修学旅行の宿で学校指定ジャージを着ていたことを後悔中のもこっち
パジャマパーティーでも開いて汚名返上しようかと画策中
「パジャマパーティー? したことないけど……ゆりもないよね?」
「うん」
お昼の時の話題にもなるし、思い切って聞いてみたはいいが……あっという間に終了してしまった。
クリスマスに友達と遊んだとか言ってたから、その流れでやってるのかと期待したのに……
「ちょっと面白そうだよね。一回くらいやってみたいかも」
「私はパス」
相変わらず陰キャらしい応対だな……
私に気を使って軽く乗ってくれたガチレズさんを見習え。
「黒木さん、パジャマパーティーに興味あるんだ?」
「あー……私のことじゃないんだけど、ちょっと友達が昨日やってたみたいで……どういう事してるのか気になったっていうか」
どっちかっていうと、高3にもなってやっていいイベントなのかを探るリサーチみたいなもんだけどな。
「あっ、もしかして成瀬さん? あの人可愛いし、パジャマ似合いそうな雰囲気だったよね」
「ゆうちゃんはそんなに子供っぽくないよ。男心を弄ぶ妖艶さも持ち合わせてるから」
「そ、そうなんだ。意外だね」
まあ、今はフリーだから小悪魔ゆうさんは封印中なんだろうが。
あの身体でお預けくらう男の心情考えたらホンマ泣けてくるで……
「……で、誘われたの?」
「え?」
「パジャマパーティー。その友達に誘われたんでしょ? 違うの? どうなの?」
な、なんか睨まれてるような気がするんだが……
さっきまで興味ゼロって感じだったのに、いきなりなんでそんなグイグイ来るの?
もしかしてさっき心の中で陰キャ弄りした時、うっかり顔に出してたか……?
「ゆ、ゆり。急にどうしたの?」
「別に。聞いてるだけだけど?」
ガチレズさんが気付いてないって事は、どうやら違うみたいだな。
まさか、こいつ……
「えーと……まあ、誘われたんだけどね。付き合い長いけどそういうのやった事ないし、今度一緒にやってみないかって」
「……」
口を噤んで俯いたぞ。
やっぱりな。
こいつ、自分も誘われるんじゃないかってビビってやがる!
でも気持ちはわかる。
陰キャにとって、トーク力が物を言うパジャマパーティーなんてどう足掻いても絶望でしかないからな……
ここは慈悲の心で安心させてやろう。
「でも心配しなくて大丈夫だよ。やる時は私とゆうちゃんの2人だけでやるから」
こう言っとけば身構える必要もなくなるだろう。
私も大人になったもんだ。
「……トイレ行ってくる」
「え? あ、う、うん」
……ビビり過ぎて膀胱がブルったか?
でもなんか声も暗かったような……あんまり安堵した様子じゃなかったな。
「もしかして、パジャマパーティーに嫌な思い出でもあるとか?」
「そんな話聞いた事なかったけど……」
ガチレズさんがそう言うんならコレも違うか。
もしかして……単にアレの日で機嫌悪いだけとか?
「黒木さん。もし本当にパーティーするなら、私とゆりもお邪魔したいんだけど……駄目かな」
「え? でもさっきパスって言ってなかった?」
「多分、本心は違うと思うな。親しくない人とだったら嫌かもしれないけど」
そ、そうなのか?
私があいつの立場だったらガチで嫌だと思うんだけどな……
「でもパジャマパーティーって具体的にどんな事するのかな? やった事ないからピンと来ないっていうか……」
「あー、実は私も……だから聞いてみたんだけど」
「そうだったんだ。やっぱり本当にパジャマ着て、少人数でお泊まり会みたいな感じなのかな?」
「多分。あとは……各々お菓子持参して、布団引いてガールズトークとか」
質問したつもりだったのに、いつの間にかディスカッション方式になってしまった。
パジャマパーティーって高3でやるのアリかな? → 無理だよね。じゃあお泊まりなしのパジャマパーティーならどう? → 開催。センスあるパジャマを披露して修学旅行の時のダサいジャージ姿を払拭
この流れを作ろうと思ってたんだが……なんか駄目っぽいな。
「ガールズトークっていうと、やっぱり恋バナ?」
「あはは……どうだろ」
ガチレズさんの口から『恋バナ』って聞くと、なんか全然違うモノに聞こえるな。
凄いねっとりしてそう。
「他には、テレビとか芸能人の話になっちゃうかな」
「無難にそんなところかな。誰も傷付かない話題がいいよね。一説によると、女同士で集まると大体悪口で盛り上がるらしいけど……それ自分の生活空間にせっせと地雷設置してるようなもんだから。自分で踏んで粉々になる未来しか見えないよね」 ゴホッ ゴホッ>
「く、黒木さん……? そ、そこまで言わなくてもいいんじゃないかな?」
「ただの一般論だよ」
そして自分への戒めでもある。
こんな時期に孤立はしたくないからな……かといって媚びるつもりもないけど。多少日和ってはいるが。
「あっ、ゆりお帰り。顔色悪かったけど大丈夫?」
「何もないけど、心配かけてごめん。黒木さんも」
「あっ うん」
心配したつもりはないんだが……いちいち言う必要もないか。
「それで、何の話してたの?」
「うん。パジャマパーティーって何するのかなって――――」
結局何の収穫も得られなかったが、一度こうやって話題にしとけば今後の布石にはなるだろう。
『あの時の~』って感じで誘いやすくなるからな。
一先ずはミッション01クリア、って事にしとこう。
「ねえ、さっき女子トイレの中で何かミシミシって音がして怖かったんだけど……こういうのって誰に言えばいいのかな」
「さあ? 担任でいいんじゃない?」
……なんか向こうの方で物騒な話してんな。
誰か下着でも引き裂いたのか?
ま、今の私には関係ないか――――
……ミッション01をクリアしたのはいいけど、02がサッパリ思い付かん。
家に帰る途中も、夕食の時も色々考えてみたけど、結局何も浮かんで来ないまま一日が終わろうとしている。
どうすれば、あいつらに私がダサくないと思って貰えるんだろう。
というか……私は本当にダサくないのか?
何か判断基準になりそうなものはないかな……スマホの中漁ってみるか。
ん?
これは……高校入学したての頃の写真か。
懐かしさよりも嫌な事ばかりが蘇るな……ロクな思い出がない。
この頃の私は、一人で映った写真が多い。
ゆうちゃんと映ったのも少しあるけど、殆どは仏頂面の私が無表情で立っているだけ。
……なんでこんな心霊写真みたいなの写したんだっけ?
ああ、そうか。
自分が可愛いかどうかを客観的に確認する為だった。
おっ、そうだ。
この頃の写真と遠足の時の写真をパソコンにコピーして、並べてみよう。
この2年ちょいで自分がどれだけ変わったかが一目でわかる。
自分の身体的な変化、というか成長は中々自覚できないからな。
どれどれ……
……あれ?
全然変わってないような……
おかしいな、1mmも変わってないぞ。
いや、身体的な成長はしてないって事くらいはわかってるんだ。
でもなんかこう、精神的な成長が表情とか姿勢とか服装に出てると思ったんだが……何にも変化が見当たらないのはどういう事だ?
あ……
なんか今、どうして高校のスタートダッシュに失敗したのかわかった気がする。
私はずっと、自己紹介で躓いたと思ってた。
でも違う。
その前にもう敗北は決まっていたんだ。
敗因は――――スカートの丈だ!
入学した頃から既に膝が隠れるくらい長い。
今ならわかる。
知り合いが増えて、自分とその他との違いを客観視するのが簡単になった今なら。
私だけが突出してスカートが長いという現実……!
それで身持ちの堅い女子だって思われて、近寄り難い雰囲気になってしまったんだ。
入学当時は特に何も考えずに、中学の頃と同じくらいでいいかと思っていたが……甘かった。
戦いは既に始まっていたんだ。
ゆうちゃんと違う学校になった所為で、事前に誰ともそういう話が出来なかったのが良くなかった。
それでも軌道修正するチャンスは何度かあったんだ。
ゆうちゃんと下着買いに行く時とか。
でも結局、『短いスカート=男に媚びてる』という今にして思えば浅はか……でもないけど柔軟性に欠いた価値観が邪魔して、そのまま継続。
今に至る。
って、もしかして私、最初からずっとクラスの連中にダサいって思われてたんじゃないか……!?
そうか、だから修学旅行のジャージ姿にもツッコミが一切なかったんだ!
『まあ黒木さんならあんなもんじゃない?』とか思われてたのか……
やっぱり私の不安は正しかった。
このままだとコオロギやヤンキーや陰キャにまでダサい奴と思われたまま卒業するハメになるぞ。
他はまだしも、あいつらにだけは嘗められる訳にはいかない。
もう残された学校生活だってそう長くないんだ。
受験シーズンに入る前に汚名を返上しないと。
パジャマパーティー……本気で開いてみるか?
今更制服のスカートの長さを調整したところで他と同じになるだけだし、パジャマパーティーにかこつけて突出したセンスの良さをアピールするしか挽回のチャンスはない気がする。
よし、早速ゆうちゃんに連絡だ。
[前に言ってたパジャマパーティー、今週末に開けないかな?ちょっと興味湧いてきた]
……お、返事来た。
[ホントに!?やったー!] [週末空けておくね。こみちゃんはもう誘った?]
[いや、まだだよ] [それと他に何人か誘っていいかな?]『クラスメイトなんだけど]
[もちろんいいよー] [もしかして前に紹介してもらった2人?]
[うん] [あともう1人ヤンキーも呼ぶ予定]
……返信止まった。
ヤンキーはやっぱマズかったか。
ネモは別に呼ばなくてもいいな。
あいつにはダサいって思われててもそんなに腹立たないし、これ以上カオスにするのもな。
1年の頃から大勢とつるんでるし、パジャマパーティーの経験もありそうだし……私主催のパーティーをそれと比較されるのも癪だ。
[もこっち、大丈夫?] [脅されたりとかしてないよね?]
あっ、いつの間にか返信が来てた。
[全然そんなことないよ] [ヤンキーはヤンキーでもネズミーのキャラ褒めとけばすぐデレるチョロヤンだから]
[そうなんだ] [よくわからないけど、もこっちがそう言うなら大丈夫だよね]
取り敢えず話はまとまったか。
ゆうちゃんに他の連中を誘わせる訳にはいかないから、それは私がやるとして……
[会場はゆうちゃんの家でいい?]
[え?私の家?] [もこっちの家じゃなくていいの?]
[今月は宗教上の理由でこみさんを家にあげられないんだ]
[そうなんだ] [それじゃお母さんと相談してみるね]
さすがゆうちゃん、言ってみるもんだ。
コオロギ入れたくないのはガチだけど、他の連中に関してもそう何回も気安く家に呼んだら軽い女って思われそうだしな……
さて、これでミッション02は終了。
03は招待状の制作と配布だな。
それが終わったら、いよいよパジャマの買い出しだ。
今のやつは人に見せる前提で買ってないから、単に着やすいだけでデザイン性は皆無。
私のファッションセンスが炸裂するような、それでいて大人の色気というか妖艶さを醸し出すパジャマを見つけよう。
忙しくなってきたぞ――――
招待状
拝啓
皆様におかれましてはますますのご清祥のこととお慶び申し上げます。
この度は私の友達の家でパーティーを開くことになったんで、よかったら来てください。
日時 今週末の土曜(日帰り)
場所 成瀬優 宅(主催者の親友)
会費 無料(各自お菓子と飲み物持参)
その他 パジャマ必須、必ず持参すること
お手数ですが、金曜までに出席するかどうか連絡をください。
主催者 黒木智子
敬具
……おかしいな。
4人に招待状送った筈だが、誰からも出席するって連絡がないぞ?
明日にはもう土曜が来るんだが、どうなんだこの状況?
やっぱり今時ペーパーで机の上に置くとか古風すぎたか?
素直にLINEで送っておくべきだったか……
それとも、まさか企画倒れ……?
遠足でお腹いっぱいになったから、しばらくそういうイベント的なのはもういいや状態?
確かに色々あったけど……
「黒木さん」
おっ! 遂に来たか!
しかも田んぼーズ2人同時。
ガチレズさんが参加したいとか言ってたし、こいつらは正直大丈夫だろうってタカ括ってたんだよな……よかった。
「せっかく招待状貰ったんだけど……ごめんなさい! この日は用事があって行けないの!」
「……え?」
「私も土曜は法事で日中潰れるから……」
う、嘘だろ……?
そんなの聞いてない……
「わ、私……前にあんな事言っておいて、本当になんて言ってお詫びすればいいか……」
「い、いや……! いいよ、用事あるなら仕方ないよ。こんなの急に言い出した私が悪いから……はは……」
今にも吐きそうなガチレズさんを見てたら、さすがに責める気にはなれない。
法事も本人の責任じゃないしなー……
「本当、ごめんね。また誘ってね」
「夜だけならお邪魔できるけど……日帰りなら時間的に難しいだろうし、今回は遠慮しとくね」
「あっ うん。ホント気にしないで。ははは……」
……やっちまった。
学食に誘った時と同じだ。
もっと日程に余裕もって誘っとけばよかったのに……
あの2人が不在となると、ゆうちゃん、こみカス、ヤンキーと私の4人か。
ヤンキーだけ浮いてるよな……
まあ、でも仕方ない。
せめてこいつらにだけでも、私がダサくないってわかって貰うと――――
「おい」
「ひっ!?」
「なんつー声出してんだよ……」
……んだよ、コオロギかよ。一瞬ヤンキーかと思ったじゃねーか。
「これ、成瀬さんも参加するんだよな?」
「あ? 見りゃわかるだろ。ゆうちゃんの家でやるのにゆうちゃん不参加とかあり得ねーだろが」
「いちいちムカつく言い方だな……まあいいけど。だったら成瀬さんに謝っといてくれよ」
……は?
「お前……参加しないの? なんで?」
「……」
な、なんだよ急に顔寄せてきて。気持ち悪りーな……
「今、ちょっと理由があって学校以外には外出禁止中なんだよ」
「はあ? なんで?」
「う、うるせーな、色々あるんだよ。とにかくそういう事だから、成瀬さんにはくれぐれもよろしく言っておいてよ」
コオロギにまで見放された……だと……?
そんなにこの企画終わってるのか……?
「あとお前、知恵袋……」
「あ?」
「いや、何でもない。とにかくそういう事。招待状は返しとくから」
コオロギがゴキブリみたいにカサカサ逃げていきやがった。
どうすんだよ……もう完全に企画として破綻してるだろこれ。
もうこうなったらヤンキーにも断り入れて、ゆうちゃんと2人でゆうもこtrick劇場版でも公開するか?
それならそれで、ゆうちゃんとの思い出作りになるし……
うーん……招待状の文面がマズかったのか?
あんまり馴れ馴れしくならないように堅くし過ぎたのが裏目に出たか……
紙質ももう少し良いのにすれば……っと、落としちまった。
このスルッと抜けていく感じがもうアレだよな。
あーあー、あんな遠くまで……
おっ、誰か拾ってくれたみたいだ。
「ふーん……こういうのやるんだー。意外ー」
キバ子……!?
「これ土曜にすんの? パジャマ持参って、パジャマパーティーって事?」
「へ? ま、まあそうだけど……」
「私も参加していいやつ? これ」
「は……?」
「……」
な……なんちゅー目で見やがるんだ。
捨てられた子犬が拾われたその日の夜にまた捨てられたみたいな怯えた目してやがる。
っていうか……マジか?
こいつなんなん?
前に私がコケた時、聞こえよがしに『うける』とかぬかしてた奴だろ……?
どのツラ下げて……
でも、待てよ。
こいつに私のファッションセンス認めさせたら、頼みもしないのに声を大にしてクラス中に喧伝してくれそうだな。
利用価値はある……か?
どうせ一度死んだ企画だし……
「べ、別にいいけど」
「! マジで!? 週末、週末の土曜ね! 場所は後で教えて! じゃ!」
……なんか光の速さで離れて行ったな。
私と喋ってる所を見られたくないって強い意思を感じるんだが。
まあキバ子の思惑とかどうでもいい。
私はこの機会にダサい黒木さん疑惑を払拭できれば、それでいいんだ――――
「おい」
「ひっ!?」
「なんで毎回ビビリ声あげんだよ」
今度はヤンキーかよ……
つーか今日になって全員来るとか、どんだけ駆け込み好きなんだよ。寺か私は。
「これ、何時までやるんだ? 泊まりじゃないんだよな?」
「え? そうだけど……多分夕食前には解散するんじゃない?」
「お菓子ってのは幾らまで使っていいんだ? 300円か?」
「いや、遠足じゃないんだから幾らでもいいけど」
「ん」
いや、『ん』て言われても……って、もう離れていきやがった。
あれ……?
この机の上の、ヤンキーに渡した招待状か?
いつの間に置いたんだ。
しかも乱暴な割に達筆っぽい字で『出席』って書いてある……マジか。
もしかして、コワリイッチのアレをパジャマパーティーで再現する気か?
なんかラジカセ担いで来て『これ一緒に歌うぞ』とか強要されそうなんだが……
……え?
あれ?
本当にこのメンツでパジャマパーティーやんの?
「南さん、どうしたんだろ?」
「さあ……遠足の時のインスタ見た? 最初の方めっちゃワクワクして画像あげてたのに、後半全然あげてないの」
「なんかカワいそーだよね。最近元気ないし」
可哀想なのは私だろ畜生が!
えっ、これどういう惨状?
おかしいな……なんでこうなった……?
……そんなこんなで、気付いたらもう放課後になっていた。
半ば放心状態だったから、午後の授業とか全然覚えてない。
高3なのにそれでいいんだろうか……
「黒木さん、帰る?」
「あっ うん」
ま、そういう日もあるか。
明日から頑張ろう……って、明日土曜日か。
最近、すっかり魔の土曜日が定着してる気がするが……今回は格別だな。
キバ子が私に接触してきた時点で何か企んでるのは明白だし、ヤンキーの暴言からゆうちゃんを守る責務もある。
気合い入れないと……
にしても、キバ子ってインスタやってたのか。
まあ、やってそうな顔だが。
……っていうか、私もインスタやればよかったんじゃね?
いちいち人集めなくても、センスある私服とかパジャマとか着てインスタにアップすれば『いいね』いっぱい貰えて、それで万事解決だったんじゃ……
「ゆり、黒木さん。私ちょっとトイレ行って来るから先行ってて」
「うん」
ガチレズさん、今日はずっと沈んだ顔してたな……なんか悪い事したな。
なんとなく『黒木さんがせっかく勇気を出して誘ってくれたのに』的な罪悪感がヒシヒシ伝わってくるから余計に辛い。
そういう意味では、まだまだ大分距離がある気はする。
でもそれでいいんだと思う。
そんなに付き合いが長い訳じゃないし、そもそも私ノーマルだし、これくらいの距離感でちょうどいいんだろう。
「……」
「何?」
「あっ、いや何でも」
こいつは……どうなんだ?
遠足の時は妙に不安定だったっていうか、どういう距離感で接して来てるのか全然わからなかったけど、今は少し落ち着いてるか?
私も自分が陰キャって自覚は一応あるけど、こいつの場合非オタの陰キャだから重ならない部分も多い。
っていうか、非オタの陰キャってどういう生態なのか謎だよな。
例えば、最近のオタ系陰キャあるあるとして色んなアニメやラノベで描写される、洋服店の店員にビビってキョドるシーン。
あれってこいつも該当するんだろうか?
私よりこいつがファッションセンスあるとは思わないけど、向こうはどう思ってるのやら……
「パジャマパーティー、他にも招待状出したの?」
「あっ、うん。ヤ……吉田さんと、同じクラスの小宮山ってメガネに。吉田さんは来るって」
「え? 吉田さんって吉田さんだよね? 吉田さんがパジャマパーティーに行くの? なんで?」
取り乱してるな……気持ちはわかるけど。
「私もよくわからんけど、なんとなくエレクトリカルパレードをエンドレスで歌わされそうな気がする。セリフのところ全部歌詞カードみたいなの用意してて……」
「……」
あっ、想像してるなこれ。
「やっぱり私も行こうかな……」
「えっ 正気かよ!? エレクトリカルパレードをエンドレスだぞ!?」
「それ確定じゃないでしょ。それに、吉田さんも来るんなら……」
「いや、っていうか法事は?」
「会食の途中で具合悪くなるフリすれば、3時くらいには帰って来られるかもしれないし」
急に乗り気になってるけど、ちょっとマズいぞ。
ゆうちゃんの家が修羅場になるのは避けたい。
この際、キバ子が来るって本当の事言うか?
「でもやっぱり無理かな……どうしようかな……」
「無理しなくてもいいって。親戚付き合いって大事にしとかないと。ほら、お年玉貰えるのって今年が最後かもしれないし」
「……」
瞳孔が開いてる!?
『私が参加するの嫌がってない? 先に招待状送っておいてその言い草は何?』って言いたいけど言えないって感じのツラだ……!
こういう時、ガチレズさんがいないと不便だな……
「……」
お、戻って来た?
でも無言で横に並ぶって、ガチレズさんらしくないような……
「……」
ネモ!?
え、何この接近の仕方。
機嫌悪いの? なんなの?
「……」
しかも終始無言だし!
っていうか瞳孔開いた目でずっとこっち睨んでるし!
「……」「……」
えっ何!? 私こいつらに何かした!?
みんな揃って生理なの……!?
次回に続きます!