全30話などと書いていましたが、『モテないしパジャマパーティー開催』は前後編で1話分とカウントするのが自然なので、足りない1話を追加投稿しました。
そんな辻褄合わせのエピソードです。
ふと、ぼっち時代を思い出す事がある。
一人で通学路を歩いてて、信号で立ち止まった時だ。
その行為自体に何があるって訳じゃないが……なんとなく孤独を実感する瞬間だからかもしれない。
足を止めて、話す相手がいなくて、手持ち無沙汰になるこの感覚が当時を思い出させるんだろう。
仮に大学に入れたとして、もし知り合いが誰もいなくてまたぼっちになったとしたら……私はあの頃をもう一度やれるんだろうか?
一応、その覚悟はしてる。
色々模索してみたけど、私が自分から友達を作るのはもう無理だ。
中学の時に勇気を出してゆうちゃんに話し掛けたみたいに、私が主導権握れるような相手が都合良くいるとも思えんし。
話に聞くところによると、大学の教室はかなり広いらしい。
しかもどこに座っても良いから、先生から一番遠い位置に座れば何やっててもまず見えないし注意もされない。
って事は、授業中――――大学では講義って言うらしいが――――ラノベとか読んでても全然OKなんだよな。
それなら、ぼっちでも余裕だ。多分。
むしろ今よりも充実した日々を送れそうな気さえする。
……なんだろうな。
最近はこんな風に考える事が増えた。
『今よりも~』とか『今の方が~』って。
昔は違った。
男にモテてチヤホヤされる自分になるための準備期間が今なんだ、みたいな。
けど今は、未来を考える時も過去を思い出す時も
ま、どうでもいい変化なんだが……
「何ボーッと突っ立ってるの?」
「うおおっ!?」
「おはよー。信号青だよ、早く渡ろ」
び、びびった……ネモか。
昔みたく声掛けられたら無条件でテンパるとかはもうないけど、考え事してる時に話しかけられるとダメだな。
……ん?
「お前、家こっちじゃないだろ? なんでいんの?」
「何その吉田さんみたいな言い方。クロが言っても感じ悪いだけだよ?」
いや、なんでヤンキーと比べられてるんだよ……知らねーよ。
それにどう考えても向こうの方が感じ悪いだろ。
新入生相手にオラつくような奴だぞ。
「たまにはクロと一緒に登校したかったから、早く出てみたんだ」
「……は?」
「何その顔。迷惑だった?」
「いや迷惑っていうか……」
意味がわからん。
学校に行けば嫌でも顔合わせるのに、わざわざこっちの通学路まで来て私と登校する理由ってなんだ……?
昨日観たアニメの事を一刻も早く話したい……とか?
教室でオタ臭い話はしたがらないからな、こいつ。
それならまあ、辻褄は合うか。
「クロって服どこで買ってるの?」
寧ろ教室御用達の会話じゃねーか!
年に100回以上聞くぞ、誰かしらがこれ話してるの。
何故他人の使ってる店が気になる……?
「いや別にこれって所はないけど……通販とかむらむらとか」
「クロ、むらむらーなんだ。ぽいね」
「あ? 私のどこにむらむらー要素あるんだよ」
「……」
こいつ今……私の胸を見やがった……!?
「貧乳は乳袋を覆う布に金かけなくていいからむらむらがお似合いとでも言いたいのか!?」
「ち、違うよ。他のことにお金かけそうだからって意味で……クロ声が大きいってば」
ならさっきの胸チラ見はなんなんだよ!
ったく……朝からナチュラルに煽って来やがって。
こいつ絶対家では匿名掲示板かまとめサイトで無差別に草生やしてるだろ。
そんでkonozamaのレビューに☆1つ付けて、キレるファン共を嘲笑ってやがるに違いない。
最低だな……付き合い考えるか。
「別に私も普通にむらむら行くし。家の近くにもあるよ」
「あっうん」
「……」
なんなんだよその黒ずんだビー玉みたいな目は!
マジでこいつ何がしたくて朝っぱらから私に絡んで来てんの!?
「おはよ、黒木さん」
この声は……
こっちは通学路一緒だから別に不自然じゃない。
「あ、おはよ。田村さんもこっち」
「え……」
まあ、向こうにしてみたらネモといる私は不自然極まりないだろうが……案の定困惑して固まってるし。
「なんで?」
「クロと話したかったから、ちょっと思い切っただけなんだけどな。そんなにおかしいかな?」
「……怖い」
「こ……?」
今度はネモが固まったぞ。
いや、今のは流石に私もフリーズしかけたが……クラスメイトに怖いとかよく言えるな。マジかこいつ。
「え? それってストーカー的な怖さってこと? 私のイメージそんななの?」
「え……違う……けど」
「でも怖いんだよね? 私のどこが怖いのか教えてよ」
ネモ、どうにか笑顔を保っているが……どう見ても精神的に追い込まれてる雰囲気だな。
まあ、同級生に怖いとか言われたら誰だってああなるか。私でもああなりそうだ。
「黒木さんなら多分わかると思う」
「へ!?」
なんだよその流れ弾!?
お前は私にどういうシンパシー求めてるんだよ!
二対一で同調圧力狙ってるのか!?
「根元さん、前に自分の中で本音が流行りって言ってたから、本音を言ってあげた方がいいと思う」
「話すのが。話すのがね?」
本音が流行りって何だよ。
こいつ、ちょくちょく言動が中二だよな……声優は天職なのかも。
「それで、どうなのクロ?」
なんか泣きそうな目でこっちを見てるんだが……
どうしよう。
なんだかゾクゾクしてきた。
思えば昔、ネモは格上の存在だった。
話し掛けられるだけで有頂天になってたっけ……そんな時期が私にもあった。
そのネモが、今は私を見てウルウルしているとはな……
「別に怖くないよ。なんならちょっと愛おしいくらい」
「!?」
「!?」
……え?
なんで2人もいてどっちもツッコまないの?
私のボケってわかり難いのか?
「ふ、ふーん……別にクロからそんな風に言われても仕方ないけど」
なんで急にツンデレ……?
髪型はなんとなくツンデレっぽいけど、お前そういうキャラじゃないだろ……?
「クロ……」
で、
まさか自分もそう呼ぶとか言い出すんじゃないだろな……
「根元さん、黒木さんのことクロって呼んでるの?」
「え? 少し前からそう呼んでるし、田村さんの前でも呼んでたよね?」
「うん。ならもう怖くないかな」
「……? ……?」
ネモが困惑の目をこっちに向けてきたけど、私だって訳わからんし。
まあ、
「根元さんが黒木さんのこと、『もこっち』って呼んだのかと思って」
「……へ?」
「さっき、『おはよ。田村さんもこっち』って。黒木さんと私に挨拶してるのかなって」
な……
なんだそりゃ……
「あーそっかそっか。成瀬さんの、だったよね?」
「そう。だからちょっと驚いて……」
「田村さんもこっちだったんだ、って意味だよー。あー、ビックリしたー」
どういうすれ違いだよ……お前らアン○ャッシュか?
そもそも、もこっち呼び許してるのはゆうちゃんだけだからな。
「話変わるけど田村さんって服どこで買ってる? 通販はないよね?」
「どうして?」
「クロとさっきどこで服買ってるのか話してて、通販使うって言ってたから。普通使わないよね? 高いし試着できないし。誤魔化されたのかと思って」
「……ちょっとわかる」
「え? どっちの気持ちが……?」
なんか知らんけど、2人で話し始めたな。
誤解が解けて友情でも芽生えたか?
こいつらが仲良くしても私にはなんのメリットもないが……ギスギスしててもメリットは別にないし、なら静かな分仲良い方がマシか。
この機会に親睦を深めるのなら、どうぞ好きにやってくれ。
……でもこのまま私だけ1人蚊帳の外ってのも気分悪いな。
女3人集まると大抵こうなるからな。
どこぞのこみなんとかが私とゆうちゃんの会話に加わろうと必死になってたのが無様で仕方なかったが……あれと同じ立場になるのは死んでもゴメンだ。
いっそのこと、ヤンキーみたくあいつらの肩組んで『なんの話してんだよ!』って入って行ってみるか?
ヤンキーリスペクトなのが癪だけど、これくらいわかりやすいボケなら流石にツッコんで来るだろ。
「吉田さんってさ、田村さんに甘くない?」
「そんなことないと思うけど」
「でも遠足の時にシート禁止の所で座ってたの、優しく言ってたよね? 吉田さんってああいう言い方しない人だと思ってたけど」
「……」
おっ、なんかちょうどいいタイミングでヤンキーの話題になってるっぽいぞ。
半分以上冗談で考えたやつだけど……本当に実行するフラグ立ったな。
あいつらがどんな顔するか見てみたい気もするし。
あの時は確か、私と
勢い付けた方がいいな。
あと笑顔か……自然に笑おうとすればするほど引きつるんだが。
……なんかやたら緊張してきた。
キャラじゃないって自覚はあるしな。
幾らボケとは言え、結構リスクはデカい。
あのヤンキー、よくこんなのナチュラルにやれるな。
他は死んでも見習う気しないが、あの行動力だけは真似した方がいいのかもしれないな……
すぅ……はぁ……
よし。
やるか――――
「あ、真子」
「おはよ、ゆり……あれ? 根元さん?」
「まこちゃんおはよー。クロもいるよ」
「え? どこ――――きゃっ!?」
「真子!」
「え……? 今のって……頭突き? クロ急にどうしたの……?」
――――高2の秋くらいからか、ぼっちでも別に良いかと思うようになった。
憧れてたリア充が思ってたより幸せに見えなくなって、だったら1人の方が気楽だって感じるようになった。
今もそれが間違いとは思わないが……
「まこっちゃん大丈夫?」
「う、うん。私、黒木さんに何かしたかな……?」
「悪気があった訳じゃないと思うけど。黒木さんだし」
「田村さん。クロは?」
「鼻血出てる。倒れる時に頭打ったかも……」
ぼっちになるのはいつでも出来る。
だったら、私を少しでも理解してくれている奴等が身近にいる今が、少しでも長く続けばいいなって思うようになった。
この今が続くんなら、引き延ばしもいいかなって――――
「黒木さん、安らかな顔……」
「ゆり! それだと黒木さん死んだみたいだから!」
「これ救急車呼んだ方がいいのかな……?」
――――私はその日、朦朧とした意識の中で救急車に乗った。
幸い鼻の骨が折れたとかはなく、あの奇行は『つまずいて転んだところに偶々ガチレズさんの頭があって衝突した』って事にしておいた。
ヤンキーの真似をしようとして
ぶつかったのが鼻とおでこだったのが良かったのか、ガチレズさんは怪我一つなく無事だった。
でもそれ以来、私はガチレズさんへの罪の意識と一切怒らずこっちの心配さえしてくれた事への敬意から、名前をさん付けで呼ぶようになった――――
「……って設定で呼んでるんだが」
未だに誰もツッコんでくれなかったから、そのまま『真子さん』が定着しつつある。
私のボケはやっぱりわかり難いらしい。
今更他の呼び方は出来そうにないな……
こうなると、
ガチレズさんを真子さん呼びした以上『田村さん』って訳にもいかないし、かといって『ゆりさん』はなあ……そんなキャラじゃないからなあいつ。
この際、呼び捨てにするか?
でも実際そう呼んだらキレそうな怖さがあいつにはあるし、まだ早い気もする。
別に顔色窺って名前を呼ぶつもりはないが……
『あっ、あの……いっ、一緒に食べない?』
『黒木さん。よかったら一緒に食べる?』
……ゆりちゃん、かな。
もうそれでいいか。
変な反応されたら面倒だから、別れ際にでも言い逃げしよう。
さて、いつにするかな――――