HIGH SCHOOL FLEET -His Order has Priority-   作:オーバードライヴ

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今回から新章開始となります。よろしくお願いします。


ウィツィロポチトリの誕生
ヤカテクトリの旅路


 

「えっと、これはどういうことなのかな?」

 

 明乃がなんとか作った笑みがどこか痙攣したようにピクリと歪んでいた。その後ろではましろが盛大に頭を抱えていた。脱衣所の熱気が漏れないようにと扉を閉めているが、既に室内はやかましい。

 

「文句はこのすっとこどっこいに言ってくれい」

 

 目の周りにアザを作った柳原麻侖がそう日本語で言ってぷいと横を向いた。その動きで彼女の明るい色合いの髪から水飛沫が散った。Tシャツと短パンを身につけているものの、それは物の見事に濡れて肌に張り付いている。

 

「このチビが無理矢理湯を張ったバスタブに僕を沈めて殺そうとしたんだ! あんな煮え湯に入ったら死んでしまう!」

 

 僕は被害者だ! と、どこかなまりのある英語で叫ぶのは先ほど救助した少年である。その彼は晴風搭載の災害対応備品セットの中から発掘された大人用のアルミ蒸着済み非常用ポンチョを頭から被っているせいで、お化けの仮装もかくやという風貌だ。彼の着ていた服は既に等松美海によって洗濯機に叩き込まれていることと、男の子向けの子ども服なんて晴風には積まれていなかったせいである。

 

「あー……なるほど」

 

 納得顔は明乃に付いて歩いているコンスタンツェ・ヴァイデンフェラーだ。前に機関長に連れられて熱い風呂に入った時の事を思い出し、それをふるふると頭を振って追い出している。

 

「風呂とはそういうもんでぃ! 江戸っ子の気概をバカにするんじゃねぇっ!」

「英語で話せよ! 女のくせに小さいおっぱい!」

「あ゛ぁ゛ん゛!? なんか罵倒されたのはわかるぞ! 喧嘩は買うのが心意気っ!」

「そこまで!」

 

 いきなり取っ組み合いの喧嘩になりかけたタイミングでましろの雷が落ちた。麻侖には容赦なく拳もついてきた。

 

「機関長は保護対象に、それも子ども相手にムキになるな。そして、少年も少しは口を慎みなさい」

 

 英語で諭したましろを、カッと睨む少年。

 

「お前、カストルノー准男爵に対して無礼だぞ」

「……それは失礼しました、()男爵殿」

 

 ましろはそう一礼するが、子どもにもわかるぐらいに形だけの礼をした後、明乃の方を横目で見る。

 

「それで、どうします? アケノ・フライフェルン・フォン・ミサキ・レーヴェンシュタイン」

「いっ!?」

 

 いきなりましろが明乃のヴァイマル・ドイツ貴族としての正式な名乗りで呼び始めて、呼ばれた明乃が素っ頓狂な声を上げる。

 

「こちらの初代ミサキ・レーベシュタイン卿アケノ()()を困らせるようであれば、いくら私が平民の身分とはいえ黙ってはいられません。そもそも海の上では貴族だろうと乞食だろうと関係ないんですよ」

 

 そういいながらしゃがみ込んで少年と視線を合わせるましろ。

 

「君の扱いはこの船の長であるアケノ男爵が決めることになります。それで、どうしますかキャプテン」

 

 明乃を見上げるましろの顔は真面目を決め込んでいるが、それなりに一緒に船を動かしてきた明乃には分かる。目元が笑っている。どこか試すような、期待するような目線。

 

(しろちゃん楽しんでるよね!?)

 

 あとでしろちゃんとしっかり話そうと決意しつつ、明乃は口を開いた。

 

「えっと……私達はとりあえずあなたの敵じゃないし、害を加える気は無いんだ。ちゃんと最寄りの港までつれていくし、必要なものは揃えられる限り揃える。なんちゃって貴族が乗ってる変な船に乗せられて大変だろうけど、数日間は一緒に船に乗ることになるだろうから、仲良くできるとうれしいな」

「……だ、そうだ」

 

 肩を竦めたましろが笑って少年の頭に触れた。

 

「そんなに無理して威張らなくても大丈夫だ、少年。君が何者であっても、何者でなくても、私達“晴風”は君を一人の尊厳ある人間として扱う。……機関長の非礼は晴風を代表してお詫びしよう」

「……なれなれしくするな」

 

 パシンとその手を払った少年。その行為すら笑って、謝るましろ。悪者扱いされた麻侖はどこか不満そうだが、なにも言わなかった。

 

「さて、一緒に漂流していた女性も心配ないようだし、暖かいものでも飲んで身体を温めてから少年も少し休むといい。日が昇って目が覚めてから君の話を聞かせてくれ。その頃には服も乾いているはずだ」

 

 ましろが少年の手を取ってゆっくりと連れ出す。どこかぽかんとして見送った明乃。

 

「しろちゃん、あんな振る舞いできるんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、どうしようかな……」

 

 夜明け前、伊良湖美甘給養長は悩んでいた。朝食に特別メニューを追加しなければならなくなったのである。

 

 理由は当然、救助した少年と女性の食事の追加である。その二人は最寄りの港まで運ばなければならず、最寄りの港まで巡航速度で航海すると48時間以上かかる計算だ。それまでは半分お客様としてこの艦に乗ることになり、当然食事も提供する。

 

「せっかくだから美味しいって言ってもらわないとだけど……女性の人、メイドさんみたいだったし、男の子も貴族様らしいしなぁ……下手なものつくれないし……そもそも消化がいいものじゃないと胃が受け付けないかもしれないし……」

 

 身体の保温とあったかいものが入り用とのことで、慌ててわかめと油揚げのお味噌汁を作り提供したが、給養長として顆粒だしに甘んじたあたり不満が残る。アレがこの晴風の味だと思ってもらってはプライドが許さないのだ。

 

 名誉挽回、汚名返上のリベンジマッチの機会が1時間半後に控えた朝食である。乗組員の朝食については給養員の杵崎姉妹に預けてあるし、朝食はそもそも三人のうち二人が持ち回りで作るのが基本だから、人員的には余裕がある。

 

「……うーん」

「ミカンちゃん、悩み事?」

 

 杵崎ほまれがキュウリの浅漬けと梅干しを小皿に盛り付けながら笑う。

 

「ほっちゃん、風邪の時とか、体調悪いとき、いっつも何食べてた?」

「そうだねぇ……私はおうどんかなぁ。素うどんでもいいけど、長ネギを塩コショウとごま油で焼いて乗せるのが好き。だしメインで薄味に仕上げてつるつるって」

「あーそれもいいね。あっちゃんは?」

「うーんとねぇ」

 

 大量の白米を研いでいた杵崎あかねが一瞬手を止めた。

 

「梅かゆは母さんによくつくってもらったけど、クリームシチューが一番かなー」

「あかねはシチュー大好きだもんね」

 

 ほまれが漬物セットにラップをかける。そのタイミングで調理室の扉がノックされた。

 

「はーい」

「あの、ヴァイデンフェラー学生、入室します!」

 

 聞こえてきたどこかつっかえつっかえの日本語に、職員室じゃないんだから、と半分苦笑いでドアを開ける美甘。

 

「Hallo, Konstanze. Was ist denn los?」

 

 ドイツ語に切り替えて美甘が言えば、ドアの向こうで立っていたコンスタンツェがすこしホッとした様子で笑った。

 

「Guten Morgen, Mikan. Ich möchte diese Suppenschüsseln zurückgeben」

「Danke die Mühe! Ich werde sie erhalten.」

 

 ドイツ語でのやりとりに疑問符を浮かべるあかねとほまれ。振り返ってそれに気がついた美甘が笑う。

 

「お味噌汁の汁椀を返しにきてくれたんだって。ちゃんと空っぽになってる。よかったぁ」

「あ、うん……それより、ミカンちゃん本当にドイツ語上手になったよね……」

「あーそっか、ごめんごめん。Hi Tanze, let’s speak in English here. They’re not good speaker of German.」

 

 英語に切り替えて話し出す美甘、その切り替えの早さに驚いたのはあかねだ。給養長ってこんなに語学堪能だったっけ。

 

「Okay, I’m sorry Akane and Homare. I came to return that ……Suppenschüsseln? Suppenschüsseln……」

「‘Soup bowls’?」

「Yes, Soup bowls. Thank you, Mikan」

「No problem. And ‘Suppenschüsseln' are called ‘Owan’ or ‘Shiru-wan’ in Japanese. If you come to cooking team, maybe you’ll use them often.」

「なんだかミカンちゃんが遠いところに行っちゃった感じ……」

「うん……」

 

 ほまれの声に頷くあかね。なにやら英語で食器トークになっているらしい。杵崎姉妹は会話に加わるのを諦めて、手を動かすことにした。

 あとで謝っておこうと思いつつ、美甘は再度ドイツ語に切り替えてコンスタンツェに声をかける。

 

「ところでタッツェちゃんは体調悪いときよく食べたものとかある?」

「あ、ドイツ語でいいんですね。すいません、なんだか気をつかわせてしまって……」

「いいのいいの、気をつかうのは先輩の仕事なのです! だから気にしないで」

「ありがとうございます。……それで、体調……あ、助けた男の子の?」

「そうそう。今日の朝食なんだけど、あの子は和食より馴染みのある洋風の食事(ウェスタンスタイル)の方がいいかなって。でもあんまり洋食は作り慣れてないんだ」

 

 美甘は業務用冷蔵庫を開けて中身を改めて確認しながら続ける。

 

「それで、洋食ネイティブのタッツェちゃんの知恵を借りられないかなって思ったんだけど」

「でもフランス風の味はわからないから……あの子の口に合うかは……」

「あ、男の子フランス人なの?」

 

 冷蔵庫の奥を覗き込みながら、美甘が聞く。

 

「直接聞いたわけじゃないですけど英語はひどいフランスなまりだったので……」

「そーなんだ。まぁでもドイツ風料理の方が和風料理よりまだなじみ深いと思うから、是非教えてくれると助かるな」

「うーん……ドイツでは……というよりママはですけど、定番はコーラとアイスクリームです」

「うーん、身体が冷えるのはまずいかも」

「ですよね……」

 

 予想外の答えに面食らう。確かにアイスやラムネはストックがあるが、朝食にはナシだろう。

 

「あとは……チキンスープとか、トマトスープはお医者さんも勧めてます。パスタを入れることもあります」

「なるほど、スープなんだね、風邪の定番料理って。……あ、そういえば」

 

 隣の冷蔵庫を開けて、ガラス製の密閉容器を取り出す。

 

「それって……」

「昨日嵐で海が荒れなければ晩ご飯で使うはずだった晴風特製の自家製鶏ハム。これちょっと使っちゃおう。煮汁がブイヨン代わりになるし、人参と玉葱もあるし、ショートパスタは……」

 

 今度は棚をあさりだす美甘。

 

「うん、ペンネがあった。ナポリで買っておいて正解だったー。……バジルと、粉チーズもあるし……よし、チキンスープは作れる!」

 

 そういって笑う美甘。壁に掛けてあったエプロンを取り、パッと身につけ、三角巾で髪を手早くまとめる。

 

「タッツェちゃん、ホント助かったよ。ありがとう」

「私も手伝います! 料理はママのを手伝ってたので少しなら作れますよ」

「そう? じゃぁ、鶏ハムを小さく切ってもらうのお願いしようかな」

 

 美甘は笑いながら予備のエプロンと三角巾をタッツェに手渡す。朝ご飯まであと1時間20分。なんとか間に合いそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁ……」

「眠いですか?」

「うん……」

 

 あくびをかみ殺す明乃に、ましろは笑いながら声をかけた。艦内の廊下はまもなく常夜灯から蛍光灯に切り替わるだろう。空はとっくに市民薄明を迎え、周囲を仄明るく照らし始めている頃合いだ。

 

「ほとんど……徹夜になっちゃったね」

「まぁ、出動態勢でしたからね。今からでも少し休んだ方がいいんじゃないですか?」

「それはしろちゃんもでしょ?」

 

 そう笑えば、ましろもかなり疲れた笑みを浮かべた。

 

「それにしてもあの子は准男爵さんか……すこし緊張するかも」

「男爵がなにを言ってるんですか……艦長の方が年上で階級的にも上ですよ」

「それはそうなんだけど……」

 

 半分よろけながらそういう明乃の肩をさらりと抱くましろ。

 

「ごめん」

「やっぱり少し寝た方がいいのでは?」

「……朝ご飯食べたら1時間だけ寝ようかな」

「もう午前中ずっと寝ててください。午後から交代しましょう」

「ごめん……」

「いいですから謝らないでください」

 

 ましろはついと顔を逸らした。いつもよりわずかに高い体温に心拍数が上がるなんて知られたら困る。

 

「あ、ミケちゃん。しろちゃんもお疲れ様」

 

 デッキに繋がる水蜜扉から姿を現したのは知名もえかだ。

 

「知名さん。おはようございます」

「あ、もかちゃんだ。おはよー」

「うん、おはよう」

 

 もえかは。眠そうな声を出す明乃がおかしかったのか、くすくすと笑いながらあいさつをする。

 

「さっき無電室に寄ってきたけど、とりあえず英領バミューダは寄港OKだって。ロイヤルマーメイドとの連係も多分大丈夫」

 

 それを聞いて頷いた明乃だったが、その内容を聞いて少し驚いた声を出す。

 

「もかちゃん休んでないの……? たしかマルハチマルマルから上番だよね」

「二時間も寝ればバッチリだよ」

「そんなんで保つんですか?」

 

 今度驚いたのはましろだ。笑みを深めるもえか。

 

「ショートスリーパーって言うのかな。元々眠る時間が短くても大丈夫な体質らしくて。その代わり徹夜はしんどいんだけど、ちょっとでも寝られれば結構大丈夫なんだ。それより、ごめんねしろちゃん、うちのミケが迷惑掛けて」

「えへへ……」

「えへへじゃないでしょ? そんな子に育てた覚えはありません」

「あん」

 

 ましろにしだれかかっていた明乃をべりっという音がしそうな雰囲気で引き剥がすもえか。

 

「いや、母親かあんたは」

 

 素で突っ込んだましろに、もえかはくすりと笑う。

 

「母親じゃないけど、お姉ちゃん代わりにはなれるかなーなんて。頼れる仲間はいるけど、甘えられる家族はいないでしょ?」

「うー、別に甘えたいわけじゃ……」

「そんな脱力状態で言われても説得力無いよミケちゃん」

 

 もえかを見上げるようにして唸る明乃の頭を撫でながらそう言うもえかだったが、いたずらっぽい笑みを浮かべると爆弾発言を放り込んだ。

 

「ほら、ちゃんとしっかりしないとしろちゃんのところにお婿にいけないよ」

「なんっ……!?」

 

 一瞬のうちにトマトになるましろ。明乃は既に半分寝ていて疑問に気がつけない。

 

「あはは、冗談です。冗談。それとも本気にしたいです?」

「ば、馬鹿にするのもいいかげんに……!」

「ごめんなさい。でも嬉しいんです。ミケちゃんも私以外に頼れる人がいるってすごいことなんですから」

 

 明乃の腕をとって自らの肩に回すもえか。

 

「私はミケちゃんをこのまま艦長室に寝かしに行くんで、副長は艦長の朝ご飯取っておいて貰えるようおねがいしていいですか?」

「あ、あぁ……わかった」

 

 やっぱりもえかはどこか苦手だと思いつつ、ましろは歩き出す。

 

「副長」

「……なんでしょう」

 

 明乃は完全に眠りに落ちた。それを気にしてか、もえかの声のトーンが落ちた。

 

「貴女は守れますか?」

「っ!?」

 

 目的語が省略された問い。それが意味するものは問わなくても分かるともえかは踏んだのだろう。名前を呼ばれて隣の姫に起きられれば困るのだ。

 

「……騎士を気取るつもりは無いが、守る」

「では、信頼して」

 

 ゆっくりと歩き出すもえか、極端に抑制された無声音が横を過ぎるときに聞こえた。

 

 

 

「トンビが飛び立ちましたよ」

 

 

 

 ましろはゆっくり言葉を選んだ。

 

「……朝食は油揚げの味噌汁じゃないだろうな」

 

 くすりと笑う気配。おそらく回答は間違っていない。

 

「食事、私の分も確保をお願いしていいですか?」

「わかった。食堂で食べるか?」

「えぇ、一緒に食べましょう」

 

 ましろは艦長ともえかから目線を戻し、歩き出す。

 

 このタイミング、明乃に聞かせられない話題。周りには人影がないにも関わらず、用心して声のトーンを落として聞かせてきた。それも用心をかさね、内容はぼかした文章。暗号などの取り決めはした覚えがない。それでももえかは『ましろなら通じる』と踏んだ。

 

 それを満たすような情報を、ましろは一つしか思いつかなかった。

 

 

 

(金鵄友愛塾が、動いた……!)

 

 

 

 ましろは急く足を意識的に押さえ込む。これは明乃には伝えたくない内容、もしくは明乃が聞いていたとしても、表向きは知らぬ存ぜぬを貫かねばならない内容だ。

 

(期待しているのは、宗谷家の力……だな。私個人の能力が必要なら別の言い方をする。だが表向きには動けない、か……よし)

 

 夜が明ける。否応なく、一日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは悪手だと思いますよ、バロット」

 

 ましろの急いた足音を水密扉越しに聞きながら、煙草を吹かしつつ高峰青葉はそう嘯いた。手にしたスマートフォンの向こうでは黙り込んでいた。

 

「あぁごめんなさいね。こちらの話です。……それで? 元教え子の様子を聞くなら私じゃなくて娘さんに掛ければいいでしょう。()先輩?」

 

 電話の向こうの声がギンと張る。

 

『貴様の先輩になったつもりもなければ、直属の上官だったこともないだろう。()()()()()()、それ以上の意味はない。あと美波は娘ではない』

「あら、人質にはならないってアピールですかぁ?」

『事実認識に齟齬があったから訂正しただけだが?』

 

 生徒の前では浮かべることの無い笑みを浮かべて、青葉が笑う。

 

経済産業省(わがしゃ)内務省(あなた)の味方ですよ。少なくとも私と上長はあなたとあなたが育てた晴風を高く評価している。だが、おたくの根回しが遅すぎる。まあ、国土交通省が古巣のあなたじゃあ、荷が勝ち過ぎるのは最初から織り込み済みですから、いいんですけどね。それに、感情も殺せず隣の便器を覗き込んで騒ぎ立てる男に期待はしていません」

『そりゃどうも。気楽に仕事ができて助かるよ』

 

 男の声は飄々としている。そうだ、それでいい。この男には働いて貰わなければならない。

 

「で、ケイローンの動きでしたっけ? 動かせそうですか?」

『外務省関係はな。……英国の怒りを買った在ロンドン大使館に出入りしている駐在武官が一人、ペルソナノングラータを叩き付けられそうだから、先んじて昨日処分人事で日本行きの船に突っ込まれた。他国の領土問題に首を突っ込んだそうだ』

「それは大変。ということは補欠を送ることになるわけですね」

『らしいな』

 

 ここまでくれば話は分かる。もえかの動きも見えてきた。

 

「さすが教官ですね、うまいこと生徒を転がしていらっしゃる」

『教官ならこんなひどいことはできないさ』

「まさか。……ブルーマーメイドは惜しい男を放出しましたね」

 

 心にもないものを、という向こうの声には笑って返事とした。青葉はちびた煙草を投げ捨てた。

 

「まぁ、経済産業省(うち)情報提供(運び屋)専門ですから」

『よく言う。そちらはNGOでキャンプ暮らしが似合いそうだが』

「そっちのまねごとはできませんし、そんなアウトドアな感じじゃないですよ」

『そうかい。……無駄話が過ぎたな』

「おや、通話料はそちら持ちでしたね。すいませんでした。それでは」

 

 返事も聞かずに通話を切る。青葉は明けた夜空を見上げる。休憩時間は終わりを告げようとしていた。

 

「NGOにキャンプ、あとは外務省……ねぇ……まぁ、なんとかなるでしょう」

 

 否応なく、一日が始まる。嵐は去り、波は嫌になるほど穏やかだった。




新章の始めくらい明るく終わろうと思ったのにダメだったよ……。

というわけで地域が変わってアメリカ文化圏となり、タイトルがメソアメリカ文化圏の単語に変わりました。変わったのそこかよと言われそうですが、しばらくはこのまま行きます。

ミカンちゃんたちが話しているドイツ語、間違ってたらごめんなさい……。



さて、どちらが正妻かをいがみ合いそうなもかちゃんとしろちゃんですが、共闘開始です。さぁ、立ち向かえ、大人達を打ち負かせてみせろ。


これからもどうぞよろしくお願いします。
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