10分で読めるわたモテSS   作:umadura

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モテないし髪型を変えてみる

 

 

 

 

 ……ふぅ。やっと教室か。

 今更だが、登校ってかったるいな。

 何か事件が起こるでもないし……

 

 暴走族が警察とガチのケンカしてるところにでも出くわせば、今日という日を明るく楽しく生きていけるんだが。

 

 登校イベントはアニメ・ゲームを問わず基本中の基本。

 今時パン咥えた転校生と衝突するとかはないけど、友達や仲間との会話イベントで好感度が変動するくらいのことはリアルにでもあり得る。

 

 例えば友達がいきなり髪型を変えてて、半強制的に感想を言わされるとか……

 朝からそんな無駄な気遣いとかしたくないけどな。

 

「おはよー、クロ」                               シャカシャカ>

 

 ん……ネモか。

 まさかいきなり髪型を変えて登校してきたりは……しなかったか。

 これがラノベなら私の空想と現実がリンクするんだろうが。

 

 にしても……

 

「何? 人の顔じーっと見て」

 

「いや……別になんでもないんだけど」

 

「そんな言われ方したら余計気になるじゃん。言ってよ」               ピッ>

 

「でも話したら怒らせるかも」

 

「絶対怒らないから」

 

 ……こういう時のネモは意外と有言実行だし、いいか。

 

「えっと、前にオタくさいとか言ったことあったの……覚えてる?」

 

「覚えてるに決まってるじゃん。なんで忘れると思ったの?」

 

 恐……!?

 そりゃ顔は笑ってるけどガチ切れだろこれ……

 こいつ案外演技派声優になるんじゃないか……?

 

「そ、それで……その時は言いそびれたんだけど」

 

「何を?」

 

「その髪型が一番オタくさい。っていうかアニメキャラっぽい」

 

「……」

 

 この表情はキレてるのか?

 恥ずかしがってるのか?

 

 でも二年の頃から思ってたことだからな……一年越しの想いがついに白日の下に晒されてしまったな。

 

「ツーサイドアップってアイドルとか普通にしてる髪型だと思うんだけど」

 

「でも何か三次元だとコスプレっぽいっていうか……なんか実写版ミサミサを見てる気持ちになる。昔の方の」

 

「そんなこと……」

 

 ネモの顔がみるみる赤くなっていく。

 己のコスプレ感を実感したんだろうか。

 

「髪型、変えよっかな」

 

「いや……これきっかけで変えられても私が気まずいだけなんだけど」

 

「……」

 

 だったら言うなって顔されてもな、無理矢理言わせたのそっちだし……

 

「でも一年の頃からその髪型だろ? 今更イメチェンって……あ、イメチェンって今は死語か?」

 

「そういうの気にするのってオタクくさくない?」

 

 こいつ……

 ずっと反撃の機会窺ってただろ、これ。

 

「でもクロ、一年の時の私の髪型とかよくわかるね。接点殆どなかったのに」

 

「あー……」

 

 あの頃はお前らリア充に滅んで欲しくてほぼ毎日呪ってたから……

 とは言えんな、さすがに。

 

「その……なんか私、記憶力には結構自信があるっていうか。中学の頃の事とかも大体覚えてるし」

 

「…………………………………………」

 

 えっ、何この沈黙。

 私何か変な事言ったか?

 

「クロの記憶力は別にどうでもいいけど、クロだってずっとその髪型だよね? 何か意識してるのとかある?」 

 

「いや別にないけど。先に言っとくけどクロだけに黒夫人とかでもないから」

 

「黒夫人? 何それ」

 

 墓穴……!

 

「なんで急に白目剥いてるの?」

 

「と、とにかく、別に意識してるキャラとかいないから」

 

 ……中学の頃はアニメキャラの髪型真似したりもしてたけどな。

 あの時点でナシだったものを高校にまで持ち込もうとは思わん。

 

「体育の時とかは縛ってるよね? あっちの方がまとまり良くてオタくさくないかもよ?」

 

「それ遠回しに私のクセっ毛ディスってんの?」

 

 ネモをからかおうとした結果、私の髪型の方がオタくさいって事にされてしまった。

 

 実際どうなんだ? この髪型。

 中学時代、ゆうちゃんが一時的に三つ編み解除した時の周囲の反応の良さに感銘受けて縛らずに登校した事あったけど、一切波風立たなかったんだよな……

 

 そういう意味では、今の『黒木智子は静かに暮らしたい』路線には合ってるんだろうが……

 私もそろそろ考えておいた方が良いのかも知れない。

 

 大学デビューのプランを!

 

 今は妙に色んな奴から構われる状況が続いてるけど、高校卒業して知ってる奴のいない大学に入ったら、またぼっちからのスタートになる。

 正直……今のままで大学生の友達とか、例え同級生でも想像できない。

 少なくとも外見のオタくさいところは卒業までに消しておきたい。

 

「でも、友達がいきなり髪型変えて来たらちょっとドキッてするよね」

 

「そういう経験した事あるような言い方だな」

 

「別にないけど?」

 

 だからなんでちょくちょく目が据わるんだよ!

 何? そういう発作? 

 

 キーンコーンカーンコーン>

 

「あ、授業始まるね」                      ピッ シャカシャカ ピッ ピッ>

 

 ったく……

 でも、ネモじゃないけど私も髪型変えてみようかな。

 高校生活も残り少ないし、やり残しがないようにしないと……

 

 

 

 

「620円になります」

 

 ……買ってしまった、ファッション雑誌。

 色々あって何がいいのかサッパリわからなかったけど、これはでっかくヘアスタイル特集って書いてるし、間違いないよな?

 

 こういうのを真似して髪型を決める奴には嫌悪感しかなかったんだが……私も変わったな。

 独自路線の限界を感じつつある今、一般大衆に受ける方向へシフトしていかないと孤立するだけだ。

 

 今は共感の時代。

 そして劣等感排除の時代。

 

 アイドルだって最近は薄味の顔が好まれるとか言われてるけど、本当は『突出した奴をブッ叩きたい』って風潮から逃れた結果に決まってる。

 

 見せてみろよファッション雑誌、お前の本性を。

 どうせお前もそうなんだろ?

 誰でも気軽にできる無難な髪型にさも流行っぽくちょっと遊び風味入れて、馬鹿が真似しやすいようにしてるだけなんだよな?

 

 どれどれ……

 

『今年の流行はルーズなお団子ヘア!』

 

 これ凸の髪型だ!?

 

 嘘だろ……あいつ流行の最先端行ってたのか……

 いや、流行でもなけりゃあんな髪型にはしないのか?

 でもあいつも一年の頃からあれだったよな……確か。

 

 どうする……?

 私の髪の長さなら、凸の髪型を真似るのは多分出来る。

 けど、どう考えてもあいつの真似にしか見えないし、同じクラスのちょい上グループの女の髪型真似るとか最悪だぞ……憧れてるとしか思われないし。

 

 かといって、やたら特集組まれてる『ゆるふわショートボブ』はゆうちゃんと被ってるし、前髪パッツンとかアシンメトリーはいかにもサブカル系って感じで全く受け付けない。

 ベリーショートとか絶対無理。これ何ウケを目指してやってるんだ……?

 

 アニメだったら、カットを失敗しても次回には元通りになるんだけど、現実だと数ヶ月も苦行を味わい続ける。

 もういっそ、昔やったみたくツインテールとかにしてみるか?

 ……いや待て混乱するな私、それ一番オタくさいやつだから。

 

 そもそも、私の周りには髪型変える奴が少ないんだよ。

 ネモ(ツーサイドアップ)田村さん(二つ結び)ヤンキー(金髪)ガチレズさん(ショート)もずっと同じままだし……コオロギもそうだ。

 変わったのはゆうちゃんくらいだな。

 

 私もあれくらいガッツリ変えたら、驚かれるのか?

 例えばここまでベリーじゃなくても、思い切ってショートにしてみるとか……

 

 なんかちょっと反応を見たくなってきた。

 昔の注目を集めようと躍起になってた時期だったら墓穴掘るだけだっただろうけど、今なら何人かは確実に反応してくれるだろうしな。

 

 だからといって、本当に短くするのは抵抗ある。

 ウィッグでも付けていくか?

 でもたかが反応見るのに私財投げ打つのもな……

 

 そうだ、後ろで結んでポニテを隠すってのはどうだ?

 

『ストールが流行の兆し。ストール男子も急増中』

 

 このストールってのは確かお母さんが持ってたし、これを身に付けてポニテを制服の中にインすれば、ショートヘアに見えなくもない。

 帰ったら早速やってみるか――――

 

 

 

 

「貸すのはいいけど、汚さないようにね」

 

「わかってる」

 

 よし、すんなりストールゲット。

 後は……

 

「……んだよ?」

 

 そういえば、(こいつ)こそガキの頃からずっと髪型も色も変わってないな。

 

「なんでサッカー部なのに髪染めないの? 日本で有名なサッカー選手って大抵金髪とか銀髪じゃね? プロフェッショナル(ケイスケホンダ)になりたくないの?」

 

「知らねーよ……つーか意味のわからねー絡み方してくんなよ」

 

「やっぱり髪染めてる奴って試合で狙われたりするのか? 『こいつカッコつけてて生意気だから削ってやる』みたいな」

 

「ねーよ。ってかなんなんだよそんな中途半端な知識」

 

「でもサッカーってわざとファールして褒められる競技なんだろ? それで骨折とかさせる事あるのになんで全国民を敵に回さないの? おかしくね?」

 

「おかしいのはそっちの脳ミソだろ」

 

 誠実さのカケラもない回答だな……これだからスポーツやってる奴はダメなんだよ。

 スポーツやって健全な精神を養います、とか絶対嘘だろ。

 

「つーか、今割と敵に回してるけどな……」

 

「あっ……なんかその、ごめん」

 

 弟を軽く弄るつもりが、日本代表をディスる感じになってしまうとは……

 まあいい、それより髪だ。

 今の会話で気付いたけど、髪染めるって発想はなかったな。

 

 金髪はヤンキーかプロフェッショナルのイメージ強いから論外だが、軽く茶色入れてみるのはアリかな。

 今までずっと黒髪ロングだったけど……確か白髪染めでも茶髪に出来るんじゃなかったっけ。

 

「お母さん、白髪染めも貸して」

 

「白髪……?」

 

「あっいやなんでもない」

 

 弟に続いてお母さんの年代のデリケートな部分に踏み込んでしまった……

 染めるのは諦めて、髪型の方に集中するか……

 

 

 

 

 ――――さて、勝負の朝だ。

 体育の時とかに結んでるのより強めに縛って、それを制服にインして背中に収納。

 それがバレないよう、首回りをストールで隠しつつオシャレも演出。

 

 昨日買ったファッション誌がこんな所で役立つとは……

 ってかストールって一歩間違えると王者のマントだよな。

 

 念には念を入れて、後ろから見られないよう早めに登校したけど……

 知り合いがまだ誰もこない。

 

 正面や横から見たら普通にショートにしか見えない仕上がりになってるし、     ┃ο゚)!?

 もうこっちは準備万端なんだが。

 

「おはよ、黒木さん」

 

 おっ、最初はガチレズさんか。

 同じショート同士、仲良くしようぜ……みたいな感じで挨拶してみよう。

 

「おはよ」

 

「え……? あれ……? その髪……」

 

「あっうん、ちょっと気分転換にって。おかしいかな……?」

 

「あ……ああ……おおおかしくないよ! すっごく似合ってる!」

 

 ……そんなにか?

 ガチレズさんが嫌な事言う性格じゃないのはわかってたけど、まさか震えるほど愕然とするとは。

 

 もしかして、私ってショートの方が良いのか?

 

「おはよー。クロ、まこちゃん。早い……ね……」

 

 ネモも来たか。

 って、こっち見た瞬間動きが止まったぞ……?

 

「ど……どうしたのそれ……」

 

「いや、昨日話してただろ? 髪型変えてないって。だから思い切ってやってみたんだけど」

 

「ほ、本当にそっち? 嘘だよね?」

 

 そっちってどっちだよ。

 ああ、これからはショートで行くのかって意味か。

 

「まあ……まだ完全には吹っ切れてないけど、これでスッキリしたかなって」

 

「スッキリ……したんだ……ならいいけど……ふーん……へー……へぇぇ……」

 

 明らかにネモの様子がおかしい……

 もしかして気まずいのか?

 私自身も『これきっかけで髪型変えられたら気まずい』って言ってたしな。

 

 仕方ない、フォローしとくか。

 

「確かにきっかけは昨日の会話だけど、元々切ろうかなって思ってたから」

 

「そ、そうなんだ」

 

 何故そんな汗ダクダクで震える……?

 

 幾らなんでも2/2で震えを誘発するのは変だ。

 震えるほど似合ってる、とまではさすがに思えないし……

 

「おはよう。固まって何話してるの?」

 

 加藤さん(No.1)のおでましか。

 メイクの一件でこの人の美的感覚には少しだけ不信感を抱いたりもしたが……

 

「あれ? 黒木さん、もしかして髪切った?」

 

「あ……そ……そうだけど……」

 

「凄く似合ってるね。可愛い」                          ┃皿╹)

 

 流れるような称賛と自然な笑顔……!?

 やっぱり私はショートが似合ってるんだ!

 だってこんなにスムーズに褒め言葉が出てくるんだもの……!

 

「くぁ……眠ぃ……ん?」

 

 ヤンキーも来たのか。

 まあ、あいつには目立った反応は期待してないが……

 

「……!」

 

 あれ……こっち見た筈なのに一瞬で目を逸らしたぞ。

 何そのリアクション。

 っていうか、なんか恥ずかしそうにしてなかったか……?

 

 まるで恋をしているかのような……

 

 あれ?

 もしかして私……モテてる?

 

 まさか……これ男装みたくなってるのか?

 

 そういえば、昨日買ったファッション雑誌に『ストール男子』みたいな見出しあったよな……

 こいつら、揃いも揃って男装した私にときめいてるのか!?

 

 まさか私にそんな才能があったなんて……

 

「おはよーまこっち。何してんの?」 

 

 今度はキバ子が……

 あいつとはほぼ接点ないし、さすがに魅了するのは無理だな。

 

「あ、南さん。おはよ……」

 

「あれ? え? ちょっとまこっち! ちょっとこっち!」

 

「な、何?」

 

 なんだあの反応……まさかキバ子まで私に?

 まさか、あのカッコ良い奴誰とか聞く気――――

 

 

「黒木って失恋したの!? っていうかあいつ恋人いたの!? あんなのに!?」

 

 

 ――――な。

 

 なんだそりゃあああああ!?                      ガタッ> ガタッ>

 

「私ちょっとトイレ行ってくるね。南さんも来て」

 

「え? 急にどしたの? え? ちょっ、あんたら何勝手に人の腕……

 ひぃ――――――――!?」

 

 三人に引きずられてキバ子が教室から出荷されて行く……

 

 そうだ、髪切るってそういう事だった。

 私自身、ゆうちゃんが短くした時に同じ事思ったのに……自分の事になるとピンと来ないものなんだな。

 

 まさか同情されてたとは。

 最悪だ。

 つーかヤンキーの反応が一番堪えるんだが……

 

 これ以上ショートのフリをしてても仕方ないし、元に戻すか。

 このファサって感じで髪が外に出る瞬間って何気に

 モテポーズだと思うんだけど、見てる奴いないし意味ないな。           ┃_╹)!

 

 にしても、ここまで大事になると後々の説明が面倒だな……どうしよう。

 

「黒木さん。おはよ」                              ┃ο゚)!?

 

 田村さん(陰キャ)か。

 こいつに見られなかったのは幸いだったかもな。

 空気読まない奴だから、キバ子みたいな事言い出してたかもしれないし。

 

「あっ、おは……」

 

 え?

 何その髪型?

 

「……」

 

 私に何を訴えかけてるんだ……!?

 

 

 

 


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