カーマインアームズ   作:放出系能力者

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59話

 

 キルアと名乗る少年は会場にいた受験生の全員を倒してしまった。それも一切の反撃を許さず、ほとんど敵に気づかれないまま高速の一撃によって昏倒させていく。私も目で追うのがやっとのスピードだ。

 

 約1500人を誰一人として殺すことなく無力化してしまった。それは念能力者としての力というより、純粋な戦闘技術による成果と言うべきだろう。その様子を観察に徹して見ていたが、全く実力の底が見えてこない。

 

 手加減を重ねてこの実力、はっきり言って戦っても勝てる自信はなかった。そんな相手から持ちかけられた一騎討ちなどできれば承諾したくはなかったのだが、シックスのプレートはキルアに奪われてしまったため断ることもできない。

 

 自分のプレートを奪われても他の受験生のプレートを5枚集めれば合格できるのか、試験官は言及しなかった。しかし、この一次試験は明らかに腕っぷしの強さを判定するための内容となっている。その試験で自分のプレートも守り切れなかったとなれば、いくら他のプレートを集めたところで大きく評価を落とすことは確実。失格にされてもおかしくはない。

 

 ルールを確認しようにも試験官は非常口の先にいる。最低限の試験内容だけ告げて後は放置しているその様子から、受験生自身による状況判断も評価の対象と考えた方がいいだろう。やはり、自分のプレートは取り返しておくべきだ。

 

 それを考えれば一騎討ちで勝敗が決するまで戦う方がまだ私に分がある。スピードでは勝負にならないだろうが、持久力なら自信がある。さっさと勝ち逃げされてしまうよりもマシと言えた。

 

 

「いっこ条件追加。オレが勝ったら、ホントの名前教えてね」

 

 

 なぜ彼がそんな条件を追加してきたのか、考えを巡らす余裕はなかった。その一変した気迫から勝負が始まったことを悟る。先ほどは不意打ちを食らったが、敵が来るとわかっていれば対処できる。そう思っていた。

 

 まるで姿が一瞬にしてかき消えるかのような移動速度。さっきまで受験生たちを仕留めて回っていた際の速さも尋常ではなかったが、それをさらに超えてきた。これまでの戦闘はウォーミングアップに過ぎなかったとでも言うのか。とてもではないが反応が追い付かない。首の後ろに衝撃が走る。

 

 だが、今度は気絶しなかった。敵の動きは見えなかったが、もしかしたらまた首を狙われるかもしれないという予想からとっさに『凝』で首周りをガードしたのだ。ギリギリのところで防御が間に合う。

 

 背後の敵に向けて振り向きざまに攻撃を放つが、当然のように避けられた。わかってはいたが、やはり出し惜しみしていて勝てる相手ではない。私は『練』を使ってオーラを全身に駆け巡らせた。

 

 この一週間ほどの修行によって私はまともに『練』を使えるようになっている。オーラの攻防力を各所に集中させる『凝』も使えるようになった。オーラの制御法にある程度慣れてしまえばそれほど難しいことではない。もう最初の頃のように全身に痛みが走ることもなかった。

 

 だが、あえてその制御を崩す。小奇麗にまとまっていたオーラを整えることなく、自然に任せる。枷から解き放たれたように暴走するオーラが肉体を破壊していく。キルアはその様子を見て足を止めていた。

 

「――ッ!? なんだ、それ……!」

 

 私はオーラによる身体強化が他人よりも苦手なのかもしれない。特に力の調節という点に関しては、しっかりと意識してオーラを整えなければ、つい力が入りすぎる。何も考えずに強化しようとすると“こう”なる。

 

 自分の肉体の限界を超えて破壊してしまうほどの強化。おそらく本能的に力をセーブしようとする機能が正常に働いていない。だが、それはより大きな力を引き出せるという点において言えば優れていた。この肉体は例え自壊しようとも修復が利く。

 

 ぶちぶちと断裂していく筋肉と、それを随時修復していく痛みを堪えながら、動揺を見せたキルアに殴りかかった。限界を突破した身体強化により踏み込みも、拳の速度も大幅に上がっている。彼ならばこの一撃を受けても死ぬことはないだろう。手加減して勝ちを拾えるような相手ではない。

 

 しかし、当たらず。この強化状態をもってしても速度に関しては向こうが上だった。外したパンチの勢いを止められず、轟音を立ててコンクリートの床が砕けた。

 

 蜘蛛の巣状に亀裂が広がり、粉塵がぱらぱらと宙を舞う。事前に受験生が倒れていない広い場所へ移動しておいてよかった。周囲の人間に気を払いながら戦えるほど余裕はない。

 

 破壊力の高い大ぶりの攻撃はシックスが大きな隙を晒したことも意味していた。間髪入れずに複数の急所へ正確極まりない殴打が叩きこまれる。だが、強化によって防御力も上昇している今のシックスに大きなダメージは与えられない。

 

 力と速さ、互いに異なる長所が勝負を長引かせる。そんな気配を感じ取り、軋みを上げる体に気合を入れ直した。

 

 

 * * *

 

 

 キルアは少女に対して下した『戦う力のない、かよわい少女』という認識を改めた。蓋を開けて見ればゴリゴリのパワータイプである。技よりも力でねじ伏せるタイプの念能力者だった。

 

 外見詐欺もいいところだ。この少女といいビスケといい、こういった服を着た念能力者はヤバい奴しかいないのだろうか。まさか実年齢も詐称しているのではないかと疑いの目を向ける。

 

 当初は変化系能力者かと予想していたが、この戦いぶりを見ると強化系なのかもしれないと思い始めていた。変化系と強化系は非常に相性の良い系統であるため、それでもおかしくはない。

 

 ただ、幸いにもビスケのように力と技の双方に優れた使い手ではなかった。戦い方はゴリ押しの一辺倒。当たれば被害甚大の一撃も、キルアなら難なく回避することができる。

 

 だが、キルアの攻撃も威力不足で大したダメージにはならない。それでも彼は攻撃の手を緩めなかった。速度で敵を翻弄し続け、体力を削る作戦である。これだけのオーラを消耗し続ければすぐに限界が訪れるだろうと高をくくっていた。

 

 しかし、数十分に及ぶ時間が経過したというのにいまだ少女のオーラは衰えを見せない。どこから湧いてくるのかと思うほどの無尽蔵のオーラ。実戦においてこれだけの時間、練を休みなく維持し続けることは今のキルアにもできない。それは『堅』と呼ばれる練の応用技だった。

 

 それだけではない。キルアは戦う内にある違和感を覚えていた。最初は全くキルアの動きに反応できていなかった少女だが、視線だけは彼の速度に追いつくようになっていた。

 

 目だけは的確にキルアの後を追っている。身体の動きは全然それに伴っていないが、認識の早さだけは異常なほど鋭かった。敵は目の前で戦っている少女であるはずなのに、まるで異なる生物に見られているような奇妙な感覚だった。

 

 実戦の中で成長する。それは確かにあることで、キルアも命がけの訓練や戦闘において実感することもある。だが、この少女について言えば成長という言葉で片付けてよいものか。それほどまでに急激な反応の早さを見せ始めている。

 

 それはむしろ、今まで隠していた実力を発揮し出したと言った方が適切に思えるほどだった。だが、それなら最初から本気で戦えばいいだけの話。キルアを油断させることが目的なら徐々にギアを上げていく必要はない。

 

 この少女には何か得体の知れないものがある。キルアはこのまま戦ってもいいものかという迷いが生じていたが、その感情をすぐに抑え込んだ。あれだけの大見栄を切っておいて今さら強そうなので戦うの止めますとは言えない。

 

 確かにこの少女がそれなりに戦えることは認めるが、それでも自分が劣っているとは思わなかった。暗殺者として育てられた彼は、第一に“引き際”を教え込まれた。自分より強い者とは戦わず、自身の生存を何よりも優先する。

 

 彼の感覚は、まだ引き際を訴えていない。勝負を仕掛けることを決めたキルアはポケットから二つのヨーヨーを取り出した。

 

 このままダメージにならない軽い攻撃をいくら打ち込んだところで埒が明かない。少女を確実に仕留めるためには大技を当てる必要がある。そのための武器だった。

 

 と言っても、実戦で使うのはこれが初めての試みとなるのだが、キルアはおくびにも出さず素早くヨーヨーを投げ放つ。少女は敵からの新たな攻撃に一瞬の緊張を見せたが、すぐさま対応した。

 

 少女は飛来してきたヨーヨーを殴りつけて撃墜する。ヨーヨーはスピードに乗っていたが、キルア自身の直接攻撃に比べれば遅かった。あえてキルアはスピードよりも回転に比重をおいて投げていた。

 

 ヨーヨーはあえなく落されたかと思いきや、殴られてなお強力なスピンを見せる。50キロにも達する特殊合金製のヨーヨーは武器として十分な重さと頑丈さを持ち、糸を通して纏った『周』のオーラにより威力と回転が増幅されていた。

 

 スピンによって予測不能の動きを見せたヨーヨーが少女の腕に絡みつく。巻き付いた糸を引きちぎろうとした少女のもとへ追加の攻撃が飛んできた。キルアはヨーヨーを二つ持っていたのだ。

 

 そしてキルアはヨーヨーの糸によってつながった回路へと電気を流した。変化系能力者であるキルアは自身のオーラを電気へ変化させる発が使える。

 

 いかなる敵であろうと生身の体に電気を流されれば硬直する。たとえ念能力者であったとしてもこの生理的反応を無視することはできない。しかし、それだけで敵を無力化できるほど強力な電撃というわけでもない。これは次の攻撃への布石だった。

 

 キルアは手にオーラを集中させて飛びだす。電撃によって少女に隙が生まれた今ならば、確実に大技を決めることができる。電撃を放つと同時に距離を詰めたキルアは少女の腹部に掌打を当てた。

 

 電気硬直が解ける間もなく少女の体が吹き飛んでいく。勢いよく壁に叩きつけられてその場に倒れた。キルアは深く息を吐きながら残心した。

 

 致し方なかったとはいえ、少しやり過ぎたかもしれない。最後にキルアが仕掛けた攻撃は、暗殺者として教え込まれた技の一つだった。それは殺しを目的としない技であったが、場合によっては死よりも恐ろしいと言える危険な暗殺技だった。

 

 掌打による衝撃が内臓を揺らし対象者に地獄の苦しみを与える。回復力の高い念能力者は気絶させようとしても思うような効果が得られないことも多いが、この技は痛みによって戦意そのものを喪失させる。殺すことなく苦痛を与えることを目的とした拷問技である。

 

 彼の父ならばこの技によって暗殺対象を気絶させることなく自殺に追い込むほどの苦痛を与えることもできるが、キルアはまだそこまでのことはできない。ただし、適当に加減したとはいえ、あと1時間ほどは立ち上がれないほどの激痛を覚悟してもらうことになる。

 

 気の毒ではあったが、キルアはこれ以外に良い方法が思いつかなかった。このレベルの念能力者を殺すことなく無力化し、しかも敵とは言っても女の子に外傷が残るような攻撃を食らわせるわけにもいかなかった。彼としても最大限、配慮した上での処置である。

 

 だが、一応容体を確認しておくかとキルアが少女に近づこうとしたとき、彼女の体から発せられるオーラに陰りがないことに気づいた。

 

 確実に少女のオーラを突き破り、攻撃が入った手ごたえがあった。オーラを練ることはもちろん、立つことすら不可能なはずだ。しかし、少女は変わらず『堅』を維持したまま立ち上がった。

 

 少女の額に浮かんだ汗から、痛みがないわけではないとわかる。だが、彼女は薄く笑っていた。これまで人形のように表情に乏しかった少女が見せた微笑からは、寒気がするほどの美しさを感じる。

 

 唐突に、少女が手にしていたぬいぐるみが変化した。ファンシーなぺんぎんの横腹を突き破り、内部から六本の赤い鉤爪が飛び出す。虫のような多脚を生やしたぬいぐるみは少女の背中にしがみついた。

 

 何かの暗器を隠し持っているかもしれないという疑いはあったが、予想を上回る気味の悪さ。清廉な白いドレスの少女とは相容れない風貌となるが、それを気にした様子もなく彼女は構えを取る。これで両手を使って戦えるとでも言いたげだった。

 

 

 * * *

 

 

 戦況はこちらの不利と言わざるを得ない。練によって多くのオーラを消費し続けるシックスに対し、キルアはほとんど消耗した様子が見られない。制御を手放した私の練はその強力さに比例して相応のオーラを使う。要所要所でブーストするような使い方ができれば節約もできそうだが、今の私にはできなかった。

 

 このまま行けば先にこちらのオーラが枯渇する。敵もそれを理解しており、無理な攻撃を仕掛けてくることはない。着々と私は追い詰められていた。

 

 だが、なぜかその過程は私にとって必ずしも辛いものではなかった。敵が私の命を狙っているわけではないという安心感も一因である。殺し合いと言うほど殺伐とした戦いではない。

 

 そして、強敵との実戦を通して私はシックスとより深く結ばれていく感覚があった。どうすればもっと効率的に戦えるのか、体の動かし方がわかっていく。

 

 念の修行を始めた頃からうっすらと感じていた。ブレードから聞きかじった修行内容を試していたが、あまりにも覚えが早すぎる。念とは本来、長い修行をかけて習得していく武術のようなものである。そのはずが素人である私にも実感できるほど、異常な速度で技術をものにしていく。

 

 立ち塞がっていた扉を開いていくような感覚だった。一つ扉を開くごとに、これまでの自分は何だったのかと思うほどスムーズに動けるようになる。認識の仕方が変わる。全ての扉を開いた先には、いったいどんな世界が広がっているのだろうか。

 

 キルアとの戦いは、一人で修行に取り組むよりも遥かに大きな成果を与えてくれた。この戦いを好ましく感じている私がいる。冷静に感情を鎮めようと努める自分と、これがハンター試験であることを忘れてしまいそうなほど高ぶる自分が混在している。私はこんなに好戦的な性格をしていただろうか。

 

 どこか疑問に思いつつも、やっとつかみかけてきた感覚を手放したくなかった。このまま一矢報いることもなく終わるのはもったいなさすぎる。だが、今のままでは到底勝てない敵であることも事実。どれだけ成長の伸びしろがあろうとも、この一戦で全てを覆すことはできない。

 

 それでも負けたくなかった。もし方法があるとすれば、今の自分では扱いきれない力を引き出すしかない。しかし、モナドを呼び起こすことは当然ながらあり得ない。奴の力に頼りたいとも思わない。

 

 これは私の戦いだ。いざというとき、自分の力だけでどうにかできる強さがほしいと思っていた。わけのわからない存在に頼らずとも戦える力がほしい。

 

 そのために私は自分の『発』について、ずっと考えていた。シックスの発ではなく、私の発だ。感覚的な予測でしかないが、私がいくら彼女の発を作り出そうとしたところで無理だと思う。私にできるのは自分の発を作ることだけだ。

 

 蟻である私の本体も『纏』『絶』『練』を使うことができる。同様に『発』を作ることもできるだろう。肝心の問題は、その中身である。

 

 『発』とはその能力者だけが使える固有技であり必殺技だ。どんな能力にするか、自分で考えて決める。だが、何でもかんでも思い通りになるわけではない。 

 

 強力な技にしようと思えばそれだけ重い使用上のルールが必要となり、使いどころは限定される。単純な能力の方が応用は利くが、効果を見破られやすいし、強さは使い手の技量に大きく左右される。

 

 ブレードは言っていた。修行を重ねていけばいつか必ず、自分にはこれしかないと思える能力が見つかる。下手にあれこれ考えようとするよりも自然と頭に思い浮かんだアイデアの方が身に付きやすい。だからそれまでは基礎に専念して修行に打ち込んでいればいいと。

 

 その考え方からすれば、今の私がやろうとしていることは力に飢えて先を急ぎ過ぎているのかもしれない。指導者もなく、たった一週間の修行しか積まずに何かを修めた気になっているだけかもしれない。

 

 しかし、私の頭の中には既に明確なアイデアがあった。色々考えたが、これ以外にしっくりくる能力は見つからなかった。

 

 難しい制約をたくさん付けた能力は合わない気がした。作るならシンプルな技がいい。シックスの存在だけで十分に戦う力はある。それを補助し、かつ個性的な強さを持つ能力。

 

 そしてブレードから教えてもらった(聞き出した)水見式という系統判別法を修行中に試している。水を入れたコップに葉を一枚浮かべ、それを手で包み込むようにして練を行う。そのときに起きる様々な変化により、その者の得意系統を割り出すことができる。

 

 その結果、コップの水がとても苦い味に変わった。これは変化系を表す現象である。なんとなく操作系ではないかと思っていたのだが、実際はその真逆に位置する系統だった。

 

 これらの要素を総合し、作り出した私の発。まだ作ったばかりで使いこなせる自信はないが、試してみる価値はある。上手くいけばキルアの動きを封じることができるかもしれない。

 

 いくぞ、『落陽の蜜(ストロベリージャム)』――!

 

 

 

 

 

 

「おい、お前ら! いくら何でも時間かかりすぎじゃ……えええええ!? なんじゃこりゃあ!?」

 

 ここからが正念場と思った矢先、思わぬ第三者に水を差された。試験官の男が会場に戻ってきたのだ。ばたばた倒れている受験生たちの姿を見て驚いたのち、私とキルアの方へと視線を向けた。

 

「あー、盛り上がってるところ悪いが、もうすぐ時間だぞ。プレート5枚、集められなければ例外なく不合格だ」

 

 時計を確認すると時間切れとなるまであと5分を切っている。夢中になって時が経つのも忘れていた。これで失格になっていては本末転倒もいいところだ。私たちは勝負を中断して慌ててプレートの回収に取りかかる。

 

 しかもそのとき、キルアがどさくさに紛れて勝負内容をどちらが多くプレートを集められるかというルールに変更してきた。その結果……。

 

 シックス31枚、キルア75枚、大差での敗北を喫する。

 

「よっしゃ、オレの勝ち!」

 

 速さで勝てるわけないだろ! 腕いっぱいにプレート抱えてきた私たちの姿を見て、試験官は呆れたように肩をすくめた。

 

「やれやれ、想定では相討ちなんかも考えて二次に進める受験生は200人程度だと思っていたが、まさかこれほどの使い手が混じっていたとは。この様子じゃ二次試験を予定通り執り行ってもあまり意味がないな」

 

「もう2人ともこれでハンター試験合格ってことでいいんじゃない?」

 

「俺は別にそれでも構わないと思うが、最終的な決定を下すのは審査委員会の代表責任者だ。今から連絡を入れるから、その返答次第だな。だが……期待しない方がいいぞ。今年の責任者は相当にたちが悪い」

 

「代表責任者って、あのじいさんじゃないの?」

 

「例年通りならネテロ会長なんだが、急用が入ったそうだ。詳しくは俺たちも聞かされていないが、毎年この試験を楽しみにしているあの会長が来ないとはよほど緊急の用があるらしい。しかも、よりによってあの“副会長”に代役を任せるとは……何を考えているんだか」

 

「副会長って、誰?」

 

「会えばわかるさ。ま、今年は運が悪かったな。すんなりと合格させてはもらえないだろうよ」

 

 審査委員会の代表責任者がハンター協会の会長ではなく、副会長に代わったらしい。別におかしなことではないように思えるが、試験官はやけに含んだようなもの言いだった。

 

 

 * * *

 

 

「え? 僕がイジワルして合格者出さないかもって? まさか! そんなことしませんよ! 受験番号1212のチョコロボフさん、そして受験番号1219のキルアくん、お二人の合格を認めましょう。これで君たちも晴れてプロハンターの仲間入りです。おめでとう!」

 

 ぱちぱちと拍手を送る代表責任者にしてハンター協会副会長、パリストン=ヒル。私たちは別室にてパリストンから直々に合格の通告を受けていた。

 

 まさか組織のナンバー2の地位にある人物が受験生の案内役(ナビゲーター)をやっているなんて思いもしなかった。彼ならば人格的にも何か問題があるようには思えない。現にこうして何事もなく合格をもらえたのだからこれ以上言うことはなかった。

 

 今は合格者説明会を受けているところだ。何百人も入れるような広い講堂の中、パリストンが教壇に立ち、そのすぐ近くの席に私とキルアが座っている。他には誰もいない。

 

「先ほど、みなさんにお配りしたカードがハンターライセンスになります。再発行はしませんので気をつけてください。我々の統計では、試験合格者の5人に1人が1年以内に紛失や窃盗の被害によりカードを失っています」

 

 パリストンはプロハンターが受けられる恩恵や協会の規約などの説明を行っている。私はその説明を聞きながらも、どこか心ここにあらずといった感情を取り払えずにいた。

 

 頭の中ではさっきまでの戦いのリプレイが続いている。キルアの一挙手一投足に対し、どのように応じれば適切に捌けたのか。こちらの攻撃を当てるために、どうすれば相手の動きを読んで行動できたか。思考錯誤を繰り返していた。

 

「名前」

 

 隣であくびをしながら座っていたキルアが小声で話しかけてきた。人のことは言えないが、彼もパリストンの話をまじめに聞いているようには見えない。

 

「オレが勝ったんだから教えろよな」

 

 まだそれにこだわっているのか。あんな勝負の付け方で納得できるはずもない。私はそっぽを向きながらチョコロボフと答えた。

 

「それ絶対、チョコロボくんから取っただろ。偽名だってバレバレだから」

 

 何と言われようとシックスの名を教える筋合いはない。その機会があるとすれば、約束通りの一騎討ちで私が負けたときだ。

 

「へー、まだやる気なんだ。じゃあ、この後さっきの続きやっていこうぜ」

 

 望むところである。不敵に笑うキルアをにらみ返した。あんな不完全燃焼気味の終わり方では収まりが悪い。今度こそ私の発をお見舞いしてやろう。

 

「あのちょっと、先生の話を無視してイチャつくのはやめてくださーい」

 

「べ、別にイチャついてはねーよ!」

 

「青春ですねぇ」

 

「だから違うって!」

 

 

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