カーマインアームズ   作:放出系能力者

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46話

 

 先の戦争において『縛獅子のタバカル』と恐れられた男の正体は、一人の少年兵だった。過激な宗教思想を持つ武装組織に家族を殺され、改宗させられ、体内に爆弾を埋め込まれ、『聖戦』と称した戦争に放りこまれる。それは珍しくもない、ありふれた話だった。

 

 消耗品のように使い捨てられる雑兵だ。ただ生きたいという一心で、数え切れないほどの人間を殺してきた。罪悪感を覚える余裕もない。だが、死闘を毎日のように重ねるうちに彼の精神はすり減っていった。

 

 ただ一つ、彼の心の支えとなったのは友の存在だ。

 

『ぷっ、くくくく……! お前、天才かよっ! イタズラの天才だ!』

 

 集められた少年兵の中でも親しかった子供がいた。監視された生活の中で娯楽もなく、私語も自由にできない。粗末な食事と、たまに許されるおしゃべりが唯一の楽しみだ。そんなときジャックはよくふざけてみせた。彼の友達は、それがどんなにくだらない内容だったとしても、いつも大げさに笑っていた。

 

『誰にも言うなよ、ここだけの話……俺の他の家族は殺されたけど、身重だった母さんだけは親戚の家にいて無事だった……はずなんだ』

 

 誰しも、人間らしさに飢えていた。自分がただヒトを殺すだけの道具ではないと思おうとしていた。冗談を言って笑い合う、その些細なやり取りだけが、彼らの乾きを癒してくれた。

 

『生まれたのは弟か妹か。弟だといいな……“これ”が全部片付いたら会いに行くんだ。お前も来ないか? 得意のイタズラを弟にも見せてくれよ』

 

 戦争が終わったとき、生き残っていた少年兵はわずかなものだった。そこにジャックの親友はいない。生きるために戦ってきたはずなのに、戦うことから解放されたとき、彼はなぜ自分が生きているのか疑問に思うようになっていた。

 

 ただ一つ、彼の心の中でくすぶり続けた約束のために生きた。イタズラ動画をネットに投稿し、世界に発信する。顔も名前も知らない、生きているのかどうかもわからない、たった一人を笑わせるためだけにイタズラを披露し続けた。

 

 それがいつしか人気を博し、今ではトップアイチューバーに登り詰めるまでとなった。彼の思いに共感を示す者も多く集まり、その活動は大きな広がりを見せる。そしてついに、ジャックは親友の弟を見つけ出すに至った。

 

 あの戦争から止まっていた彼の時間が、ようやく動き始めている。その矢先に、こんな最悪のオフ会に巻き込まれてしまった。ここにいるのが彼一人であったなら焦りはしない。親友の弟が人質となった。その姿を見せられた彼は、居ても立ってもいられなかった。

 

 ジャックは立ち上がる。戦闘不能となっていなければおかしいほどの重傷を負い、ほんの一時は意識を失っていたが、それでも彼は立ち上がった。自分自身でも驚いているくらいだ。彼をここまで追い詰めたベルベットも倒したと思い込んでいたのだろう。初めてその表情に動揺が見て取れる。

 

 気力のみで意識を保っている状態だった。一歩も動く余力はない。だが、そのただならぬ気迫をベルベットは警戒した。時として、念能力者の精神力は肉体の限界をも凌駕する。

 

「まってろよ……すぐに、おじさんが助けに行くから……」

 

 ジャックは隠し持っていた最後のターバンを取り出す。その一本には彼の傷から流れ出た血によって赤く染まっていた。

 

 

 『赤蛇招来(レッドスネークカモン)』

 

 

 その攻撃速度は今までの比ではなかった。直線的に蛇行するその様は赤い稲妻のごとく、ベルベットに襲いかかる。それでもいくら速かろうと一本に過ぎない攻撃。彼女は素早く対応し、迎撃に成功する。

 

 だが、彼女のスケート靴のエッジはターバンを切り裂くに至らなかった。ジャック自身の血が大量に染み込むことによって、ターバンはより深く術者と一体化した状態となっている。オーラの伝導率が飛躍的に高まることで、強化率も底上げされている。

 

 攻撃をしくじったことによりベルベットはわずかにバランスを崩す。その隙をジャックは見逃さなかった。赤い布蛇はついにベルベットを絡め取る。一瞬のうちに全身を拘束してしまった。

 

 そのまま締めあげて意識を奪おうとしたが、ベルベットも全力で抵抗した。冷気を操りターバンを凍らせる。血が染み込んでいたため、ターバンは冷気に対して大きな影響を受けた。

 

 血液が凍り始める。拘束が緩むことはなかったが、凍った部分をうまく制御することができなくなる。ならばとジャックは布蛇を使って空高くベルベットを持ち上げた。氷ごと砕く勢いで地面にぶつければ、ベルベットもただでは済まないだろう。

 

 ジャックに手加減をするつもりはない。それはベルベットを恨んでいるからではなく、むしろ戦士としてその実力を認めたがゆえだ。下手に手を抜けば『堅』で守りを固めている彼女を倒しきれない恐れがある。彼女がジャックにそうしたように、殺すつもりで攻撃しなければ勝利はない。

 

 だが、それは敵を脅威として認めているからこそ取った行動である。もし、そこに関係のない第三者が割り込んできたとすれば。

 

 ジャックがベルベットを叩きつけようとしたその場所に、いつの間にか一人の少女が立っている。両手を広げて落ちて来るベルベットを受け止めようとしていた。

 

(こども……?)

 

 無謀な行動だ。確かに少しは衝撃を和らげることができるかもしれないが、その利に到底見合わない重傷を負うことになる。死んでもおかしくない。

 

 もしジャックが7年前と同じ精神を有していたならば、躊躇はしなかっただろう。そのまま勢いを殺すことなく割り込んできた子供ごと攻撃を続行したはずだ。アイチューバーになる以前の彼であれば、そうだった。

 

 攻撃の手が止まる。ベルベットを包み込むようにして守る氷塊は急速に勢いを落とし、シックスはそれを無事に受け止めた。

 

 

「すまない、遅くなったッスル」

 

 

 ジャックは背後から聞こえた声にぎょっとする。だが、振り返る時間は与えられなかった。丸太のような腕が首に巻きつき、抵抗する間もなく意識を失った。

 

 

 * * *

 

 

 私たちは何とかジャックを倒すことができた。ベルベットの圧勝で終わったかと思いきや、そこから怒涛の巻き返しを見せたジャックには鬼気迫るものがあった。一歩間違えば、ベルベットも今頃大怪我を負っていたことだろう。本物の念能力者同士による戦いのレベルがうかがえる一戦だった。

 

 こうして見ると、ジャックはそれほど悪い奴ではなかったのかもしれない。彼が根っからの悪人であったなら、最後の攻撃を躊躇することはなかったはずだとブレードは言っていた。人質を取られているという推測も間違いではなかったのかもしれない。彼もまた不本意に戦わせられた被害者なのだと思う。

 

 後味の悪い勝利だった。その上、私は現在、ブレードとノアから怒られている。

 

「あんなところに飛びこむなんて無謀にほどがあるッスル!」

 

「そうだよ! もしもママにもしものことがあったらと思うと……生きた心地がしなかったよ!」

 

 あの場の行動は私もよく考えていたわけではなく、とっさに体が動いてのことだった。だが、別に自暴自棄になっていたわけではない。シックスの肉体はオーラによる修復ができるので、何とかなるだろうと思っていた。

 

 一応、この体質についてはブレードたちにも事前に説明しているが、全てを詳細に明かしたわけではなかった。自己治癒力の強化は強化系に属する能力になるらしいが、それにも限界がある。当たり前だが、どれほど優れた使い手だろうと致命傷を受ければ死ぬらしい。

 

 シックスの場合はオーラによって肉体を再構築している。おそらく、これは強化系ではない別の能力になるだろう。

 

 念能力についてはここで聞きかじった知識しかないが、おそらく自分がかなり特殊な存在であることがわかる。別に絶対に隠しておかなくてはならない秘密というわけではないが、あけすけに話してしまって大丈夫なのだろうかという心配もあった。

 

 私はそれほど嘘が得意ではない。私が自分の能力について何かを隠していることはブレードとベルベットに気づかれているだろう。ノアはともかく。

 

 しかし、念能力者は敵ではない相手の能力について詮索しないというマナーがあるためか、深く尋ねられることはなかった。だから、彼らは私をちょっと回復力が高い程度の強化系能力者だと思っていることだろう。

 

 結果としてジャックが攻撃の手を緩めたおかげで私もベルベットも無傷で済み、気合で拘束をぶっちぎったブレードがジャックを仕留めるに至ったが、それは結果論だ。ブレードたちからすれば私のしたことは、自分の命を顧みない行動に見えたかもしれない。

 

 くどくどと説教するブレードたちを見かねたのか、ベルベットが珍しく私に助け舟を出した。

 

「まあまあ、終わりよければ全てよし。こうして無事に終わったのですから、それでいいじゃありませんか。仲間同士、助け合いながら戦うのは当然ですよね」

 

 確かにその通りだと思うし、私もベルベットから助けられたので異論はないがなんかこう、むかつく。

 

「え? 何か、お礼とか期待してました? そうですね……じゃあ、こういうのはどうでしょう」

 

 そう言ってベルベットは自分のスカートをたくし上げた。その突然の意味不明な行動に、思わず二度見する。なぜそんなことをするのかわからない。

 

「だって私が戦っているとき、ずっと見てたじゃないですか。そんなに気になりますか?」

 

 べべべ別にずっと見ていたわけではない。ただ、丈の短いスカートを履いている割に激しく動き回っていたので、色々と見えていたことは確かだ。中は下着ではなく黒のスパッツだったが、だからと言って見せびらかすようなものではない。むしろ、あまりに無防備だったので見ないように気をつけていたくらいだ。

 

 ……つまり、全く気にならなかったかと言えば嘘になる。シックスの肉体の性別は女だが、私の本体である虫は蟻の王でありオスだ。そして、この虫は種の垣根を越えて生殖できることを本能で理解していた。すなわち、人間であってもそれが女性なら、その、つまりそういうことだ。

 

 これが果たして人として正常な感情のはたらきであるのか、ただの男性が女性に対して抱く普遍的な感情と言えるのか、私自身には判断できない。自分ではそう思っているつもりでも、前提からして私は人間ではないのだ。虫の本能に基づく下等な欲求の表れではないとは言い切れない。

 

 だから、この手の感情のコントロールは苦手だった。過度に避けようとするきらいがあることは認める。スマホでネットを見ているときも卑猥な広告など見かけると即ブラウザバックするレベルである。

 

 だが、今ここで過剰な反応を見せることはまずい。スカートをひらつかせるベルベットの顔を見ればわかる。あれは面白がっている顔だ。ここで醜態をさらせば、後でスキャンダルとしてあることないこと騒ぎたてられ炎上するに違いない。

 

 まさかこんなことで神経を削るはめになるとは思わなかった。何とか平静を装おうとしていると、そこにノアが割り込んできた。

 

「何をしているんだい、ベルベット。僕のママにそんなお下劣なものを見せないでくれないか。まったく、清らかなママの心が汚れてしまうじゃないか」

 

「殺しますね」

 

「アッ、あ……寒い……! カ、カラダガ……コオリツイテイクヨ……!」

 

 ノアのおかげで助かった。氷漬けになりそうな勢いでノアを冷やしているベルベットだったが、私が何か言う前にブレードが止めに入った。

 

「無駄なオーラを使うのは、それくらいにしておけッスル。これからも戦いは続く。さっきの戦いで、だいぶ消耗したはずッスル。オーラは後どれくらい残っているッスルか?」

 

「……まあ、あと一戦くらいなら大丈夫ですよ」

 

 ベルベットのことなので過大に自身の余力を報告はしないだろう。あと一戦なら問題なく戦えると思われるが、それだけ消耗していることも事実だ。素人でも見てわかるほどの激戦だった。オーラは有限であり、消費すれば十分な休息を取らなければ回復しない。

 

「誰かさんが捕まっていなければもっと楽ができたんですけどね」

 

「くっ……! 面目次第もないッスル」

 

 今回はベルベットが一人で戦う形となって負担が集中してしまった。これからはもっとチームの協力を意識して行動すべきだろう。私たちは電光掲示板の名前を確認する。

 

 ジャックの表示が消え、ここにいる者たちとポメルニを除けば残す選手はツクテクと快答バットの二人となった。彼らとも戦うことになるのだろうか。

 

 ひとまず気絶しているジャックの手当てを終え、これからどうするか話し合っていると、場内のスピーカーがノイズを鳴らし始めた。また運営がポメルニを使った放送をするつもりなのかと思われた。

 

『あー、てすてす。感度良好、本日は晴天なり!』

 

 だが聞こえてきた声はポメルニのものではなかった。私はその女性らしき声に、何となく聞き覚えを感じる。確かこれは……

 

『みんなお待たせ☆ マジカル☆ミルキィ~~~~参上だぴょん☆☆☆』

 

 巨大スクリーンに映し出されたのはヴァーチャル系アイチューバー、マジカル☆ミルキーだ。正確にはその人のアバターと言うべきか。彼女とはゲームが始まって間もなく音信不通の状態だった。船内全域に影響を及ぼす電波障害によりネットもつながらなくなっているため、その関係で通信が途絶えたのだと思っていた。

 

 実際、スマホを確認してみても電波障害は続いている。そもそもどうやってスクリーンに映像を流しているのか。船内のシステムはゲームの運営が管理掌握しているはず。ミルキーは運営側の人間だったということなのか。

 

『いきなり落ちちゃってゴメンだぴょん☆ みんな心配したよね! でも、だいじょうぶっ☆ みるぴょんはみんなのために、このわけわかんないクソゲーをブチ壊すべく暗躍していたのだぴょん☆』

 

 そう言うとミルキーはおどろおどろしいデザインをした杖を取り出す。杖頭に邪神像『イルミン』をあしらったその杖は、紫色の瘴気を放っている。これは魔法の国の殺し屋であるミルキーが愛用している魔法の杖で、これまでに殺してきた数多の犠牲者の魂が封じ込められている(という設定)。

 

『みるぴょんの魔法でみんなを解放してあげるぴょん☆ さあ、いつものいくぴょん☆ みんなも一緒にコメントしてぴょん☆ せーのっ! スウィートミリュミリュラブリーキッス★★★』

 

 でた、ミルキーの必殺魔法スウィートミリュミリュラブリーキッス。古参のファンをして『さすがにキモい』と言わしめたそのネーミングセンスと、視聴者に向けた露骨なコメント稼ぎとも取れる言動から総スカンを食らい、ライブ配信時はコメント空白地帯が発生、今やそれがお約束となり『リスナー殺し』の異名を持つに至った最強魔法である。

 

 この会場にいる私たちアイチューバーや、観客席でバトルを観戦していた一般客の人々も、誰ひとりとして反応を示さずシンと静まり返っている。これはライブのお約束を守ったというより、単純にどう反応していいかわからなかったのではなかろうか。

 

 だが、その沈黙はすぐに破られることになる。鳴り響いたのは地を裂くような轟音だった。立っていられないほどの強烈な振動に、視界が激しく揺さぶられる。地震ではない。ここは飛行船の中だ。

 

 まるで重力の方向が変わっていくかのように、ゆっくりと地面が傾き始めた。

 

 

 * * *

 

 

 時は少し遡る。入り組んだ船内の通路を駆け回る一人の男がいた。

 

「くそがっ! どうなってんだ、こんなの予定にねぇぞ!」

 

 男はボロボロのコートを翻しながら走る。大小様々な金属部品が縫いつけられたコートはガチャガチャと喧しく音を立て、ポケットからこぼれた部品が床を転がっていくがお構いなしに走り続ける。

 

 作ってみた系アイチューバーのツクテクだった。彼は現在、敵から追われる身だ。流星街という弱肉強食の世界を生き抜き力をつけてきた彼にとって、獲物を追うことはあっても追われることはあまりない。それだけの強敵であると言える。

 

 数は二人。しかし、かなりの手練れだとわかる。広範囲の円を使う上、その円に『隠』を施して気配を消す非常識さは我が目を疑うほどだった。手製の“工作品”がなければ気づく前に接近を許していただろう。

 

 勝算は薄いと即座に判断したツクテクは逃走した。“3日前から”この船の各所に仕掛けていたトラップをフル活用して敵を撒こうとしたが、わずかな足止めにしかなっていない。円によって回避されるか対処されているものと思われる。

 

 このままではじきに追いつかれるだろう。このレベルの使い手がゲームに紛れ込んでいることなど、クライアントから聞いていなかった。全く想定外の事態である。

 

 ツクテクはこのゲームの仕掛け人から雇われた人間だった。選手として何食わぬ顔で潜入し、内側からゲームの流れをコントロールする。やる気を出さない選手たちに発破をかける起爆剤である。

 

 流星街出身のツクテクを雇った依頼人はマフィアである。世界のマフィアを牛耳る『十老頭』の一角であり、彼の得意先だった。つまり、このゲームはマフィアを仕掛け人として計画実行されたものだった。

 

 クライアントからの主な指示は『ゲームを盛り上げろ』というもので、それ以外にはいくつかの留意点しか伝えられていない。まるで具体性のない指示だが、不満はなかった。

 

 彼は別にいやいや攻撃的な役回りを演じていたわけではない。他のアイチューバーたちをオモチャにして遊ぶのは面白そうだと積極的にその役を受け入れてゲームを掻き回すつもりだった。好き勝手にしているだけで金をもらえるのだから文句はない。

 

 一応、このゲームの目的については新型ドラッグの臨床実験とそのデモンストレーションだと聞いている。観客たちはその被験体として利用されているというわけだ。

 

 ただ、不審な点もないわけではなかった。実際に実験も理由の一つなのだろうが、果たして本当にそれだけだろうか。船をまるごと乗っ取って実験場にしてしまうなど正気の沙汰ではない。わざわざこれほどの手間と金をかけてゲームを仕掛ける必要はあったのか。

 

 疑問はあるがツクテクはマフィアを信用していた。なぜなら、マフィアが流星街の人間を害することはないと確信しているからだ。両者は対等な関係ではない。表向きはメンツを保つためにそのように装っているが、実際は流星街の方が上の立場にある。

 

 マフィアにとって流星街の人材はなくてはならないものであり、その関係を維持するために最大限の待遇を保証している。ましてやツクテクは念能力に通じた“工芸士”としてマフィアに多大な貢献があり、どんな事情があろうと切り捨てられるような立場にはない。

 

 だからこそ、この現状に納得がいかなかった。予定外の事態が重なりすぎだ。アイチューバーのほとんどが念能力者だったことはまだしも、今追跡してきている二人組は強さが段違いだと肌で感じ取れた。

 

 円の捕捉から抜け出すすべがない以上、応戦するしかない。負けるつもりはないが、どんなに強がったところで勝ち目が薄いことは事実である。少なくとも一人で敵二人を相手にするのは無理だ。

 

 仲間を見つける必要がある。その候補は既に決まっていた。ツクテクと同じく、マフィアの息がかかった刺客がもう一人、このゲームに参加しているのだ。電波障害発生中でも使用可能な無線端末を使って呼び寄せようとしていた。

 

 しかし、応答がない。通信はつながっているようなのだが、無線からは何の返事もなかった。

 

「こんなときにマジで使えねぇ! どこほっつき歩いてんだ、あの蝙蝠ィ……!」

 

 悪態を漏らすツクテクの横で、そうだよねぇと相槌を打つように快答バットがうなずきながら並走していた。

 

「いたぁ!?」

 

 黒い燕尾服にシルクハットをかぶった男がマントをなびかせなから、いつの間にやらツクテクの横を走っている。マジック系アイチューバーこと、快答バット。その表情は白い仮面に隠され、うかがい知ることはできない。

 

 この男こそもう一人のマフィアの刺客である。

 

「てめぇ、連絡にも出ずに何やってた! つーか、どっから湧いて出た!?」

 

 怒鳴りつけるツクテクに対してバットは無言を貫く。両手でピースサインを作っておちゃめに応じている。

 

 この距離に近づかれるまで気配に気づかなかったということは、絶を使ってツクテクを待ち伏せしていたものと思われる。少しでも殺気があれば気づけたはずなので、おそらく敵意はない。

 

 まさか無線に応答しなかったのも無言キャラに徹するがゆえの行動だと言うのではなかろうか。あり得ないとは言えない気がしてきた。

 

 ツクテクは青筋を浮かべながら殺気を叩きつけるが、バットはどこ吹く風と受け流していた。チープな外見のマジシャンのようだが、こう見えても十老頭お抱えの暗殺部隊『陰獣』の一人に数えられる男である。その実力は本物だ。

 

「……まぁいい。これで二対二だ。反撃に出るぞ」

 

 ツクテクからすれば相棒としては不安要素が多い仲間だが贅沢は言えない。敵は依然として止まる様子がなかった。円によってバットの存在にも気づいたはずである。それを知った上で近づいてくるというのならば迎え撃つまでだ。

 

 だがそのとき、彼らは全く別の理由によって足を止めることになった。船を襲う激震。それまでここが空の上だと忘れてしまうほど穏やかに航行していた飛行船が、突如として荒波に揉まれるように揺れ始める。

 

「は?」

 

 そして、やってくる浮遊感。彼らを乗せた船は海上に向けて落下を始める。

 

「はああああああああ!?」

 

 





やってみた系:ポメルニ
ハンター系:ブレード・マックス
アイドル系:ノア・ヘリオドール
マジック系:快答バット
作ってみた系:ツクテク
炎上系:ベルベット・アレクト
アニマル系:シックス

残り7人



イラストを描いていただきました!
鬼豆腐様より

【挿絵表示】

ベルベットのお礼の一幕。

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