体が動かない。突如として発生した異常事態に反応を取ることもできない。シックスの体に現れた謎の装置が関係しているのか。
これは何らかの念能力によって引き起こされた現象であると思われる。身体強化などの通常能力とは一線を画する『発』と呼ばれる固有技だ。しかし、シックスの見た目に変化が生じているが、私が発を使ったわけではなかった。少なくとも私にその自覚はない。
「ぐっ……いったい、なに、が……」
「ぬおおお……吾輩の体が……!」
この能力の影響を受けているのは私だけではなかった。近くにいたブレードとベルベットが苦しみ始めたかと思うと、その場に倒れ込んでしまったのだ。
さっきまで元気だった二人が虫の息である。二人の身体にも異常が発生している。皮膚のいたるところに黒いあざのような斑紋が現れていた。上半身裸のブレードはわかりやすい。ベルベットも顔に同じような症状が出ている。
「なんのこれしきッ!」
ブレードが気合で起き上がった。だが、無理をしているのは一目でわかる。膝立ちの姿勢のまま、その場からまともに動くこともできずにいる。それでも倒れ伏したまま全く動く様子のないベルベットに比べれば、まだ余裕があると言えた。
「ノア君、シックス君! 聞こえるか! それは『発』の暴走だ! 自分を見失うな! 心を落ちつけよ!」
発とは通常、他の四大行を十分に修めた上で自ら考えて作り上げる技であるが、稀に修行を経ず、無意識のうちに覚えてしまう者もいると聞いた。大きな才能がある者にしか起きない現象だというが、可能性はある。ノア・ヘリオドールはトップアイチューバーとして活躍し、念能力の片鱗を見せていた。
自覚なく作ってしまった能力は、自分でも全容がわからないため滅茶苦茶な効果や制約などが生じてしまう危険がある。念を覚えたての身であれば、なおさらその制御はおぼつかないだろう。
「ママーーーーッ」
ノアの身体には黒い痣のような症状は見られない。我を忘れて泣き叫んでいるが、身体的な異常は起きていないように見える。これが彼の能力だとすれば、自分がしでかしていることにも気づいていないかもしれない。私たちを陥れるために悪意をもって力を使っているわけではなさそうだが、結果的にまずい状況となっていた。
精神錯乱した観客たちが大挙して押し寄せようとしている今、いくら一般人の集団とはいえこちらはまともに対処できる状態ではない。しかし、この最悪の状況は迫りくる観客に対しても等しく災いとして振りかかった。
ある一定の距離まで近づいた観客にもブレードたちと同様の効果が現れたのだ。この能力の発動条件が距離によるものだと推測できる。ノアの近くにいる者に対して症状を引き起こすようだ。
これにより、観客もこちらに近づいては来れないが、その距離は10メートルあまりと言ったところである。そして、彼らにはその距離からこちらを攻撃する手段が残されていた。麻酔銃ならばそばまで接近せずとも攻撃できる。
通常なら『纏』によって高められた防御力で、この麻酔針程度なら難なく防ぐことができるのだが、今はブレードもベルベットも満身創痍。その纏に先ほどまでの精彩さはない。当たり所が悪ければ攻撃が通るかもしれない。これだけの数が相手となれば、アウトとなるのは時間の問題と言えた。
何とかしてノアの暴走を止めなければブレードたちが眠らされてしまう。その後、私もどうなるかわからない。ノアはまるで人が変わったようにおかしな言動を取っていた。
「ああ、ママ……! すぅはぁ、すぅはぁ……! やっぱりママの匂いだ! 僕にはわかってたよ、一目見たときから思ってた。君はママの生まれ変わりなんだね! 夢みたいだぁ……またこうしてママと一緒にいられるなんて……」
恐怖に震えていたかと思えば一転して嬉しそうに笑い、甘えるように抱きついてくる。シックスの胸に顔をうずめながら、ママママと連呼していた。どうやら彼は母親とシックスを重ね合わせているようだ。年齢的に明らかに違うと思いそうなものだが。
彼の能力は周囲の人間に『病気』を発生させるものだと思う。この病気の症状は非常に重く、全身に黒い痣ができた上に念能力者でさえ行動不能に陥らせるほどのものだ。そして、おそらくこの能力の基点はシックスである。シックスを中心として10メートルほどが効果範囲となっている。
能力の発動者であるノアはもちろん病に冒されることはないが、シックスの身体にも症状は出ていなかった。シックスに対しては無害な能力なのだ。天使を模したような装置の数々は、彼の能力の象徴を表しているのかもしれないが、それ自体に何か特別な効果があるようには感じない。見かけだけだ。
しかし、シックスの身体の自由は効かなくなっている。初めは操作系能力などによる身体操作を疑ったが、すぐに原因は判明した。彼の能力は自分とシックスを除く周囲の“生物”に対して病気を引き起こす、それのみである。
つまり、人間でなくとも発病する。現に、私の本体である虫の体は異常に襲われていた。今も意識を手放してしまいそうなほどの激痛に苛まれている。普段の私ならとっくに気絶しているだろう。ブレードたちが動けないはずである。身をもってその苦しみを体験していた。
今こうして考えを巡らせていられるのは、戦闘状態に入った感覚加速のおかげだ。まるで自分の体とは別の場所に意識があるように思考することができているが、逆に言えば体とのつながりは限りなく薄くなった状態のように感じる。本体を動かすことはもちろんできず、普段ならば無意識に行えるはずのシックスの操作にも手こずっている始末だ。
この状況を打破する方法は、あることはある。一つ、思いつくのは『救済の力』を使うことだ。誰かを救いたいという決意一つで常軌を逸した力が手に入る。あの圧倒的な暴力があれば、この状況も覆せる可能性はある。しかし、気軽に使おうと思えるほど便利な能力ではない。
一度あの状態になれば一切の制御は効かなくなる。私の中の“私”は、さも正義の力のごとく語っていたが、それが真実であるかどうかも疑わしい。発動したが最後、この場にいる全員を皆殺しにするまで止まらない、そんな結果となるかもしれない。何が起きるか予想がつかなかった。
そして、あの能力を発動したときに感じた自分が自分でなくなっていくかのような恐ろしい感覚。二度と味わいたいとは思えなかった。肉体の痛みなら我慢できるし、堪えられなければ意識を手放すこともできる。だがあの痛みは心そのものを破壊するような感覚だ。堪えることも逃げることも許されない。
「ママ、僕がんばったんだよ……ママみたいに立派な歌手になれたんだ。だから褒めて、ねぇ、褒めてよママ!」
あの力を使うことは避けたい。なんとかノアの暴走を止める手段はないか。シックスの体を動かすことができないか、もう一度試してみる。全神経を注いで強く念じる。
辛うじて腕が動いた。だが、ノアを攻撃して能力の発動を止めさせるほどの力はない。抱きついているノアの頭の上に手を置くのが精いっぱいだった。
「ノ、ア……」
彼の名前を呼ぶ。それ以降の言葉は続かない。こんな調子では、とてもではないがノアを制止することはできそうにない。そう思われた。
「……はは……は……」
私はただ名前を呼んだだけだ。だが、その一言で彼の態度は劇的に急変した。それまで焦点の定まらなかった目が、シックスを捉えている。そこにいるのが誰か、ようやく理解したとでも言うかのように。
「ごめん、ほんとはわかってた……こんなことしたってママにはもう会えないって……」
シックスに取り憑いていた天使の装置が消える。能力が解除されたのか、本体の痛みがたちどころに消え去った。ブレードも元通りとなり、詰め寄せる観客たちの対処に乗り出す。
「でも、もしかしたら、念とかいう不思議な力が本当にあるのだとしたら、また会えるかもしれないって思ったんだ。神様にいくら祈っても叶わなかったけど、もう一度だけ……そう思ったのに、できた能力は望んでいたものと全然違った。バカみたいだ……」
ノアは冷静さを取り戻していた。自嘲するように静かに笑う。その笑みに、さっきまでの狂気はない。
「本当は、心の奥底では理解していたのに、最後まで認められない自分がいた。だから、こんなひどい能力ができてしまったのかもしれない。でも、ようやくふっきれた気がするよ。君のおかげだ」
彼は私にありがとうと礼を言う。その言葉の意味は半分以上わからなかった。だが、私にも確かにわかることはある。それを彼に伝えるべきだろうか。
彼の後ろに、絶対零度の眼差しでこちらを見据えるベルベットが仁王立ちしているということを。
「大好きなママとのお話は済みましたか?」
冷気を帯びたオーラが地を這うように迫る。比喩でもなんでもなく、本当に冷たい。彼女の足元には霜柱が生えていた。オーラに特別な性質を与える能力は変化系に分類される。この場合はオーラを冷気に変化させているように見える。炎上系アイチューバーじゃなかったのか。
ノアが振り返ろうとするも、それより早くベルベットの手が彼の首根っこを掴んだ。
「冷たっ!? ぐえっ!」
「何を一人で勝手に良い話であったかのように終わらせようとしているんですかね? あなたの悲惨な特殊性癖に巻き込まれた私たちに何か申し開きはありますか」
「くっ、ぐび、ぐるし……!」
「ない? ならば結構」
ベルベットは片手一本でノアの首を掴んで持ち上げていた。持つ方の強さも普通ではないが、持たれる方も首を痛めずぶら下がっているので素人でも一応は能力者ということか。
「そうそう話は変わりますが、そんなにママが好きというのでしたらちょうどあちらに、是非あなたのママになりたいと熱望されているファンの方々が殺到しているようですよ」
「ノアサマア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
血走った目で群がるノアの女性ファンたち――なぜかその最前列に化粧をした屈強な男性の姿も見かけた――がまるで獲物を狙う飢えた獣のようによだれを垂らして待ち構えている。全員、正気ではない。
ノアは必死に私の方を見てきた。たぶん助けを求めているのだと思うが、頑張れの意味を込めてサムズアップを送った。
「どうぞたっぷりファンサービスしてきてください。ロリマザコン王子様」
ベルベットがノアをぶん投げる。その弾は見事にファンの群れに着弾。大量のワニが生息する池に生肉を投げ込んだかのような惨状となった。
「助けてママーーーーーーーーッ!!」
自業自得だと思う。
* * *
ひとまず、会場の騒動は一段落した。ブレードが沈静化に奔走し、できるだけ早期に暴動を抑えることができたと思うが、それでも完全決着したとは言い難い。
攻撃的な行動に出た観客もいたが、そうではない者たちもいた。精神状態はやはりまともではなかったが、興奮しているからと言って全員が戦闘本能をむき出しにしているわけではない。最初は暴動を起こした一部のファンに巻き込まれる形で会場全体が騒然としていたが、そういった輩をブレードが処理することによって一応の落ちつきを見せた。
鬼神のごとき戦闘力を見せつけたブレードに対して、いかに理性のたがが外れたとはいえ観客たちも勝ち目のなさを思い知ったのか戦意喪失。会場を去る者も多くいた。
戦意をもって向かってくる者以外も全員、問答無用で昏倒させるわけにもいかない。全ての観客を統制して安全を確保することは無理だし、私たちにそんな義務はない。何が起ころうと観客の自己責任だと割り切るベルベットに対し、ブレードは目の届く範囲のトラブルについてはできる限り救援すべきだと主張している。
麻酔銃で撃たれた者やブレードにのされた者など死屍累々(死んではいないが)の状況となった会場では、運営スタッフが乗る場内移動用の小型バギーが忙しなく行き来し、倒れている観客を宿泊部屋まで搬送していた。その隣では残った観客が宴会を始めている。
そんな統率感のまるでない人々の中から、一人の男がステージの方へと近づいてきた。ベルベットに放り投げられてファンにもみくちゃにされたノアである。
「あれ、生きてたんですか」
「生きてるよ!」
髪はボサボサ、服はボロボロ、至る所に口紅のキスマークが残されていた。歯型までついている。それでもあれだけの人数に襲われてこの程度の被害で済んでいるので、うまく受け流すことはできたのだろう。
「安心してほしい。もちろんみんなと敵対する意思はないよ。さっきは気が動転して暴走してしまったけれど、もう大丈夫。僕は気づくことができた……真実の愛に!」
「もう一回放りこんできましょうか」
ノアが、なんかすごいキラキラした目でシックスの方を見てくる。こちらに歩み寄ってくる。反射的にブレードの後ろへ隠れてしまった。なんとなくここが定位置になりつつある。
「なっ!? 怖がらなくていいんだ。君のおかげで僕は目を覚ますことができた……ママへの思いはまだ僕の心に残っているけど、もうそれは引きずらない。その思いの分まで君に尽くすと決めたんだ。シックス……君は僕の新しいママさ!」
俳優として数々のヒット作に出演しているだけあり、ノアの言葉や姿は劇中の一幕を切り取ったかのように映えて見える。その身だしなみでもスターのオーラを醸し出せるあたりさすがだと思うが、最後の一言は何をどうやっても理解できそうにない。
近づいてきたノアに対して避けるように身をかわす。
「え……ママが僕を避けた……? 死のう……」
放心状態になったノアがうなだれている。観客同様に薬物の影響でも受けているのではないかと疑うほど、当初のキャラとはだいぶ変わっている。
「死ぬのはご自由にしてもらって結構ですが、とりあえず先ほど使った能力の詳細について説明してください。自覚できている範囲で構いませんので」
「……シックスが僕を避けた……もしかしてママは僕のことが嫌いなのか……いや、そんなはずはない……うああああ、僕の愛を知ってもらうためにはどうすれば……」
ベルベットは自分の言葉がノアの耳に入っていないとわかると、私に同じことを聞き出すよう指示してきた。話しかけたくなかったが仕方がない。
水を得た魚のように饒舌に語り始めたノアの話によれば、彼の能力はおおよそ私が予想した通りのものだった。能力の範囲内にいる者全てが急速に病気を発症し、無差別に効果が現れる。対象を絞って発動することはできないようだ。効果範囲の基点であるシックスに近ければ近いほど病気は重症化する。
能力の発動中は発生させた病気によって対象を苦しめることができるが、対象が効果範囲から出たり、能力が解除されれば元気を取り戻す。そして、この能力はノアとシックスが触れ合った状態でなければ使えないという制約がある。無意識に作ったとはいえ、ひどい制約を設けたものだ。
「色々と弱点はありますが、使い方次第では強力な切り札となるでしょう。手札の一つとして保留しておく価値はあるかと思います。もっとも、さっきのような失態を起こさないよう厳重に監視した上で」
ノアには許可なくシックスに近づかないように接近禁止命令が出された。私にとってはその方が気が休まる。最初は猛抗議したノアだったが、私がベルベットの案に了承の意を示すと、うめき声を漏らすだけの魂の抜けたゾンビと化していた。
「さて、変態の処遇が片付いたところで話を本題に戻しましょう。依然としてゲームの行方は混迷の中です。もしブレードが言うとおり、観客が薬物の被害によって精神に異常をきたしているとなれば、敵の思惑は余計に読めません」
こんな騒ぎを起こして誰が得をするのかという話だ。今は外部との通信手段が断たれているが、いずれは大事件として世間に知られることとなる。事件の首謀者の狙いはどこにあるのか。
「今のところわかっているのは、敵がこのゲームを強引に進行させようとしていることです。薬物による観客の狂化はその一環と考えることもできます」
理性を失わせることでゲームに対する不信感や抵抗感を取り除こうとしたのか。ゲームを加速させる起爆剤の一つとして用意されていた仕掛けかもしれないとベルベットは言った。人を人とも思わぬその所業にいら立ちが募る。
「そこでここはひとつ、敵の出方を探るためにこちらからアプローチしてみましょう」
敵は何らかの手段を用いて選手の動向を観察しているものと思われる。そうでなければアウトになった選手の把握などができない。このスタジアムにも目につくところに監視カメラがいくつも確認できるし、そういったカメラは隠して設置することもできる。
よって、こちらから何かを訴えかければその主張が敵に伝わる可能性はある。問題は何を訴えかけるか、その内容だ。ゲームに対する苦情を述べたところで相手にはされないだろう。
「敵の目的がゲームの進行にあるのだとすれば、その意に従ってみましょう。ただし、戦いあって勝負の決着をつけるのではなく、棄権(リタイア)という手段になりますが」
ゲームのルール説明では選手の失格要件として『麻酔銃で撃たれる』こととしか明言されていない。麻酔銃によらずとも戦闘不能状態になれば失格になるのかもしれないが、選手自身が棄権を申し出た場合はどうなるのか。
少なくともここにいる私たちは、ゲームで優勝することを目指しているわけではない。この事態を終息できればそれでいいと考えている。ここで四人が一斉にリタイアすれば形式上、ゲームは大幅に進行したことになる。
それを敵がすんなりと認めるかどうかわからない。ゲームの運営側は私たちに戦わせようとしている節がある。だが、敵がどう思おうとも選手本人に戦う意思がなければそもそもゲームは成立しない。ゆえに認められずともリタイアを宣言することには意味があり、それによって敵が何らかの反応を示す可能性も出て来る。
「僕は元から優勝になんて興味はないし、別にそれで構わないよ。シックスが勝ちたいというのならもちろん、それに全力で協力するけどね」
「トップアイチューバーなら、こんなしょぼい優勝賞品に飛びつく奴はいないでしょう。こっちはリタイアしたって痛くも痒くもないんですよ。問題はその戦意放棄を敵がどう受け取るかですね」
「しかし、もしリタイアが認められるというのであれば、ここで全員が一度に棄権する必要はないかもしれないッスル」
棄権するということはゲームへの参加権を失うということだ。今のところは別にそれによって不都合が生じるとは思えないが、後々問題が発生するかもしれない。
例えばルール上、選手であるチルドレンは戦い合って最後の一人となったとき、その選手にポメルニとの決勝戦への出場権が与えられるとされている。つまり、勝ち残った選手にはポメルニがいる場所の情報が与えられることになる。
その情報が真実であるか、そもそも本当に教えてもらえるかどうかもわからないが、一応はルールで定められているのだ。完全に敵の思惑から外れた行動を取るより、ある程度は流れに従った方が得られる情報の数は多いかもしれない。
「では、私、ブレード、変態王子の三人がリタイアあるいは戦いに敗れたということで選手資格の喪失を宣言しましょう」
そこでなぜか私一人がリタイアしないことに決まった。てっきりベルベットかブレードに資格を残しておけばいいと思っていたのだが。
「こんなものは形だけの口裏合わせでしかないんですから誰でもいいんですよ」
「何を言ってるんだ。シックスは僕らのママなんだから特別扱いするのは当然さ。失格になるのは僕たちだけで十分だということだね」
ベルベットは面倒くさがって役を押し付けたいだけだろう。まあ、断る理由はないので素直に従っておく。
「誰でもいいというのは確かだが、君を選んだ理由がないわけではないッスル。おそらくこの中で、最もポメルニを助けたいと思っているのは君だ」
ブレードはオフ会開始直後の私とベルベットとの舌戦を聞いて、私がポメルニを心配する気持ちを察したのだろう。私に選手資格を残すことで決勝戦への切符をつかませようと考えているようだ。
「もちろん、君一人に負担を背負わせたりはしないッスル。全員で力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられるッスル」
ブレードが拳を差し出す。シックスは控えめにそこへ自分の拳をぶつけた。まるで大きさの違う二つの拳だが、そこに通じる思いに大小の差はない。そう感じる。
『話は聞かせてもらったぜ!! ブラザアアアアアズ!!』
そんな決意を揺るがすように、がなり立てる大音量の声。けたたましいBGMと共に、巨大スクリーンにポメルニの姿が映し出された。
『ホーリィィィシッッッ!! せっかくみんなで楽しめるゲームを考えたってのに、満足してもらえないとは悲しいぜ! アイチューバーキングの座? オレサマの全財産? そんなものいらない? なるほど! どうやら我が親愛なるチルドレン諸君を本気にさせるには、まだまだ豪華賞品が足りないらしい!』
ポメルニが立っている場所の背景が移動し、カーテンで隠された大掛かりなセットが用意されていく。
『ところで、チルドレンのみんなはこのオフ会の“特別招待券”制度を利用してくれたかな?』
特別招待券とは、公式チルドレン特権によって取得できるオフ会の参加チケットである。事前に運営に申請を出しておけば何枚かチケットを無料で都合してくれるのだ。
『この招待券を使えば自分の親しい友人や家族らを、簡単にこの船へと招くことができるわけだ』
なぜ今、そんな話をする必要がある。不安を掻き立てるようなドラムロールの音が止み、セットを覆い隠していたカーテンが取り払われた。
そこにあったのはプラスチックのような素材でできた透明の檻だ。中に、何人かの人間が入れられている。その全員が恐怖で引きつった表情をしていた。泣きながら壁を叩く子供もいる。その声さえ外には届かず、閉じ込められていた。
『というわけで、こちらがその招待客の方々だ! まさにチルドレンにとっては他に勝るものはない最高の宝! これを優勝賞品に加えよう!』
ポメルニが指を鳴らすと、セットの傍らに設置されたデジタルカウンターが時間を刻み始める。
『タイムリミットはこれより2時間! それまでに選手諸君はゲームを勝ち抜き、決勝戦の会場であるこの場所にたどり着かなければならない! 間に合わなければ、ケージ上部に仕掛けられた特製カラシ爆弾がBOOOOOOOM!! なんてこった、全員“真っ赤”に染まってしまう!』
これが人間のやることか。そこまでして私たちを戦わせたいと言うのか。
『残された時間は短い! 君たちの愛と勇気ある行動を見せてくれ!』