10分で読めるわたモテSS   作:umadura

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《/b》前回のあらすじ。
ぼっち回帰は嫌だから友達を家に呼ぶことにした。《/b》


モテないし活動内容はやはり不明

 

 

 

 

 ……朝か。

 

 ゲッ、まだ6時前かよ!?

 日曜のこんな時間に起きるの何時ぶりだろ……

 工場でケーキ作った時以来か?

 

 やっぱり少し緊張してるのか……

 ここに他人を入れるなんて、随分と久々だからな。

 

 コオロギの時は緊急を要したし準備もクソもなかったけど、今回は期間が長かった分プレッシャーもデカい。

 友達を家に招くのが、こんなにも精神的にクるとは。

 中学の頃はここまでじゃなかったけどな……まあ、あの頃は守るモノもそんなになかったけど。

 

 いや、高校生になったことが根本的な問題じゃない。

 私の立ち位置が大きく変わったのは、修学旅行からだ。

 

 あれ以来、ほぼ毎日誰かしらと学校で会話してるし、会話で喉を酷使し過ぎて擦れ声になる日さえある。

 入学前に描いていた性が乱れる3年間とはちょっと違うし、気を使う分やたら毎日疲れるけど……ずっとソロプレイでやって来た私が今、ログインすればすぐに声がかかるくらいにはなった。

 

 でも実際のところ、なんでこんな風になったのかはよくわかっていない。

 もし何処かの出版社から『冴えない友達の作りかた』『修学旅行に出会いを求めるのは間違っているだろうか』『幕張らへんの高校の劣等生(ヤンキー)』なんて本を書かないかと打診されても、多分無理だ。

 

 ってことは、もし何かやらかして友達を失うことになれば、それを修復するのも、これから新しく交友関係を構築するのも不可能。

 その恐怖が重圧になって、私を守りに入らせている。

 昔はエイム障害乙と言われようと構わずショットガンヒャッハーだったのに、今は角待ち最強芋砂最強の心境……!

 

 私もこっちで弱くなり過ぎた。

 

 ……今から二度寝も出来そうにないし、最終チェックしておくか。

 

 片付け、よし!

 ゴミ箱のティッシュのカス、よし!

 PC、よし!

 

 スマホは……そういえば昨日、好きな男キャラの抱き枕カバーの画像まとめて保存してたっけ。

 ま、スマホは見られることないし大丈夫だろ。

 

 名前を読んではいけない例のあのドラマCDたちは結局、クローゼットの中しか選択肢がなかったな……

 机の引き出しに鍵がかけられればよかったんだけど、鍵穴に何回も鍵つっこんでガバガバプレイに興じた所為でぶっ壊れたままだし。

 

 あっ、そう言えば机の中チェックしてなかった!

 危っぶねー……ヤンキーってガサツな人種だから、何の意味もなくノーモーションで開けて中見そうだよな。

 

 引き出しの中は……よし、特に変なモノは入れてないな。

 いざって時の最終兵器として確保してる弟の昔の作文、大爆笑をかっさらった七夕の短冊、500円で買ったスタイリッシュ年賀状、ゆうちゃんから誕生日の時貰った香水の残り……

 

 あとは……ん? この紙なんだ?

 ああ、1年の時の部活動申請書か。

 余ったの机に入れてそのままだったんだな。

 

 ……今の私にはもう必要ない。

 まとめて捨てておこう。

 

 待ち合わせ時間は駅に2時だったな。

 よし、それまでに色々と考えをまとめておこう。

 今日、私はどうするべきかを――――

 

 

 

 

 ――――1時30分か。

 さすがに早く来過ぎたな。

 

 ガチレズさんは10分前くらいに来そうだし、田村さん(あいつ)も一緒に来るだろうけど、時間の概念が私たち一般人とは違うヤンキーはヤバイな。

 あいつらバカだから、遅れてくるのがカッコイイとか本気で思ってそうだし……

 

 遅れて来て許されるのはヒーローかテコ入れ用のあざとい女キャラくらいだっつーの!

  

「おい、こっちだ」

 

 遅れるどころか最速……だと……!?

 どんだけ私の家に来たいんだよこのヤンキー!

 金目の物盗んで売って金塊でも買う気か!?

 

「あっ……お、おはよう」

 

「もう昼だろ。他は来てねーのか?」

 

「そうみたい。30分前だし、もう少し待たないと来ないと思う」

 

「ちっ」

 

 さすがヤンキー、息吐くみたいに舌打ちしやがる。

 

「……」

 

「んだよ?」

 

「待つのが疲れるのなら座って待ってたらいいよ。ホラ、駅ってヤンキーじゃなくてもヤンキー座りして弁当食べてる人いるし。気にすることないよ」

 

「……てめー、相変わらずムカつくな」

 

 な、なんで!?

 舌打ちまでされておきながら気遣ってやったのに……!?

 

「あ、いたいた。二人とも早いね」

 

 よっしゃ救世主ガチレズさん来た!

 遅れてないけど今日のヒーローはYOUで決まりだ!

 

「おう。田村は?」

 

「ゆりも近くまで来てるって。もうすぐ来ると思……あ、もう来た」

 

 マジかよ……30分前にほぼ全員集合って。

 ここは自衛隊か? ヨットスクールか?

 

「言い出した奴が最後ってなんだよ」

「まだ結構前だよね?」

 

 ヤンキーの機嫌も治ったみたいで助かった。 

 どうでもいいけど、私服が修学旅行の時とみんな一緒なんだが……

 これだけ揃いも揃って男っ気ないの、そういうとこじゃね?

 

「あはは。みんな楽しみだったんだね。黒木さんの家に行くの」

 

 ……でもそれをここで言ったら、色んな意味で空気が凍りそうだから止めておこう。

 

「おい、ボーッとしてねーでとっとと行くぞ。案内役」

 

 痛っ!

 軽くとはいえ、いきなり後頭部はたきやがって……こういうノリ嫌いだっての。

 

 あ、田村さん(陰キャ)がこっち見てる。

 そういや挨拶してなかったな……大事だからな、そういうの。

 

「黒木さん」

 

「こん……何?」

 

「修学旅行の最終日みたいだね」

 

 考えることはみんな一緒か……

 

 

 

 

「着いた。ここ」

 

 さて、ついにこの時が来た。

 何事もなく一日を穏便にやり過ごすのか、それとも今日をきっかけに何かを変えるのか、ここが分水嶺だ。

 

 答えはもうとっくに決まってる。

 友達が何人か出来たからといって守りに入るようじゃ、今まで過去に殺されてきた何人もの私が浮かばれない。

 私は私自身の屍を越えて今、ここにいるんだ。

 

 本日の目標――――

 こいつらにアニメやマンガやゲームを教え込む!

 

 私がコレと思う作品をこれでもかと紹介して、興味を持たせてやろう。

 キ○を読んだ田村さん(こいつ)とガチレズさんは既にこっちに片足突っ込んでるし、きっといける。

 きーちゃん相手には微妙に上手くいかなかったけど、今回はもうヘマはしない。

 

 その為の準備は、もうしてある。

 午前中の間に仕込みは万全。

 中学時代からのこの五年間で培ったオタパワーを解放する時が来た……!

 

 ただし、一般人のこいつらはオタク趣味に偏見を持ってるだろう。

 いきなりじゃ引かれるのは目に見えてる。

 

 まずは女子力の高さを誇示して『オタクだって少しはやるんだぜ。ちょっとは見直したかい』とアピール。

 直後に、如何にもこいつらがハマりそうな名作の数々をノンストップで視聴。

 そうすれば『黒木さんの推しなら間違いない!』と羨望の目で私を見るようになるんじゃね?

 

「フツーの家だな。なんの特徴もねぇ」

「それはそうでしょ。私の家もそうだよ」

「でも一軒家で結構しっかりした作りだし、良いお家だよ」

 

 言いたい放題でいられるのも今のうちだ。

 既に仕込みは万全。

 私の部屋に入った瞬間、こいつらの顔は余りの衝撃に愕然とするんだ……!

 

「あらいらっしゃい。智子、昨日言ってたお友達?」

 

「あっ うん」

 

 えっ……お母さん……その服何?

 いつもTシャツとジーンズなのに、なんで家の中でそんな余所行きの格好を?

 

「あっ、私たち黒木さ……智子さんの友達で」

「ちっす」

「大勢ですみません。お邪魔しても大丈夫ですか?」

 

 ……なんか親と友達のこういうのって恥ずかしいな。集団見合いかよ。

 

「もちろんよ。うちの子どうしようもないバカだけど、これからも仲良くしてやってね」

「お母さん!」

 

 そういうの止めろ!

 修学旅行の時のトラウマ思い出すだろーが!

 

「娘さんがバカなの遺伝じゃなかったんすね」

 

 ヤンキーてめー!?

 

「えっと、智子さんのバカは可愛いバカだからその、大丈夫です」

 

 何が大丈夫なんだ……!?

 

「二人ともちょっと……まず黒木さんはバカじゃないから。たまにおどけてるだけだから」

 

 ガチレズさん、そのフォローが一番キツいんだが……

 いっそ殺して!

 

「ありがとう。今日はゆっくりしていってね」

 

 なんかもう、既に疲労困憊だ……

 ま、言いたい放題言えるのも私の部屋に入るまでだけどな!

 

「私の部屋、二階だから。上がって」

 

「うん。それじゃお邪魔します」

「階段結構狭めーな」

「もしかして吉田さんっていいとこのお嬢様とか?」

「んなわけあるか」

 

 ふー、二階に上げるのも一苦労だ。

 お母さんにも余計なこと言わないよう、釘刺しておかないと……

 

「智子」

 

「何?」

 

「良かったね」

 

「……別に」

 

 ま、いっか。

 私も二階へ行こう。

 

「黒木さん。部屋二つあるけど……」

 

 あ、そうか。

 今にして思えば、弟の部屋で過ごすって選択肢もあったな。

 どうせ夕方まで部活だろうし、そうすればいちいちPCやグッズの整理しなくて良かったのに。

 

 でも今はもう、そうする訳にはいかない。

 

「私の部屋はあっち」

 

「吉田さん、向こうだって」

 

「ああ」

 

 私のアダルトな魅力、思い知るがいい……!

 

「ん? なんか香水臭ぇな。何だこれ?」

 

「い いやー。学校では使ってないけどプライベートではいつも使ってるから……に、匂いが染み付いちゃって」

 

「ふーん。趣味悪ぃな」

 

 リアクション薄……!?

 しかもゆうちゃんのセンスをディスりやがっただと!

 

 ヤンキー風情が……!

 どうせお前らが好むような香水なんて安くてドギツいのだろ!?

 

「そんな事ないよ。良い匂いだよ。ね? ゆり」

 

「匂いはいいけど……部屋に香水はちょっと。アロマでもないし」

 

「あたしも別に匂いが嫌って訳じゃねーよ。部屋に香水の臭いするのがありえねー」

 

 ま、マジか……

 女子力高いって、こういうことじゃないの……?

 

「換気するから! 適当にその辺座って」

 

 第一の計画は失敗……

 でも所詮、第一は我がもこっち軍の中では最弱……!

 私にはまだ第二の計画『センスあるお菓子出す』と第三の計画『センスあるBGM流す(ゲームのサントラより)』が残って……

 

「おい。そこのぬいぐるみ、どこで買った?」

 

「え?」

 

「そこのデケーのだよ。買ったんだろ?」

 

「いや、ゲーセンで取ったやつだよ。200円で」

 

「200円!? ……だと……これが……?」

 

 そう言えば前にこいつ、ゲーセンでぬいぐるみ取るよう私を脅してきたな。

 こんな風貌でぬいぐるみが好きとか、ないわー。

 

「じゃあ2000円出せばこの10倍のデカさを取れるのか!?」

 

 そんな訳ないだろ、どんだけ頭ヤンキーなんだよ。

 まさかこいつ、そのぬいぐるみの情報得る為に来たんじゃないだろな……?

 

「黒木さん。もう忘れてるかもしれないけど、あのアニメの……」

 

「あっ 用意してるから、今から観よう」

 

 できればキ○の旅は夜に観た方が雰囲気出るんだが……こればっかりは仕方ない。

 

「一話目は『人を殺すことができる国』ってタイトルで、15周年の投票企画でやったエピソード投票では5位だったんだ」

 

「5巻くらいに載ってたのだよね。なんで1話目からじゃないの?」

 

「1回目のアニメ化の時は1話目からだったみたい。あ、でも今回のもモノローグは1巻のやつで……」 

 

「ふふっ」

 

 ん……? ガチレズさん、その百合百合しい笑顔はどういうこと?

 

「あ、ごめん。ゆりが人の家でリラックスしてるの、ちょっと凄いなって思って」

 

「凄いって何」

 

 幼なじみアピールだと!?

【朗報】ガチレズさん、やっぱりガチだった

 スレ立てたいわー、絶対賑わうわー。

 

「おい」

 

「ひっ! こ 今度は何?」

 

 息つく暇もねーな……

 修学旅行の時のあの沈黙は一体なんだったんだってくらい別物じゃねーか。

 

「前に散歩させてた犬は、もう返したのか? また預かる予定はないのか?」

 

「あっ うん。元々おじいちゃんが友達から預かってた犬だから、今後こっちに回ってくることはないと思う」

 

「ふーん……」

 

 そういえば結局、全日散歩に付いてきてたな。

 こいつの家、この近くなのか?

 

「あっ 終わったね」

 

 え、もう25分経った?

 なんでこんなに時間が過ぎるの早いんだ……?

 

「ど、どうだった?」

 

「え? 内容知ってたから別に……」

 

 そりゃそうだろーけど他にあるだろ何か!

 っていうか見せてやったんだからせめて礼くらい言えよ……これだから中途半端なぼっちは……

 

「でも、主人公の子ってちょっとだけゆりに似てない?」

 

「え? 似てないよ。似てないよね? 黒木さん」

 

「あー……どうかな。似てるから薦めたってのはあるかも」

 

「嘘。本当に? どこが?」

 

「えっと……雰囲気とか、あとは……マイペースでも結構面倒見が良いところ、とか」

 

 言ってて赤面しそうになってきた。

 なんで私の方が恥ずかしくなるんだ……?

 

「……」

 

 あっ、意外とまんざらでもなさそうだ。

 下手なこと言って変な空気になるのは嫌だったけど、これなら大丈夫そうだな。

 

「写真とかねーの?」

 

 えっ、こっちの流れ完全無視?

 ヤンキーが唯我独尊なのは知ってるけど、ここまで……!?

 

「あ、あるけど。スマホ」

 

「ん」

 

 寄越せと?

 いやスマホには色々入ってるから……まぁいいか、もう断るのも面倒臭いし。

 

「黒木さんって休みの日は何してるの? こういうアニメ観るだけじゃないんだよね?」

 

 こういう?

 ガチレズさんに悪気はないんだろうけど……これだから一般人は……

 

「前に釣りの写真送ってくれたし、意外にアウトドアとか?」

 

「あー……あれはたまたまお父さんに付いていっただけで、普段はそうでもないかな。外出も、たまにゆうちゃん達と会うくらいだし」

 

「ゆうちゃん……」

 

 なんだ? 田村さん(こいつ)が話し始めた途端、急に寒気が……

 ああ、換気するのに窓開けっ放しだったな。

 

「家バレNGって言ってたけど、その人はここ知ってるんだよね?」

 

「え? う うん。何度も来てるから」

 

「何度も?」

 

 あれ、なんでだ?

 窓閉めたのに全然寒気が収まらないんだが……

 

「何度もって、何度?」

 

 更に寒気が!?

 

「えっと、体感10℃くらい……かな。なんちゃって。はは」

 

「何回?」

 

 目が『そういうのいいから』って雄弁に語って……!?

 やっちまった! いっそ飛び降りたい!

 

「ええと、何回かは覚えてないけど、ゲーム一緒にやったりしてたから、そこそこは」

 

「ふーん……」

 

 酷い目に遭った。

 もう二度とアグレッシブにボケるのは止めよう。

 

「うわあああああああ!!!!!!」

 

 今度は何だ!?

 

「てめースマホになんてモン入れてやがるんだ!? 殺すぞ!!」

 

「何で!?」

 

 ち○こ画像は閲覧したけど保存はしてない筈だぞ……!?

 あ、そういえば抱き枕カバーの画像があった。素で忘れてたわ。

 

「わ わかった……! 悪かったから……! 良い物あげるから……許して……!」 

 

「んだと? それじゃカツアゲみてーじゃねーか!」

 

「お菓子! お菓子用意してるから……!」

 

「あたしはガキかーーーーーーーーっ!」

 

「ちょっと! 吉田さん、大声出し過ぎだって」

 

「ちっ……」

 

 や、やっと解放された。

 なんで自分の部屋で強制窒息プレイをされなきゃいけないんだ……

 

「そこまで言うんなら持ってきてみろよ。マズいモン寄越したら承知しねーぞ」

 

 それが施しを受ける方の態度か……?

 っていうか、お前ら初めて人の家に来るんだから土産くらい持ってこいよな……常識ねーな。

 

「待ってて。持ってくるから」

 

「ごめんね黒木さん、気を使わせて」

 

 ここに来てガチレズさんの常識人っぷりがより際立ってるけど、それならさっき止めて欲しかった気もする。

 

 ふー……

 まさか自分の部屋より外の方が落ち着く事態になるとは。

 しかも廊下の方が温かいし。

  

 さて。

 お菓子持ってくる前に、これをドアに……

 

 これでよし、と。 

 うん、悪くない。

 

「智子ー、電話」

 

「へ? 家電に? 誰から?」

 

「同じクラスの根元さんからよ」

 

 ネモだと……?

 あれ、あいつ遠足の時にLINE交換しなかったっけ?

 っていうか、嫌な予感しかしないんだが。

 

『もしもし……』

 

『あ、クロ? ごめんねいきなり』

 

『別にいいけど、何かあった?』

 

『大した事じゃないんだけど……さっき駅でちょっと見かけたから。田村さんたちと一緒だったよね?』

 

『そうだけど』

 

 なんだ……?

 これ何の電話だ?

 

『ふーん……田村さんたちと一緒なのに、家にいるんだ。まだ解散には早いよね?』

 

 あっ、しまった……!

 

『もしかして、家に呼んだ? あはは、そんな訳ないよね。クロ、家バレNGなんだもんね』

 

『いや、その……』

 

『ミステリアスな黒木さんで売ってるとこもあるし』

 

『それはねーよ』

 

『だって、最近まで素のクロ隠してたでしょ?』

 

『いや、だから前のも素だって』

 

『うぇーい』

 

 だから何なんだよそれ……普段そんなノリじゃないだろお前。

 ぐっ……でも今回はさすがに私が悪い気がするし……

 

『ちょっと色々事情があったっていうか、タイミング的なものっていうか』

 

『タイミングが合えば、私も家に呼んでくれるのかな?』

 

『あー……まあ、うん』

 

 他に返事のしようがない。

 嗜好が合わなくても、最近やたら突っかかってきてるとはいっても、一年の時から話しかけてくれた奴だからな……無碍には出来ない。

 

『よかった。それじゃ、今から……』

 

『え? 今から?』

 

『行くのはちょっとムカつくから止めとく。来週の土曜、空けといてね』

 

 二週連続で家にクラスメートが来るのか……安息の日々が遠くに消えていく。

 

『用はそれだけ。じゃあね』

 

『うん。じゃ』

 

『あ、それと』

 

『あ? まだ何か……』

 

『私、キノは好きでも嫌いでもないかな』

 

 ……切れた。

 曖昧にするとこをハッキリ言いやがって。

 

 って、え!? なんで!?

 まさか私の部屋を覗いてる!?

 

 いや待て落ち着け、二階を覗くなんて普通に無理だ。

 廊下での田村さん(陰キャ)との会話を聞いてたんだろう、多分。

 

 ……一応、外を見てくるか。

 

 

 

 

 つ、疲れた……

 幸いネモはいなかったし、とっとと二階に戻るか。

 と、その前に台所からお菓子持っていかないと。

 

「遅かったね。どうしたの? そんなに息切らして」

 

「いや、何も……って、え、何やってんの?」

 

 私の目がおかしくなってないなら、田村さん(こいつ)の手が掴んでいるそれって……

 

 UNO!?

 三人でUNOやってるんですけど……!?

 

「他人の家でUNOて!」

 

「ど、どうしたの?」

 

「UNOは……ないんじゃないかな? 部室や修学旅行じゃないんだから」

 

 せっかく厳選した乙女ゲーの生プレイを見せつけてやろうと思ってたのに、こんなアナログに計画潰されてたまるか!

 なんとかして止めさせないと……

 

「だ、大丈夫だよ黒木さん。次からは四人でやろ」

 

 いやガチレズさん、そういう焦りじゃないんだこっちは。

 

「ちっ、全然いいのこねーな……クソが……」

 

 ほら案の定、ヤンキーが既にキレ気味だし……

 負けが込んだらどう収集付けるつもりなんだ?

 ヤンキーは自己中なんだから、勝つまでやるって言い出すに決まってるだろ?

 

「おい、菓子持ってきたんだろ? 出せよ」

 

「ひっ……う、うん」

 

 やべぇ、危うく睨まれただけでチビるとこだった……

 だがヤンキー、てめーの傍若無人はここまでだ。

 私の選んだお菓子でゴキゲンになればいい!

 

「……団子?」 

 

「ほ、ほら。修学旅行の時に美味しいって……」

 

「あ? ああ……あったな、そういや。あの年寄りしか喜ばない薄味のマズい蕎麦のあとに食ったから、やたら美味く感じたな」

 

 和菓子好きじゃなかっただと……!?

 私の完璧な計画……が……

 

「ん……こりゃフツーだな」

「甘いね」

「お、美味しいと思うよ? 普通に」

 

 

 ――――結局。

 

 この後、おすすめのアニメやゲームを紹介する機会なんて一切なく、BGMもない部屋で黙々とUNOをやり続けるハメになった。

 

 

 

 

「入るよー」

 

 ……ん? お母さん?

 

 ゲッ、5時回ってる……!?

 ま、まさかUNOだけで二時間以上も遊ぶことになるとは……

 

「よかったら夕飯食べていかない? 大した物はないけど」

 

「え? そんな、悪いですよ。ね、ゆり」

「今から家に連絡入れておけば、多分大丈夫だけど」

「ゆり!?」

 

 相変わらずマイペースっていうか……

 まあ、さすがにヤンキーは乗って来ないよな――――

 

「負け越したまま帰るのは我慢ならねー。メシの時間まで続きだ」

 

 は!? 嘘だろ!?

 まだ続ける気かよ……なんの修行だよこれ。

 

「もう……でも、この人数だとご迷惑じゃないですか?」

 

「カレーだから大丈夫よ。いっぱい食べていってね」

 

「ゴチになるっす」

 

「ありがとうございます」

 

 ……夕飯までこいつらと一緒なのかよ。

 私が思い描いていた一日とは全然違う内容になってしまったじゃないか。

 

「お茶淹れてくる。次は三人でやってて」

 

 廊下の温度、下がってるな。

 まだ夕方は冷えるし、温かいのにしとくか。

 

「ちょっと智子」

 

「何?」

 

「あんたの部屋の扉にくっつけてるこれ、剥がしてもいいの?」

 

「駄目。そのままにしといて」

 

「智子! もう……何なのこれ」

 

 こんな毎日が続けばいいな――――とはもう思わないけど……

 

 

「日常……部?」

 

 

 たまになら、別にいいか。

 

 たまにならだけど。

 

 

 

 


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