10分で読めるわたモテSS   作:umadura

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モテないしあやまる

 

 

 

 

 ――――時代は激動の瞬間を今まさに迎えている。

 

 仮想通貨の出現とblastは最早、今世紀最大の革命と言っても過言ではない。

 この時流に乗り遅れるようでは、高速道路の上を馬車で進んでいるようなもの。

 誰もが快適に車で走っている中を、だ。

 

 車に乗ればそれだけlossなく目的地へ着ける。

 仮想通貨も全く同じだ。

 

 紙や金属を使った通貨に今更何の意味がある? ただのcostの無駄遣いでしかない。

 今は誰だってネット上で買い物をする時代だが、onlineで物を買うのに現物は一切必要がない。

 それが広がり、standardとなり、やがて唯一の売買手段となる。

 

 たったそれだけだ。

 

 確かに現在、仮想通貨は投資としての一面がpick upされ過ぎている感は否めない。

 だが、いずれは――――

 

 

「おはよ」

 

「あっ お、おはよ……!」

 

 ビビッた……田村さん(こいつ)か。

 危うくスマホ落とすところだった。やっぱ歩きスマホはリスクでかいな……

 

「真剣な顔してたけど、何見てたの?」

 

「あー、これ。仮想通貨がどうこうってやつ」

 

「え? 黒木さんってそういうの興味あるんだ……意外」

 

「興味あるのは推奨してる奴のコメントだけなんだけどね」

 

「……なんで?」

 

「ほら、どれ見ても『馬車』とか『革命』とか入ってるでしょ? もうその時点で相当気持ち悪いよね。しかも今さっき見てたのは小文字の英語がちょくちょく挟まってて、見てるだけで心がザワザワする。怖い話読んでる時と同じ感じ」

 

「ふーん……」

 

 ……あんまり共感されてないっぽいな。

 話題を変えるか。

 

「あと、目をデカくしたプリクラもザワザワする。見てて不安になるよね」

 

「それならわかるかも……なんか人形っぽいっていうか」

 

「そうそう。あれで『かわいー』とか言ってる奴とは一生わかり合えない」

 

 どうにか路線変更に成功したみたいだ。

 話題の提供も楽じゃないな……人付き合いって大変だよな。

 

 思えばぼっち時代はこういう苦労は一切してなかったな。

 1年の時のクラスの相関図作ったら、私には誰からも線が伸びてこなかっただろう。

 そう考えると、あの頃は楽だったな……

 

「黒木さんはプリクラ撮ったことある?」

 

「へ? 普通にあるけど……」

 

 1人で、だけど。

 

「そう」

 

「え? もしかして撮ったことないの?」

 

「ゲーセン自体、打ち上げの時に初めて行ったくらいだし……」

 

 密室好きなガチレズさんが率先して誘いそうなのに。

 友達がいるのに高校3年までプリクラ経験なしって、結構ヤバくね?

 

 まあ、私もゆうちゃんとは行った事ないんだけどな。 

 結構一緒にゲーセンは行ってるのに。

 今更だけど、記念に撮っておいてもいいかもしれないな。

 

 何しろあそこはセクハラもし放題の夢の空間。

 どうやって誘い出そうか…… 

 

「どんな感じ? なんかゴチャゴチャしててわかり難そうだけど」

 

「へ? ええと……ボイスで案内してくれるから簡単だよ。ゆうちゃんなら可愛く――――あ」

 

 しまった!?

 ゆうちゃんの事考えてた所為で脳内が混線して、ついゆうちゃんに話し掛けてるモードに……!

 早くフォローしないと……

 

「あっ、そ、その……あはは」

 

 だ、ダメだ!

 せめて『ゆりちゃんなら』って言い直せればよかったんだが……

 覚悟を決めて言うのならともかく今は無理だ。照れ臭い。

 

 いっそ『間違えちゃった。てへっ♪』とでもウインクしながら言って自分にゲンコツして舌出してみるか?

 ……それも無理だ。

 今まで築き上げてきた私のイメージが全部崩れるぞ……

 

「か、簡単だよ。うん」

 

「……そう」

 

 な、なんでこんな空気になるんだ?

 ただの間違いだぞ?

 それも別に名前を間違えたとかじゃなく、脳内が混線しただけ。よくある事だろ?

 

「……」

 

 向こうから何か言ってくる気配はない……

 そもそもさっきのミスをどう思ってるのかさえわからん。

 ならこっちから探りを入れてみるか……?

 

 どのみち、昼ご飯で一緒になるんだ。

 ここでこの気まずい空気を払拭しておかないと――――

 

 

 

 

「……2人とも何かあった?」

 

「へ!? い、いや何もないよ」

 

「でも、今日全然話してない気がするけど……」

 

 ……結局、全く払拭できないまま昼休みを迎えてしまった。

 

 つーかそっちも気を使って何か言えよ!

 言い間違えなのはわかってるだろ!?

 

「……」

 

 アイコンタクトさえ無視かよ……っていうか気付いてないのか?

 陰キャにそこまでの気配りを求めるのは無理か。

 こっちから何かアクション起こさない限り、ずっとこのままの空気になりそうだな……

 

 でもな……たかが言い間違えで大げさに謝るのってどうなんだ?

 そんな余所余所しい関係だと、今後何かある度にヘコヘコしなくちゃいけなくなる気がする。

 それは避けたい。

 

「ゆり、本当に何もないの?」

 

「黒木さんがそう言うんなら、ないんじゃない?」

 

 なんて言い草……!?

 これやっぱキレてる……?

 

「……」

 

「あれ。ゆり、どこか行くの?」

 

「トイレだけど」

 

「そ、そう」

 

 私よりずっと付き合いの長そうなガチレズさんでさえ怯むこの迫力……

 そ、そんなにか?

 

「……やっぱりあれ、怒ってる……よね?」

 

「うーん、どうかな? いつもと違うとは思うけど」

 

 いや、どう考えても邪気放ってるだろ、邪気。

 ガチレズさんはずっと浴び続けてるから慣れてしまってるんだよ……

 

「でも、“やっぱり”ってことは何かあったんだよね?」

 

「う……」

 

 仕方ない、話すか。

 

「……それだけ?」

 

 拍子抜けされてしまった。

 まあ、そうだよな。たかが言い間違えなんだから。

 

「それくらいでゆりが怒るとは思えないけど……あ、もしかしてわざと間違えたって思われたのかも」

 

「わざと……って?」

 

「成瀬さんの名前『ゆう』だったよね? ゆりと似てるから、フザけて呼んだって思ったんじゃない?」

 

「いや、それは……」

 

 ……あり得るかもしれない。

 だって私ならそう取りかねない。

 

『ゆうちゃんなら可愛く……あ、一文字違いか。お前には可愛くなんて無理だもんね。うける』

 

 ――――みたいな皮肉と取られてたとしても不思議じゃない。

 如何にも陰キャの行き過ぎた被害妄想って感じだが、私がそれを思い付く以上、あいつがそう取る可能性は大いにあるぞ。

 

 ……やっぱり謝っとくか?

 誤解を与える発言だったのは事実だし。

 

「あ、戻って来た」

 

「ゲッ」

 

 まだ心の準備が出来てないのに……!

 

 いやいや落ち着け、別に大丈夫だろ。

 普段話してない相手ならまだしも、ほぼ毎日顔合わせて一緒にご飯食べて偶に一緒に登下校するような相手に、何をそんなに構える必要がある?

 

 普通に謝れば良いんだ。

 普通に。

 普通に――――

 

「……」

 

 言葉が出てこない!?

 

 ……そうか。

 私、友達とケンカとかした事ないんだった。

 ケンカした事ないから、謝り方もわからん。

 

 ゆうちゃんはあんなだからケンカどころか言い争いすらない。

 友達じゃないけど、弟やコオロギと言い合いした事なら幾らでもあるが……こっちが一方的に悪かったり暴力に屈したりしない限り謝る機会なんてない。

 

 こういう『微妙に悪かったかも……?』くらいのテンションで謝罪した経験がないから、何をどう言っていいのか全然わからん。

 

「黒木さん大丈夫? 顔色悪いけど」

 

「い、いや……はは……大丈夫」

 

 この際、ガチレズさんに仲介を頼むか?

 でもこんな程度の些細な諍いで他人の手を借りて謝るってのもな……

 

 そんな事したら、今後この3人の中で一番格下になってしまう気がする。

 ガチレズさんに助力を求めるのは止めておこう。

 

 ならヤンキーに仲介を頼むか……?

 

 四六時中ケンカして歩く生き物だし、仲直りもライフワークみたいなもんだろ、多分。

 遠足の時、田村さん(こいつ)とちょっと言い合いになりそうになったけどヤンキーが割って入って来たお陰で有耶無耶になった……なんて事もあったしな。

 

 上手く収めてくれるかも……

 

『あ? ケンカしてんのか? そんなの1発ずつ殴り合えばスッキリするだろ。それでチャラにすりゃいいじゃねーか』

 

 ……止めとくか。ヤンキーの仲直りなんてこんなもんだよな。

 あいつらとは一生わかり合える気がしないわー……

 

「ちょっと昼食後の散歩に行って来る」

 

「う、うん」

「……」

 

 田村さん(こっち)は返事なし、か。

 つーか視線すら合わせて来やしない。

 キレてるって言うか、これもうブチキレの段階じゃないのか?

 

 幾らなんでも、この空気のままだと私が辛い。

 かといって、どう謝っていいのかもわからない。

 

 仲直りのプロに奥義を伝授して貰うしかないな。

 

「プロって……やっぱりクロってバカだなー」

 

 誰が馬鹿だ!

 だが今はグッと堪えろ……

 わざわざ散歩行くフリして一旦教室の外に出てまでここに来たんだ、手ぶらでは帰れない。

 

 ネモなら友達多いし、こういうのは慣れてる筈だ。

 

「でもデ……友達と仲直りできたんだよな?」

 

「そうだけど。クロ、もしかして誰かとケンカしたの?」

 

「どうでもいいだろ……とにかく、なんでもいいから仲直りのコツを教えて」

 

「あっ、そっか。最近までぼっちだからケンカした事もなかったんだね」

 

「……バカにしてんのか?」

 

「あはは。さっきそう言ったけど?」

 

 何嬉しそうに笑ってるんだ……?

 知れば知るほどワケがわからんな、こいつの性格って……

 

「でも、私にそれ聞いても意味ないと思うよ。仲直りしたって言っても、私から何かした訳じゃないし。あーちゃんに聞けば?」

 

「いや私、お前の友達とは全然親しくないんだが」

 

「遠足の時ちょっと話したんでしょ? 気兼ねするタイプじゃないから取っつき難いかもしれないけど、聞いたらちゃんと答えてくれるよ」

 

 それ以前に怖いんだよ、あの凸……

 ヤンキーとボコり合いしそうになってたし。

 人間とゴリラの2種類で分別したら、完全にゴリラ側だろあいつ。

 

「だったら紹介状書いてあげるから……はい。これ持って行ってらっしゃい」

 

 完全に楽しんでやがるな……

 別にスルーしてもいいんだが、この事で今後イジられるのも嫌だし、声だけでも掛けとくか。

 

「あ、あ、あの……」

 

「え? 何?」

 

 ほら、もう威嚇してくる……

 これだからウホウホ属性は嫌なんだよ……

 

「こ、これ……ネモ……根元さんから」

 

「陽菜が? 私に?」

 

 中身は見てないけど、仲直りの秘訣を教えてくれって主旨は書いてるだろ、多分。

 じゃないと紹介状の意味ないしな。

 

 ……っていうか紹介状って何だよ?

 ノっておいて今更だけど。

 

「あいつ……」

 

 しかも、なんかしかめっ面してるし!

 何書いたんだよあいつ……

 

「あれは陽菜が悪いんだよ! 私には黙ってたのにあんたに話すなんて……」

 

「……な、何の話?」

 

「だから、これだろ?」

 

 ネモの紹介状か。

 なになに……

 

『どうして声優になるの目指してるってクロに話してたのをあーちゃんが知ってたの?』

 

 今回の件と全然関係ない……だと!?

 あいつ本当何考えてんだ……!?

 エロゲー声優になる将来をバラされたの、密かにキレてたのか!?

 

「そんなの、わかるだろ?」

 

「え……? や、やっぱりキレてたの……?」

 

「キレてるっていうか……イラっとはしたよ。だってすぐわかるじゃん。前にあんたと学食で一緒になった時、声優になりたいのは誰だって話になって、あんたがそれ自分だって言ったろ? 庇ってたワケじゃん、陽菜のこと。それ陽菜の夢知ってないとあり得ないから」

 

「だ、だからあれは偶然……」

 

「聞いたよ。でもそれからも色々語り合ったりしてたんだろ? じゃなかったら急にそんな仲良くならないし」

 

 え? これって嫉妬?

 もしかしてこいつもガチレズなの?

 

 このクラス、2人もガチがいるのか……

 でもガチレズの称号はガチレズさんだけだから。

 お前には与えられねーわ。

 

「っていうか……なんで陽菜が知ってんの? 私があんたに陽菜の夢のことで話したこと」

 

「し、知らないけど……エロゲーの話でピンと来たんじゃない? ネモ……根元さんって、なんとなくそういうの鋭いっていうか」

 

「別にネモって呼べばいいじゃん。ここにもクロって書いてんだから」

 

 な、なんか熱いレズ想いの渦に巻き込まれてる!?

 

「あっ、えっと……」

 

「……でも、確かにそういうトコあるかもね、陽菜」

 

 よ、よかった。勝手にトーンダウンしたみたいだ。

 危うく嫉妬の炎に燃やされるところだっ――――

 

「だから最初は私の気持ちわかってないって思ってたけど、本当は全部わかっててスルーしてたのかもって……そう思ったら余計にハラ立つっていうか」

 

 火、消えてねー! メラメラじゃねーか!

 

 え……これってガチどころかガチのマジ?

 ガチマジレズさんなの?

 

「……って、なんで私はあんたなんかにこんな話してんだよ」

 

「さ、さあ……?」

 

「でも、陽菜と仲直りできたの、あんたのお陰でもあるんだよな……だったらいいか」

 

 何がいいんだよ?

 感情がよくわからんのは陰キャだけかと思ってたけど、陽キャも十分情緒不安定だよな……

 大丈夫か? このクラス……

 

「で、結局陽菜はなんでこの手紙をあんたに届けさせたの?」

 

「え、えっと……仲直りの仕方を教える為、なんだけど……」

 

「……なんだよ、そういうことか」

 

 あれ? 勝手に納得したけど……なんか勘違いしてないか? こいつ。

 私は一般論を知りたいんであって、お前とネモの仲直りの仕方を見せつけられたワケじゃないぞ……?

 何スッキリした顔してんだよ……

 

「礼は言わないけど、感謝はしてる。もしあそこで仲直りできてなかったら、ずっとあのままだったかもしれないし」

 

「あ、う、うん」

 

「今度さ、声優の事とか教えてよ。陽菜のこと応援するって決めたから」

 

「こ、今度ね」

 

 ……結局、1mmも成果が得られなかったな……時間の無駄だった。

 ネモに良いように掌の上で躍らされただけかよ…… 

 

 仕方ない。

 私の周りにはロクな奴がいないんだから、そこに頼るのがそもそも間違いなんだ。

 自分で考えよう。

 

 キーンコーンカーンコーン>

 

 って、このタイミングで昼休み終わりかよ……

 

 放課後までこのモヤモヤ持ち越すの嫌だったんだが――――

 

 

 

 

「起立! 礼!」

 

 ……結局持ち越してしまった。

 もしここで何も解決しなかったら、明日まで引きずる事になるぞ。

 

 明日解決できなかったら、明後日、明明後日もこのままで……

 

『――――もしあそこで仲直りできてなかったら、ずっとあのままだったかもしれないし』 

 

 ……さっさと謝っておくか。

 言葉なんて、予め用意しなくても話してれば勝手に出て来るだろ。

 でも、最初になんて言って話し掛ければ……

 

 あ。

 今わかった。

 

 そもそもケンカとか仲直りとかそれ以前に、話し掛けるって行為に躓いてるんだ。

 名前で呼んでないから、呼びかけ方がわからん。

 ゆうちゃんになら『ゆうちゃん、ちょっといい?』って感じでスムーズに話し掛けられるもんな。

 

 普段なら『ねぇ?』とかでいいんだけど、謝るのにそんな話し掛け方はないよな……余計不機嫌にさせそうだし。

 やっぱり、名前で呼ばないと真面目に反省してるのが伝わらない気がする。

 

 ずっと躊躇してたけど……呼ぶか。

 案外、こういうのがきっかけで定着していくのかもしれないしな。

 

「……」

 

 な、なんだ?

 名前呼ぶって決めた途端、動悸が……

 

 私……緊張してるのか?

 たかが名前呼ぶだけで?

 

 よくよく考えたら、クラスメートを名前で呼んだのってゆうちゃんだけだから、中2以来か。

 ……やっぱ苗字呼びにしとくか? 無難に。

 

 でもそれで定着するのもちょっとな。

 ここは慎重に決めよう。

 苗字……名前……どっちに……

 

「黒木さん」

 

「えっ!?」

 

 ……まさか向こうから話し掛けてくるとはな。

 まだこっちは覚悟が出来てないっていうか、腹が決まってないのに。

 

 どうする?

 もう思い切って呼んでみるか? 

 

 ゆりちゃん、ゴメン……そう言ってみるか?

 よ、よし……

 

「ごめんなさい」

「ゆ……え?」

 

「え?」

「え?」

 

「……えっと……ごめんなさい。朝からずっと変な態度とって」

 

「い、いや……こっちこそ間違えて呼んでごめんなさい」

 

「話は真子から聞いてるから。ただの言い間違えだったんだよね?」

 

「う、うん」

 

「急に名前で呼ばれたって思って、ビックリした」

 

 ……あ、ああ。やっぱりそっちもあったのか。

 似てるからな、ゆうとゆり。

 私が想像してたほど悪意の方向には解釈してなかったみたいだが……

 

 それにしても……結局これってケンカだったのか?

 なんか向こうから謝ってきたから色々有耶無耶になったけど……

 

「じゃ、仲直り……しよっか」

 

 少なくとも、田村さん(こいつ)がそういう認識なら、そうだったんだろうな。

 もしかしたら向こうは向こうで今日一日色々な葛藤があったのかもしれない。

 

「しないの?」

 

「いや……するけど」

 

「うん」

 

 ……友達の仲直りって、こんなグダグダでいいのか?

 なんかもうちょっとこう『これで仲直り!』みたいなわかりやすいイベントでもあれば……

 

「……じゃ、じゃあプリクラ……撮ってみる? 今日」

 

「え?」

 

「撮った事ないんだよね? だったら仲直りの印っていうか、そんな感じで……」

 

 自分で言っておいてなんだが、恥ずかし過ぎるぞこれ……!

 

 1年の頃の私が今のこの私を見たら、どう思うんだろう。

 

 気持ち悪いと嘲笑うか?

 羨ましいと妬むだろうか?

 

「真子も一緒に?」

 

「あっ うん。じゃ3人で」

 

「吉田さんも誘ってみよっか」

 

「え? い、いいけど。来るかな……」

 

「黒木さんがどうしても来て欲しいって言ってたよ、って誘えば来ると思うよ。せっかくだから最初は全員で撮ろっか。一回で何枚くらい撮れるんだっけ? あっ、持ち合わせあんまりないかも。一度家に帰ろうかな。どうしよう」

 

 ……ま、どっちでもいいか。

 

「4人でこういうのって、珍しいよね」

 

 やっと機嫌直ったみたいだし。

 

 これで今日からまた平和に――――

 

「おい」

 

「あっ、吉田さん。ちょうどよかった」

 

 なんだ……? 話聞いてたのか?

 連れて行くのはいいけど、また地獄の強制プレイさせられる前に逃げないとな……

 

「田中から聞いたぞ。ケンカしてるんだってな?」

 

「え? それは……」

 

 げ……

 なんか嫌な予感しかしないんだが……

 

「そういう時は余裕がある方が謝りゃいいんだよ。グダグダやってたらいつまで経っても終わらねぇだろ?」

 

 ヤンキーがまともな事言ってる!?

 てっきり昼に妄想した展開になるとばかり……いやいや、幾らヤンキーだからってあんな時代錯誤な仲直りを強要するとかないか。

 

「で、どっちが悪いんだよ」

 

「えっと、別に……どっちも……ね?」

 

「あっ うん。すれ違いっていうか……」

 

「んだよ、どっちもかよ。じゃ仕方ねーな。だったら気が済むまで殴り合うしかねーか。付き合ってやっから校舎裏行こうぜ」

 

「……は?」

 

 う、嘘だろ!? どんな解釈してんだよ!?

 これはアレだろ?

 間違ってゆうちゃんと会話してるモードになった時と同じで、私の妄想の中のヤンキーが幻になって現れてるだけだよな……!?

 

「殴り合えって……それに私たちもう……」

 

 田村さん(こいつ)にも見えてるのか……!?

 

「お前らにはこれからもネズミーに付き合ってもらうんだから、こんなトコで絶交とかされたらあたしが困るんだよ。オラ行くぞ!」

 

 掴まれた腕が痛い!

 

 現実!?

 これ現実なの!?

 

「ウダウダしてる暇があったら一回トコトンまでボコり合えば案外スッキリするんだよ。友情も深まるしな」

 

 いつの時代の話してんだよ!

 2010年代後半にJK同士で殴り合いとか、普通に事案かその手のAVの撮影だろーが!

 しかも1発どころかボコり合いって、それ普通にケンカが悪化して修羅場になってるだけじゃねーか!

 

「だ、だから話聞いて……ちょっ、お前もボサっとしてないでもっとハッキリ言ってやって……」

 

「……黒木さん」

 

「な、何?」

 

「掴み合いってしたことある?」

 

「あるワケないだろ!? 何ちょっとやる気になってんの!?」

 

 マジなんなんこいつら……

 しかもクラス中から好奇の視線を浴びてるし……!

 男子にメッチャ笑われてるし!

 

 

 私がモテないのはどう考えても――――

 

 

「……はぁ」

 

 

 ――――もうしばらく続きそうだな……

 

 

 

 


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