい。ただの一般人だとわかっていても気圧されてしまう迫力だった。
これ以上誤解されるようなことがあってまずいと、さっきからノアの手を振りほどこうとしているのだが全然放してくれない。むしろ、しがみつくように腕を回されている。
「あ、ああ……」
というか、ノアは起きていた。目を覚ましたのならさっさと離れてほしいと思ったのだが、何やら様子がおかしい。起きぬけに、銃を構えてこちらへ押し寄せて来る人の群れを見れば確かに動揺するかもしれないが、今の彼なら『纏』ができているので麻酔銃でやられることはないだろう。大丈夫だと伝えようとした、そのときのことだった。
「いやだ……いやだいやだやだやだやだやだあああ!! なんでぼくがこんな目にあわなくちゃならないんだ!! もういやだ……助けてよっ! ママーーーーーーッ!!」
ノアが泣き叫んだその直後、私の、シックスの体に変化が現れる。背中から一対の翼が生え、頭上にはうっすらと緑色の光を放つリングが出現した。遠目から見れば天使のような姿に見えるかもしれない。
だが、その翼は細いチューブが無数に束なって作り上げられており、それらがつながる頭上の環は心電図モニターのように不気味なグラフが表示されていた。
やってみた系:ポメルニ
いたずら系:ジャック・ハイ
ハンター系:ブレード・マックス
ダンス系:J・J・J・サイモン
アイドル系:ノア・ヘリオドール
マジック系:快答バット
作ってみた系:ツクテク
炎上系:ベルベット・アレクト
アニマル系:シックス
残り9人
イラストを描いていただきました!
巌窟親Gィ様より
【挿絵表示】
いい笑顔のシックスちゃん