『あなたのあだ名を教えてください』
……最近の乙女ゲーはあだ名まで入力しなきゃならんのか。
親しくなったらイケメン達がこれで呼んでくれるのか?
『もこっち』
私と言えば、やっぱりこれだろ。
ネモからはクロって呼ばれるようになったけど、まだまだ日が浅いからな。もこっちの領域には程遠い。
さて、どんなシチュエーションで呼んで貰えるんだ?
まあCERO Cだし、そんなに過激な表現は期待できないが……
『もこっち、もっとこっち来てこのもっこりを鎮めてくれよ』
あれ!?
おかしいな……乙女ゲーやってたはずなのに、なんでベテランライターが書いたエロゲーみたいなテキストになってるの?
しかもなんか早口言葉みたくなってるし……
もこっちだと集中出来ないな……変えてみるか。
『クロ、おいで。ははは、もっとゆっくり食べなよ』
私はペットか!?
クロもダメだ……他のにしよう。
他に私が呼ばれてたのは『ドブ猫』『くそ木』『ぐず木』『ゲロ木』『ノ○ピー』『例のあの人』……
どれもこれもゴミばっかりだ。
自分がどう呼ばれるかなんて大して気にしてなかったけど、こうなると嫌でも意識するな。
男に呼ばれても違和感なくて、私の気分が高揚するあだ名を自分で考えるか。
智……とも……トモロヲ?
しまった! トモロヲなんてドギツイのが最初に出た所為でこれ以外サッパリ浮かばない!
もう黒木トモロヲでいいか……みつをみたいだけど。
にしても、呼び名ってこんなに大事だったんだな……
今まで気付かなかった。 トモロヲ、アイシテルヨ>
まあ、私は他人を名前やあだ名で呼ぶこと自体少ないしな。 トモロヲ、ケッコンシヨウ>
ヤンキーもガチレズさんも絵文字も凸も心の中で思ってるだけで、
本人に使うあだ名じゃないし。 トモロヲ!ドウシテホカノオトコト!?>
本当ならネモだってその筈だったんだけどな。 オラァ!モットハケヨコノアバズレ!> ヴォエエエエエエエ>
まさかあそこまで執拗に迫られるとは…… ロロロロウエロエウエ> ハハハ!イイゾモットハケ!オレヲタノシマセロ!>
最初はキレてるのかと思ったけど、逆に機嫌よさげだったよな。 トモロヲ、ゲロハイテルオマエハキレイダ>
あいつもしかして、あだ名で呼ばれた事がなかったのか? オレタチ、ヤリナオセナイカ?>
一番仲よさそうな凸からも名前で呼ばれてるからな……
あだ名に飢えてたのか。 トモロヲ!シンジテオクリダシタオマエガシオンニドハマリシテイケメンギャクハーヲカナエルナンテ!?>
……このゲーム、本当に乙女ゲーなのか?
もう止めとくか。つまらんし。
とにかく、あだ名って大事なんだな。
私もいい加減ガチレズさんとか口に出来ないあだ名は卒業して、普通に呼べるのを考えるか。
ピンポーン>
ん……? 何か通販で買ってたっけ?
「クロー」
「……」
「遊びに来たんだけど、あげてくれないのかな?」
「いや、いきなり来られても……何が目的だ?」
「だから遊びに来たんだって。学校だと中々素見せないじゃん、クロ」
……こいつは私に何を求めてるんだ?
そもそも二人きりで何して遊ぶんだよ。
もう対戦プレイ前提のゲームなんて随分買ってないし、好みが真逆だからアニメ一緒に観るのも苦行にしかならないし……
あ、そうだ。
こいつに手伝って貰おう。
一人で考えるよりは捗りそうだし。
それに声優って大抵ファンからあだ名で呼ばれるよな。
こいつも声優目指してるのなら、そういうところにアンテナ張ってるだろうし、良いの思い付きそうだ。
「まあ、あがれよ。スリッパ欲しいなら持ってくるけど」
「なんで急に態度変わったのか気になるけど……いっか。お邪魔しまーす」
説明は部屋でするか……
「……っていう訳だから、あだ名考えるの手伝って」
「へー、クロってこんなゲームやってたんだ」
「おい、話聞いてんのか?」
「聞いてるよー。田村さん達のあだ名を考えるんでしょ? それって、名前で呼ぶのが照れ臭いから? ぼっちあるある?」
「違う」
いや、実際はそうかもしれないけど、ネモに指摘されてそれを認めるのはなんかムカつく。
「とにかくなんか良いの思い付いたら教えて。お前あだ名付けるプロだろ?」
「……もしかしてクロ、前にぼっちのプロって言ったの根に持ってる? 別に悪い意味じゃなかったんだけどな」
……良い意味のぼっちのプロってなんだよ?
そもそもぼっちのプロ自体意味わからんし。
身勝手の極意みたく、身体が勝手にぼっち体質になる妖気でも発するのか?
「っていうか私、別にあだ名付けるの得意じゃないよ? クロもそうだけど、あーちゃんもよっちゃんも名前から取ってるだけだから」
「……なんか私だけ傾向違くないか」
「それはクロの所為だよー。ネモって呼ばれたらクロって返すしかないじゃん」
こっちはガ○ダムから引っ張ってきただけなんだけどな。
そのカウンターにまさか虚言癖のあるモンスター芸人の名前を食らうとは…… クロチャンデス>
「それとも、ともちゃんの方がいい? 呼んであげよっか」
「……それ親戚のおばちゃんとかが呼ぶやつだから。ネモって案外ババ臭いセンスなんだな」
「なっ……!?」
お、ムキになったか?
「……今のって挑発? 私があだ名付けるのちゃんと手伝うように煽ったのかな?」
いや、同級生と話すのにいちいちそこまで考えないから。
こいつよくこんなんで陽キャグループにいられるな……
「ま、いーよ。それで誰のから考えるの?」
「名前順でいく。まずは……」
「内さん? 内さんだったら普通にうっちーでいいじゃん。そう呼んでる人多いよ?」
「私があいつの事『うっちー』って呼ぶのか?」
「……ごめん。想像できない」
向こうだって私がこんな呼び方したら引くだろ。
最近はあんまり避けられてる感じじゃないけど。
「なんていうか、あんまりポップじゃないのがいい」
「それがいいかもね。ならウっちゃんは?」
「……お前は私をどうしても芸人枠に収めたいのか?」
まあ、サッパリとした顔って意味では共通してるが。
「じゃ、下の名前から取ればいいんじゃない? 確かエミリって言ってたよね」
「えみ……えみ……エ○ヤ……エ○ネム……エミ○ア」
「リ○ロの新作っていつ放送するんだろね。あんまり興味ないけど」
「知らねーよ。エ○リア……EMT……ET……もうETでいいか。あいつ前になんか宇宙人みたく目キラキラさせてたし」
「え……? そんなんでいいの……?」
絵文字はこれでいいとして、次は凸か。
別にあだ名で呼ぶほど親しくはないが……
「岡田……さんはお前の担当だから、お前が考えろよ」
「あーちゃんはあーちゃんでよくない?」
「だから私があいつを『あーちゃん』って呼ぶの想像してみろよ。違和感が小躍りするだろ。名前もじったのは無理」
「んー……だったら苗字か。『おかちー』とか『おかっぴ』とか」
「そんな呼び方したら一瞬でキレられそうなんだが……」
「なら『おかりん』は? 使い慣れてるでしょ、クロなら」
「男の名前だから違和感しかない。っていうか、名前や苗字から取らなくてよくね? 性格とか、見た目とか他にもあるだろ」
「性格は良いよ、あーちゃん。まっすぐだし。私達とは全然違うよね」
勝手に私を巻き込むなよ……
まあ、私がヤンキーに吊し上げられてる時に助けようとしてたし、悪いヤツじゃないんだろうけど。
そう言えばあの時、担任に報告するとか言ってたよな。
「腰巾着、なんてどうだ?」
「え……? まっすぐな性格からどうしてそこに辿り着くの?」
ダメか。いい線いってると思ったんだが……なんか髪型も巾着っぽいし。
「じゃあもう『きれいなゴリラ』しか残ってないけど」
「それ違う岡田じゃない……?」
「まあ、実際は綺麗どころか……ゲホッゴホッ」
なんだ? 急に謎の咳が……
これ以上はダメだって私の身体が警告を発してるのか?
「っていうかクロ、ETもそうだけど本当にそれで内さんやあーちゃんを呼べる? あーちゃんに『ねぇ、きれいなゴリラ』って話し掛けられる?」
「……違うあ~ちゃんになりそうだな」
「っていうか、冗談でもあーちゃんをゴリラ呼ばわりは止めてね? 怒るよ?」
「あっ うん、ごめん」
キレられてしまった……
そしていつの間にか大前提を忘れてしまっていた。
ちゃんと呼べるあだ名にしないと。
「じゃ、その二人は取り敢えず保留で。次いこう」
「先が思いやられるんだけど……次は誰? 加藤さん?」
「うん。ちゃんと私が呼んでも違和感ない呼び方で」
「……加藤さんにクロが話しかけてる時点で違和感あるけど」
こいつ失礼だな! でも全く反論できない。
初見でNo.1キャバ嬢を店外デートに誘うレベルだしな……
「で、でも案外あだ名で呼ばれ慣れてなさそうだし、呼んだら喜んでくれるかもしれないだろ?」
「あー、それはあるかも。しかも可愛い系」
やっと意見が合ってきたか。
可愛い系のあだ名……あだ名……そう言えば遠足で可愛い狐耳付けてたな。
「ホロでよくね?」
「絶対言うと思った」
でも反論しないあたり、こいつも多少は似てると思ってたんだろな。
「クロ。ホロでググってみたら『母衣』って出て来たけど。母の衣って書いてほろって読むんだって」
「マジで? じゃあママの方がいいか」
「どんな判断基準なのか全然わからないけど……ママって呼ばれて喜ぶ女子高生はいないと思うよ」
「じゃあお前は何かあるのか? さっきから否定ばっかしやがって」
「加藤さんかー……加藤さんは『加藤さん』って感じだからなー。あーちゃんは名前で呼んでるみたいだけど」
それはちょっとわかる。
仕方ない、こっちも保留にしとくか。
……3/3が保留って、それもうただの無駄話じゃね?
「次はいい加減決めないとね。で、誰?」
「ガ……田中さん。先に言っとくけど性癖をあだ名に組み込むのはNGな」
「そんな事する人いるわけないじゃん。っていうか、まこちゃんの性癖なんてクロだって知らないでしょ」
知ってるから警告したのに……
「まこちゃんこそ『まこっち』でいいでしょ? クロも結構親しいみたいだし、違和感ないよ?」
「んー……でもなー……」
ぶっちゃけ、被ってるんだよな。
もこっちがまこっちって呼ぶの、何かあざとくね?
いかにも『私達、何か似てるね。私の事はもこっちって呼んでくれていいから』的な、き○ら系の匂いを感じる。
「やっぱり他のがいい。何かない?」
「まこっちがダメだったら……まーちゃん?」
「またそれ? 他にないの? お前のボキャブラリー司る部位溶けてんの?」
「だ、だから得意じゃないって言ったよ?私。それにクロだって全然じゃん」
「私はいいんだよ、そもそも悩んでるから頼んでるんだし。お前はこれからコメンタリーとかラジオとかで散々アドリブやらされるのに、そんなんでいいの?」
「……!?」
あっ、黙った。
もしかして怒った?
まだこいつの沸点全然掴んでないからな……もし本気でキレられたらどうしよう。
……謝っておいた方がいいかもしれない。
「え、えっと……」
「クロぉぉぉぉぉぉぉ!」
えっ何!?
突然抱きつかれても……くっそ良い匂いしやがって……
シャンプーか? シャンプーが違うのか?
「そうなんだよね……アドリブっていうか、予想してないこと言われると上手く返せないっていうか……なんかありきたりな事しか言えないみたい、私」
意外だな。ネズミーでは上手くやってたし、そういうの全然苦にしない性格って思ってたのに。あれも実は予め用意してたのか?
過去になんかやらかしてトラウマになってるとか……まさかな。
「こういうのって、やっぱりセンスが必要なのかな……」
なんか本気で落ち込んでるっぽいぞ。
一応慰めとくか……
「そんなにビビらなくて大丈夫だよ。普通にしとけばいいんだよ」
「でも、上辺だけの対応って見抜かれない? 特にラジオとか、素を知りたくて聴いてるコアな人が多そうだし……」
「多いね。確実に見抜かれるよ」
「だよね……」
「だって『今日のアレは演技だよ。オレでなきゃ見逃しちゃうね』とか『あれは素だったな。素人にはわからないだろうけど』とか、逆張りで言う奴って絶対いるから』
「……え?」
「そういうのはエセ占い師みたいなもんだと思って無視しとけばいいんだよ。SNSとかはマネージャーに管理して貰えばいいし。ファンレターとかイベントとか、そういう一手間かけて応援する人だけ相手にしてればいいんじゃない?」
「クロ……ありがとう。ちょっと気が楽になったかも」
アドリブ力をどう鍛えるかって主題には一切触れてないが……まあいいか。
なんとなく良い事言った風にはまとまった気がするし。
「それじゃ、気を取り直してあだ名決めに戻るか。次は……」
「え? まこちゃんは?」
「良いの思い付いたから後で発表する。先にこっち」
「田村さんだよね。今度はクロが決めてよ。クロが田村さんにどんなあだ名付けるのか興味あるし」
なんでそんな事に興味あるのかは知らんが……
結構前から考えてたからな。
「ゆり姫」
「……え?」
「だから、ゆり姫。お前なら由来わかるだろ?」
「わかるけど……それは一番ダメだと思う」
「えっなんで!? だって一文字違いだぞ!? しかも同じ名前のレズ雑誌の表紙にあいつとそっくりな女をな○りが書いてたし! これもう運命だって!」
「クロ……お願いだから止めてあげて。聞いてて胸が締め付けられるから」
そ、そこまで……!?
おかしいな……自信あったのに、ゆり姫。
陰キャの姫としてオタサーの姫みたく祭り上げられて最終的に平成JUMPになるのを危惧してるのか?
それとも『おさげの女』とかの方が良かったか……?
大昔のアニメからのパクリだけど。
「今のでなんとなく想像がついたけど、まこちゃんにはどんなあだ名付けるつもりだったの?」
「マネ」
「……クロがバカなのは知ってたけど、今日が一番バカだねー」
嘘だろ……
ガチレズさん、マネージャー感あるのに……
「私も偉そうには言えないけど、あだ名で呼ぶんならもっと親愛の情を込めた方がいいんじゃない?」
親愛の情か……確かにそれは欠けてたかもしれない。
もこっち以前に付けられたあだ名が悪意の塊ばっかだったから、そういう発想はなかった。
なんだかんだ、ネモに手伝いを頼んで正解だったかもな……
「最後は吉田さんだよね。どう? いいの思い付きそう?」
「考えてみる」
親愛かどうかはわからんけど、要はあのヤンキーが呼ばれて喜びそうなあだ名を付ければいいんだよな。
ガキっぽい趣味を指摘したらキレるから、それ関連は全ボツとして……
やっぱヤンキーだから金が好きだよな。金髪だし。
金髪で吉田……ヒロ……違う。
金髪ヤンキー……くま○こ騒動……いやだから違うって!
そうだ、ヤンキーをポジティブな表現にすればいいんだ。
そうすれば無理なく呼べそうな気がする。
ヤンキーと言えば暴力。
暴力を言い換えれば戦闘力。
戦闘力の高い金髪か……
ケ○……性別が違う。 ハデニキメルゼ!セヤーッ>
セ○バー……性格が全然違う。 トオウ。アナタガワタシノマスターカ>
スー○ーサ○ヤ人……性別も生まれた星も違う。 オレハ……スーパーベジータダ!>
「あっ!」
「ど、どうしたの? 思い付いた?」
「18号って呼ばれて嬉しがると思う? 将来の旦那が地球最強の人間だし、喜ぶかも」
「……もしかしてネモって奇跡のあだ名だったのかな」
これも違うのか……
「一応聞いてみるけど……ネズミー博士は?」
「親愛の情に寄せた努力は出てると思うけど、それも多分ダメだねー」
媚びてもダメだったか。
ならもうお手上げだ。
やっぱり私には無理なのか……ちゃんと使えるあだ名なんて。
そうだよな。
空気読んだ発言を嫌悪してきた私が、空気読んだ呼び名なんて簡単に思い付く訳ないよな……
「クロはつまんないって思うかも知れないけど、吉田っていう人のあだ名は普通よっしーとかだよ。そういうのじゃダメ? クロが吉田さんをよっしーって呼ぶのは結構良い感じだと思うけど」
「よっしーか……キレられないかな?」
「大丈夫だって」
断言かよ。
うっちーと何ら変わらない気がするんだが……
「それじゃさ、明日一回だけ呼んでみれば? それで反応見て、大丈夫そうなら継続すればいいんじゃない?」
「……そうだな。やってみる」
「私、力になれたかな?」
まあ、なったけど……いちいち聞くか?
もしかして、さっきの私の慰めの借りを返したかったのか?
「それは明日次第だろ。上手くいったらお礼言う」
「えー……」
「なんで絶対失敗するってわかりきってる顔なんだよ! やっぱり無理なんじゃねーか! 私を貶めようとしてたろお前!」
「あはは」
こいつと話してる時は絶対油断できないな……面倒臭ぇ……
「楽しいね、クロ」
「ちっとも楽しくないが……」
――――結局、何にも決まらずネモと駄弁るだけでこの日は終わった。