俺がドイツ軍の客将として迎えられてある程度の時間が立った。
流石にタダで飯や寝床を用意され、
更にISを教えてもらっては目覚めが悪い。
代わりと言っては何だが、
俺はシュヴァルツェ・ハーゼ隊の面々に稽古をつけていた。
「違う、誰がそこで後ろに下がれと言った!
拳とは己の心を表す物だ!
迷いがある様では拳は決して相手には届かんぞ!!」
「は、はい!!」
「何時までその程度の岩を砕くのに手間取っている!!
俺は修行を初めて直ぐにその程度の岩を砕けたぞ!!」
「も、申し訳ございません!!」
「…ドモン、少しは手加減してやれ。」
次々と俺は怒号を飛ばしているが、
その様子を隣でラウラが呆れながら見ている。
「何を言う、俺は全然手を抜いているぞ。」
「…なんだと?」
「俺が師匠に稽古を付けて貰った時はもっと過酷だったぞ。」
「例えば?」
「そうだな、
例えば断崖絶壁を素手で登れとか大熊を素手で倒せとかだな。」
「…お前の師匠は化け物か?」
「いや、
確かに師匠は強かったが俺の世界では殆どのファイターが出来るぞ?」
「お前の世界の人間は頭可笑しいんじゃないか…。」
ラウラはそう呆れながら言ってきた。
…そんなにおかしい事か?
「…っと、いかん。
お前に伝えることがあったのを忘れていた。」
「俺に伝える事?」
今思い出したかのように、ラウラは
「私は後1週間程で任務に着く、
場所はIS学園、ドイツの代表候補生としてそこに転入する事になった。」
「ほう、それで?」
何となく言わんとしている事は分かるが、敢えて聞いてみる。
「ドモン、お前には私の護衛として私と共に着いてきて欲しい。
無論お前は客将だから受ける必要は無いが…。」
ふむ、俺が護衛か。
今ラウラが言った様に受ける筋合いは無いんだが、
正直に言うとここでは俺が元の世界に戻る為の手がかりは見つけられなかった。
「…良いだろう、その話受けてやる。」
「本当か!!」
俺が受けた瞬間、
ラウラは嬉しそうに聞いてきた。
「ああ、ここでは俺が求めている情報は無かったしな。
そろそろ別の場所に行こうとしていたところだ。
そのIS学園という所は様々な情報があるんだろう?」
「恐らくはな、
解答は得られないかもしれないが手がかりくらいはあるかもしれん。」
「ならば、俺が行かない理由は無いって事だ。」
「そうか…礼を言う。」
「気にするな、自分の為だ。」
ラウラは頭を下げ俺に礼を言ってくるが、
別段俺は気にしちゃいない。
「…ところで、お前は今幾つだ?」
「20だが?」
「ふむ、それでは都合が悪いな。
お前は今日から16歳だ。」
「おい!!」
何勝手に人の年齢をねつ造してるんだ!!
「良いだろう別に、
それに20歳では転入できないではないか。」
「待て、転入するための手続きはどうする!!
入る為には俺がIS適正がある事を知らしめることになるぞ!!」
「そんなもの、偽名なりなんなり使えばどうとでもなる。」
「いやならんだろう!」
何だこいつは、
ここまで話が通じない奴だったか?
「それでもお前は私の話を受けた、
まさか今更実は嘘でしたとでも言うつもりか?」
「グ…!」
痛い所を突かれた、
確かに俺は一度ラウラの依頼を受けてしまっている。
それを今更変える事なんて出来ない。
「…はぁ、分かった。
それならせめてあまり目立たないようにしてくれ。」
結果、俺は諦めるしかなかった。
「まあ、世界で3人目の男性のIS適合者という事実だけでも騒がれるとは思うがな。
一応偽名はこちらで用意する、流石にドモン・カッシュという名を広めたくはあるまい。」
「ああ、俺はその内居なくなる男だ。
可能であれば穏便に行きたい。」
こちらの世界に永住するという事であれば、
俺の名を広める事は悪くは無いがそうはいかない。
あちらの世界ではレインが待っているしな。
「分かった、手続き含めて私に任せておけ。
ひとまずは偽名だが…。」
そう言ってラウラは考えている、
俺に最適な偽名を考えているのだろう。
余程変な物でなければ俺は気にしないが…。
「そうだな…ヴァイス、なんていうのはどうだ?」
「ヴァイス?」
「ああ、ドイツ語で「白」という意味だ。」
「何でも良い、別に気にしない。」
「分かった、では任務中お前の事をヴァイスと呼ぶ。」
そう言ってから、
ラウラは少し迷ってから右手を出してきた。
「握手か?」
「…ああ、これから共に任務に赴くからな。」
ふむ、先日は俺の握手を無視したからな。
さてどうしたものか。
そう考えていると、
シュヴァルツェ・ハーゼの隊員が、
「隊長、あの時ドモンさんと握手をしなかったことを結構気にしてましたよ。
あの時どうすれば良かったのか分からなかったって相談されましたし。」
そう耳打ちしてきた。
…そういう事であれば仕方が無い。
「ああ、俺からもよろしく頼む。」
俺はラウラが差し出してきている右手をしっかりと握り返した。
「…ああ、よろしく頼む。」
パッと見は無表情だが、
口元は僅かに緩んでいるのを見逃さなかった。
「では私は早速手続きをしてくる。
進捗が有れば教える。」
「分かった、俺はこのままこいつ等の稽古を続ける。」
「お手柔らかにな、任務前に壊れてしまっては意味が無い。」
「善処はするさ。」
「どうだか。」
そう言いつつラウラは稽古場から離れていった…。
その後、
シュヴァルツェ・ハーゼ隊の戦闘力は末端に至るまでが今までの数倍以上になっていた。
基地の指揮官が理由を問い質したが、
彼女達は震えるだけで答える事は無かったという…。
閑話休題
「気分はどうだ、ド…ヴァイス。」
俺達はIS学園へと転入するため、
IS学園がある島へと行く便に2人で乗っていた。
「悪くは無い、しかしこの年で学校に行くことになるなんて思わなかった。」
「お前の学生時代はどうだったんだ?」
ラウラは何の気は無しで聞いてきたのだろう。
「俺は学校には行っていない、師匠との修行もあったからな。」
「なに…すまない、不躾だった。」
「気にするな、あの時の日々は今でも忘れられないからな。」
俺は師匠との日々を思い出しながラウラに言う。
あの時の日々が無ければ今の俺は無いと言っても過言じゃない。
「それで、その師匠は今どうしているんだ?」
「…師匠は。」
続くラウラの言葉で俺は俯いてしまう。
師匠は…俺と最後の闘いを終えた後…。
「…すまない。」
俺の雰囲気から察しであろうラウラは謝罪してきた。
「…いや、良い。
師匠はもう居ないという事実は変えようがないからな。」
俺達の間に気まずい雰囲気が流れ始める。
「間もなく当機は着陸の体勢に入ります。
席を立たれているお客様は…。」
丁度良いタイミングで機内アナウンスが流れ始めた。
「そろそろ着くみたいだな。」
これ幸いと俺は話を変える。
「…その様だな、良いか?
くれぐれも問題を起こすなよ?」
「その言葉、そっくりそのまま返させてもらう。」
「グッ…。」
予想外の俺の返しにラウラは言葉を詰まらせた。
「先日の仕返しだ。」
「「…フッ。」」
俺達はほぼ同じタイミング少し笑い、
その後はお互い静かに着陸の時を待った…。
「本日よりこのクラスで世話になるヴァイスだ、よろしく頼む。」
俺達はIS学園へと到着した翌日、早速自分のクラスへと入った。
ちなみに何故かラウラの奴と同じ1組になった。
「キャアアアア、男よ!!」
…何故か黄色い声が聞こえる。
まったく、俺は子供には興味ないんだがな。
「し、静かにしてくださーい!」
すると直ぐに担任から注意の声が出る。
この女、気が弱いが中々やるな。
いつか手合せしたいものだ。
「…ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツの代表候補生だ。」
続いてラウラが自己紹介をするが、
何故かそのまま最前列に居る男の事を睨みつけている。
…嫌な予感がするな。
「…俺?」
ラウラの視線の先に居る男は自分の事を指差しながら言った。
「…。」
その男に対して、ラウラは無言で近づきながら…
「オイ、俺に問題を起こすなって言ったばかりだろう?」
叩こうとしたが、
寸での所で俺がその手を押さえた。
「離せヴァイス、
こいつだけは許すわけにはいかない。」
「離さなかったら?」
ラウラを押さえる手に力を込めながら、
俺は挑発するように言った。
「…チッ。」
無理矢理外してくるかと思ったが、
力の差は歴然の為ラウラは舌打ちをして自分の席へと向かった。
「え、と。お、落ち着いてくださーい!」
「お前が落ち着け。」
一番落ち着いていないであろう担任に対して思わず言ってしまう。
「…?」
しかし、ここで俺は視線を感じた。
なんだ?
視線を感じた方向を見ると、
そこには女が2人居た。
「(あの2人、中々出来るな。)」
姿勢を見るだけで分かる。
あの2人は何かしらの武術の心得があるな。
あいつらとは生身で手合せしたいな。
「え、と。
とりあえずヴァイス君はアイギスさんの隣の席でお願いします。」
「分かった。」
教師から言われ、
先ほど俺に視線を飛ばしていた女の席の隣に座った。
「「…。」」
お互い何も言わずに席に座る。
そのままの流れで授業が開始された。
…いかん、まったく分からん。
これは本気でマズイ・・・!!
放課後
「なあ、ヴァイス。ちょっと良いか?」
帰り支度を整えていると、
先ほどラウラから叩かれそうになっていた男から声を掛けられた。
「何だ?」
「いや、折角男で同じクラスになったんだしここは親睦を深めないか?」
「…すまないな、これから用事がある。」
無論これは嘘だ。
というのも、先ほどから男の後ろからこちらを射殺さんばかりの視線を感じていた。
「(まったく、後で説明してもらうぞ。)」
俺は視線のみでこちらに視線を送ってきているラウラを見た。
「…ふん。」
分かっているのか分かっていないのか。
ラウラは一度そう言った後に直ぐに教室を出た。
「そうか…残念だ、
あ、いっけね、まだ名乗ってなかったな。
俺は織斑一夏だ、よろしく頼むよ。」
「ああ、よろしく頼む。」
そう言って差し出された右手を掴み返した。
「それじゃあな、また明日!」
最後にそう挨拶をして、一夏は教室を出た。
それに合わせて何人か一緒に出たが…まあいい。
俺には関係が無い事だ。
「…おい、そこの2人。」
丁度帰り支度を整えている2人に声を掛けた。
「私達?」
「そうだ、先ほど俺に視線を送っていたが何か用か?」
「…気付いていたのか。」
もう1人の女…確かアイギスと言ったか。
アイギスはそう答えてきた。
「アレだけ見られていたからな、気付くなという方が無理な話だ。」
俺達の間に不穏な空気が流れ始める。
他のクラスメイトは固唾を飲んで見守っていた。
「もう一度言う、何か用か?」
俺が改めてもう一度言うと。
「や、やだなぁ!
3人目の男性のIS乗りって事で気になって見ていただけだよ!」
そう言って、
もう1人の女が間に入ってきた。
「お前は?」
「私はソーマだよ、よろしくねヴァイス君!」
そう言ってソーマは、
「ほら、アイギスも自己紹介をしないと!」
アイギスに自己紹介を促した。
「…アイギスだ、宜しく。」
アイギスは警戒心を隠そうともせずに自己紹介をしてきた。
「もう!、無愛想過ぎるよ!!」
「性分だ。」
ソーマはアイギスに注意をするが、アイギスは意に介していなかった。
「取り敢えず鍛錬に行くよ!
ごめんねヴァイス君、また明日!」
鍛錬だと?
あいつ等がどんな鍛錬をしているか気になるな。
…隠れてついて行ってみるか。
そう決意した俺は、
教室を出る2人を静かに後をつけ出した…。
海岸
ここは…海岸?
2人の後を静かに着けていた俺は隠れながら2人の鍛錬を見ている。
「女だっていうのに、中々根性あるじゃないか。」
その鍛錬の内容はかなり濃密だ、まずは基礎となる走り込み。
これを2人は行っている。
その後は、2人で組手を行っている。
アレを見れば分かる。
あの2人は相当出来る。
…まあ、俺程じゃないがな。
「ねえ、アイギス。
そろそろアレ、やってみない?」
「アレ?」
「うん。」
そう言ってソーマはこの辺りでは比較的大き目の岩の前に立った。
「…ああ、それか。
今まで成功したことは無いが?」
「でも、そろそろ出来ると思うんだよね。
何となくだけど!」
「根拠の無い自信だな。」
「ほら、思い込みは大事って言うし!」
2人は言い合いながら、岩の前で集中しだした。
「…あの岩を素手で砕くつもりか。」
その行動を見て、2人は何がしたいのかが分かった。
「・・・はあああ!!」
「てええりゃあああああああ!!」」
十分に集中してから、
その気を爆発させるようにして岩に叩きつける。
…ダメだな、アレは話にならない。
「…ダメだったな。」
暫く待っても何も反応が無い大岩を前に、
アイギスは呟く様に言った。
「アハハ、だねぇ~。」
「ハァ…先生に修行を付けて貰って3年。
まだ私達はこの程度の岩を砕く事も出来ないのか。」
アイギスは明らかに肩を落としながら言った。
まったく、見ちゃいられない。
「オイ。」
「誰だ!」
「誰!?」
俺は姿を表し、声を掛けると2人は構えた。
「…ヴァイス?」
「…ヴァイス君?」
俺の姿を見た2人は相変わらず構えているが、
俺は特に気にせずに岩の前に立った。
「気の集中がいまいちだ、
その調子だと10年経っても砕けないぞ。」
「…何?」
そう言いつつ、俺は岩の前で気の集中を始める。
「良いか、ただ何となく集中するだけではだめだ。
己の中の気をしっかりと知覚し、循環させるんだ。
そして、攻撃を行う瞬間に爆発させろ。
そうすればこの程度の岩等…容易く砕ける。」
「…知ったような口を。」
「黙ってみていろ、今やってやる。」
完全に気の集中が出来た瞬間、
俺は目の前の岩を砕くべく、拳を打ちつけた。
「ハアアアアアアアアアアアア!!」
「な…に…!!」
「う、嘘!?」
派手な轟音と共に、岩は砕け散った。
それを見ていた2人は驚愕していた。
「分かったか?」
「…お前は、一体。」
「ただのしがない学生だ。」
俺はそう言いつつ、2人に背を向けその場を去った。
暫く歩いていると、
後ろの方から岩を砕く音が聞こえた…