HIGH SCHOOL FLEET -His Order has Priority-   作:オーバードライヴ

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テクシステカトルの離昇

 

「で、話ってなんだ?」

 

 宗谷ましろは、目の前で座っている鏑木美波医務長に胡乱な目を向けた。引き継ぎを終えてやっと部屋で休めるとあくびをかみ殺しながら廊下を歩いていたところ、美波にすれ違い様でタックルを喰らわされ、左脇腹を打撲。その治療を名目に医務室に引っ張り込まれたのだ

 

「どうしてもすぐ話がしたかった。治療名目なら()()()()だろう」

「いや、廊下でいきなりタックルは不自然すぎるだろう。人さらいか何かか」

「それで、だ」

「私の意見は無視か……」

 

 ついてない。と心の中で嘯きながら、ましろはため息。

 

「副長、宗谷元校長に連絡を取った?」

「……いいや」

 

 ましろは警戒態勢に入る。今朝たしかに連絡を取ったが、取った相手は宗谷真雪ではなく、宗谷真冬だ。通信はもえかから借りた端末を経由して送信しているし、もえかと相部屋になっている自室で作業をしたのだ。もえか以外に通信を知られるはずがない。

 

「……パパ、じゃなかった……柳教官から連絡があった。今さっき」

「柳教官から?」

 

 オウム返しにそう返してしまい、ちょっと間抜けだったかと思い反省するましろ。美波は私物らしいスマートフォンを取り出し何かを操作する。画面が明るい黄緑に光ったと言うことは、テキストメッセージをやりとりできるスマートフォン向けアプリケーションだ。

 

「パイン……柳教官が使うイメージないな」

「これまで使ってこなかった。普段はショートメッセージか電話だけ。パインなんて友だち登録を無理矢理させただけで、それからは放置だった」

 

 パインはスタンプ機能などもあり、晴風でも生徒全員が使っていることから、簡単な連絡などにも活用しているお馴染みの携帯アプリだ。木更津港核廃棄物密輸事件の時、岬明乃が統合型情報表示装置(インフォメーション・イルミネーター)をパインに直結し戦術リンクもどきを構築するという、海洋学校や海上安全整備局のセキュリティ担当者が卒倒確実な離れ業をして以来、万が一の際はこれも使おうとは話していた。

 

「なのに、こんなメッセージが来た。22分前」

 

 ましろは差し出されたスマートフォンを覗き込む。表示されているのはパインのチャット画面のようだ。

 

 

パパ上

美波ちゃん♡♡♡へ 元気?  

世界一周の間、パパは寂しくし 

ています(´・ω・`)

15:21

 

娘ではないけど、私にとっても 

ね、大切な人です。体は必ず 

大切にしてね。欧州はほんとう 

に寒かったでしょう(>_<) 

服等で体温をちゃんと調整して 

ください(^^)         

ちょっとさびしくて連絡をした 

よ。少しよんでくれるとパパも 

うれしいな(^_^)v 

15:21

 

既読

15:22

いきなりどうしたの?

 

 

 

 

「なんだこの絶妙なウザさ!? 自慢か!? 義父とこんなに仲いいんですって自慢か!?」

「ちがう」

 

 とっさにそう突っ込んだましろだが、きっと悪くないだろう。タックルされた先でこんなものを見せられて一体どう対応すればいいのだ。ハートマークに顔文字と、30を越えたおっさんが使っているとなんだか生理的嫌悪を催すもののオンパレードだ。これが元担任教官だと思うといろいろクるものがある。

 

「柳教官はこんなこと言わないし、顔文字なんて使わない。そもそも、柳教官は父さんともパパとも呼ばせてくれない」

 

 淡々と突っ込んだ美波。「よく見て」と言われるが、何を言いたいのか分からない。

 

「パインのメッセージは15字で自動的に改行になる。なのに14字でわざわざ手作業で改行している」

 

 画面をコツコツと叩いた美波。

 

「スマホに慣れていないだけじゃないのか」

「インフォメーション・イルミネーターもタブレットも使いこなすのに?」

 

 そう言われて一瞬考え込む。確かに柳はデジタル機器を使いこなしていた。その彼が自動改行に気がつかない可能性は低い。

 

「じゃあ、なんだ。わざとだっていうのか?」

「文字列がずれちゃいけない。頭文字だけを読んでみて」

 

 そう言われ、改めて画面を覗き込む。

 

「み、せ、ろ……? むねたにふくちよう……って、私を指名か!?」

「だから呼んだ。続きは改行がなくなって15字のままで続くから、ここで縦読みは終わり。多分ここから先が問題」

 

 

パパ上

ごめんごめん15:23

 

日本はなんだか忙しくて目が回り

そうです。パパは前の職場の上司

と飲んできました。美波ちゃんの

こと心配してましたよ。奢っても

らったのでおばあちゃんちの野菜

を今度送ろうと思います(*^▽^*)

15:23

 

おばあちゃんの農園はりんごの海

外輸出で苦戦してるようです。も

し、そっちで見かけたら連絡をく

ださいね(^_-)-☆

15:24

 

最近、お父さんの会社が忙しくて

なかなか大変です。体調管理には

気をつけますが、薬をしっかり飲

んでおくようにします。美波ちゃ

んも気をつけてね

15:25

 

あんまり長々と送ってもアレなの

でこれぐらいで。今はサテライト

もあるので、困ったら電話してね

15:25

 

それじゃぁ、また・・・15:25

 

 

 

 

 その下にはファンシーなキャラクターのスタンプが手を振っていた。アメリカで大人気のネズミのキャラクター、柳が使ってるイメージが全くない。文面的にはものすごく色々言いたいのだが、おそらくは暗号文だ。柳も恥を忍んで送ったに違いない。とりあえず飲み込む。

 

「……それで? 『前の職場の上司』は確かに私の母さんのことだと思うが……」

 

 ましろはそう言いながら手帳を取り出した。

 

「副長は、宗谷校長か柳教官に連絡をとった?」

「……金鵄友愛塾が動いてないか確認したくて、な」

 

 ここまでなら教えていいかと考えつつ、慎重にそう答える。殴り書きでそれを書き写す。顔文字も一応その通りに写しつつ、気になったところを聞いていく。

 

「『おばあちゃん』は誰のことだ?」

「多分北海道の柳教官の実家のおばあちゃん。農家をしてる。……でも、りんごなんて育ててない。海外輸出もしてない」

「なら林檎は暗喩か……りんご……りんごか。まったくわからん」

 

 ましろはりんごの絵を描きながらそんなことを言う。りんご、リンゴ、林檎、Apple……書き換えを行いながら考える。

 

「聖書だとアダムとイヴが食べた実がりんごって話だったか……あとは……?」

「りんごは昔から万能薬と言われていた。食物繊維が多く、胃腸の調子を整える。……りんごの意味はまだわからないけど、一つ確実なものがある」

 

 美波はそう言って、画面をもう一度見せた。

 

「これ、柳教官は『パパ』って名乗ってるのに、1カ所だけ『お父さん』って使ってる。お父さんの会社……これはおそらく鏑木製薬……今のエーイル製剤のことだと思う」

「鏑木製薬?」

「体調管理で薬の話題も出てるし、多分間違いは、ない。……鏑木製薬は金鵄友愛塾に協力していた」

「……まてまてまて!」

 

 ましろはその下のスタンプを見る。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「RATtウィルス……!」

 

 たしかそれは、アメリカに提供する目的で作られたものではなかったか。

 

 RATtウィルス、製造元である鏑木製薬でつけられた開発コードは“アルジャーノン”。4月のRATt連続テロ事件を引き起こした直接的な元凶であり、目の前の鏑木美波の父親などが関与したものだ。

 

「アルジャーノンは米軍兵士の強化のための薬剤として開発されたと父さんから聞いている。……洗脳とその人員のネットワーク化のために必要な薬剤だった」

「だけど、アメリカには渡っていなかったはずだ。だって、それを運んでたはずの潜水艦は西ノ島新島で沈んだ。それが暴走したから、RATtウィルスが拡散した……。武蔵だけが狂うはずが、演習参加艦が皆狂った」

 

 ましろがそう言う。美波も頷いた。

 

「もしかしたら、一隻だけじゃなかったのかも」

「なら……もう一度、アレが起こるのか?」

 

 ましろが呆然としながら、顔を上げれば、美波はそれをじっと見ていた。

 

「学徒艦隊にはRATt抗体ワクチンのストックは十分に積まれている。一応艦隊の中にも感染者がいるため、追加接種の必要に備えて大量に積載してある」

「……させようとしているのは、RATt感染者の鎮圧作戦?」

「少なくとも、RATtウィルスが絡んだ何かが動いているはず」

 

 そう言ってから美波は俯いた。

 

「……まだ、続くんだ」

「美波さん……」

「大丈夫。RATtがらみなら、晴風ほど経験を積んだ部隊はない。なんとか、なる」

 

 それは言い聞かせているようで、ましろはそれを見ていられずに、わずかに目をそらした。

 

「そうだな。……ありがとう、何が動いているのかは理解できた」

 

 ましろは立ち上がる。こんどこそ、部屋に戻らねばならない。もえかに装弾できるのはもう少し先だろう。今はまだ取り調べの途中のはずだ。

 

「副長、気をつけて。何かが……動いてる」

「わかっている。……これ以上、晴風をどうこうされてたまるか」

 

 ましろはそう言って医務室を出て行った。医務室に残された彼女はスマートフォンを見る。そこには柳からのメッセージが残っていた。

 

「……」

 

 ゆっくりと文字を打ち込む。

 

 

パパ上

既読

15:32

心配かけてごめんね。ありがとう

晴風はみんな元気にやってます。

困ったことがあったら、色々頼る

かもしれないけど、そのときはよ

ろしくお願いします。

 

 

 

 

送信。間髪入れずに既読がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これでチャンネル成立か」

 

 眩しいスマートフォンから目を逸らし、柳はそういった。左耳に差したインカムはタブレット端末と同期している。

 

「これでいいんですね、宗谷先生」

『本当は鏑木さんを巻き込みたくはなかったけれど、これぐらいしかアクセス方法がなかったのよ』

 

 通話の向こうにいる宗谷真雪はどうやら車に乗っているらしい。走行ノイズが通話に混じっている。

 

『柳君』

「なんですか」

 

 杖を手にとり、立ち上がりつつ通話に返した。冷蔵庫まで進み、中から缶入りの炭酸水を取り出す。眠気を飛ばすにはこれが一番だった。

 

『総務省が用意するカウンター作戦……ケイローンと言ったかしら。それはどこまで有効かしら』

「あくまで対症療法です。英仏のいがみ合いは我々では止められません」

 

 アルミ缶を取り出し、片手でプルタブを開けると、柳は口に含んだ。

 

「それに総務省が口出しできるのはあくまで国内の問題です。海外展開となれば、外務省に頑張って貰うしかありません」

『……そのために、真霜をイギリスに送ったの?』

「外務省は事なかれ主義です。最悪の場合には、例のごとく宗谷派ごと切り捨てることで対応するつもりでしょう」

 

 通話の向こうは一度黙り込んだ。キッチンのアルミシンクに缶を置き、柳は壁に寄りかかった。

 

『……チャンネルだけは確保してあると、好意的に捉えましょうか。政府の方向性は分かりました。それで、あなたはどうするつもり?』

「私は東京から動けませんよ。この脚じゃ、盾の一つにもなれはしませんからね。オペレーションセンターで事務作業です」

『本音をおっしゃいなさいな、柳君』

 

 真雪の声がそう響いた。柳は黙り込む。

 

『マル電は元々核物質の輸送警備を主に対応する特殊部隊を源流に持っている。そのために、海外派遣の経験もあるはずよね。そして今回のヘファイストス計画は電力関連の問題よ。部隊を動かすお題目も揃っている……メインの部隊は、今どこに?』

 

 それを効いた柳が口の端をつり上げる。通話の向こうからはそれは見えまい。それでも、その沈黙の意味を向こうは噛みしめているに違いない。

 

『……セントルシア、かしらね』

「職務規定上答えられません。ご容赦ください」

 

 柳はそう言ってから天井を仰いだ。おそらくこれでは向こうも黙ってはいまい。

 

「ですが、貴女の味方ではありたいと思っていますし、私も部外者じゃない。共有したい情報が一つ」

『何かしら?』

「カリビアン・エナジー・グループという会社名に聞き覚えは?」

 

 その問いにはすぐに答えが返ってきた。

 

『チヨダさんから聞いたわ。セントルシアで石油や鉱山資源採掘をしている企業よね。大日本技研と連係をもった』

「えぇ、金鵄友愛塾とのコネクションが疑われているその企業です。そこの抱えてる保険が少々厄介な事情をはらみ始めました」

『保険……?』

「文字通りの保険です。ロイド海上保険組合」

 

 ロイドと言えば、海運業界では知らないものはいない保険組合だ。船で運ばれる物や海上で使われるものに対しての保険を扱う組合だ。

 

「カリビアン・エナジー・グループの油田や鉱山が対象の火災保険がロイドで取り扱われました。その保険請負人(アンダーライター)として、カストリー公爵の名前があがっています」

『セントルシアの大統領?』

 

 ロイドにおける保険請負人(アンダーライター)は、無限責任を負う個人で構成される。それはすなわち、保険をかけた物が失われた場合、アンダーライターは全財産をかけてその損失の全てを補填することが求められるということである。文字通り服のボタン一つまでも売り払ってその責任を果たすことを求められるシビアなものだ。

 

『これが金鵄友愛塾と大統領の息子を繋ぐライン……かしらね』

 

 彼は真雪のその言葉で、彼女がカステルノー准男爵の晴風搭乗を知っていることを理解する。チヨダはしっかりと情報を共有してくれたらしい。

 

「しかし、もっと大きな問題はこれの仲介をしたブローカーです。ロイド保険組合の重鎮、“ミスターロイド”こと、ジョンストン・ケズヴィック、表向きは保険斡旋会社JLnT会長。……裏の顔は英国対外情報局のエージェントです」

 

 それを聞いた真雪は考え込むような間をあけた。

 

『……イギリスはセントルシアに連邦から離脱されると困る。ここでフランス側に立った形で離脱されては、連邦内の各国に独立の嵐が吹き荒れることになるわね』

「金鵄友愛塾にとってはそれが狙いかもしれません」

 

 柳は煙草を取り出そうとして、その手を止める。

 

「今回晴風を取り巻く環境は一筋縄ではいきません。完全に他国の領土問題をフィールドに動いている上、金鵄友愛塾のアクションはあくまで民間領域内で推移しています。現時点において、日本政府に止める手立てはありません。……ですが、晴風が動き出せば話が別です」

 

 それを聞いた宗谷真雪の態度が硬化するのがわかった。

 

『……言っておくけれど、晴風に危害を与えるなら私も容赦はしないわよ』

「もう晴風はアタリを引いてしまった。我々にできる手段はただ一つ、晴風を無理矢理にでも危険域から引き剥がすことです」

 

 そう言って柳は時計を見た、時刻は午前二時。

 

第一騎士(ケイローン)作戦の発動条件を満たしてしまった、第一の封印は解かれてしまったんです」

『その言い回しはヨハネの黙示録かしらね』

 

 真雪はその言葉の意味を正確に理解しているらしい。

 

「第二の封印は戦争を封じたものでした。そこから戦争を始める権利を与えられる第二騎士が生まれ落ちる前に、黙示録を打ち止めねばならないのです」

 

 柳はそう言ってから、小さく笑う。

 

「晴風は戦線に並んではならない。その前にご退場願うしかない。そのために総務省、そして『マル電』は私を必要とした。岬明乃の戦い方は、私が一番知っていますからね」

 

 ふざけた作戦だと、柳は自嘲する。そして自らに課せられた作戦の内容も、運命を呪うには十分すぎるものだった。

 

『柳君……貴方まさか……』

「真雪さん、チヨダとの連係を密にしてください。カウンターは誰かが放たねばならない」

 

 そう言って通話を切った。

 

 

 

「さぁ、岬明乃。海上安全整備局員たれ、君に英雄性は必要無い」

 

 

 

 柳はそう言って虚空を見つめつづけた。

 

 

 

「私だ。ケイローンは予定通り進める。まもなく予定位置に付くだろう。子ども達が兵器にされる前に、止めるぞ。我々の手でだ」

 

 

 

 




……努力の方向音痴ってこういうことを言うんだと思います。

ということでハーメルン様の特殊タグのオンパレードでした。ライン風な感じになったでしょうか。見にくかったらごめんなさい。スタンプの画像は勘弁してください。のせたらしんでしまいます

ということで小難しい話がずっと続きましたが、次回は少しわかりやすくなりそうです。どこかのタイミングで設定を軽く整理するつもりですので……しばしお待ちを……


そんなこんなでこれからも続きます。これからもよろしくお願いします。

(ライン風の部分、コピペ等では表示されないようです。テキスト保存などされている方はご注意ください。また、テキストに一部誤りがあったため訂正しました何卒ご了承くだい)
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