「ししょおおおおおおおおおお!!」
薄れ行く意識の中
我が愛弟子の儂を呼ぶ声が聞こえる
そう悲しむな、ドモン
儂を超え、
真のキングオブハートになったのだ
お前の生きてゆく道にはまだまだ困難があろう
だがな、
お前ならば必ずそれを超えられると信じておる
ドモンよ・・・儂の屍を超えてゆけ・・・
「おや、こんな所で気持ち良さそうに寝てるお爺さんはっけーん!」
なんじゃ、声が聞こえる
この声は・・・女の物か?
「中々目を覚まさないねー、ツンツン」
わざとらしい擬音と共に頬を突かれる感触
一体なんだと言うのだ
「ねーねー、おじいさーん
こんな所で寝てると危ないよー?」
相変わらず頬を突きながら
緊張感の欠片も無い声でそんな事を言っている
・・・仕方有るまい
「あ、やっと起きたー!」
目を開けると
そこにはなんとも珍妙な格好をした女がおる
これは一体どういう状況なのだ
「・・・お主は?」
まずは情報の収集だ
ここがどこか、こやつが誰か分からぬ以上
今儂に取れる選択肢は多くは無い
不確定要素は可能な限り排除するべきだ
「ん~私~?
私はね~、天才科学者の束だよ~!」
女・・・束はくるりとその場で一回りしながら名乗ってくる
むぅ、この様なタイプの知り合いは居なかったからか
調子を狂わされる
「そういうお爺さんは何て言うのかなぁ~?」
今度は儂の顔を覗き込みながらそう聞いてくる
ふむ・・・相手が名乗った以上、
儂も名乗るのが礼儀だな
「儂の名前は東方不敗だ」
しっかりと地面に立ってから
儂も束に対して名乗る
「ふーちゃんだねー!」
ふ、ふーちゃん??
なんだ、こやつは一体何を言っておる??
「東方不敗だから~、ふーちゃん!」
・・・どうやら儂のあだ名らしい
にしても
まさかこの年になってちゃん付けされるとは
夢にも思わなんだ
「あれ~、どうしたのふーちゃん?」
反応を示さない儂を不思議に思ったのか
束は頭につけている珍妙な物を動かしながら聞いてきた
「・・・いや、何でもない。
すまぬが束よ、ここがどこだか教えてもらえぬか?」
「良いよ~、
詳しくは言えないけどここは私の隠れ家の近くだよー」
隠れ家だと?
何やら深い事情がありそうだが・・・
「何かから逃げておるのか?」
不躾だとは思うが
今は少しでも情報が欲しい
儂は深く考えずに束に聞いた
「そうなんだよね~、
ISを開発したこの天才科学者である私を狙う人が多くってさ~
まったく、人気者は辛いよね~」
うんうんと頷きながら聞きなれない単語を口にした
「ISとは何だ?」
「あれれ~、
ふーちゃんってばISを知らないの~?
仕方ないなー、ISっていうのはね~」
そう言いつつも束は懇切丁寧にISという物について説明をしてくれる
曰く
ISとは女性にしか起動する事が叶わぬ兵器
これを束が開発した事によって男性と女性のパワーバランスが逆転
今では世界が完全に女尊男卑の流れになっているという
そもこのISとは単機で大型兵器にも匹敵する戦闘力を持ち、
尚且つ小回りが利くというらしい
確かに
その様な兵器が開発された、
しかもそれが女性にしか起動出来ないと言うのであれば
世のパワーバランスが変わっても仕方が無いと言うもの
しかし嘆かわしい
ISという物を見たことは無いが、
その程度の兵器で男性が負けてしまうとはな
「っとまあ、こんな所かなぁ」
「礼を言うぞ」
「良いって良いって、
そんじゃあ、次はふーちゃんの事を教えて欲しいかなぁ~」
一通りの説明をし終えた束は今度は新しい玩具を見つけたかのように
目を輝かせながら儂に問うてきおった
・・・ふむ
何から話せば良い物か
偽りを教える事も出来るが、
先ほど儂は束より情報を貰った
ここで偽りを言うのは儂の流儀に反する
「・・・良かろう、教えてやろう」
そこまで言った後に
不意にこちらに近付く何かが見えた
「どしたの?」
束は気付いていないのか
再び不思議そうに儂に聞いてきた
「場所を変えたい、
何やら不届き者がこちらに近付いているようだしな」
儂は束に答えつつ海平線遥か彼方を指差す
束は儂が指差した方を両手で双眼鏡を作りつつ見ると
「うっわホントだ!
というかふーちゃん良く見えたねー!
あの距離だと索敵レーダーが無いと分からないと思うんだけど?」
「なに、この程度の事造作も無い」
驚きつつも束はそう言ってきた
この程度の事造作も無い
「それなら私の隠れ家にでも行くー?
防音防壁対センサー全部まるっとバッチリ完備だよー!」
束はわざとらしく一度考え込む動作をした後に儂にそう提案をしてきた
「それは有り難い申し出ではあるが、しかし良いのか?
どこの馬の骨とも知れぬ儂を隠れ家に入れるような真似をして」
一応確認の意味で束に聞く
すると
「大丈夫だよー!
さっきも言った通り全部対策はしてるし」
束は一度そこで言葉を区切った後に
「ふーちゃんの事、
俄然興味が湧いたからねー」
そう蠱惑的な笑みを浮かべながら言ってきた
見るものが見れば確かにこの笑みだけで翻弄されるだろう
「そうか、では有り難く申し出を受けるとしよう」
だが、儂には効かぬ
「ほいほーいりょーかい、
向こうは結構な速度を出してるから急いで行こっかー!」
そう言いつつものんびり歩き出す
まったく、どこが急いでいると言うのだ
「束よ、お主の隠れ家はどの方角だ?」
寝起きの準備体操には丁度良い
儂は軽くストレッチをしながら束に確認する
「あっちだよー、ってうわわ!」
言うが早いか
方角を確認した儂は束を抱き抱える
「ちょっとふーちゃん!
私自分の足で歩けるって!」
「丁度良い重りだ、
飛ばす故振り落とされるなよ!」
「飛ばすって、うひゃああああああああああ!」
束が何か言っていたが後でも良かろう
儂は束を抱き抱えながらすぐさま走り出す
「うひゃあああああ、凄い凄い!」
「喋るな、舌を噛むぞ!」
「大丈夫大丈びゅ!!」
「言わんことではない!」
束は口を両手で押さえながら悶絶している
やはり舌を噛んだらしい
そうして儂等は束の隠れ家へと急いだ・・・
「あうう~、舌噛んだ・・・」
数分後
儂等は無事に隠れ家へと到着した
束の奴は口を押さえて痛がっておるが、
儂はしっかりと忠告はした
「にしてもふーちゃん凄いねー!
生身であれだけ早いとは思わなかったよ!」
「あれくらいの事朝飯前よ」
束の驚愕に儂は当然の様に返答をする
先ほどのでも遅いぐらいだ
「さて、では先ほどの話の続きをするとしよう」
儂はそう言って手近な椅子に座る
束もいつもの席であろう椅子に座ってから
「まず最初に聞きたい事がある、ここは地球か?」
儂の身上を語る上で外せない事を束に確認する
「そだよー、まん丸な地球だよー」
再び頭の珍妙な物を動かしながら束は即答した
ここが地球、か
儂が知る地球とは大きく違うな
まず、
儂が知る地球ではIS等と言う差別的な兵器は無かった
「どしたのふーちゃん?」
1人考えていると束は再び不思議そうに聞いてきた
「・・・いや、
儂が知る地球とは大きく違うのでな」
「ふーちゃんが知る地球?」
好奇心が抑えられないのか
束は少しずつ語る儂の話に静かに耳を傾けていた・・・
「・・・なるほど、ねぇ~」
全てを話し終えた後
束は今の話の内容を思い返しているのか
思案顔になり考え始めた
ここを邪魔しても仕方がないな
「ねえふーちゃん、
一応確認しておくけど今の話って嘘じゃないよね?」
「嘘を付いて儂に何の得がある」
「私の同情心を誘ってあーんなことやこーんなことをするとか?」
「寝言は寝て言わぬか」
儂は呆れ顔をしながらすぐさま束に突っ込みを入れる
「それにお主、
この様な話を聞いて同情するような人間ではあるまい」
「ありゃ、分かっちゃった?」
儂が言った事が間違いでは無いのだろう
特にはぐらかすこともせずに肯定してきおった
「これでも人を見る目はあるつもりよ」
「ふーん、それにしても・・・ねぇ」
余程儂の話が興味深かったのか
束は一度ニヤリと笑いながら
「ねね、ふーちゃんはこれからどうするの??」
そう聞いてきた
儂の目的か
元の世界に戻る・・・というのも選択肢の一つではあるが
元の世界では儂は既に故人
今更戻った所でしょうもあるまい
で、あるならば
この世界で生きていかねばならぬ
「特に決めてはおらんな」
さしあたっての目的は無い為、
儂は束にそう返答した
「お、なら丁度良いかな。
早速一つ潰してほしいところがあるんだけどー」
「待て、何が丁度良いだ」
こやつ、今物騒な事を口にしたな
「いやねー、
最近私の事を嗅ぎつける連中がそろそろ鬱陶しくてさー
ここらで一発キッツイお灸でもすえてやろうかと思ってた矢先
ふーちゃんを見つけたんだよねー」
束はだるそうにしながら
「独立ISをこれでもかとぶち込んで潰すのもいいんだけど、
それだとまた他の連中が五月蝿くなるからね
どうやって徹底的に潰そうかなって思ってたんだー」
そう続けてきた
「悪いが断らせてもらう」
だが、
儂としてはメリットが一切無い為受ける必要は無かろう
そう判断し、断りを入れた
「そんな!
こんなか弱い乙女の頼みをふーちゃんは断るっていうの!」
よよよとわざとらしく泣き崩れながら束は言ってくるが
「何がか弱い乙女よ、
お主相当腕が立つではないか」
先ほどはあえて言わなかったが
一目見て実力が分かった
こやつ・・・相当できる
「あれれー気付いてたのー?」
今度は驚きをもって束は返してきた
「当然だ、
お主の立ち振る舞い、先ほどから全くといっていいほど隙が無い」
「滅茶苦茶強そうなふーちゃんに言われると照れるよー」
「茶化すでない」
「むぅー、しょうがないなぁ
それだったらこんなのはどう?
今現在のふーちゃんはこの世界で生きる術はまだ無いと思うんだけど、
私が方々手を尽くして戸籍とか色々作ってあげるよ?」
「なに?」
ふむ
儂に取ってこの提案は渡りに船だ
束の言う通り今の儂は戸籍が無い
戸籍が無ければ職を持つことも住まいを用意する事も出来ぬ
儂は別に狩りも野宿も慣れてはおるが
そもそもこの世界について知らぬ事が多すぎる
その中で身分を証明することが出来ないのは自殺行為も甚だしい
それを束は用意すると言うのだ
本来であれば受けるべきではあるのだが・・・
「何が目的だ」
裏を感じずにはいられん
儂は見定める様に束を見ると
「さっきも言った通り、
そろそろ追っ手が鬱陶しくてねー
私はただ自由気ままに暮したいだけなんだけどねー」
さきほどと同じ回答をしてきた
束の一挙手一投足を見逃すまいと注意深く観察をするが
どうやら嘘を付いている様子はなさそうだ
「いやん、そんなに見つめられると照れちゃう///」
わざとらしく顔を赤らめながら束は言ってきた
・・・マジメに対応しようとした儂が馬鹿みたいではないか
「・・・分かった、その依頼を受けてやる」
若干溜息を吐きながらそう言うと
束は目を輝かせながら
「ホント!
さっすがふーちゃん!」
笑顔を浮かべながら束は手を叩いた
「だが条件がある」
「条件?」
儂が続けると
束は不思議そうに首を傾げながら
「そうだ、
我が流派東方不敗は殺人はせぬ
兵器などは完膚無きまでに叩き潰してやるが、
その場所に居る兵を殺す事はせぬぞ」
「出来れば兵隊さんも皆殺しにして欲しいんだけどねー、うーん・・・」
儂の提案に対し束は唸る事数分
「・・・分かった、
それだったら制圧したらこれを流して欲しいな!」
そういって何やらメモリの様なものを儂に手渡してくる
「これは何だ?」
「ふっふっふー、束ちゃん特製の秘密兵器ー」
意地悪い笑みを浮かべながら束は儂に言ってきた
・・・詳細は聞かぬ方が良かろう
どうせロクでもないものだ
「良かろう、
なればこの布を借りるぞ」
儂はそう言ってから手近にあった布を手に取る
「良いけど、
何の変哲も無いただの布だよ?」
儂の行動に疑問を抱いた束はそう聞いてきたが
「なに、ただの布ですら
達人の手に掛かればどんな名刀よりも優れた武器になると言うものだ」
「ホントかなぁ~?」
布の長さを確認したりていると束は懐疑心に満ちた目でそう言ってきた
「儂は嘘は付かぬ、
そんなに信じられるのならば丁度良い、
外をうろついている不届き者をこれで倒してくれる」
「外?・・・ってアチャー」
儂に言われたからかどうかまでは定かではないが
束はレーダーを確認すると、そこには儂等以外の三つの反応があった
「ここがバレるのも時間の問題かなぁ~・・・ってふーちゃん?」
少し頭を抱える束を尻目に
儂は外に出ようとする
「どうした、さっさと来い。
儂の実力を見せてくれる」
「怪しいものだけどなぁ、まあいっか」
そう言って仕方が無く
本当に仕方がなさそうに椅子から立ち上がる
「あ、先に言っておくとだけど。
三つの反応、アレISだよ?」
「ほう、ならば相手にとって不足は無い」
いきなり噂の兵器を相手に出来るとはな、幸先が良い
可能であればそのまま足を頂戴するとしよう
「うっわふーちゃん悪ーい顔してる」
「クックック、お主が言うな」
束も同じ様な顔をしていると言うのにな
「・・・さて、行くとするか」
気を取り直し、入ってきた扉へと向かう
・・・儂がかつて愛用した物ではないが武器も手に入った
さあ、噂の兵器の実力とやら
この東方不敗に見せるが良い・・・!