10分で読めるわたモテSS   作:umadura

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モテないし傘がない

 

 

 

 

 雨の日にはロクな思い出がない。

 アニメやマンガやゲームでは、雨の降る日は決まってしっとりとした雰囲気の回だったりするんだが……現実は違う。

 

 創作は創作。

 現実は現実。

 そんな当たり前の事に、高校入学前の私は――――気が付いていなかった。

 

 だとしたら、私はこの二年とちょっとで成長したんだろうか。

 今はもう、恋愛ゲームと現実の恋愛に相関関係はないって理解してるし、モテない奴が何頑張ったって空回りしかしないのも知ってる。

 

 雨の日だからといって、静止画のようにゆったりとした時間が流れる訳じゃないし、綺麗なBGMが流れる訳でもない。

 相合い傘でニヤつくカップルを横目で見ながら、そいつらがグロくない程度の交通事故に遭ってお互いの両親が罵倒し合う場面を想像してヘラヘラ笑う……ような気分にもなれない。

 

 雨は現実に何の名エピソードもくれない。

 ただただ鬱陶しいだけ。

 増水した川を橋の上で見下ろして無邪気に笑っていた頃の私は、もういない。

 

 でも……今もこういう雨の日に登校してると、少しだけ昔を思い出す。

 まだ無邪気だった頃の自分を。

 なんのしがらみもなく、ただ純粋に楽しかった日々を。

 

 子供の頃は、傘で月○天衝とかティ○・フィ○ーレとかやってたっけ。

 あと、屋上で傘をライフルにして意味もなくグラウンドの連中を標的にしたり。

 

 まあ、今そんなのを人前でやろうものなら、厨二とか以前に救急車呼ばれそうだよな。

 人前じゃとても出来ない。

 

 でも、人前じゃないのなら――――

 

 

 

 

「――――黒木さん、帰る?」

 

「あっ うん」

 

 ……もう放課後か。

 

 結局、今日は朝から放課後まで降りっぱなしだったな。

 昔なら、こういう日にはカエルが道路に出て来たりするから楽しい帰り道になってた気もするが……そんな童心も今はすっかり消え失せてしまった。

 いろいろやって発散したからな。

 

「今日は一日中雨だね」

 

「明日も降るみたい」

 

 ガチレズさんと田村さん(2人)の何でもない会話が雨音と重なって、波紋みたいに広がっていく。

 こういう日にはゲラゲラ笑うような話題よりこれくらいの方がサマになるな。

 

 ……不思議だ。

 別に現実の雨の日なんて特別じゃないってとっくにわかってるのに、そんなふうに感じるのはなんでだろう。

 やっぱり私は芸術家肌っていうか、一般人とは違った感性の持ち主なんだろうか……?

 

「黒木さん、制服ちょっと濡れてる」

 

「え? あ、あー……そうそう、昼休みにちょっと外に用事があって。濡れるのは嫌だったんだけど」

 

「雨、嫌い?」

 

「あ……うん。別に好きじゃないかな。良い思い出ないし」

 

「嫌な思い出はあるの?」

 

 ……やっぱり田村さん(こいつ)、空気読まないな。

 話したくないから嫌な思い出なんだが。

 

 とはいえ、それをそのまま口に出すのもな……トークの出来ない一発屋芸人みたく思われるのは癪だし。

 どれを話すべきか。

 

 途中で雨に降られて公園で雨宿りしてたら男子二人と遭遇して壮絶に滑ったアレ……は完全に黒歴史だからボツ。

 きーちゃんと一緒に図書館行った時のアレ……は思い出したくもない。

 髪がメチャクチャになった話は……無難過ぎて面白味に欠ける。

 

 ああ、アレがあったか。

 

「ヤ……あ、いや……」

 

「吉田さん?」

 

 なんで今のでわかるんだ……?

 

「う、うん、そう。吉田さん……と相合い傘したっていうか、それだけの話なんだけど」

 

「え? それが嫌な思い出?」

 

「あー……えっと、途中でボコボコに殴られたから」

 

「相合い傘してる最中に……?」

 

 ガチレズさんが困惑してるけど、事実は事実だから仕方ない。

 

 でも言われてみれば……確かに相合い傘しててボコられるってシチュは常識的にあり得んな。

 ラブコメでそんなのやったら苦情殺到どころか『ラブコメを冒涜するな』って脅迫状が届くレベルの出来事だろ。

 ヤンキーってやっぱクズだわ。

 

「黒木さんが変なこと言うから」

 

 まるで見ていたかのように……!?

 

 田村さん(こいつ)、私を普段からどんな目で見てるんだ?

 まあ、何か言った記憶はうっすらとあるけど……  

 

 結局、玄関に着くまで終始雨に似合わない会話になってしまった。

 別にいいけど……

 

「……ん?」

 

 私の傘が……ない? 

 パクられた?

 

 いや待て、落ち着け。

 どうせ前みたいに隣の傘立てに……

 

 ない。

 

 うわ……これマジでないやつだ。

 高い物じゃないしどうせ親の金で買った傘だけど……パクられ損はムカつくな。

 

 でも――――

 

「どうしたの?」

 

「あ、えっと……なんか私の傘がない……みたい」

 

 昔みたいに殺意を覚えるほど腹立たないのは、田村さん(こいつ)やガチレズさんがいるからだな。

 もし見つからなくても、途中まで入れて貰えばいいし。

 人間関係の煩わしさはあるけど、友達はいるに越した事ないな。

 

「折畳み傘だった、とかじゃなくて?」

 

「いや普通の傘。こっちの傘立ても見てみたけどないっぽい」

 

「朝は車で送って貰ったとか?」

 

「それもない」

 

「だったら……」

 

「二人とも何やってるの?」

 

「真子。黒木さんの傘が盗まれたって」

 

 突然の断定……!?

 いやまあ、十中八九そうだろうけど……

 

「え、傘がないの? でも盗まれたって……忘れたんじゃなくて?」

 

「朝からずっと雨降ってたし、忘れようがないでしょ。誰かが盗っていったんだと思う」

 

 ……そりゃ私もそう思うけど、こうも他人から決めつけられると腹立つな。

 これじゃ私が物凄く脇が甘いか、誰かに恨み買って当たり前の奴って感じじゃねーか!

 

 実際には傘のパクりなんて相手がどうとか関係ないのが殆どだろうが……

 

「黒木さん、ゆりはこんなこと言ってるけど……本当?」

 

「へ? う、うん……忘れたとかはないかな。安物のビニール傘だから、傘目当てで盗まれた訳でもない……とは思うけど」

 

「ビニール傘なんだ。だったら間違えられて持って行かれたんじゃないかな?」

 

 さすがガチレズさん、陰キャとは違って誰も傷付けない綿毛みたいな発想だな。

 コンビニで買えるビニール傘は特徴が全くないから、間違える奴がいても不思議じゃないし。

 

「真子、逆。ビニール傘は間違われ難いから」

 

「え? そ、そうなの?」

 

「ビニール傘持ってる人はそういうのに敏感だから、似た傘の傍には置かないよ。黒木さんもそうでしょ?」

 

 ……どうだったっけ?

 他人の傘を気にして突っ込む傘立ての場所決めた事ないからな……

 

 でもここでそれを言ったら『こいつ考えなしのバカだな』って思われるよな絶対……

 

「そ……そうかも」

 

「そうなんだ。だったら本当に盗まれたのかも」

 

 ちょっとの見栄がガチレズさんの見解を変える結果になったけど……本当にこれでいいのか?

 なんか墓穴を掘った気しかしないんだが……

 

「でも、傘目当てじゃないんだったらどうして……」

 

「黒木さんへの嫌がらせ……とか?」

 

「それはないと思うけど。黒木さん、他人から恨み買うような人じゃないでしょ?」

 

「でも逆恨みかもしれないし。黒木さんって誤解されやすい人だから」

 

 ……いや、私の目の前で私スルーして黒木談義をされてもな。

 っていうか誤解されやすい人ってなんだよ!

 田村さん(こいつ)、私をどんな人間だと思ってるんだ……

 

 でも実際、どうなんだ?

 ガチレズさんの言うように、他人から恨み買うような行動はした覚えないぞ。

 心の中が周囲に漏れ聞こえてるのならヤバいが。

 

 それに、私の周りにそんなセコい嫌がらせするような奴にも思い至らない。

 コオロギも性格は難アリだが別に手癖は悪くないし。私のケータイ届けに来た事もあったしな。

 

「逆恨みじゃなくて、恨みの逆って事はないかな? 黒木さんが好き過ぎてつい私物を盗っちゃった、みたいな……」

 

 は……?

 ガチレズさんの私への評価が高いのは知ってるけど、それは幾らなんでも無理矢理過ぎだろ……

 

「心当たりある」

 

「あるの!?」

 

 思わず声に出てしまった……

 

 いやでもねーよ!

 アイドルじゃないんだぞ私は!

 

「そんな人いないと思うけど……誰の事言ってんの?」

 

「黒木さんが何回か一緒にご飯食べてる後輩の子とか」

 

 ……清楚ビッチの事か?

 言われてみれば、あいつ私を慕ってるっぽいし……なくはないかも。

 あいつ視点の私は、頼りがいがあって優しくて思わず独占したくなる先輩だろうしな。

 

「なら別にいいや」

 

「え? いいの?」

 

「私の傘で可愛い後輩が喜んでくれるんなら安い物だよ」

 

 本当に安物だしな。

 それに、ここで白日の下に曝すより弱味として握っておいた方が後々役立ちそうだし。

 

「黒木さん……すごく大人」

 

 なぜ涙目……?

 幾らなんでも感動し過ぎだろ、ガチレズさん。

 そんなに大人の対応する同級生に飢えてたのか……?

 

 でも、これでこの件は解決。

 後は途中まで帰り道が同じ田村さん(こいつ)に駅まで入れて貰うか。

 

「黒木さんがそれでいいのなら私はいいけど。傘、私のに入る?」

 

「うん。それじゃ……」

 

「玄関で固まって話し込むの止めなよ。他の奴の迷惑になるだろ」

 

 っと、注意されてしまった……

 って凸かよ。

 

「あ……ごめんなさい」

 

「ん? なんでお前泣いてるんだ? まさか……」

 

 な、なんだ?

 凸のこっちを見る目に殺気が……

 まさか私達がガチレズさんを泣かしたとか思ってるのか?

 

「い、いや……その……」

 

「違うから。これには理由があって……前もそうだったでしょ?」

 

「ん、ああ……そんなこともあったっけ。それで、理由ってなんだよ」

 

 よかった、また変な感じになるとこだった。

 田村さん(こいつ)、陰キャの癖に変なところで度胸あるんだよな。

 私とはビビるツボが違うっていうか……

 

「えっと……黒木さんの傘が盗まれたかもしれなくて」

 

「……は? それでなんでこいつが泣いてるんだよ」

 

「その子のこと許すって黒木さんが言ったから、真子が感動して」

 

 なんか話がややこしくなろうとしてないか……?

 そもそも清楚ビッチが私の傘持ち逃げしたっていうのも田村さん(こいつ)の勝手な予想なんだが……

 

「はあ? そんなのダメだろ。悪いことしたら悪いって言ってやらないと、そいつのタメにならないだろ?」

 

「それはそうかもしれないけど……本人が良いって言ってるんだし」

 

「いや、そんなの自己満足だろ。盗みなんて許してたらそいつ将来ヤバい奴になるぞ」

 

 ……なんかいつの間にか田村さん(こいつ)と凸の言い争いに発展してる?

 なんだこれ。

 たかがビニール傘一つでなんでそんな事態になってんの?

 

「おい、何こんなトコで揉めてんだよ。通れねーだろが」

 

 またややこしいヤンキー(やつ)が……

 ヤンキーならヤンキーらしく捨て犬に傘やって濡れて帰れよ。

 

「吉田さん」

 

「なんだ田村(おまえ)かよ。で、この騒ぎはなんなんだ?」

 

「黒木さんが真子泣かしてたのを見られてて……」

 

 はああああああああああああ!?

 言葉足らずにも程があるだろ!?

 

 こいつ……さっきの説明だと凸の時みたく言い合いになりそうだからって表現変えやがったな!?

 

「テメェ……」

 

「い、いや違うから! 私は傘盗まれた被害者だから!」

 

「……田中がお前の傘盗んだのか?」

 

 へ……?

 いやでもこの流れだとそう解釈されても――――

 

「え? そういう話だったの? それで反省して泣いてたのか?」

 

 しまった、反論する前に凸まで誤解しやがった!

 早く正さないとガチレズさんに的外れな罵声が飛ぶことに……!

 

「あ、あの……黒木先輩、一体何が……」

 

 張本人が現れただと……!?

 いや待て、清楚ビッチ(こいつ)が犯人って決まった訳じゃない。

 っていうかそれよりガチレズさんの濡れ衣を――――

 

「ち、違うよ。私が盗んだ訳じゃ……あ……」

 

 あ?

 ガチレズさん、今こっち見た?

 いや、私じゃなく清楚ビッチを見たのか?

 

 な、なんか更にイヤな予感が……

 

「……わ……私が盗んだ……かも」

 

「真子!?」

 

 やっぱり……!

 この状況で『盗んだのは清楚ビッチ(こいつ)だ』って言ったら、クラスの二大アマゾネスが集合してる今、タダじゃ済まない。

 光より早く手を出す連中だからな。

 

 ここで敢えて泥を被って、後で誤解を解くつもりなんだな……

 さすがガチレズさん、相手が女子なら見境なく優しい。

 

 でもこのままだと『テメーの所為で誤解しただろーが!』ってヤンキーが私にキレる流れだ!

 早くなんとかしないと……

 

「いや、でもそいつ傘持ってるぞ? 校舎の中なのに」

 

 え……

 あ、本当だ。

 凸の言うように、清楚ビッチ(こいつ)が持ってるのって……ビニール傘だ。

 

 マジか――――!

 

 正直そんな訳ねーだろって思いながら半分現実逃避でノってただけなのに、まさか本当にこいつが盗んだ犯人なのか!?

 

「なんなんだよ。結局誰が犯人なんだ? お前か?」

 

「え? な、何がですか……?」

 

「おい、そんなに凄むなよ。まだわかんないだろ」

 

 まあ、この状況じゃ間違いないとは思うが……先輩風は吹かせられる時に吹かせとかないとな。

 

「えっと……正直に話して欲しいんだけど、その傘ってどうしたの?」

 

「は、はい。これをそこの傘立てに戻しておいてって三年の先輩に言われて」

 

 何それ。

 盗ってはみたけどやっぱり恐くなって、戻しに来たら人が沢山いて恐くなって嘘ついてるとか……?

 

 いや、そもそも犯行現場に戻るリスクを考えたらその辺に放置した方がマシだよな。

 清楚ビッチ(こいつ)は本当の事を言っている……気がする。

 

「……」「……」「……」「……」

 

 私以外の四人も困惑してるのが手に取るようにわかる面だ。

 私が話を聞くしかないか。

 

「えっと、その三年って誰?」

 

「すいません、名前は知らなくて……頼まれただけなので」

 

「じゃ、じゃあどんな顔だった?」

 

「それは、その……」

 

 思わず言い淀むほど不細工な奴なのか……?

 でも私の周りにそこまでのはいないよな。

 まさか私の美貌を妬んで……とは1mmも思わんけど、知り合いでもない奴に傘パクられるほど罪深い行為にも覚えはないぞ……?

 

「凄くその、きれいさっぱりしてるっていうか……」

 

 きれいさっぱり……?

 

 いやどっちだよ!

 綺麗なのかサッパリなのかで全然印象変わってくるぞ……!?

 

「明日香かな? 三年で綺麗って言ったら」

 

「いやあいつだろ。名前……は出て来ねーけど、あのさっぱりした奴」

 

「もしかしてうっちー?」

 

 案の定、凸とヤンキーで意見が真っ二つだ。

 っていうか、その二人とも私の傘をパクる理由なんて全然なさそうなんだが……

 

「根元さんかも……私たちよりさっぱりしてるし」

 

 どうして私を頭数に入れる……?

 でも田村(こいつ)の言うように、綺麗ってのにスポット当てるとネモも候補に入るな。

 全然さっぱりはしてないが……

 

「陽菜は関係ないだろ。あいつ今日は用事あるからってさっさと帰っちゃったし」

 

 ……いや、それ逆に怪しくね?

 

 でもあいつがこんな手の込んだイタズラするとも思えん。

 どうせ録り溜めた日常アニメでも観るつもりなんだろ。

 

 な、なんかいよいよ訳わからなくなってきたな。

 ちょっとしたミステリーになって来た。

 どれもこれもミスリードに思えて、真相がサッパリ見えてこないんだが……

 

「なんか訳わかんねーけど、ここまで首突っ込んで誰が犯人かわからねーのは納得いかねーな」

 

「私も。こういうのはハッキリさせないと夜眠れないんだけど」

 

「じゃ、あたしはあのさっぱりした奴探してみる」

 

「こっちは明日香に聞いてみる。まだ帰ってないと思うし」

 

 なんか勝手にヤンキーと凸が結託して聞き込み調査に言ってしまった……

 あいつらみたいな人種って謎の意気投合好きだよな。

 私には一生理解出来ん。

  

「あの、黒木先輩……」

 

「あ。傘、それ私の。ありがと」

 

「すいません。なんか混乱させてしまったみたいで……私これからちょっと用事があって」

 

 こいつの事だから男絡みだろな。

 このままここで足止めしてたら、その男が迎えに来るかも。

 普段ならそれはそれで面白そうだが……今はこれ以上場を荒したくない。

 

「もう行っていいよ。変な事に巻き込んで悪かったね」

 

「いえ……それでは失礼します」

 

 結局、あいつは犯人じゃなかったか。

 心の中で疑ったお詫びに今度ジュースか何か奢ってやろう。心の中で。

 

 

 

 

 その後――――

 

「ダメだ。全然捕まらねー。もう帰ったみてーだ」

 

「LINEで連絡取ってみたけど、明日香心当たりないって」

 

 手掛かりが完全に途絶えたところで調査は終了。

 もう私の傘も返ってきたし、これ以上詮索しても意味ないしな……

 

「あーくそ! なんかスッキリしねーなー!」

 

「ゲーセン行ってパンチングマシーン殴っとけば?」

 

「そーすっか。お前らも行くだろ?」

 

「うん」

 

「即答なんだ……黒木さんも行くよね?」

 

「あっ うん」

 

 頼んでないとはいえ、傘ドロの追跡調査させておいて誘い断るのはさすがにな……

 これも知人が増えた弊害か。

 早く帰ってキモいバーチャルユーチューバー漁りたかったんだが。

 

 外は相変わらずの雨模様。

 なんとなく、もう一波乱ありそうな一日だ。

 本当、雨の日ってロクな目に遭わないからな……

 

「黒木ってこういう雨の日、髪大丈夫?」

 

「あー……風があるとヤバいね」

 

「だよね。なんで結ばねーの?」

 

 (お前)みたいな髪型はダサいと思ってるからだよ!

 

「いや、お前みたいな髪型はこいつには無理だろ」

 

 それはどっちを貶してるんだ……?

 ヤンキー(こいつ)のディスってなんの捻りもないから、今みたいなのだと逆にわかり辛いな。

 

「そっか? まあ結び方も色々あるし、今度明日香にやって貰えば?」

 

「そ……それはちょっと、遠慮しとこうかな……」

 

 頼むから余計な事言わないでくれよ……

 

「こんなふうに放課後みんなで一緒に歩くのもいいね、ゆり」

 

「……ん」

 

 私は全然気が休まらないんだが……

 結局犯人もわからず仕舞いだし。

 

 でもまあ、ゲーセンならプライズ漁りも出来るし、ストレス解消にはなるかな――――

 

 

 

 

 到着。

 雨の日でもゲーセンはジジイが多いな。

 

「それじゃ私はちょっとあっちのコーナー見てくる。すぐ戻るから」

 

「うん」

 

 さて……猫○(6期)のフィギュアってもう出てるかな……

 

 ……ん?

 HODやってるあいつ、コオロギの友か? 確か伊藤さん……だったか。

 慣れてるって感じじゃないみたいだが……

 

「……?」

 

 あっ、こっちに気付いたっぽい。 

 マズいな……一番挨拶に困る距離感の奴なんだよな。

 

 げっ、近付いて来る!?

 

「あ、え、えっと……その……」

 

「傘、受け取った?」

 

「へ?」

 

 傘って……

 まさか清楚ビッチが言ってた“きれいさっぱり”の先輩ってこいつ!?

 言われてみれば確かにそんな感じの顔だが……

 

「う、受け取ったけど……あれ、どうしたの?」

 

「置き忘れてたよ。屋上の扉の前の所に」

 

 !?

 

 あ――――

 

「昼休みに遊んでたよね? たまたま見かけたんだけど……こっちには気付いてなかったんだ」

 

 

 ああああああああああああああああああああああ……!

 そうか……あの時……!

 

「ちょっと気になって放課後に行ってみたら、傘があったから。最初は自分で届けようと思ったんだけど、もしこっちに気付いてたら渡す時に友達の前で気まずい思いしそうだし、前に一緒にお昼食べてた後輩の子に預けたんだけど……」

 

 あれを見られてた……なんて……

 

「気付いてなかったんだったら、余計なお節介だったね」

 

「い……いや……あれはその、たまたま童心に帰ったって言うか……」

 

 違う、違うんだ。

 今の私は昼休みに卍○とかアサシンごっこをするような精神年齢ヤバい高三じゃないんだ……

 

「でも、結構決まってたよね? こんな感じで……」

 

 止めろ!

 ゲーセンのガンシューティングで私の傘ライフルを再現するのはもう止めてくれ……!

 

 なんでこんな殆ど面識もないような奴に黒歴史を二つも見られてしまったんだ……

 もしコオロギなんかに知られたら……あああああああああああああああああああ……

 

 口止め……しないと……

 こうなったらいっそ殺してでも……! 

 

「……?」

 

 隙がない……!?

 なんてきれいさっぱりした佇まい……!

 

 私の……負けだ……

 

「その……ありがとう……たくさん気を使ってくれて……」

 

「そんな大層なことじゃないけど。それじゃ」

 

 背中にまで隙がない……

 

 こんな事ならゲーセンなんて来るんじゃなかった。

 いや、あいつとは同じクラスだし、どっちにしてもこうなる運命だったんだ。

 そもそも自分の気の迷いが原因だし……

 

 雨の日にはロクな思い出がない。

 っていうか、悲惨な記憶ばっかりだ。

 

 もういっそ――――

 

「オラ――――っ!」

 

「お、最高得点。やるじゃん吉田」

 

「まーな、これぐらい余裕……ん? ンだよ、死にそうなツラして」

 

「……そのマシーンの代わりに私を殴ってくれ」

 

「は? お前何言って……」

 

「頼むから私の頭を全力で殴って! いつもやってるだろ!? もういっそ殺してくれていいから!」

 

「お、おい田村! このイカれたクソガキどうにかしろ! お前のダチだろ!?」

 

「ダチ……」

 

「おい聞いてんのかよ! 何惚けてんだよ!!」

 

 お願いだから……全部……この雨の日の記憶全部壊して……

 

 

 

 






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