「…ここは。」
ある島の砂浜で、俺は目覚めた。
ここは一体どこなのか…。
俺が生きてきた場所でこんな綺麗な海は既に失われたと思っていたが。
「…止まっていても始まらない、か。」
ここで立っていたとしても体は疲れ、腹は減り、眠気は襲ってくる。
ならば最低でも集落を見つけないと話にならないが…。
「…人の手が加えられているような後は無いな。」
大なり小なり人が住んでいれば必ず痕跡が残るはず。
それなのに、この場所は一切痕跡が見当たらない。
マズいな、ここが無人島だと完全に手詰まりになる。
酸素はあるから、ここは地球の可能性が高い。
しかし仮に地球だとしても、地理が一切分からない。
これでは船を作り、この島を脱出したとしてもそのまま遭難だ。
それだけは何としても避けなければならない、
目下の目標としては雨風を凌げる場所の確保、
それと飲み物と食べ物の確保だな。
それだけあればとりあえずは生きてはいける。
ここは自然が溢れている、
ならば恐らくはキノコ等の食べられる食物があるだろう。
幸い、その手の知識は頭に入っている。
余程特異な物で無ければ判別できる。
「…あれは?」
色々と考えていると、森の中から耳が出てきた。
パッと見た限りでは兎の物だ。
しかし、その耳は機械だ。
だとすると…機械生命体?
いや、そんな馬鹿なハズは無い。
兎のような耳をつけた機械生命体なんて聞いた事が無い。
だとすれば…もしや。
「…誰かそこにいるのか?」
この地に住まう人間の可能性が高い、俺はそう判断した。
「あれ?、
あれあれあれあれ?」
機械の耳に対して声を掛けると、
その耳をつけていた人物は俺に気が付いたようだ。
「おっかしいなぁー、この島に接近してくる反応は何も無かったんだけど。
なんでここに私以外の人が居るんだろー?」
ガサガサと草を掻き分けながら姿を表したのは、
何やら珍妙な格好をした女性だった。
「(あれは確か「メイド服」と呼ばれている衣装だったか、
とすると、ここは誰かのプライベートアイランドで、あの人は使用人か?)」
俺が何故メイド服について知ってるかは、この際置いといて欲しい。
人間誰しも間違いはあるのだから。
「ねーねー、おにいさーん。
どうやってこの島に入ったのかな?
識別信号が無い機械は問答無用で撃ち落すように色々と設置してるんだけど?」
「…なにやら物騒な単語が聞こえたが、
実は俺も分からないんだ、目が覚めたらここに居た。」
「目が覚めたら?
…フーン、なるほどなるほど。
と、するともしかしたらふーちゃんの関係者かな?」
最後の方は何て言ってるかは聞こえなかったが、
辛うじて名前は聞こえた。
ふーちゃん。
あだ名だとは思うが、名前の感じからして恐らく女性だろう。
「…まあ良いやー、概ね理解できたし。
ところでお兄さん、見たところ行く当てもなさそうだし。
折角だし私の隠れ家に来る?」
これは思ってもいなかった提案だ。
確かに俺は今行く当ても無く、最悪はこのまま野宿になるところだった。
しかし良いのだろうか?
勝手についていって何か言われないだろうか?
「俺としてはありがたいが、君の主人は大丈夫なのか?」
「主人?
あーなるほどー、私の格好を見て使用人と勘違いしたんだねー。
大丈夫大丈夫ー、私が主だから。」
「…本当か?」
「お兄さん疑り深いよー、
この格好はただの趣味だから気にしなくても良いよー。」
「趣味…か。」
「どしたの?」
「…いや、なんでもない。」
流石に初対面の女性に向かって良い趣味をしているとは言えない。
…俺の趣味ではないぞ?
「ならば…すまないが案内してもらえるとありがたい。」
「ほい任されました。
ところで、お兄さんの名前って何て言うのかな?」
俺の名前…俺の名前か。
些か返答に迷ってしまう。
ここがどこか分からない以上、
迂闊に本名を言わないほうが良いとは思うが、
偽名を名乗ってしまっては、この女性に失礼な気がする。
「?」
目の前の女性は首を傾げながら俺の返答を待つ。
…さて、どうしたら良いか。
「あ、束ちゃんはお兄さんの考えてる事が分かったよ!」
「…なに?」
暫く迷っていると、
女性はパンッと手を叩きながら。
「出会って間もない私に対して本名を言うべきか、
誰か狙っているか分からないから偽名を言うかで迷ってるんだねー!」
これは驚いた、正しくその通りだ。
「…ああ、その通りだ。」
「でしょー!、
なら安心しても良いよー、
…なにやら含みがある言い方だ。
しかしそれを今聞いたところで、この女性は答えてくれないだろう。
ならば…。
「俺の名前…それは。」
「うんうん!」
「キョウジ、キョウジ・カッシュだ。」
本名を名乗ることにした。
「………キョーくんだね!」
「キ、キョーくん?」
たっぷり10秒は考えてから、女性はそう俺の事を呼んだ。
「キョーくんはキョーくんだよ!
あ、そだ。
私の名前をまだ言ってなかったね!」
女性はそう言い、踊っているかのように回りながら。
「私はねー、篠ノ之束っていうの!
束ちゃんって呼んでも良いよ!」
そう自己紹介をしてきた。
…篠ノ之束、聞いた事が無い名だ。
「…すまないがよろしく頼む、束さん。」
「束ちゃん。」
「?」
「束ちゃんって呼んでくれないと案内しないよー。」
「…よろしく頼む、束ちゃん。」
「ほい任されましたー!」
…やり辛いな、俺の周りにこの様なタイプは居なかった。
ちゃん付けで呼んだことで満足したのか、
軽い足取りで束さんは歩き出した。
俺もその後を黙って着いていく。
「それにしてもカッシュねぇ、
これは何やら面白い事になりそうな予感!」
その束さんの呟きが、俺に届くことは無かった…。
IS学園<ドモンサイド>
ドイツの研究所を潰し、IS学園に戻ると色々と状況が変わっていた。
まずはシャルルだ。
アイツは一度学園を去り、もう一度転入してきた。
…本名を名乗って、だが。
シャルルの本当の名前は、シャルロット・デュノア。
男性として偽って学園に転入したのは、理由があっての事らしい。
…本人が言いたくない以上、こちらから聞くのは野暮ってものだ。
もう一つは、ラウラだ。
一夏に思いを寄せている奴等に聞いた所、
一夏を襲った一撃を防いだ後に、唇を奪ったらしい。
しかもその後はお前を嫁にしてやる宣言をしたという事だ。
…ラウラよ、女が男に対して言う言葉ではないぞ。
まあ、だが良い事ではあるだろう。
今までは憎しみを持って相手をしていたのに、
行き過ぎているとはいえ、それが無くなったんだからな。
ちなみにその時の様子をソーマが動画で撮っていたという事だ。
きっと面白いだろうから、後で見せてもらおう。
そして、今の俺は何故か買い物に来ている。
「…一体どう言う事だ?」
「お兄ちゃん、私達は今度海に行くんだよ?」
「その話を俺は知らん。」
「それはそうですよ、
何せドモンさんが居ない時に勝手に決めたのですから。」
「そうだ、その場に居なかった兄上が悪い。」
…何故俺がそこまで責められなければならん。
だが、それを言ってもこいつ等は聞くまい。
「ところで、こんなのはどうだと思う?」
そう言ってソーマは俺に水着を見せてくる。
どうやら学校指定の物しか持っていなかったから買いに来た、という事だ。
「俺はその手の物は良く分からん。」
言葉の通り、俺にはファッションなんていうものは良く分からない。
何せ修行ばかりをしていた。
持っている服も学園の服と普段の服装のみだ。
「いけませんソーマ、
ドモンさんにその手の事を聞いてもまったく意味が無いですよ。」
…本当の事だが、他人から言われると腹が立つな。
不思議なものだ。
「言って見ただけだよー、私も別に期待してないから平気ー。」
「…なら何故俺を連れてきた?」
「…兄上、発言宜しいか?」
「…ああ。」
アイギスが妙に畏まってから、
「お言葉ですが兄上、
先ほどアイギスが言った通り、私達は海に行きます。」
「俺は行かんぞ?」
「いえ、ダメです。
先生に許可は既に貰っています。」
「なん…だと…。」
う、恨みますよ師匠…!!
「…兎に角、兄上は水着をお持ちですか?」
「持っているわけが無いだろう。」
「ドモンさん、
でしたらアナタはどういった服装で海に入るおつもりですか?」
「褌だが?」
「無いね。」「無いな。」「無いですね。」
三者三様、ほぼ同じ言葉で否定されてしまった。
「そんなお兄ちゃん見たら軽蔑しちゃう。」
「とりあえず知り合いとして認識されたくは無いな。」
「以下同文、です。」
…なんだろう、今日のこいつ等容赦が無い。
「とりあえず、
私達は色々見て回るからお兄ちゃんも買ってね?」
「いや…「買ってね?」…分かった。」
有無を言わさぬ迫力に、思わず頷いてしまった。
…しかし水着か。
まあ何でも良いだろう。
可能であれば動きやすい物が良いが…
「…これが一番動きやすそうだ。」
そう思って手に取ったのは、
必要最低限の面積しかない水着だった。
「…お兄ちゃん?」
早速それを買いに行こうとしたが、
背後から聞こえてきたソーマに引き止められる。
「なんだ?」
ソーマの顔を見ると、何故だか不貞腐れている。
「…変態。」
続いて短くそう言われてどこかへ行ってしまった。
「…なにがいけなかったんだ?」
俺にはその理由が分からなかった…。
その後、俺が持っていった水着は全て却下されてしまった為。
仕方無く3人が選んだ水着を買った。
この日の出来事を3人は師匠に話していたが。
師匠もまったく同じ反応だった為、3人は肩をガックリと落としていた…。
ドモンは真面目なのにギャグと化してしまった水着選び。
なお、ドモンが選んだ水着はブーメラン水着でした。
ちなみに東方不敗もまったく同じ事を提案してました。
この師匠にして、この弟子在り。