カーマインアームズ   作:放出系能力者

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44話

 

 ここは宿泊関連の施設が集まるエリアだ。船上の一区画と言っても、窮屈な雰囲気は一切ない。一流のホテルを思わせる造りとなっている。

 

 そのクラシックな情緒漂うホテルのロビーに一人の男が足を踏み入れた。擦れたストリートファッションを着こなすドレッドヘアの黒人系男性の身なりは、この場所には似つかわしくないかもしれない。

 

 さらに肩にはラジカセを担ぎ、大音量で音楽を垂れ流している。イヤホンで聴ける小型音楽プレイヤーがありふれた今、なぜそのような時代錯誤のスタイルにこだわっているのか疑問はあるが、いずれにしてもここが本当のホテルであったなら即座に追い出されているところだろう。

 

 音楽に合わせ華麗なステップを刻むその人物はダンス系アイチューバー、J・J・J・サイモン。そして、この場にはもう一人のアイチューバーが待ち構えていた。

 

「とおりゃあああああ!!」

 

 物陰から飛び出したのはサンタクロースコスチュームの小柄な男、イタズラ系アイチューバー、ジャック・ハイ。大きなプレゼント袋からカラフルなボールを取り出すと、それをサイモン目がけて投げつける。

 

 地面にぶつかったボールは大きな音を立てて弾けた。花火の一種であるクラッカーボールだ。

 

「子供騙しだべ」

 

 しかし、その効果は大きな音を出すだけだ。イタズラグッズの一つに過ぎない。ラジカセの音量にかき消されて驚かせる効果も半減と言ったところだった。

 

 そう思われた直後、ボールの一つが他とは比べ物にならないほどの爆音を上げて炸裂した。直視できないほどの閃光が広がる。それは花火などというレベルの代物ではない。

 

 スタングレネード。強力な光と音で敵の意識を刈り取る兵器である。大したことはない攻撃と思わせつつ、そこに本命を紛れ込ませていた。至近距離で爆発すれば常人なら気絶は免れないほどの威力。

 

「……やはり、子供騙し。イタズラと戦いは違うべ、ジャック」

 

 だが、サイモンはまるで動じた様子を見せなかった。スタングレネードによる攻撃も、彼を驚かせることすらできずに終わる。そもそもサイモンは見てすらいなかった。ロビーに入ったそのときから、彼はムーンウォークで歩行している。つまり、ジャックに背を向けた状態で対峙しているのだ。

 

 そのふざけているのかと思うようなサイモンの態度を前にして、しかしジャックは迂闊に近づくことができずにいた。彼も念能力者のはしくれとして、ある程度の力量差は察知する感覚がある。目の前の男の強さを認めずにはいられない。

 

 ジャックの判断は間違っていなかった。サイモンは放出系の能力者、その発の名は『絶肢無踏(ブレイキン)』。殴った相手を『絶』の状態にしてしまう恐ろしい技である。

 

 彼が開拓したダンスの新境地『3Jフラッター』は、アイジエン大陸の秘境に伝わる古武術から着想を得ている。それは念の運用を目的とした武術であり、現在主流となっている念法『心源流』とは異なるが、古くから脈々とその地に受け継がれてきた技である。

 

 彼が学んだ古武術は鍼灸術と深い関係があった。オーラは“気”と呼ばれ、そのエネルギーは人体に張り巡らされた“経絡(ナーディー)”を通り、全身に行きわたっている。修行僧たちは経絡の在り処を探究し、それを自覚することによって日々の日常と修行が混然一体となった生活を送っていた。

 

 彼らにとって生きることそのものが修行であり、武の追究であった。貧しい暮らしぶりなれど、健康でない者は誰もいない。サイモンにとって修行のきっかけは強くなることでしかなかったが、修行僧たちの生きざまに感銘を受けた彼はその武の理念をもっと多くの人が取り組める形で普及できないかと考えた。

 

 そして生み出されたのが『3Jフラッター』だ。“舞踏”“武法”“医療”の融合を目指したこのダンスの生みの親たるサイモンは、人体の経絡を熟知している。それはエネルギーの通り道であり、全ての活動の要であると同時に急所でもある。彼の発『絶肢無踏』は、敵の体に接触することでそこからオーラを送り込み、経絡の流れを断つ技だった。

 

 触れる時間が長いほど、効果範囲も効果時間も大きくなる。相手が無抵抗ならば触れている間、全身を絶の状態にしておくことが可能だ。単純な操作系能力であれば、これによって除念することもできる。彼はポメルニを『殴って正気に戻す』と言ったが、それはあながち嘘でもない。そうなればポメルニの口から黒幕の情報を聞き出すこともできるだろうと考えていた。

 

 戦闘中ではさすがに敵の全身を絶にすることは難しい。せいぜい触れた部分を一瞬だけ絶にする程度である。だが、それでも規格外に強い能力と言えるだろう。殴った部分を絶にするということは、その部分の防御力をゼロにすることと同じである。どれほどのオーラで防御を固めようとも無意味にしてしまう。

 

 ジャックはサイモンの能力を当然ながら知らないが、無防備に背中を晒す彼を前にして足を踏み出すことができずにいた。近づけばやられる。本能的に湧き起こる警戒心がそう告げている。

 

「どけ。お前に用はないべ」

 

 攻撃を仕掛けられはしたが、サイモンは積極的に戦うそぶりを見せなかった。ここでジャックが退くというのなら手出しはしないと暗に物語っている。だが、それでもジャックに逃げるという考えはなかった。

 

「ポメルニが流した映像をお前も見たか? あいつは人質を取っておいらたちを脅してきた」

 

「ポメルニじゃねぇべ。それを裏で操っている誰かだ」

 

「どっちでも一緒さ! あの中においらの知り合いもいるんだ! おいらだってできれば戦いたくはない。だが、嫌でも戦わなければならないんだ……!」

 

 ジャックは震えながらも一歩も退かなかった。よほど大事な身内が捕まってしまったのだろう。敵に言われるがまま、この狂ったゲームの選手として動かされてしまっている。

 

 サイモンはジャックの性格を好ましく感じた。誰だって自分の大切な人が危険な目に晒されれば心穏やかではいられない。その感情は人間として真っ当なものだ。だが、戦士として見れば未熟である。

 

「頭を冷やせ。そんな感情に囚われていれば敵の思うつぼだべ。仮にお前がゲームを勝ち上がってポメルニの居場所へたどり着けたとしても、そこで何もできずに終わる。そのための人質だべ」

 

「……うるさい! お前に何がわかる! どうせ、お前はあの中に自分の知り合いはいないんだろう! だから、へらへらしていられるんだ! 他人事だと思うからそんなことが言えるんだ!」

 

「ああ、他人事だべ。じゃあ、逆に聞くが、お前に俺の何がわかる?」

 

 サイモンが『練』を見せた。その迫力にジャックは気圧される。それほどの怒気がオーラに込められ、阿修羅のごとき幻影を見せるほどだった。

 

 それは彼が修める古武術において秘経穴(チャクラ)と呼ばれる特殊なオーラの練り方であった。チャクラとは円や輪を表す言葉であり、経絡の中でも特に気が集中する六つの中枢を指し示す。この秘経穴に溜まった気を回転させることによって、爆発的なオーラの力を生み出すことができる。

 

 心源流においてはこれを『練』と呼ぶが、その結果に至るまでの経緯が少し異なっていた。練は一気にオーラを覚醒させるのに対して、秘経穴は緩やかに段階を踏んで威力を高めていく。

 

 全力を発揮するためには一から六までの秘経穴を徐々に回転加速していく必要があり、長い時間がかかってしまう。さらに、少しでも感情に乱れが生じれば回転加速は伸びず、また一から気を練り直さなければならない。

 

 サイモンが戦地において音楽をかけながら踊っていた理由もこの秘術にあった。彼にとってダンスとは自分の世界に没頭することができる一種の儀式。感情に左右されず、精神を集中するための手段であった。

 

 その面倒な工程の代わりに、引き出せる力の総量は圧倒的に練を上回っている。まだ秘経穴の回転は三段階目にしか達していないが、既にサイモンが練によって引き出せる通常の顕在オーラ量を凌駕するパワーを発揮していた。

 

「ちっ、三つ目で打ち止めか……この程度で怒りをあらわにしてしまうとは、俺もまだまだ未熟だべ」

 

 サイモンとポメルニはプライベートでも付き合いがあった。たまに会っては酒を酌み交わす仲だ。彼の性格もよく知っている。こんなゲームを考える人間ではないと断言できる。だから、気の合う友人を利用して巻き込んだ黒幕には並々ならぬ怒りを抱いていた。

 

 それに加えて、この度の人質を取るという暴挙である。サイモンは特別招待券を使ってダンス仲間を何人か呼び寄せていた。もし、その友人らの身に何かあれば絶対に敵を許しておけない。そして、それ以上に自分を許すことができないだろう。

 

 だが、たとえ人質を盾にされたとしても、最悪の結果に終わってしまったとしても、為すべきことは変わらない。その大局を見失えば、誰も報われずに敵の思惑を叶えるだけだ。

 

「本当は戦いたくない、だが嫌でも戦わなければならないだと? お前には救えねぇべ。拳を振るう理由すら、テメェ自身で覚悟もできない男がよ」

 

 サイモンはラジカセを置き、ようやく振り返りジャックと向かい合う。それを皮切りとして、戦いは始まった。

 

「うわああああああ!!」

 

 強引に自分を鼓舞するように雄たけびを上げながらジャックが正面から飛びかかる。互いに言葉で説得して止まるような状態ではない。ならば、後は拳を交えて語るのみ。

 

「絶対に助けだす、なんて約束はできねぇ。だが、その上で言ってやる。俺に任せろ」

 

 言う必要のない言葉だった。余計な覚悟を背負う義理はない。それでも、誰かのために懸命に戦おうとする男に対してかけた、せめてもの情けだった。

 

 

 * * *

 

 

 シックスを旗頭とする銀チームは現在、その数を二人に減らして行動していた。敵襲を受けて仲間を失ったわけではない。チェルとトクノスケが他の三人を気絶させたのだ。

 

 むしろ、それは狼藉犬三人組を思っての行動だった。念能力者でありサヘルタの元特殊部隊員であるチェルたちと一般人では戦闘能力に差がありすぎる。どう転んでもお荷物にしかならない。

 

 チェルたちほどの実力があれば、かばいながら戦うことも可能だが、相手が念能力者となればもしもという事態が十分に考えられる。銀河の祖父戦までは同行を許したが、その後突如として精神状態が不安定になり始めた三人の容体も相まって、気絶させた上で安全な場所に避難させることにしたのだ。

 

「ちくしょう! まさか、こんなに早く手を回してくるとは……!」

 

 だが、その行動は裏目に出た。船内全域に放送されたポメルニによるゲームの追加報酬の報告。そこに囚われた人質の中に、狼藉犬三人組の姿が映っていた。

 

 三人の避難場所を選ぶに際しては、細心の注意を払ったはずだった。位置情報が漏れる恐れがあるリストバンドは全て破棄し、監視カメラのない場所を通って選んだ部屋だった。

 

 隠しカメラについても、ぬかりなく対処したはずだった。達人ともなれば、カメラ越しに人の視線をも察知することができる。どこに隠しカメラがあるかということは感覚と経験から予測できた。にもかかわらず犯した失態であった。

 

 あまりにも敵の対応が早すぎる。こちらの動きを常時監視していなければ、できないような行動だった。何らかの念能力によってこちらの行動が筒抜けになっている可能性も考えられた。

 

「しょうがない、早いところ助けに行ってやらないと」

 

「待ってください。ここはそれよりも作戦の遂行を優先すべきでしょう」

 

「……それはもちろんだ。だが、三人の安全を確保することはシックスとの信頼関係を築く上で重要になる。おろそかにはできない」

 

「僕が言っているのは感情的になりすぎじゃないかって話です。肩入れしすぎですよ、チェルさん」

 

 トクノスケとて三人を助けたいと思わないわけではない。だが、彼らにはそれ以上に重大な任務がある。場合によっては三人を見捨てなければならないという冷酷な判断も必要となってくる。

 

「あいつらは、あたしたちの正体を知っても態度を変えなかった……変わらず、『アーサー姉貴』『ヒデヨシ氏』と呼んでくれたじゃねぇか……」

 

 三人組は、チェルたちの正体がサヘルタの諜報員だと聞かされた後も、それまで通りの態度で接してきた。自分たちはシックスちゃんの大ファン、それ以上の肩書きなど不要だと。もっとも、いきなり諜報員だの何だのと言われて理解が追い付かなかっただけかもしれないが。

 

「守ってやると約束した。それがこのザマだ。助けに行くのは当然だろ」

 

「それが感情的だって言ってるんですよ」

 

 チェルはぎろりとトクを睨みつけ、胸倉をつかみ上げる。

 

「だったら見殺しにしろって言うのか!」

 

 一度仲間意識を持つとなかなか切り捨てる決心がつかない。そんなチェルの性格がトクは嫌いではない。それでも確かに少し情に厚いところはあるが、いつもの彼女ならトクの進言を聞き入れただろう。自らの立場を忘れて私情に走るような人間ではない。

 

 つまり、今の彼女はいつもの精神状態ではなかった。常日頃から一緒にいるトクにはわかる。なんとか平静を保とうとしているが、チェルが身に纏うオーラには乱れが生じていた。よく観察しなければわからないほどの小さな変化だが、普段の彼女とは明らかに違う。

 

 狼藉犬三人組が急に原因不明の興奮状態となった件が関係しているのではないかとトクは疑っていた。瞳孔の拡大や脈拍の上昇といった精神作用のある薬物にも似たその症状。それがチェルにも影響を与えている。

 

 トクは自身の体調について変化は生じていないと感じている。客観的に見ればどうかわからないが、少なくとも彼の主観においては異常をきたしているのはチェルとその他三人組だけだ。銀チーム全員が行動を共にする中、トクが一人だけ正常を保つことができた理由は、リストバンドにあると推測していた。

 

 トクだけがリストバンドを一度も装着していない。彼は入念にその危険性についてチェックしたつもりだったが、それは内蔵された機械類についてのみだった。薬物については専門外である。皮膚に接触しただけでこれほどの効果を及ぼす新型薬物の存在を予想できなかった。

 

 機械類の解析は得意分野だと自負していたがゆえに陥った盲点。安易に下した判断に責任を感じずにはいられなかった。あのとき自分が止めていればと悔やんでも悔やみきれない。

 

 トクはチェルに自身の体に変化を感じないか尋ねたが、大丈夫だとしか言わなかった。しかし、彼女もひとかどの念法使いである。おそらく、異常を自覚はしているはずだ。その上でまだ制御可能と判断したのか、トクを心配させじと隠そうとしているのか。

 

「任務と並行して、ポメルニの隠れた場所も探す。あたしの『円』があればそう難しいことではない」

 

 チェルは広大な円を使用できる使い手だ。船内のように非常に入り組んだ構造物の中では、壁の向こうの状況を探るのに手間取り、さすがに最大範囲で行使し続けることは難しいが、それでもしらみつぶしに一室ずつ調べていくより効率的に捜索できる。

 

 チェルは多少感情的になっている部分もあるが、今はまだ理性を保っているように見受けられる。だが、それが今後どうなっていくか予想はできない。トクは彼女から目を放さないように気を引き締めた。

 

 

 * * *

 

 

 電光掲示板の選手一覧からまた一人、名前が消えた。私たちは敵襲に備えてスタジアムに留まっていた。この場所なら見晴らしがよく、奇襲の心配も少ない。

 

 これだけの数のアイチューバーが一か所に集まっているということは、それを狙って勝負を仕掛けてくる者がいるかもしれない。こちらの多勢を嫌って近寄ってこない可能性も高いが、逆に姿を現すとすればよほど力に自信があるか、勝負を仕掛けざるを得ない事情があるか。

 

 先ほどの放送によってゲームの流れはさらに良くない方向へと動き始めている。幸いにして、この場に集まっている私たちの関係者は人質となっていなかった。

 

 私も特別招待券については運営から知らされていたし、それを使おうと考えていた時期もあった。だが、誘うような知人がいない。以前に雪合戦をして遊んだ子供たちを招待しようかとも考えたが、全員分の券は用意できず、何と言って声をかけたらいいのかもわからなかったのでやめたのだ。

 

 その判断は正解だった。もし、人質としてあのクラブチームの子たちが捕まってしまったらと考えるとぞっとする。人質を取られてしまった選手の心情はいかばかりか。相手の立場になって考えれば、決勝を目指す選手がここにやってくる可能性はある。

 

 人質の中には、なぜか銀チームのうちの三人の姿もあった。諜報員だという二人は捕まっていないようだが、あの後何かあったのだろうか。こんな状況でもファンとして私を支持してくれた彼らを助けたいとは思うが、何の手がかりもなく探しまわっても危険がつきまとうだけだ。

 

 私が動けばノアや護衛依頼を請け負うブレードもついてくるだろう。ベルベットとも同盟関係を築いている以上、私のわがままでこの場にいる全員に人質の捜索を強いることはできない。

 

 ここは焦らずに待つ。それが全員で協議して決めた結論だ。そして、私たちの予想通りの人物がスタジアムに姿を現した。

 

「いやー、ごめんごめん。遅くなっちゃった!」

 

 サンタクロースの衣装を着た小柄な男、イタズラ系アイチューバー、ジャック・ハイ。赤い三角帽は目深にかぶられ、その目もとは隠されるように陰っている。そのせいかニタニタと笑う口元だけが、やけに印象に残る。

 

「みんな小腹が空いてくる頃合いじゃないかと思ってさー、お土産も持ってきたよー」

 

 大きなプレゼント袋からお菓子を取り出しながらこちらに近づいてくるジャックに対して、私たちはお世辞にも友好的とは呼べない態度で身構える。

 

「……あれ? なんか警戒されてる? どうしたんだよー、おいらたちは同盟を組んだ仲じゃないか!」

 

「知り合いが会場に来ていると言っていましたよね」

 

 ジャックは確かに私たちと同盟を組み、敵対しないことを明言した。だが、その後すぐに私たちとは別行動を取っていた。

 

 彼は自分の知人がこのオフ会に参加しており、その無事を確認するために探してくると言っていた。その知人が特別招待券によって招かれ、そして現在、敵に人質として捕まっている恐れがある。

 

「……ああ、それは無事だったよ。その人は招待券で呼んだわけじゃないんだ。一般参加のチケットで入場していてね、助かったよ」

 

「では、なぜこの場に連れて来ないのですか?」

 

「この先、他のアイチューバーと戦うことがあるかもしれないし、一緒にいるのは危険だと思って安全な場所に……」

 

「安全な場所とはどこですか? 自分のそばに置いておく方が安全なのでは? それとも、私たちの前に連れてくる方が危険だと判断しましたか?」

 

 ジャックの顔から笑みが消える。

 

「その態度を見る限り、どうあってもおいらのことを信用はしてもらえないようだ。同盟関係は解消、ということかな?」

 

「もともと信用はしてなかったんですけどね。場合によってはツクテク以上に危険かもしれない、あなたの経歴を知っていましたから。『縛獅子』のタバカルさん」

 

 ベルベットがサヘルタ合衆国の諜報員と交渉したとき、彼女はここにいない他の選手たちを仕留めて来るように要求したが、そのときジャックの名を除いていなかった。同盟関係があったにも関わらず、ベルベットは初めからジャックを潜在的な敵と認識していたのだ。

 

 その根拠を私たちは後で聞かされていた。ジャック・ハイという名はネット上で使用しているだけの偽名に過ぎない。別にそれ自体は普通のことだが、アイチューバーとして活躍する以前の経歴が問題だった。

 

「なんだ、知ってたのか。その名前」

 

「スキャンダルは得意分野ですので。炎上系の情報網を甘く見ないことです」

 

 7年前、アイジエン大陸でいくつかの中東小国家を巻き込む大規模な戦争が引き起こされた。宗教問題に端を発するその戦争は泥沼化し、V5が派遣した多国籍軍による介入が行われるまで甚大な被害を出している。今もなお戦火が消えたとは言えず、小規模な争いが頻発する紛争地帯となっているらしい。

 

 当時、その戦争において悪名を轟かせた傭兵の一人がタバカル。今のジャック・ハイだという。

 

「傭兵? なるほど、傭兵か。その炎上系の情報網とやらも大したことはないね」

 

「何か間違いでも?」

 

「訂正するつもりはないよ。どうせお前らにはわからないんだから。“戦わなければならなかった奴ら”の気持ちなんてさ」

 

 ジャックがプレゼント袋を高く放り投げる。

 

 

 

「『命のお恵みを(バクシーシ)』」

 

 

 

 袋は破裂し、爆音と閃光が感覚を奪う。

 

 




やってみた系:ポメルニ
いたずら系:ジャック・ハイ
ハンター系:ブレード・マックス
アイドル系:ノア・ヘリオドール
マジック系:快答バット
作ってみた系:ツクテク
炎上系:ベルベット・アレクト
アニマル系:シックス

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