カオスなメンバーでのパジャマパーティーが始まるかと思いきや、キバ子が早々に離脱した
……まるで夢みたいな出来事だったけど、一先ず状況を整理しよう。
結局キバ子は逃げ切ったらしく、戦果なしで帰ってきたヤンキーは不機嫌オーラを撒き散らしながら戻って来た。
そんな状態でゆうちゃんに会わせるのは危険だから、なんとか言いくるめて脱衣所へ連れて行って着替えて来るよう
今に至る。
それで頭が冷えるかどうかはわからないが、我ながら冷静で的確な判断だった。
マジ手負いの野獣みたいな目してやがったからな……さっきのヤンキー。
「……」
お、着替え終わったか。
案の定、コワリィッチのパジャマだったな……
見事にピンポイントで地雷踏み抜いたなキバ子。
完全に自業自得だが、ちょっと同情を禁じ得ないぞ。
「んだよ。あたしがこういうの着ちゃ駄目なのか?」
「え? い、いやそんなことないよ、うん」
これ以上口を開くとロクなことにならないし自重しよう。
キバ子なんかの二の舞になってたまるか。
「それじゃ、ゆうちゃんの部屋に行くから」
「お前の親友なんだよな? やっぱ性格ひん曲がってんのか?」
どういう意味だよ!
ヤンキーに言われたくねーぞ!?
「いや、寧ろ天然っていうか、ぽわーっとしてるっていうか……」
「ふーん」
つ、疲れる……
ここにきてガチレズさんの不在が物凄く痛手に感じてきた。
ガチレズさんがいれば、キバ子だろうとヤンキーだろうと全部面倒見てくれただろからな……ホンマ大した女子やで。
「着いた。ここ」
「おう」
万が一、こいつがゆうちゃんに悪態吐いたり殴りかかろうとしたりしたら、私がゆうちゃんを守らないと……
大丈夫、ビビるな。
もう一通りの暴力も威圧も受けてきたんだ、免疫とか抗体が出来てる筈だ。
私が……私がゆうちゃんを……!
「ちーす。えーと……」
「わっ、可愛い! それコワリィッチだよね?」
「あっ、ああ……」
「こんなパジャマあるんだね。可愛いなー」
「そっか? お前すげー良い奴だな」
……出会って5秒で意気投合だと!?
「秋にネズミー行くんだけど、お前も一緒に行くか?」
「え? でも秋って受験シーズンじゃ……」
「1日くらい息抜きにいいだろ? 別に来年でもいいけどよ、ネズミーのハロウィンイベントは毎年違ってて……」
おいこらヤンキー! 誰に断って私のゆうを勝手に口説いてやがる……!?
ゆうもゆうでこんな見た目ヤリ○ンっぽいヤンキーに愛想振りまきやがって……!
「ん? 何ガンくれてんだ?」
「へ? い、いや別に……」
「つーかお前も聞いとけよ。お前も行くんだからな」
「……は? 本気で秋に行くの?」
「あ? その為に今日集まったんだろ? お前のその格好、どう見てもハロウィンのコスプレじゃねーか」
違げーよ!
くそっ、駄目だ……こいつには私の繊細で緻密なセンスが一切理解できてない。
こんなネズミー馬鹿ヤンキーにわかって貰おうと思った私が馬鹿だった。
まあ、学校指定ジャージ女からハロウィンコスプレ女になっただけマシか。
別の意味で悪化した気もするけど、取り敢えずよしとしよう。
となると……見返す相手はもう
なんか『別にどうでもいいよ』って目で見られる未来が見えるような……
作戦変更だ。
確かにこのパジャマはコスプレっぽい要素もあるし、予備のに着替えよう。
予備、持ってきててよかった……
ドサドサドサ>
ん……? 何だ?
「わっ、これ全部ネズミーのガイドブック?」
「ああ。こっちは円盤な。一日で全部は無理だから、今日消化できなかった分は貸してやる」
……こいつネズミーの生みの親の隠し子か何かなの?
「で、でも2時間じゃ大して消化出来ないっていうか、それ以外何も出来なくなるんじゃ……」
「あたしは今日暇だし3時過ぎても帰らねーぞ。夕方までいる」
「え!?」
「なんだ!? イヤなのかてめー! ああ!?」
「い、いや……」
お前は怪我でやさぐれて不良になった3P好きのバスケ部員か!
やっぱヤンキーはヤンキー同士シンクロするんだな……
「まずは回るコースを決めておこう。色々チェックポイントがあるんだが、最初は――――」
これが今から何時間も続くのか?
勘弁してくれよ……
「へぇー、凄いね。食べる所もこんなにいっぱいあるんだ。このパンケーキ美味しそう」
……ゆうちゃんが楽しそうなのが唯一の救いだな。
仕方ない、暫く付き合ってやるか――――
「――――で、ハロウィンの狙い目は3連休の後の13、14日で……」
ピンポーン>
……ん?
いつの間にか3時過ぎてるな。
「私が……」
「いいよ、ゆうちゃんはここにいて。私が幹事みたいなもんだし」
もし
玄関で待ち構えよう。
……まさかキバ子が戻って来たんじゃないよな?
っていうか、あいつが本当にストーカーだったら、この家の近辺にまだいるんじゃないか?
いや、それどころか庭で隠れて中の動向を探ってるとか……いやいや、それはないか。
「開いてるからどうぞー」
さて、誰だ――――
「お邪魔しまーす」
おっ、ネモか。
ネモなら別にパジャマで見返さなくてもいいか……
「……クロ、それ何?」
「え? パジャマだけど……パジャマパーティーだし」
「パジャマで迷彩って……なくない?」
……マジで?
こんなにカッコいいのに!?
「まあ、でもクロの雰囲気には結構合ってるかもね。で、今日はサバゲーするの?」
「しねーよ。サバゲー編とか地雷じゃん。それまでの人気が一瞬で吹っ飛ぶくらい」
「ごめん、そのネタちょっとわかんない」
ネタってわかってくれるだけで十分だけどな。
「でもよかったー。私だけ最初呼ばれてなかったから、嫌々って感じの顔で迎えられるか無視されるって思ってた」
「だから何度も説明しただろ……まだ根に持ってんのかよ」
「だって根元だし?」
面白くねーよ……ってかずっと引きずりそうだなこの件。
ネモってカラッとしてそうで結構ドロっとしてるトコあるからな……陽キャの中に陰キャ飼ってるっていうか……
「それで、私あがっていいんだよね?」
「当たり前だろ。早く着替えろよ……」
「はーい」
これで残るは
元々来られるかどうかわからないって言ってたし、LINEで確認しておくかな。
ピコピコ>
……っと、マジか。
どんな以心伝心だよ。
[やっと抜けられた] [これから行くから]
もうすぐ来るのか。
どうしようかな……この迷彩より最初の方がウケがいいかな。
悩むな……
[ちょっといいかな]
ん? ガチレズさん?
[私の代わりにうっちーが行くことになってるんだけど、もう着いた?]
……え? なんで?
[いや来てないけど] [いつそんな話になったの?]
[昨日廊下でバッタリ会って] [黒木さんのパジャマパーティーに行けないって話したら、明日たまたま暇だから代わりに行くって言ってくれて] [驚かせたいから当日まで黙っててって]
何その無意味なドッキリ……
あいつって表情も殆と変わらないし、何考えてるのかサッパリわからんな。
[着いてないなら、もしかしたら迷ってるのかも] [ちょっと連絡入れてみるね]
[あっうんお願い]
……まあ、殆ど別行動だったとはいえ絵文字も一応修学旅行組だし、リベンジの対象ではあるのか。
別にあいつを見返したいとかダサいと思われたくないとかはないし、クラスも違うから誘おうとも思わなかったが……
[やっぱり迷ってるって] [でも黒木さんには言うなって] [どうしよう?]
いや、もう言ってるし……そもそもそこまで秘密にしたい理由が謎過ぎるんだが。
キョロ充特有の謎プライドか?
[アプリとか使ってないの?] [そういうの私より詳しそうだけど]
[あんまり知らない場所とか歩いた事ないのかも]
どんなお嬢様だよ……いやあいつの家柄とか知らんけど。
[こっちで家の近所を探してみる]
[そうして貰える?] [なんかごめんね]
ガチレズさん、結局この場にいなくても誰かの面倒見るハメになるのか。
もうそういう星の下に生まれたとしか思えんな……
[ゆりも行く途中でうっちー見かけたら声かけてあげてね]
……全然返信がない。
移動中か?
[ん]
散々溜めて一文字かよ。これどういう感情? 嫌々なの?
[とにかく今から探してみる。見つかったら報告する]
[お願い]
……さて、取り敢えずそういう事になった。
今ゆうちゃんの部屋に帰っても、ヤンキー先生のネズミー講座の続き聞かされるだけだし、絵文字を探してた方がマシかもしれん。
「LINE? 誰から?」
ネモ、着替え終わったのか。
修学旅行の時に着てたパーカーじゃなくて、普通にZ○Z○T○WNとかに売ってそうなパジャマだな。
まあ、そりゃ似合うわな。私とは方向性が違うが……
「えっと、実は――――」
サクッと説明。
「この辺、結構路地が多かったもんね。私も行こっか?」
「また着替えるのが面倒じゃないなら頼む」
「このままの方がよくない? 遠目からでもパジャマってわかれば、向こうも見つけやすいだろうし」
それはわかるけど、羞恥心っていう巨大な壁がだな……
「あ、でもクロの格好だとパジャマってわからないか」
こいつ……ここでケンカ売ってくるか。上等だコラ。
「いや、余裕でわかるね。だってこれパジャマだし。迷彩模様だってパジャマっぽく大人しいし」
「なら賭ける? もし内さんがわからなかったら、クロは今日一日私の言う事を聞く」
「逆の場合は、そっちが言う事聞くんだな?」
絵文字には悪いが、ちょっと面白くなってきたぞ。
ゆうちゃんに断りのLINE入れて……
[それじゃみんなで探そっか]
ああ、ゆうちゃんならそう言うよな。
ヤンキーは嫌々だろうけど……
「まぁいいけどよ。あいつには前に美味い菓子貰ったし」
……そうでもなかった。
ゆうちゃんがネズミー話を真面目に聞いてくれたおかげで機嫌良いのかニッコニコじゃねーか。
さすがヤンキー、義理堅い上に喜怒哀楽の差がえげつない。
結局4人全員で捜索か。
割と大事になってきたな。
「私こっち見てくるから、クロはそっちお願い」
「わかった」
この辺の地理は全然詳しくないから、私も迷わないよう気をつけないと。
ってか、心ならずもサバゲーっぽい事やってんな。
パジャマ着た女子高生が同級生を探して住宅街を練り歩く……
どんなパジャマパーティーだよ。
私のオシャレセンスの周知とか完全に吹き飛んじゃったし。
……なんだろう。
ちょっと楽しい。
これから私が年を食って、高校生活を振り返った時、この日の事を思い出すだろうか。
卒業式や修学旅行や遠足は多分、一生覚えてるだろう。
学校の行事ってのはそれだけで記憶に残りやすいし、色んな思い出がたくさん詰まってるしな。
今日みたいな一日はすぐ忘れていくんだろうか?
……まあ忘れるだろうな。
中身スカスカだし、卒業まで覚えていられるかどうかも怪しい。
でも、どうしてだろう。
どうせ後で思い出しもしないような、こんな馬鹿みたいな一日を少しでも多く作れたら――――そう思ってる。
ちょっとずつ物事に冷めていくドライな自分がいる。
これまで求めていたものや欲しかったものが要らなくなって、一喜一憂しなくなった自分がいる。
でも、生きる事に飽きた訳じゃないんだな。
ずっと渇いてた所がいつの間にか潤ってて、実感がないのかもしれない。
それがまた干涸らびるのが怖くて……心が強張ってるのかもしれない。
私は――――
「なんで!?」
「わっ!?」
び、ビビッた……え? 何? 誰?
……絵文字?
「私を探してくれてたんでしょ!? どうして無視するの!? 来るの黙ってたから怒ってるの!?」
「い、いや……違くて……考え事してて気付かなかっただけで……」
まさかこんなに早く見つかるとは……物思いに耽る暇もないな。
っていうか、え? 泣いてんの?
「えっと、無視とかじゃないから……その……」
「……わかった。く、黒木がそう言うなら……」
随分物わかりいいな。逆に不気味なんだが……
「それ……パジャマなんでしょ? パジャマ着替える時間も惜しんで探してくれたんでしょ? だったらいい……」
なんか勝手にいいように解釈してくれたけど、否定するほどの事でもないし、黙っておくか。
っていうか……こいつ今パジャマって言った? 言ったよな?
「えっと、今の後でもう一回証言して貰っていい?」
「え?」
「ネモ……根元さんの前でさっきと同じ事言ってくれるだけでいいから。できれば『どう? 参った?』くらいの感じで堂々と」
「え? え? あ……あああぁぁ……」
その後(迷子になった恥ずかしさからか)めちゃくちゃ真っ赤になって震え出した絵文字を連れてゆうちゃんの家へ戻った。
「遅くなってごめん……あれ? 吉田さん寝てる?」
「ゆりちゃん久し振りー。まこちゃんも来られたら良かったのにね」
「あっ うん。来たがってた」
4時回ったところでやっと全員集合か。
つっても、ヤンキーは散々ネズミーゴリ推しした挙げ句に勝手に疲れて寝るし、絵文字はネモに証言した直後に倒れて別室で寝てるし……実質最初に予定してた夕方の部のメンバーになった訳だが。
「あれ? 2人もう知り合い? なんだー……」
拍子抜けしたって感じの顔だな、ネモ。
にしても、ネモもあっという間にゆうちゃんと打ち解けたな。
ヤンキーもそうだし、
「それでクロ、私に何を命令するのかな?」
「いや、今は別に……」
「根元さんってもこっちのことクロって呼ぶんだ。とっても仲良しさんなんだね」
あっ、ゆうちゃん……もしかしてヤキモチ焼いてるな?
でも寧ろ嬉しそうな顔してるけど……
「ううん。だってクロ、私のことパーティーに招待してくれなかったし……」
またかよ!
こいつまさかずっとこのネタで私をいびるつもりじゃないだろな……!?
「さっきの賭けの『なんでも言うこと聞く』ってやつ今使うぞ。今日はもうそのネタ禁止な」
「あっ、やっぱり嫌だった? じゃあそろそろ止めよっかな」
なんか微妙に誘導された気がしなくもないけど、別にいいか。
っていうか
さっきからずっと一人だけ私服のままなんだが……
「パジャマは着ないの?」
「えっと……持ってきてない」
「へ? なんで?」
「法事から直で来たから」
……なんか喋りながらネモの方チラチラ見てるな。
ああ、そういう事か。
さてはこいつ、自分のパジャマに自信がないんだな?
ネモと比較されたくないんだろうな。
いかにも陰キャの考えそうな事だ。
……それが手に取るようにわかる私もアレだが。
「だったら私の貸そうか? 二着持ってきてるから」
「え? でも迷彩はちょっと」
「もう一着のは迷彩じゃないから」
「だったら……貸して貰っていい?」
「はい。この中入ってるから。脱衣所はこっち」
意外とすんなり受け入れたな。
なんか部屋を出る寸前に見えたネモが真顔だったのが気になるが……
私はこのパーティーの幹事だからな。
パジャマじゃない奴が混じるのは幹事の名折れだ。
「……」
お、着替え終わったか。
暗殺者風ナイトウェア、結構似合ってるな。
「これ……本当にパジャマ?」
「そうだけど。何か変?」
「……私を陥れようとしてない?」
どういう意味だ!?
どいつもこいつも……どうしてこのカッコ良さが理解できないんだ!
「言っとくけど、それ私の自信の一品だからな。結構高かったし。嫌なら着なくてもいいけど?」
「嫌とは言ってないけど……じゃあ、黒木さんを信じるから」
だからどういう意味だよ!?
もしかして、自分が笑い物にされようとしてるとか思ってんのか?
これだから陰キャは……自意識過剰なんだよいちいち。
……おかしいな、なんか自分の言葉が胸に刺さるんだが。
「戻ろっか」
「あっ うん」
こいつも絵文字ほどじゃないけど、表情が乏しいから感情があんまりハッキリ読めないんだよな。
本当は来たくなかったけど、無理して私に合わせた……とかじゃなきゃいいんだが。
「お待たせ。着替えさせてきたよ」
「わあっ、ゆりちゃんカッコいい! もこっちと同じくらい似合ってる」
「パジャマっぽくはないけど、雰囲気出てて良い感じー」
「……」
さすがリア充のツートップ、しっかり空気読んでくれたか。
フードで顔の半分が覆われてるからハッキリとはわからんけど、少し照れてるっぽいな。
色々あったけど、これでどうにか主催者としての責任は果たせたかな……
疲れた。
もう二度とこんな企画は立てないようにしよう。
「それで、これからどうする? パジャマパーディーだし恋バナとかしとく?」
おいこらネモ!?
せっかく平和に終わりそうだったのに何ぶっ込んでんだよ!
このメンツで恋バナとか……どう考えても無理だろ?
私とこいつの陰キャ組は論外だし、ゆうちゃんのは結果的に失恋だし……
「そ、そういうのはちょっと……ねぇ?」
「え? あ、う、うん……」
もっとしっかり断れよ!
幾ら空気が読めても陽キャは陽キャ、ガツンと言わないと陰キャの気持ちがわからない事だってあるんだぞ!?
「まあ、そんな事言い出しといて私も別にないんだけどね。あはは」
だったら言い出すなよ!
なんなんこいつ……もしかしてこれ復讐?
直接言うのを封印したから、間接的に恨み晴らしてる?
「だから、私の友達の話なんだけど」
……なんだ、自分から率先して話題提供してあげるって事か。
心臓に悪いな……
「その友達にはね、高校に上がる前に気になる人がいたんだ。ちょっと変わってるっていうか……その友達と違って陽気で気さくな人。仮に『圭君』って呼ぶね」
って事は、ネモの友達は陰気で人見知りなのか。
「その友達、圭君と仲良くなりたくて、色々頑張ったんだって。髪も明るい色にして、意識も変えて……まあ、高校デビューってやつ?」
私もそれやろうとしたんだけどな。失敗したが……
「それは割と上手くいって、クラスの中でも特に明るいグループで上手くやれてたんだけど……肝心の圭君とは全然仲良くなれなかったみたい」
「えっ、どうして? 圭君はそのグループじゃなかったの?」
ゆうちゃん、聞き上手だな。
そりゃ彼氏なんて余裕で出来ますわ。
「全然。っていうか入学してからずーっと一人。最初は孤高の存在とか思ったけど、ただのぼっちらしくて」
それは痛いな……どうせ自分がクラス一面白い奴って勘違いして、スベって立ち直れなくなったんだろな。
どこかで聞いた事ある話だけど、気の所為だろう。
「それで、どうなったの?」
「2年になっても同じクラスだったから、勇気出して話し掛けてみたんだけど、中々距離は縮まらなくて。その友達もグループで楽しくやれてたし、圭君の事はもう諦めようかなって思ってたみたい」
「あっ、じゃあ違ったんだ」
「うん。偶々その圭君とグループのみんなで話する機会があったんだけど、その時に圭君が友達の事助けてくれて。普段そういう事全然しそうにない人なのに」
「わぁー、なんかカッコいいね」
「だよね。しかも圭君、話してみるとその友達と趣味が一緒だったんだって。なんとなくそんな気はしてたみたいだけど」
「運命だね」
……そうか?
趣味が一緒でも嗜好がバラバラって事もあるけどな。私とネモみたく。
「で、やっぱりこの人と向き合っていこうって思った……ってお話でした」
「あれ? もうおしまい? その後二人はどうなったの?」
「少しずつ距離が縮まって、今は結構良い感じみたい」
「上手くいくといいね」
「あはは。そうだね」
ゆうちゃんは楽しそうだけど、私には何にも響かない恋バナだったな……
なんかもうちょっと、ドス黒い人間の感情が垣間見える話の方が好みだな。
「田村さんは、友達のそういう話とかない?」
「あるけど……」
え!?
嘘だろ!?
まさかガチレズさんとのガチな話をここでする気か……?
「真子とは違う子の話」
「あ、ああ……そう」
っていうか、他に友達いたのかよ。意外過ぎてとても信じられん。
「その子は修学旅行である人と初めて面識持って……それから話をするようになったんだけど」
……ん?
「お昼食べてる時に変な事言ってきたり、バレンタインのチョコ作る時に変な形にしたり、友達の下着にケチつけたりする変な人なんだけど、卒業式の時に先輩との別れを悲しんだりするようなところもあって……」
「……それどう考えても私なんだが」
「だから、真子とは違う子の話って言ったけど?」
「恋バナどこ行ったんだよ!」
「恋バナするなんて一言も言ってないし」
何ィ!?
「そう言えばそうだね。私は恋バナって前置きしたけど、田村さんに振った時も『友達のそういう話』ってしか言ってないし」
くそっ、ネモまでグルになりやがって……
まさかこいつに一杯食わされるとは……
「えへへ……仲良いね三人とも。よかった、もこっちが楽しそうで」
「ゆうちゃんもいるからだよ」
「あ……う、うん!」
……ま、いっか。
「……ん? なんだ? あたし寝てたのか……?」
「あっ吉田さん。おはよ」
「あ? ああ……来てたのか」
ヤンキーも起きてきたし、時間的にもそろそろお開きだな。
絵文字はタクシーで帰すか。当然着払いで。
「それじゃ、時間も時間だしそろそろ……」
「成瀬さん、クロのこと『もこっち』って呼んでるんだよね。なんで『もこっち』だったの?」
「え? もこっちはもこっちって感じじゃない?」
「えー、クロはクロだよー。クロって黒猫っぽいトコあるでしょ? 田村さんはどっちがぽいって思う?」
「……………………」
「答えないんかーい!」「ふふふ」
なんか三人でいつの間にかガールズトーク始めてるんだが……
しかも主催者のネタで盛り上がってるのに主催者抜きで。
……これどういう事?
「あっくそ、寝た所為で予定してた時間までに全然話がまとまってねーな。夜まで延長だな」
「……へ?」
――――結局この日は、ゆうちゃんの家で夕飯を食べて、夜までガールズトークとネズミーの話で延々と盛り上がった。
ゆうちゃんが家でパーティーするって親に言ってたらしくて、最初から大人数を想定した献立にしていたらしい。
最後の最後で幹事失格の烙印を押された気もするが……幸い夕飯前には絵文字も復活したし、暗殺者風パジャマには一定の評価が得られたし、結果的には良いパーティーになって良かった。
何か忘れてるような気もするが……
ピコピコ>
[南さんから「まこっち助けて」ってLINE来てたみたいなんだけど] [何があったの?]
「10分で読めるわたモテSS」をお読み頂き、ありがとうございました!
今後の投稿方針に関しましては「活動報告」にてご報告していますので、そちらをご参照頂ければ幸いです。