10分で読めるわたモテSS   作:umadura

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モテないしデスノート拾う

 

 

 

 

「それじゃ黒木さん。私達委員会あるから」

 

「バイバイ」

 

「あっ うん」

 

 ……。

 なんかいつの間にか、アイツらと一緒に帰るのが普通になったな。

 今更だけど。

 

 っていうか、私もそろそろ『あっうん』とかじゃなくて、友達らしく自然な感じで挨拶をすべきだろうか?

 でも、いちいち一人一人にってのメンドいな……

 

「君たち、また明日」

 

 もうこんな感じでいってみるか?

 なんか違う気もするが……今更自然に名前で呼べる気がしない。せっかく多少はスラスラ会話できるようになったのに、万が一失敗したら最悪死に戻りだ。

 

 ま、あれだ。

 この私に名前を呼ばせた時、アイツらは本当の意味で私の友達になれるんだろうな。

 

 まだまだ友情イベントが足りてない。このくらいの付き合いでゆうちゃんと同レベルの称号は与えられねーわ。

 

 にしても、今日はえらく捌けが良いな。

 教室に残ってるのは、私を含めてあと三人か。

 

 あの二人の男子とは話した事もないけど、どっちも多分ぼっちなんだろうな。

 雰囲気でわかる。

 

 以前の私なら、このシチュエーションをどう思っただろうか?

 この機会にぼっち同盟でも作ろうとしたかもしれない。

 

 これって逆隣○部状態じゃないか……!?

 

 そんな感じでテンション上がって話しかけようとして、自爆したんだろうな。

 生憎、今の私はモテにそこまで飢えてない。

 

 お前ら、私を見ろ!

 私こそが、お前達が必死になって探している別ルートを見つけ、ぼっちの無限ループから抜け出した者だ!

 

 私は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に私はいるぞ!

 だからよ、止まるんじゃねぇぞ……

 

 ……帰るか。

 

「ん?」

 

 なんか足に当たったぞ。

 これ、ノートか?

 私の……じゃないな。

 

 まさかアイツらのとか?

 もしかしてアレか? 交換日記的な?

 ガチレズさんってそういうの好きそうだしな……

 

 いや待て。

 コレもしかして、私の事書いてる流れじゃね?

 

『今日の黒木さん、橘○いずみ並にイジり役上手かったね』とか!

 実は裏でコソコソとイジられてるのは私の方なのか!?

 

 いや、アイツら声優とか知らないか。

 

 ま、とにかく中を見てみればわかる――――

 

【DEATH NOTE】

 

 中を見るまでもなく表紙でわかってしまった……

 

 おいおい、今2010年代だぞ?

 私が子供の頃に終わったマンガだぞ?

 

 勘弁してくれよ、全く。

 誰だよ、こんなベタな事したの。

 こんなの誰が拾うかよ。

 

 誰が……

 

 って、いつの間にか他のぼっち共がいなくなってやがる!

 そりゃ止まるなとは言ったけど! いや言ってないけど!

 

 やっぱアレだな、ぼっちって基本空気読めないよな。

 今の私になら、話しかけてさえくれば神対応しかしないのに。

 フラグ折ったな!

 

 で、教室に残ってるのは私一人になったワケだが。

 

 こうなるともう、拾うしかないな。

 別に興味あるとかじゃないけど。

 

 落とし物を拾うのは常識だし、今ここに私以外いないし。

 だから仕方なく拾うだけだし!

 べ、別に興味あるとかじゃないんだからね!

 

 ……お、おおう。

 これがあの一世を風靡した……

 

 いや、わかってるんだ。

 あの腐ったベ○ータみたいなのも見えないし、ここに名前書いても誰も死なない。

 こんなの、大して有名じゃないメーカーが勢いで作って在庫抱えまくって今も倉庫圧迫してる濫造グッズに決まってる。

 

 でもアレなんだよ。

 グッズ売り場に並んでるのと教室に落ちてるのでは、訴えてくる圧が全然違う。

 

 もしかしたら……!

 そんな0.00001%の可能性を感じてしまってる時点で私の負けだ。

 

 もしこれが、本当にデスノートだったらどうする?

 っていうか、誰の名前を書いてやろうか?

 

 やっぱりこういうのって、最初に犯罪者で試すのがセオリーか?

 確かあの顔芸得意なキラキラネームもそうしてたよな。

 

 だけど私は犯罪者の名前なんて知らないしな……架空の犯罪組織なら○とか幻○旅団とか幾らでも出て来るんだけど。

 

 一時期、掲示板にオラついた書き込みして捕まったヤツが『目立ちたかった』『騒がれたかった』ってゴミみたいなテンプレコメントしてるのが面白くて、そういう事件調べまくってたんだけど、今じゃ誰一人覚えてない。

 

 そういえば確か、顔を知ってるヤツじゃないとダメなんだったな。

 どっちにしろネット犯罪者じゃ話にならない。

 今夜のニュースで連続殺人犯が捕まったら、そいつの名前でも書いてみるか?

 

 ……止めとくか。

 クソみたいな犯罪者が死んだところで、私に何一つメリットがない。

 誰かが神様扱いしてくれるワケでもないしな……

 

 そもそも、もしこのデスノートが本物だったと仮定して、私にメリットのある使い方ってあるのか?

 確かに、過去の私は死んで欲しいヤツが大勢いたが。

 

 リア充全般はもちろん、読書するクソビッチとか、海で公開露出してる変態どもとか、勝手に休載しやがるクソ漫画家とか。

 あと担任も。

 

 今は正直、全員漏れなくどうでもいい。

 これがつまらない大人になるって事なんだろう。

 私も丸くなったもんだ……

 

 って事は、成長して処女懐胎も不可能じゃなくなった今の私にとって、このデスノートは無用の長物。

 それどころか、これを持って帰って部屋にでも置いてたら、万が一誰かが私の部屋に遊びに来た時に『今更wwwwwwwwww』なんて事になりかねない……!

 

 ……まあ、このシンプルなデザインでデスノートだって即わかりそうなのはこみカスくらいか。

あの気持ち悪い変態はもう二度と部屋にあげる気ないし、問題ないだろう。

 

 あとは……ネモも可能性あるか?

 人が死ぬアニメ嫌いとか言ってたけど、子供の頃にデスノ観てトラウマになったとか、そういうパターンかもしれないし。

 

 ま、ネモが私の部屋に来る確率なんて限りなくゼロに近いんだろうが。

 

 そもそも、あいつが私の聖域に踏み入れてくるシチュエーションが見えない。

『よかったら自慢の円盤コレクション一緒に見る?』とか絶対ならないしな。

 

 とにかく、このノートは私には不要だ。

 今のオフホワイトな私には寧ろライフノートの方が似合うくらいだろ。

 

 ん?

 ライフノートってなんか良くね?

 Nice boat.と響き似てるし。

 

 確かまだあんまり使ってないノートが……あったあった。

 ……よし。

 これを今からLIFE NOTEと名付けよう。

 

 このノートに名前を書かれたヤツは、私に殺されるんじゃない。

 生かされてるんだ。

 デスノートに書けばいつでも殺せるけど、敢えて書かずにこっちに書いてやるんだからな。

 

 私の裁量で存在を許されてる憐れな愚民……フフ、ッフフ。

 

 よーし、じゃあ誰を書こうかな!

 

 やっぱり最初はゆうちゃんか。

 

 ゆうちゃんは生きててくれないと、私が困る。

 ゆうちゃんの匂いを嗅げない人生なんて想像もできない。

 

 成瀬優、と。

 

 次は……やっぱり身内か。

 お母さんがいないとごはん出て来ないし、お父さんいないと小遣いも消えるし。

 

 弟は……ま、一応書いといてやるか。

 慈悲深い出来た姉を持って幸せなヤツめ。

 

 身内と言えばきーちゃんもか。

 あの子がサイコ化した責任が私にもほんのちょっとだけあるからな……書いとこう。

 

 他には……やっぱあいつらか。

 最近じゃ一番、私と話してくれてる連中だしな。

 

 いなきゃいないでぼっちに戻るだけだけど、自ら進んでぼっちになっても滑稽なだけだし、仕方ないもんな!

 

 田村ゆり。

 田中真子。

 

 私がこのノートに名前書いた事知ったら、コイツらどう思うだろう?

 泣いて感動するか?

 ガチレズさんは感激の余り失神するかも?

 

 田村さん(あいつ)……はよくわからん。

 わからんけど、まあ友達だし、本人もそう言ってたし、やっぱりちょっとは喜んでくれるか?

 

 ふふふ……

 

 よーし!

 んじゃ次は……ピュアヤンキーはどうだ? 

 

 ヤンキーなんてこの世にいなくても誰も何も困らない気がするが……いや待て。

 底辺中の底辺がいなくなったら、私の価値が相対的に下がる気がする。

 

 私みたいに慎ましく生きる人間に物理的マウントとって恐怖とストレスで殺しにかかるカスみたいな人間でも、いるだけで役に立つ事だってあるんだな!

 私に存在を許されて良かったなヤンキー! おめでとう!

 

 吉田茉咲、と。

 魔裂の方がヤンキーっぽいのに。

 

 にしても、このメンツだとイヤでも修学旅行を思い出すな。

 あと一人同じ班にいたような……いや、確か4人だったからこれでいいのか。

 

 次はネモあたりか。

 あいつとは趣味合わないからなー……

 

 でも一時期、ネモに話しかけられてたから救われてたみたいなトコあるしな。

 

 それに万が一本当にアイツが声優になったら、イケメン声優を3人ばかし紹介して貰いたい。

 生かしておいて損はないか。

 

 ええと、あいつの名前どんな字だったっけ。

 ……もうネモでいいか?

 

 いや、せっかく本名で統一してるんだ。

 越えちゃいけないライン考えろよ。

 ここは意地でもフルネームで完遂だ。

 

 確か、苗字は根元だったよな。

 名前は……なんかアニメのキャラと同じだったような。

 

 何のアニメだったっけ。

 うーん……うーん……

 

 あっ、副部長だ!

 

 根元陽菜……よし、多分合ってる。

 

 長つながりで大事な人思い出した。

 生徒会長……元。

 

 今江恵美。

 

 ……いつかこの人にちゃんと『あの時はありがとうございました』って言える日が来るだろうか。

 なんとなくだけど、あの人は私なんかでも覚えててくれそうな気がする。

 

 私も覚えていよう。

 今はそれくらいしか出来ないけど……

 

 よし、こんなもんか。

 

 明日隕石がドバドバ降ってきてこの世が終わって、ここに名前書いた連中だけが生き残ったとしても、それなりにやって行けそうな気がする。

 そういう奴らが、今の私にはこれだけいるんだな。

 

 ……。

 

 よし、こんなとこかな。

 

 ……いや待て。

 もし本当にノアの箱船みたくそうなったら、ゆうちゃんから『もこっち、どうしてこみちゃんを書かなかったの!?』って責められる気が……!

 

 うーん、いなくてもいいんだけどなー。

 仕方ねーな。

 ゆうちゃんの優しさと私の心の異常な広さに救われたな、変態メガネ。

 

 こうなってくると、コオロギ一匹だけのさばらせておくワケにはいかない。

 弟の貞操がヤバイからな。

 抑止力になるよう、変態シスターズの妹も召喚しとくか。

 

 ん、でも妹の方の名前知らないな。

 自己紹介された気もするけど、どっちにしても字がわからん。

 二年の生徒の名前、どうやれば調べられるんだ?

 

 仕方ない、こいつは後回しにしよう。

 陰部ハンターなんて下の方にコッソリいるのがお似合いだ。

 

 でも名前書いたヤツらの人間関係にまで手を付けると、収集付かないな。

 ゆうちゃんが悲しまないようにするには、ゆうちゃんの両親とか学校の友達も書いておかないといけないし。

 いやでも学校の友達はいない方が、私がゆうちゃんを独占できるか?

 

 なんか探せば他にもいそうな気がしてきたぞ。

 川本さんとか、あの時のぼっち先輩とか、アニメ見せてくれたサラリーマンとか……

 

 他にも……うーん……

 

 

 

 

 ――――――――――――――――

 

 ――――――――

 

 ――――

 

 ――

 

 

 

 

「……あれ? 黒木さん寝てる?」

 

「うん、寝てる。ノート開いたまま寝てるね」

 

「え? これって……名前? 私とゆりの名前もあるね。何だろう?」

 

「えーと……多分、黒木さんって人の名前覚えるの苦手なんじゃない? だから書いて覚えてるとか」

 

「いや、それはないでしょ。失礼だよ」

 

「でもほら、黒木さんって結構」

 

「ゆり!」

 

「バカだし」

 

「止めたのに! 何でそういうことハッキリ言っちゃうかな、もう……」

 

「でも……」

 

「?」

 

「私達の名前、結構上の方だね。吉田さんも」

 

「ゆり、嬉しそう」

 

「別に。で、どうするの? 起こす?」

 

 ……何だ?

 ザワザワ声が聞こえるような……

 

「あっ、起きたね」

 

「おはよう、黒木さん。よく寝てたね」

 

 なんだ、こいつらか。

 あれ? なんでこいつらが私の部屋に……?

 ん?

 

「うおおおおっ!?」

 

「えっ、どうしたの急に」

 

「な、なんで私の……聖域に……」

 

 あっ違う、ここ教室だ。

 うわ……教室で寝てたのか。

 

 まるでやっすい青春マンガの一ページだな。

 自分に引くわー……

 

「黒木さん、教室のこと聖域って……」

 

「え、あ、違う! せ、聖域ってのは自分の部屋で……」

 

「あーそんなことだと思った。寝起きだと一瞬わからないかもね」

 

「うん、あるある」

 

 いや、ないから気遣わなくていいよガチレズさん。

 またくだらないことで無駄な羞恥ポイント稼いでしまった……

 

 ま、別にいいか、こいつらだし。

 

「それじゃ帰ろっか、黒木さん」

 

「あっうん」

 

 結局……今日もこれか。

 

 明日、あのデスノートに『過去の自分』とでも書いてみるか?

 それで何かが変わるわけでもないんだろうけどな……

 

 

 

 


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