カーマインアームズ   作:放出系能力者

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65話

 

 最終試験から数日後、私とビスケは魔法都市マサドラに来ていた。いつも修行している岩場から70キロほど離れたところにある。食料などの買い出しのため何度かこの街には来たことがあった。

 

 ちなみにゲーム内で魔法が使える呪文(スペル)カードというものがこの街で売られているらしいが、買ったことはない。ビスケに聞いたところ、色んな場所に瞬間移動できたりして便利らしい。彼女も詳しくは知らないようだった。

 

 今日は私の試験合格を記念してビスケから好きに買い物していいと許可をもらっていた。お金に余裕があればゲームの攻略に必要そうなものを買ってもいいだろう。

 

 例の最終試験を無事に合格し、これで晴れて初心者卒業かと私は思っていたのだが、ビスケから予想外のことを言われた。なんと、これで念の基礎については全て教え終わったという。文字通りの最終試験であり、あとは自分なりに研究してくれと言われた。

 

 教えてもらうことで強くなれる段階はここで終わり。これまでに習ったことを守ってしっかりと基礎を鍛えた上で、様々なタイプの敵との実戦を積み重ねていく。そうするほかに強くなる道はないという。

 

 心源流の武術についてなら教えられないこともないが、ビスケいわく、私の動きには何らかの“型”が既に現れているらしい。私は意識したことがなかったのだが、無意識に現れているのだとすればなおさら体に染みついた記憶のようなものだと言える。

 

 やけに動きが体に馴染んでいるため、下手に触ると逆に悪影響が出る可能性が高いという。心源流を学ぶことは強くなるための道の一つだが、それはあくまで方法の一つであって、万人に適合する強さではない。私の場合、矯正の必要は感じなかったので、そのまま行けと言われた。

 

 つまり、もう教えることはないということだ。それを聞いたとき、あまり嬉しいとは思わなかった。それ以上にショックを受けた。きっとこれから本格的な修行に入るに違いないと思っていたのだ。

 

 ビスケは当初、修行期間は少なくとも半年以上かかると言っていた。まだ一か月半くらいしか経っていない。それだけ修行が順調に進んだことは喜ぶべきなのかもしれないが、ここで終わりというのはあっけない。

 

 私はビスケにもう少し指導をしてもらえないか頼んでみた。そしてもうしばらくの間、組手などに付き合ってもらえることになった。なんだかんだ言ってビスケは強い。毒で弱っているはずなのに圧倒的な実力の高さを見せている。実戦を模した組手をしているだけでも勉強になることは多い。

 

「捨てられた子犬みたいな目で泣きついてくるもんだからしぶしぶ面倒見てあげてるけど……成長スピードが化物すぎるわ。あんたのゾンビじみた耐久力に付き合わされるこっちの身にもなってよ」

 

 またまた、そんなこと言って片手間であしらってくるくせに。でも、もう少しでビスケから一本取れそうな可能性が見え始めている気がする。ビスケには迷惑をかけるが、強くしてくれるという約束を果たしてもらおう。

 

 それはさておき、今は買い物である。マサドラにある大きなデパートに来ていた。建物は大きいが扱っている商品はコンパクトだ。なぜなら商品は全てカードの形で販売されているからだ。買った後でゲインを使って復元する。

 

 これなら場所も取らないし、輸送コストも安く済みそうだ。ただ、実物を手に取って商品を見ることができないので通販のような不便さもある。私たちが今来ている衣料品コーナーは特にそれを感じる。

 

 ビスケからまずはシックスの服を買うように言われていた。過酷な修行を経て、今着ている服はボロボロの状態になっている。『周』で強化しながら使っていなければとっくに原形をとどめていなかっただろう。

 

 もともと露出は高かったが、今ではダメージ感40%くらいアップしている。一周回ってファッションと言えなくもないような気がしてきたが、まあ普通に買い換えた方がいいだろう。

 

 主にビスケとの組手が原因で破れた箇所が多い。その責任を感じてか手持ちが足りなかったら工面してやると言ってくれたが、そんなに高い服を買う気はない。岩場のモンスターを倒して手に入れたカードを売却してお金もある程度は用意している。

 

「やっぱり服は実物を見てから買いたいわよね。サイズは復元したときに持ち主に合わせた大きさに調整されるみたいだけど、生地の質感とか作りの細かさとかわかんないわ」

 

 こうしている最中も軽い修行は続けていた。指の先に集めたオーラを0から9までの数字の形に素早く変化させていく訓練である。最近は数字だけでなくビスケの指示で動物の絵を即興で描くように無茶ぶりされることもある。

 

『1! 9! 4! ウサギ!』

『ウサギ!?』

 

 完成度が低かったり0.1秒以上かかったりするとしばかれる。たまにウナギのフェイントもくる。

 

 ウサギの絵を形作る練習をしながらカードが並べられた陳列棚を見て回る。修行をする上で飾り気は必要ないし、ほしいとも思わない。動きやすさと安さ、このあたりを押さえられればそれでいい。

 

 【布の服】H-300

 旅人が着る安価な服。

 

 これでいいだろう。値段も一番安い。しかし、カードに伸ばしかけていたシックスの手はビスケに止められた。

 

「待ちなさい。いくら何でも、もうちょっとマシなのを買いなさいよ。すぐに壊れたら買った意味がないでしょうが」

 

 確かに、それもそうか。丈夫さを考えるなら安さにあまりこだわるのはよくない。長持ちした方が結果的に得だ。

 

「これなんかいいんじゃない?」

 

 【女拳法家の服】D-20

 エキゾチックな格闘家の戦闘服。

 

 カードに記載されているアルファベットはランクを表しており、SSランクからHランクまである。その横の数字はカード化限度枚数で、ゲーム内において同種類アイテムはこの数字を超えてカード化することができない。入手難易度に大きく関わる制限であるため、一般的にこの数字が小さいほどレアとされる。

 

 ビスケに勧められたカードはなかなか高価なものだった。私の手持ちでは足りそうにない。断ったのだが、いいからいいからと強引にカードをレジまで持って行ってしまった。

 

 他にもいくつかカードを買い、会計を済ませる。しめて578,230ジェニーだった。ひとまず私が持っているだけのお金は全て出して、足りない分はビスケが払ってくれた。試験合格の祝いということらしいのでありがたく受け取った。

 

 この支払のお金もカード化された紙幣や硬貨でなければ使えない。お釣りとしてもらう小銭も一枚単位からカードの形で返ってくるので、全部受け取っていたらバインダーのフリーポケットがすぐにいっぱいになってしまう。バインダーに入れておかないとカード化が解除されて二度とカード化できなくなるためその瞬間、価値がなくなるのだ。リアルな世界観でありながら、こういうところはゲーム的な不自然さを感じる。

 

「じゃあ、さっそく着替えてきなさい」

 

 というわけで、ゲインによって復元した商品を試着スペースで着替える。見た目のイメージはチャイナドレスに近い。スカートは大きなスリットが入っていて動きやすい。その下にはダボッとした長ズボンを履いている。高かっただけあって着心地は良く、作りもしっかりとしていた。これなら簡単に破れるようなこともないだろう。

 

 試着スペースから出るとビスケに髪をいじられた。左右両側にお団子を作られる。シニヨンというらしい。さらに鉄扇まで渡される。これもさっき一緒に購入したものだった。武器のようだが、たぶん使う機会はないだろう。

 

 なんだか面白がられているだけのような気もするが、もらえるものはもらっておこう。それから特に何か買う予定はなかったが、しばらく商品を見て回る。カードしか置かれていないのでウインドウショッピングも全然楽しくないとキレられる。

 

 その後、デパートに内設されている喫茶店に入った。ここの店員はイケメン揃いでビスケのお気に入りの店らしい。暇だったのでさっきもらった鉄扇を頭の上に立たせてバランスを取っていたシックスは、そのままの状態で入店する。

 

 四人がけのテーブルにつき、注文を入れる。私は無一文なので水だけでよかったのだが、ビスケがおごってくれることになった。というか、勝手に注文された。コーヒーとタピオカミルクティーが運ばれてくる。

 

 タピオカドリンクなるものが流行っているそうだ。私は飲んだことがない。ビスケいわく、ストローでカップの底のタピオカを一気に吸い上げる飲み方が通らしい。やってみたら、ストローの中をドゥボッと駆け上ってきた黒い粒が喉に直撃した。思いっきりむせる。頭の上の扇が大きく揺れる。最近の若者は刺激的な飲みモノを好むようだ。

 

 ビスケはメニューでにやけ顔を隠しながら、イケメン店員を観察していた。私がタピオカをドゥボドゥボ吸引していると、二人の新たな客が入ってくる。

 

「あ、ビスケ! ナイン! ひさしぶり!」

 

 ゴンとキルアである。実は今朝方、二人から交信の魔法による連絡が入り、この店で落ち合うことに決まっていた。買い物はそのついでみたいなものだ。

 

「あんたたち最近、連絡なかったけどカード集めはうまくいってるの?」

 

「もちろん! と、言いたいところだけど……」

 

 二人はあれから何度か修行場に顔を見せにきてくれたが、最近は音沙汰がなかった。最初は呪文カードを入手しやすいマサドラを中心に活動していたようだが、色々なカードを集めようと思えば当然、島中をくまなく探索する必要がある。遠くの街まで瞬間移動できる呪文カードもあるが、気軽に使えるようなものでもない。

 

「一気にカード集めてから戻ってくる計画だったんだけど、まだ指定ポケットは半分くらいしか埋まってないや」

 

「Aランクまでは何とか自力で取れそうなんだけど、それ以上は難易度が段違いだな」

 

「ゲームのことはよくわかんないけど、これだけの期間で半分も集めたのなら上出来じゃないの?」

 

 本人たちは納得できていないようだ。本来ならこのままカード探しを続行するつもりだったらしいが、急遽別の問題が発生したため探索を切り上げて戻ってきたらしい。

 

「カヅスールから連絡があったんだ。もうすぐゲームをクリアしそうなプレイヤーがいるって」

 

 ゲームのクリアとはすなわち、指定ポケットカード100種のコンプリートである。プレイヤーの多くは大富豪バッテラから雇われており、最初にクリアした者に莫大な報酬金が約束されている。なんとしてでも抜け駆けはさせたくないはずだ。

 

 もはや漫然とカードを集めている場合ではない。あらゆる手段を講じて攻略を優先する必要がある。そのためにもビスケや私という戦力を遊ばせておく余裕はないということだろう。

 

「でも、ナインの修行も大事だから無理に誘うことはできないけど」

 

「そこは問題ないわさ。仕上がりは十分。今のナインならあんたたちより強いかもね?」

 

 その言葉にむっとした表情を見せるゴンとキルア。今の自分と二人の実力を比べて以前よりどれくらい強くなったのか、気になるところではあるが、わざわざ不和を招くようなことをするつもりはない。ビスケは皆の性格を分かった上で煽っているのだろうが。

 

 私もゲームの攻略に参加することに異存はない。ゲームのクリアに興味はないが、ゴンたちの助けになるのなら是非もないことだ。

 

「とりあえず、カヅスールの呼びかけで攻略組がいくつか集まって緊急対策会議を開くことが決まってる。まずはそこに行って情報を集めようぜ」

 

 

 * * *

 

 

 その日の夜、マサドラの北東2キロの岩場に多くのプレイヤーが集まった。

 

 カヅスール組、3名。

 アスタ組、3名。

 ゴレイヌ。

 ヤビビ組、2名。

 ハンゼ組、3名。

 ゴン組、4名。

 

 総勢16名。プレイヤー全体の総数と比べればほんの一部に過ぎないように見えるが、実はそんなに軽い数字ではない。プレイヤーの大多数は攻略を諦めてゲームの中から出ることもできず生活を送るしかなくなった者たちだ。実際に攻略のために動き続けている組は30にも満たないという。

 

 本来なら攻略を競い合うライバル同士、ここまでの数が集まって顔を突き合わせる機会などない。裏を返せば、そうぜざるを得ないほど状況は逼迫しているということでもある。

 

「みんなよく集まってくれた。交信で話した通り、ゲンスルー組があと少しでクリアしそうな勢いだ」

 

 言ってしまえば、トッププレイヤーを抜け駆けさせないための妨害について話し合う場になる。足の引っ張り合いと言えば聞こえが悪いが、いかに敵を出し抜くかということもゲームの一環である。それにゲンスルー組は相当にたちの悪い手段を使ってカードを荒稼ぎしていたらしい。

 

「奴らのコンプリート状況は現在96種だ。早急に対策を立てる必要がある」

 

「どうやってその情報を掴んだの?」

 

 キルアが尋ねたところ、カードを換金できるトレードショップで聞ける情報らしい。そのとき誰が何種類のカードを取得しているのか全プレイヤーのランキングを教えてもらえる。別途料金を払えば、その人物が所有しているカードの番号まで知ることができる。

 

「そんなことも知らずによくここまで来れたわね。時間の無駄だからさっさと議題を進めてよ」

 

 アスタ組から苦言を挟まれる。攻略の進捗状況で言えば私たちゴン組よりも他の組の方が一歩も二歩も進んでいる。色々と知らないことがあるのは仕方ない。私なんか話についていくだけで精いっぱいだ。むすっとしているキルアをなだめる。

 

 ゲンスルー組の攻略を阻止するためにはカードを奪うか、まだ入手されていないカードを先に独占するしかない。しかし、奪う手段は現実的ではないという。

 

 他人のカードを奪う呪文カードは存在するが、それを防ぐ対抗カードも万全にそろえていると思われる。消去法的に、人海戦術による未取得カード独占しか手は残されていないという結論に至る。

 

「確かにそれしかなさそうね。でも共同戦線を張るメンバーには異論があるわ」

 

 またしてもアスタ組のリーダー、アスタが難色を示した。どうやら先ほどのやり取りからこちらを対等な協力者として見てもらえなかったようだ。チーム全員が(見た目は)子供ばかりで実力不足を疑われているのかしれない。

 

「だいたい、あんたらゴンとキルアの二人組じゃなかったの? そっちの女子二人は別働隊か何か? そういう勝手な動きをするような人間と一緒に作戦は取れないわ」

 

 ゲンスルーの所有カードがわかったように、私たちの持っているカードについても調べることはできる。攻略組にとって他の組の情報は少しでも多く把握しておくべきであり、ゴン組についても事前に調べられていたのだろう。

 

 事実、この会合に呼ばれた組の参加条件はカードの所有種が50種類以上であることが前提となっている。その点、私とビスケは修行漬けの日々を過ごしていただけでゲームの攻略には関わっていないため条件を満たしていないと言えなくもない。

 

「うぅ、ごめんなさい。わたしたち、同じチームですけど争いごとは苦手で、別行動していたんです……」

 

 おそらくここにいる全員が束になって襲いかかっても敵わないであろうビスケが世迷いごとを言っている。

 

「うるせーな。偉そうにこっちのチーム編成にまで口出ししてくんじゃねーよ」

 

「誰だって足手まといを仲間に引き込みたくはないでしょ。あと、協調性皆無の生意気なガキもね」

 

「協調性がないのはテメーだろうが!」

 

 言い争うアスタとキルアをゴンと私がなだめる。言い方は刺々しい部分もあるが、向こうの立場からしてみれば言っていることはわからなくもない。あとキルアが怒ってくれているおかげか、それほど腹は立たなかった。

 

「とにかく、互いに有益な関係が築けることが協力する上での必須条件よ」

 

「それならゲンスルー組の能力を知ってるよ。この情報は有益だよね?」

 

「それに奴らがまだ入手してないカードも1枚持ってる。それでも不満かよ」

 

 情報を提供することで何とか信頼は得られそうだが、キルアはその見返りにSランクカード2枚をアスタ組にだけ要求。この当てつけにアスタが何も言わないはずがなく、当然のように話がこじれた。

 

 交渉は決裂しかけたが、ゴンはどうしてもゲンスルー組の情報を伝えたい事情があるようで、結局話すことに決まった。アスタ組も他の二人のメンバーがSランクカード2枚の譲渡に応じてくれたので何とか話がまとまる。

 

 ゲンスルーは『爆弾魔(ボマー)』と呼ばれ恐れられていたプレイヤー狩りらしい。何年も前から正体を隠して仲間を募り、攻略組が一大勢力に成長したところで裏切った。このゲームが始まって以来のプレイヤー大量虐殺の主犯である。その事件を機に奪ったカードでトッププレイヤーの座に登りつめている。

 

 その能力『一握りの火薬(リトルフラワー)』は手に集めたオーラで小規模な爆発を引き起こす技で、ゲンスルー自身の高い戦闘能力と合わさり凶悪な威力を発揮する。さらに標的の体に時限爆弾を具現化して爆死させる『命の音(カウントダウン)』という別の能力まで持っている。

 

 ゴンはこの『命の音』を仕掛けられた被害者と会い、少しでも奴の非道を食い止めるために情報を広めてほしいと頼まれたそうだ。この話を聞くまではゲンスルー組を袋叩きにして実力行使でカードを奪うという案もわずかに考慮されていたが、そんな手が通じる相手ではないと皆が認識した。

 

 打算や駆け引きなしにゲンスルーの脅威を伝えようとしたゴンの誠意が伝わり、アスタもこちらを認めたのか、ゲームの攻略に関する様々な情報を教えてくれた。わだかまりは解消したと言っていいだろう。他の組も見返りに情報をくれた。ゴンやキルアは目からうろこといった様子でその話を聞いている。

 

 ちなみに私は全く何の話か理解できなかったが、侮られるのもよくないと思って訳知り顔でしきりにうなずいておいた。

 

「さて、そろそろ情報交換会はこのくらいにして、本題のゲンスルー組対策を検討しよう。奴らの未取得カードは№000、№2、№9、№75の4種だ。これらを我々の共同チームで先に入手し、独占する」

 

 これだけの数のプレイヤーがそろえば入手難易度の高いカードも集めやすい。理想を言えば、まだ誰にも入手されていないカードをカード化限度枚数の最大値まで集めておきたい。

 

 これを調べるために活躍する呪文カードが『名簿(リスト)』だ。指定したアイテムが何枚カード化されているか、何人がそのカードを所有しているかを調べられる。

 

 まずは『名簿』を使って4種のプレイヤー所有状況を把握する。ただし、№000に関してはどの呪文カードを使っても情報を知ることができない。これは99種をコンプリートしたプレイヤーが出たとき、入手イベントが発生すると考えられているため、今回の作戦の対象からは除外する。

 

 つまり、実質的には№2『一坪の海岸線』、№9『豊作の樹』、№75『奇運アレキサンドライト』の3種が対象となる。『名簿』で調べた結果、『豊作の樹』と『奇運アレキサンドライト』は既に所有者が何人かいた。今から独占に奔走しても確実にゲンスルー組の妨害になるとは言えない。

 

「『一坪の海岸線』は……所有者なし! まだ誰も手に入れてないぜ」

 

 指定したアイテムの説明を見ることができる『解析(アナリシス)』の呪文カードで調べたところ『「海神の棲み家」と呼ばれる海底洞窟への入り口。この洞窟は入る度に中の姿を変え侵入者を迷わせる』と、よくわからないことが書いてあった。

 

 しかし、そのランクは最高レベルのSSであり、カード化限度枚数はたったの3枚だ。誰も手に入れたことがないだけあって入手は難しいだろうが、1枚でもゲットできれば『複製(クローン)』の呪文カードで増やせる。そうなれば限度枚数が3しかないので簡単に独占できる。

 

「場所はソウフラビだな。誰か『同行(アカンパニー)』持ってないか?」

 

 『道標(ガイドポスト)』の呪文で指定したアイテムが入手できる場所を知ることができる。どうやらソウフラビという街にあるらしい。呪文カードも色々な種類があって便利ではあるが、こう一度に何枚も登場すると効果を整理して覚えるのに少し疲れる。

 

「『同行(アカンパニー)』使用! ソウフラビへ!」

 

 『同行』の効果は何だったかと考えていると、体が光に包まれて足元がふわりと浮きあがるような感覚に襲われる。確か、このカードは移動系の呪文だ。使用した術者とその周囲にいる者全てをまとめて瞬間移動させる魔法である。

 

 移動系の呪文は話には聞いていたが、実際に体験するのも目にするのも初めてのことである。現実世界からゲームに入って来たときのように一瞬で視界が切り替わるのかと思いきや、勢いよく体が空高くへと舞い上がった。

 

「ぬわあああああ……」

 

 物理的に吹っ飛ばされるとは思わなかった。

 

 


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