HIGH SCHOOL FLEET -His Order has Priority-   作:オーバードライヴ

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イツラコリウキの困惑

 

 

「やっほーつむぎ」

「あ、高橋さん。こんばんは」

 

 晴風の教室で見慣れた顔を見つけた『天津風』航洋艦長、高橋千華(ちか)は、声をかけつつその隣に腰掛けた。

 

「いきなりの全艦長呼び出しだけど……なんなのかしら」

「さぁ……」

 

 晴風から発光信号で艦長呼び出しがあったのがだいたい一時間前、艦隊は機関中立で足をとめた。今日は波も穏やかだが、どうも艦隊で問題発生らしい。

 

「はぁ、私の平穏が……」

「つむぎのとこに平穏はあんまりなさそうだけどね、晴風ほどじゃないけど、けっこう派手じゃない?」

「うぅ……それを言ったら天津風も似たような雰囲気ですし……」

 

 『時津風』航洋艦長、榊原つむぎは千華に言われ肩を落とす。

 

「高橋さんは意地悪です……」

「えー? そんなことないと思うけどなぁ」

 

 高い位置で二つに括った鳶色の髪を揺らした千華。つむぎはふくれ面だ。

 

「でも……」

「ん?」

「往き足を止めた晴天下とはいえ、夜間に緊急招集は本当に珍しいですよね」

「まぁこの夜じゃ衝突事故が怖いからしょうがないじゃない。晴風から迎えの短艇(カッター)を出してまでみんなを集めて艦長会議をするのはびっくりだけどさ」

 

 千華はそう言ってつむぎを見る。

 

「まぁ、どうせ昨日の夜の遭難者騒ぎでしょ」

「でも機関停止厳禁ってわざわざ伝えてきたのも気になりますし、中立のまま待機っていうのも……燃料も無限じゃないですし……」

「まぁ穏やかだけど外洋だし、機関立ち上げも楽じゃないからそのせいじゃない?」

 

 横須賀女子海洋学校の所属艦艇はいくら自動化されているとはいえ、旧式の艦が多い。蒸気タービン式の推進機構を積載した艦が多く、機関の立ち上げには、気穣、暖気暖管、試運転とステップを踏む必要がある。どれだけ急いで立ち上げても四時間はかかるのだ。

 岬明乃の晴風と千華の天津風だけは、航洋艦の新型機関実験缶として活用されたことから、高速航行用のガスタービンエンジンも搭載する蒸気/ガスタービン併用推進(COSAG)機関のため、7分程度でガスタービンを用いて動き出せるものの、低速での効率はすこぶる悪い。

 

「蒸気缶じゃなければ、機関止めて燃料節約とかできるんですけどねぇ……。それにブルーマーメイドの艦船、もう大和以外に蒸気缶を積んでるのって迎賓船の『橋立』ぐらいですよ」

「そんなこと言ったって海洋学校の予算が毎年カツカツなんだから仕方ないじゃない。東舞鶴(とうまい)が『あきづき型』を使えるのは納得いかないけど」

横須賀(うち)は毎年蒸気缶からディーゼルやガスタービンへの換装予算請求を出して却下され続けてるらしいですね……」

「ほんと意味わかんないわよ。ブルマーにも改インディペンデンス型がかなり配備された訳だし、そろそろブルマーのお古にありつけると思いたい。……で、なんの話だっけ?」 

「そんな蒸気缶に気をつかいながらここに集まってる理由です」

 

 つむぎが話題を戻す。

 

「やっぱりおかしいです。だって、普通なら最寄りの港に下ろして現地のブルーマーメイドに引き継いで終了だと思うんですけど」

「でも、昨日の遭難以外ないと思うけどなぁ。救命艇の出所が分かってないとは聞いてるし、口裏合わせじゃない?」

「そうだといいんですけど……」

「なに? つむぎ、気になることでもあるの?」

 

 不安げなつむぎをちらりと横目で見る千華。つむぎはキョロキョロと周りを見回してから、そっと千華に顔を寄せる。声が不用意に広がらないように手を口に添えて口を開く。

 

「晴風の右舷銃架台にエムツーが懸架されてるみたいなんです」

「……それ本当?」

 

 千華は耳を疑う。M2は十三ミリ機関銃の名称で配備されているブローニング12.7 mm M2重機関銃のことだ。つむぎは頷く。

 

「ラッタルを上る時にちょっとだけ見えただけだけど……たぶん」

 

 M2は自衛及び機雷除去に使用するために学徒艦隊各艦に配備されているものだが、普段は専用の保管庫(ガンロッカー)に保管されているはずだ。

 

「取り出すには教官が持っている鍵が必要なはずよね?」

 

 こくりと頷くつむぎ。

 

 M2重機関銃は訓練の際でも使用前に設置し、使用後に保管庫に戻す規定になっている。元々海洋学校所属艦には二十ミリ機関砲を常設していたのだが、RATtウィルス影響下の生徒が機関砲を操作し味方艦を誤射した事件を受け、平時は物理的に撤去できるM2重機関銃に換装された。砲雷科(だいいちぶんたい)が習熟訓練をしていたのは記憶に新しい。

 

「……なにかおかしいわね」

「たしかに嵐を避けるために予定より南に進路は取っていたので……商船航路からは外れていますけど……機雷原があるなんて話、聞いたことないので……驚いたんですけど」

「……あり得るのは、自衛のための緊急設置?」

「たぶん……緊急で艦長を集めたのも……」

 

 つむぎは周囲を見る。周囲もどこかそわそわした空気になっている。周囲に聞き耳を立ててもM2の話題などは出ていないということは気がついた人は少ないらしい。

 

「それに晴風のみんなもなんだか変です」

「どういうこと?」

「これまで晴風ってすごくほんわかしてたじゃないですか」

「そうね。あの艦長のユルさがでてたわね」

 

 その割にはスペックとんでもないけど、とは言わなかった。千華の気を知ってか知らずか、つむぎが頷く。

 

「そうなんですけど、なんだか今日乗ってみたら、なんだか緊張してるような……そんな空気がしませんか?」

「そう? まぁ、あの艦長のことだから少しぐらい緊張した方がブルーマーメイドらしくていいんじゃない?」

「ちょっと高橋さん……!」

 

 どこか焦ったようにそう言いながら目線で合図を送るつむぎだが、千華は気がつかない。

 

「いいじゃない、事実よ。それに代表生徒に抜擢ってことは、前回の期末試験で私だけじゃなくて()()宗谷ましろや()()知名もえかを差し置いて主席だったってことでしょ? ……負けたのは悔しいけど、ちゃんとそれなりの威厳は持って貰わないと」

「ふふっ、私には威厳はないもんね」

「まったくよ、少しはあなたも自覚が……って、ええぇ!?」

 

 真横にすっ飛んだ千華が机に腰をぶつけて撃沈。艦内教室の机は船の動揺に備え完全固定式である。どれだけ強く体当たりしようとも、体に机がめり込むだけだ。机に突っ伏して魂が漏れ出そうな雰囲気の千華に、代表生徒専用の開襟制服と制帽に身を包んだ岬明乃は苦笑いだ。

 

「えっと……大丈夫?」

「大丈夫に決まってるじゃない……というより、いつ来たの?」

「今さっき。艦長のユルさがどうこうのあたりかな」

 

 笑った明乃はそう言ってから一度ウィンク。

 

「あんた、思ったよりいい性格してるわね……」

「そう?」

 

 明乃は笑う。席を立つ。そのまま前に一歩出る。

 

「明乃さん、大丈――」

「つーちゃん」

 

 つむぎの声を遮って岬明乃が明るく声を出した。

 

「いきなりの呼び出しだったし、大変だったよね。ごめん」

「明乃さん……?」

「でも、許して。多分、これが()()()になるから」

「え?」

 

 そして明乃は正面の教壇に立つ。笑みを仕舞った。

 

「それでは、全艦長が揃ったので緊急艦長会議を始めます」

 

 教室がしんと静まった。

 

「本来なら司会や書記の選定を行うところですが、急を要するため、司会はこのまま私が、書記は晴風から納沙幸子書記に事前にお願いしています。知名艦隊付参謀は教官との打ち合わせのため欠席です」

 

 教室の最後尾で端末を広げていた納沙幸子がぺこりと一礼。天井に懸架されたプロジェクターが起動し、教室の電気が落とされた。

 

「おそらくみんな知っていると思うけど、晴風が今日の午前4時頃、救命艇で漂流中の民間人2名を保護しました。その情報の共有と、今後についての相談をしたくて集まってもらいました」

 

 明乃の後ろにある黒板に投影されているのは広域海図だ。バミューダ諸島からカリブ海の北側までを範囲に収めた地図であり、艦隊の位置が既にプロットされている。

 

「乗っていた民間人は母国の英連邦セントルシアから日本への亡命を希望、日本国はその検討のため、一時的に保護することを宣言しました。これにより、2名の民間人は検討の期間中、()()()()()()()()()()()()

 

 つむぎはそれに引っかかりを覚えた。『わが国』なんていい方、明乃さんらしくないじゃないか。

 

「英連邦セントルシアおよびイギリス本国は二名の引き渡しを要求していますが、日本はそれを拒否しました。これを受け横須賀女子海洋学校は本艦隊に対し、海上安全整備法第八十条に規定される《法執行艦艇としての臨時権限》の発動を指示、これより亡命希望者の保護を実施します」

「ちょっと待って」

 

 挙手をしつつ話に割り込んだのは千華だ。

 

「法執行艦艇としての臨時権限の発動ってことは……ブルーマーメイドとして民間人を守れってことよね」

 

 それに頷く明乃。

 

「うん、そうなるね」

「……つまり、イギリスのブルーマーメイド相手に銃を向け合えってこと?」

()()()()

 

 明乃はさらりとそういった。空気が凍り付く。

 

「直接ブルーマーメイドと撃ち合う事は無いとは思うけど……もう潜水艦が張り付いてるのと、外務省から謎の武装集団がバミューダ沖で集合して姿を消したって報告があった。……おそらく明日、その武装集団が襲撃に来る」

 

 プロジェクターが図を差し替えた。青い自艦隊の他に複数の赤い点が表示された。赤は敵性を示す色だ。

 

「明朝、艦隊は目的地を英国バミューダ諸島から米国マイアミへ変更し、転進します。それに前後する形で武装集団と接触した場合は、警告等を行い離れてもらいますが……最悪の場合、武力を持って排除することになります」

「……そのための、M2ですか」

 

 つむぎの小声に、明乃が困ったように笑った。

 

「そこまで危機的状況になるかはわからないけど、最悪の可能性も考えなきゃいけない。ブルーマーメイドとして、この海を守る。それが私達の艦に武装を積んでる意味だから」

 

 明乃はそう言って全体を見回した。

 

「みんなで切り抜けるために、みんなの力を貸して欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『真霜姉ぇ!』

 

 寝ぼけ眼で電話を受けたとたんに耳をつんざいたその声に、宗谷真霜は頭を抱えた。

 

「真冬……時差を考えてよ頼むから……それに態々衛星電話でかけてきてどうしたの。見たことない番号だからだれかと思ったじゃない」

『悪いがそれどころじゃない。しろから連絡がなかったか?』

「ましろから?」

 

 在ロンドン日本大使館にへばりつくように作られた宿舎で、真霜はゆっくり体を起こした。

 

「ないけど……どうしたの?」

『晴風がセントルシアの大統領の息子を保護したのは聞いてるか?』

 

 声のトーンがぐっと下がった。そのただならぬ様子に真霜は戸惑う。真冬は日本で広報の担当をしているはずで、真冬が慌てている理由がわからない。

 

「……簡単な報告だけは。なにかあったの?」

英国(そっち)の引き渡し要請に対抗したのか知らんが、学徒艦隊に八十条権限が適用された』

「……あぁ。最っ悪ね」

 

 一気に眠気が吹き飛んだ。こんなモーニングコールがあってたまるか。スリーブにしていたパソコンにパスコードを叩き込み、始動。外務省のシステムにログオンする。

 

「よりにもよってイギリス相手に八十条発動は予想外だったわ……。身内とはいえ、国土交通省もやってくれるわね」

 

 海上安全整備法第八十条に規定される法執行艦艇としての臨時権限は、()()()()()()()()()()()、指定された局員が乗船した一般艦船を海上安全整備局所属艦艇とみなし、警備行動を許可するというものだ。横須賀女子海洋学校の教官は予備役とはいえ、海上安全整備局員として即時召集が可能であり、直接教育艦は有事の際には、優先的に安全整備局の艦隊に組み込めるよう整備されている。

 

「筋は通せる。……でも通せるならやってもいいって問題じゃないでしょうこれ」

 

 外務省通達を確認する。確かに亡命希望者の引き渡し拒否通告が出ている。

 

「強行臨検に備えた……にしては過激よね。仮にも他国籍のブルーマーメイド候補生が乗る艦船にそうそう乗り込めるものじゃないわ」

『武力衝突になる危険性もある動き……か』

 

 そういう真冬の声には焦りが滲んでいる。

 

『武力衝突になったら、真霜姉ぇが駐在武官として関わることになるんじゃないのか?』

「おあつらえ向きに英国連邦カリブ方面担当武官として配置(アサイン)されたわ。……こうなると明日にはまた双胴高速艇に叩き込まれてバミューダ行きでしょうね。地獄の42ノット巡航よ」

『それで、どうなんだ』

「どうって?」

『八十条権限で晴風が発砲したとして、その後の保護はどうするんだ』

 

 そう言われ、逡巡。答えは火を見るより明らかだ。

 

「無理ね。ロイヤルブルーマーメイドと交戦になったら学徒艦隊は壊滅するわ。それまでの時間で賭けでもする?」

『冗談言ってる場合じゃないだろっ! しろやミケの命が掛かってるんだぞ!』

「叫ばないでよ。最低の冗談だってのはわかってるわ」

 

 くそっ、と悪態をつく電話の向こうにいる妹の声を聞きながら、真霜も必死に頭を回す。

 

「どっちにしてもまだロンドンにいる私は間に合わない。あまりに遠すぎて噴進魚雷にでも括り付けられないと追いつけないわ」

『でも……でもなんとかならないのか……?』

「イギリスもバカじゃない。学徒艦隊の乗員が未成年であることは知ってるはずよ。だから他の手段はどうであれ、直接対決は避けるはず。でも晴風や他の艦がブルーマーメイドに発砲したら取り返しがつかない」

 

 そんな可能性を考えたくもなかった。そうなれば一気に日英開戦の危険が生じる。そんなことになれば干上がるのは日本だ。

 

『さっさと投降してもらうしか手がねぇな』

「そしたら民間人保護の名目が立たない。あくまで晴風艦上は日本国の法律が行使できる状況においておかないといけない」

『そのための八十条権限かよ。念を入れすぎだろ』

「海上安全整備局員として教員を指定して法執行要員扱いする……RATtの時ほどじゃないけど強引よね」

 

 真霜はそう言いながら暗い部屋を見回す。パソコンの灯りだけが煌々と輝き、周囲を仄明るく照らしている。

 

「私の合流は間に合わないだろうけど、それでもなんとかするしかない。英国政府の動向は逐一外務省に報告するわ。正直個人で対応するレベルを大きく超えている」

『それはそうだけどよ……!』

 

 そう言っても真冬は気が気ではない様子だ。

 

「真冬、あの子達を支える私達が取り乱したら状況が悪化するだけよ。落ち着きなさい」

『……真霜姉ぇ、なんでそんなに落ち着いていられるんだよ』

「なんでだろう。……どうしても、あの子達が死ぬようには思えないのよ。彼女達には守護天使がついてる」

『守護天使……?』

「安心しなさい、私はあの子達の味方よ。そして守護天使も。動向は追って連絡するわ。対応に入るから一度切るわね」

『ちょ、真霜姉……』

 

 通話を一方的に切り、ため息をつく。

 

「……頼みますよ。柳2監」

 

 

 

 




スマートフォンアプリ『ハイスクール・フリート 艦隊バトルでピンチ』より、つむぎちゃんと千華ちゃんの登場でした。つーちゃん可愛いです。ストーリーの第二章で色々とんでもないものが出そうで(こちらの展開的にも)ドキドキです。

さて、次回からいよいよ戦闘と相成りそうです。気合い入れていきますが、投稿が遅れた際はご了承ください。

これからもどうぞよろしくお願いします。
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