HIGH SCHOOL FLEET -His Order has Priority-   作:オーバードライヴ

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ネーレーイスの居場所
テティスは降り立つ


 

 空砲が撃ち鳴らされた。それを聞いて、彼女は声を張る。

 

「礼砲用意! 五秒間隔、二一発!」

「ういっ! 五秒間隔、二一発。空砲装填確認。用意よし」

「礼砲、撃ち方はじめ!」

「うちーかたー、はじめっ!」

 

 艦砲が盛大に艦隊の来訪を告げる。それを艦橋で間近に聞きながら、情報管理を行なっていた納沙幸子が笑った。

 

「とりあえずはこれで入港ですね。やっとです」

「そうだね。でもここからが大変そうだよ」

 

 そう言って艦長はわずかに笑った。

 

「役職付は大変ですね」

「だったら代わってくれる?」

「無理です。とくにこのドイツだと代わろうにも代われませんよ」

 

 そう言われ、岬明乃は苦笑いを浮かべた。

 

「まぁ、うん。でも、楽しみではあるかな。ミーちゃんやテアちゃんにも会えるし」

「ですねー。直接会うのは……えっと、8か月ぶり?」

 

 幸子がそう言うと操舵輪を握っていた知床鈴航海長が頬を緩めた。

 

「もうそんなになるんだねー。テレビチャットでよく話してるからそんな感じしないけど」

「だが、実際楽しみだ」

「じゃぁ、早く入港しようかな、しろちゃん」

 

 そう呼びかけられ、艦長の隣に建つ副長、宗谷ましろが頬を緩めた。

 

「礼砲交換終了後、水先案内人の派遣を信号旗掲揚で依頼する。艦内への受け入れ準備。それに先立ち後続艦各艦へライトガンを用いてその旨を通告」

「了解、ヴィルヘルムスハーフェン港への入港用意を継続、水先案内人の受け入れ用意を開始します」

 

 復唱をしたのは甲板を取り仕切る砲雷科副長兼水雷科長の西崎芽依だ。

 

 

 明乃はゆっくりと空を見上げた。日本よりも色素が薄いような、そんな青空に見えた。

 

 

 

 晴風は遠洋航海訓練の日程の折り返し地点となる、ドイツ国ヴィルヘルムスハーフェン港へ入港した。

 

 

 

 

     †

 

 

 

 

「ドイツ国へようこそ、ヴィルヘルムスハーフェン海洋学校を代表し敬意を表する。代表生徒のテア・クロイツェルだ」

「日本国横須賀女子海洋学校学徒艦隊旗艦晴風 航洋艦長、岬明乃です」

 

 敬礼を交わす。明乃よりも小柄なその生徒は銀色の髪をなびかせ、笑った。そこにはどこか営業用とも見えるような軽薄さが見えた。

 

「長旅お疲れだろう。ひとまず、お茶でも飲まんか。旧交を暖めたがっている人間が約一名いる」

「是非に。こちらもそれでそわそわしているのが何人かいますから」

 

 明乃がそう答えると、テアは明乃を導くようにして歩き出す。目の前に広がるのは朱絨毯。少数ながら礼装の儀仗兵がついている。訓練艦隊を迎えるにしてはあまりに豪勢だ。

 

「堅苦しいのは気に食わん。さっさと抜けるぞ」

 

 儀仗兵に聞こえないように小声でそう言ったテアに目だけで頷いて明乃が続く。レンガ造りの建物に足を踏み入れる。つば付の黒い制帽を左手に抱えてロビーを眺める明乃。

 

「歴史ある建物だね……」

「ヴィルヘルムスハーフェン港はドイツ海軍直轄の主要港の一つだ。この建物は海洋学校の他に幼年学校を併設しており、一部講堂を共用している。ドイツの海の伝統に触れ、未来の海を支える子ども達を育てて……」

 

 英語で紡がれるテアの淀みない解説を聞きながら前に進んでいくと、向こうから制服姿の女の子が二人飛び出してくる。テアの方を見て慌てて廊下の端に飛び退き、敬礼。

 

「……いる訳だが、完璧ではないようだ。申し訳ない」

 

 テアがドイツ語に切り替えてそういったのは女の子達にも聞かせるためだろう。明乃は子ども達に頭を下げる答礼を返しつつ、ドイツ語で返事をした。

 

「いえ、気にしていませんよ」

「寛大なお言葉、感謝する。岬艦長(カピテーン・ミサキ)

「カピテーン・ミサキ!? って、()()カピテーン・ミサキですか!?」

 

 透き通る綺麗な金髪を揺らして女の子の一人がそう言ってテアの方を見る。テアは小さくため息。

 

「客人を前にして()()とはなんだ。こちらは来港中の『晴風』からいらした岬明乃航洋艦長だ。失礼のないように」

「わっ、わっ……! お目にかかれて光栄であります! ようこそヴィルヘルムスハーフェンへ! えとえと……」

「タッツェ! それより先に敬礼!」

 

 金髪の子が隣の子に肘鉄を食らって慌てて敬礼。

 

「し、失礼しました! 申し訳ありません」

「タッツェちゃんっていうんだ。いいよいいよ。驚いちゃったんだよね」

 

 軽く涙目になっている子の前でしゃがみ込み、明乃は笑う。

 

「気にしてないし、ほら涙目にならなくていいんだよ」

 

 そう言って明乃はその子の水平帽越しに頭を撫で、立つ。それを見たテアが口元に笑みを浮かべ声をかける。

 

「我が校の生徒が失礼した」

「いいんです。それに、子どもは元気が一番ですから」

 

 明乃の声に軽く吹き出したテアに明乃が首を傾げる。

 

「あなたもまだ子どもだろう?」

「フロイライン・クロイツェルに比べれば、そうですね。貴女の方が年上です」

 

 笑顔でそんな会話をしていると、横の子どもがどんどん青ざめてくる。

 

「? どうしましたか?」

「い、いえ! なんでもありません!」

「お気になさらず! 岬卿!」

「み、岬卿?」

 

 ひっくり返った声のドイツ語でそう叫び返され、明乃は目を白黒させる。

 

「あまりいじめてくれるな、岬艦長。男爵とはいえ、あなたは武功で名を上げたドイツの一代貴族であり騎士だ。緊張するのもやむを得ん」

 

 そう言われて明乃は分ったような分らないような気分になった。そんな大それたことをしたつもりはなかったのだが。

 

「その無自覚さがやっかいだな。この滞在で嫌というほど身にしみそうだが……」

「クロイツェル代表……! 岬卿の前でそれは不敬では……」

 

 少女が耳打ちをするように手で口元を軽く隠しながら、テアにそう言うと、テアはわざとらしく考え込むような表情をした。

 

「ふむ……確かにこちらは平民の出自で、ただの代表生徒。たしかに私は岬卿に武功でも、身分でも劣っている。確かに不敬でした。伏して謝罪申し上げる、岬卿」

「不敬とかそんなの気にしなくてかまいません。フロイライン・クロイツェルは前から友達でしたし、私自身もなんで男爵に叙されたのか未だにわかりませんし……というよりですね、私をからかっているでしょう?」

「当然」

 

 しれっとそう返してきたテアに明乃は頬を膨らませる。

 

「さ、岬卿。奥へと行こうか。立ち話もなんですから」

「むぅ……」

 

 否応無しにそう言われ、テアの後ろを付いていく。子ども達はずっと敬礼で二人を見送る二人に手を振ってからついていく。連れて行かれた応接室には豪華絢爛なシャンデリアが下がり、重そうなローテーブルといかにもなアンティーク調の重厚なソファが鎮座していた。

 

「ここまで来れば大丈夫」

 

 テアが日本語に切り替えてそう言い振り返る。

 

「……久しぶり、テアちゃん」

「うん。久しくしてる。歓迎式典は夜だからそれまでは気を抜いてて大丈夫。改めてようこそドイツへ、明乃。驚いた、ドイツ語上手になったんだね」

 

 テア・クロイツェルはそう言って右手を差し出した。明乃が右手を重ねれば、テアが笑みを浮かべてみせる。

 

「ココちゃんとミカンちゃんと一緒に勉強中。時々ミーちゃんとビデオチャットもするから教わってる」

「だから少し古風なのか」

「なにかおかしかった?」

「フロイラインは今時使わない。フラウで十分。友人に『御嬢様』とは言わないだろう」

 

 テアがそう言いながら明乃にソファを勧める。思ったよりも柔らかいソファに半ば沈むように腰掛けて、明乃はテアに返事をする。

 

「なるほど……覚えとくね。ミーちゃんは?」

「今は残りの晴風クルーを案内しているはずだ。大丈夫」

「えっと……なら私だけなんで……」

 

 明乃の前にコーヒーを置いて、テアもその向かいに腰を落しながら答える。

 

「艦隊旗艦艦長を務める我が国の貴族様にはどうしてもこちらのブルーマーメイドや海軍の貴族様に挨拶してもらわなければならない。今晩の歓迎立食パーティーには当校校長や、所属の学生艦各艦長のみならず、ヴィルヘルムスハーフェンを母港にする海軍からも何人か出席予定だ」

「そんな……」

 

 明乃はそう言われ顔を青ざめさせるが、テアは何も言わずにコーヒーにこれでもかと砂糖を投入してかき混ぜていた。

 

「ど、ドイツ語そこまでできないんだけど……」

「さっきはできていた」

「そりゃちっちゃい子相手に簡単な話ならできるけど! お堅い挨拶とか歓談とか絶対無理っ!」

「ご冗談を、フロイライン」

「さっきフロイラインは使わないって言ったよね!?」

「礼儀の正しい貴族様には御嬢様がお似合いでしょう」

「もー!」

 

 そう言って両腕をぶんぶんと振って抗議する明乃。テアは涼しい顔でコーヒーを啜る。砂糖が足りなかったのかさらに投入。明乃はそれを見て軽く驚くが、いったん無視。

 

「テアちゃんひどいよ……お久しぶりなのに……」

「なんだか明乃までミーナみたいになってきたな、お久しぶりとか言ったらシロが見たら嘆くんじゃ無いか」

 

 そう言われて首を傾げる明乃。テアは肩をすくめた。

 

「意味が分らないならそれでいい。『南の海のテティス』岬明乃がこんなに少女然としていると聞いたら、世の中の人々が驚くぞ」

「ティ……なに?」

 

 明乃が聞き慣れない単語に首を傾げる。

 

「テティス、ギリシャ神話の海の女神の名だ。タブロイド紙がシュペー奪還の時の晴風をそう称えたのがきっかけで、貴族になった明乃にさらっとその名前が移った」

「はぁ……」

「なんでもかんでも二つ名をつけたがるのはこちらの文化だ。諦めてくれ」

 

 そんなことを言われても……と言いたくなるのは間違っているだろうか。そんなことを考えているとテアの言葉にもう一つ引っかかりがあったのを思い出す。

 

「と、いうよりなんで私がそんなに驚かれるの?」

 

 南の海で起こったアドミラル・シュペーの救出作戦に参加したのは確かだが、それでなぜここまで驚かれるのかの検討が付かない。

 

「なんだ、自覚してなかったのか」

「自覚って……なにを?」

「明乃がもらった勲四等ドイツ功労騎士十字章は、『騎士』の名の通り、ドイツ鉄血騎士団に名を連ねることになる。最年少記録を大幅に下回る一五歳での叙勲だ。話題にもなる」

「だからなんでそこまですごいのもらえたのかわからないんだって……」

「本当に? 一五歳の少女が戦争を未然に防ぎ、死者ゼロでアドミラル・シュペーの暴走事件を解決したどころか、その後不当に拘束され拷問まがいの尋問を受けた後、休むことなくすぐに前線に舞い戻り、正規のブルーマーメイドが悪戦苦闘する相手を鎮圧したのに?」

 

 そう言われて明乃は反論しようとするが、全部事実で反論材料がない。何も知らずにそれを聞けば、どんな作り話だと突っ込みたくもなってしまうだろう。

 

「それに明乃の写真は非公開だった。正体不明のまま、騎士団入りし、男爵の爵位をもらった一五歳の異国の少女……好奇心を刺激されたタブロイド紙の『岬明乃は何者だ予想大会』はとても愉快だっだ」

 

 そう言ってどこかいたずらっ子の笑みを浮かべるテア。

 

「ジャパニメーション万歳だったぞ。日本刀を腰にひっさげた黒髪おかっぱの和服の美少女岬明乃とか、ダイナマイトボディを光らせて戦うビキニアーマー岬明乃とかとんでもないものもあった。こんど図書館にでも行ってみるといい。あることないこと玉石混交の面白いものが見れる」

「もういい……聞きたくない……」

 

 明乃がどこか疲れ切ったようにそう言って耳を塞ぐ。軽く笑いながらテアはコーヒーカップを置いた。

 

「なら、歓談はこれくらいにして」

「疲れたよもう……」

 

 明乃の声を無視してテアは部屋の奥の棚をゴソゴソと漁っている。

 

「さらっと今晩の用意をしておこうか。立食パーティーで飛び出しそうな質問とそれに対する回答に使いそうなドイツ語一覧を用意した。覚えてくれ」

「ひっ!?」

 

 目の前にコピー用紙の山が取り出され、青ざめる。明乃にとっての地獄が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 明乃がドイツ語の羅列に青ざめている頃、納沙幸子は全力疾走でお目当ての人物に飛びついていた。

 

「ミーちゃん!」

「ココ!」

 

 なんの危なげもなく彼女を受け止め、くるりと回ってみせたヴィルヘルミーナはにかりと笑った。

 

「達者だったか! ココ!」

「もちろんです! やっと戻って参りましたよー!」

 

 感動の抱擁が繰り広げられているのをどこか遠巻きに眺めているのは晴風のクルー達だ。

 

「あー、はっちゃっけちゃってココちゃん」

 

 西崎芽依がそう言って頭の後ろに手を回した。猫耳パーカーが異国の風に揺れる。その後ろでどこか眠そうにじっと見ていたのは砲術長立石志摩である。

 

「でも、たのしそう」

「まぁねー。あれで不愉快だったら逆に大問題だよ」

「久々だからしかたない」

「シロ、なんじゃそのどこかめんどくさそうな顔は。ほれ、お手」

「私は犬か」

 

 ましろが青筋を立てながらそう返せば、後ろのほうから控えめな笑い声。

 

「ヴィルヘルミーナさんって通話よりも直接会った方が愉快な方なんですね」

「おぉ、直接会うのは初めてじゃな! 思ったよりも背が高いな。改めてよろしく、アドミラル・シュペー副長のヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクじゃ」

 

 差し出された手をしっかりと握って、知名もえかはほほえみ返す。

 

「横須賀女子海洋学校学徒艦隊付作戦参謀、知名もえかです。ミケちゃんたちがお世話になってます」

「お世話になってるのはこちらの方じゃ。お昼休みのビデオチャットが楽しみでたまらん」

 

 そう言って満面の笑みで笑ってからヴィルヘルミーナはあたりを見回した。

 

「そういえばミカンたちが見えんようだが」

「伊良子さんたち主計科の面々ならまだ艦内ですよー。『どうしてもミーちゃん達に食べてもらいたい物があるんです』だそうで」

「おぉ、そうか……ってあなたはどちら様?」

 

 晴風のタラップから下りてきた大人の方を見てヴィルヘルミーナは首を傾げる。艦の人間で大人ということはおそらく教官かなにかだろうからとりあえず敬礼。ラッタルを下りてきた女性は鴉の羽のような黒いポニーテールを揺らしラフに答礼。

 

「どうも恐縮です。晴風乗務教導官 高峰青葉二等海上安全整備正です。以後お見知りおきを、フリーデブルク副長」

「ということは、お主が柳の後釜じゃな?」

「そういうことになりますねー」

「ミケの指示は大変じゃろう?」

「まぁ、いろんな意味で」

 

 青葉はそう言って肩をすくめる。灰色がちな目が細められ笑ったようだった。

 

「リーラー・タカミネ。この後は基地の簡単な旅行と宿舎への案内でいいんか?」

「お願いしますー。私は伊良子給養長達を待ってから追いかけますんで先に進んでてください」

「了解した。それでは残りの面々を連れて行こう」

 

 ヴィルヘルミーナが皆を連れて去って行くのを青葉は手を振りながら見送る。もえかと一瞬目が合った。それに微笑むことで答えてから、青葉は晴風へと戻る。

 

 濃いグレーの船体に臙脂色の識別線。艦番号Y467、陽炎型航洋直接教育艦『晴風』。海洋学校の生徒が直接操艦し、海上行動の基礎を叩き込むための練習船。

 

「それが実戦を経験し、英雄を乗せて世界を回るとは、どんな因果なんですかねぇ」

 

 青葉はそう嘯きながら上機嫌で艦内の通路を進む。目指すのは艦橋直下の教官執務室だ。

 

「……それで、こんな遠くまで出張させておいてなんでこのタイミングで呼集かけるんですか。せっかくの(おか)気分だったのにぃ、ひどい仕打ちですよ高峰分室長」

 

 部屋に入ったとたんに声が冷え切る。左耳に差したインカムに同じ名字の男と通話が飛び込んでいた。

 

『仕打ちと言うなよ青葉。状況が一筋縄でいかない事ぐらいわかりきったことだろう』

「それで、どうしてこのタイミングで連絡を入れてきたんです?」

『外務省の筋からの情報があってね。詳しくは禾生校長の方から連絡があるとは思うが、先にお前の耳に入れておきたい』

 

 通話の向こうはそう言ってきた。

 

「今後の航路に係わる事態ということですか?」

『正確には違う。直接影響が出るかどうかは分らないが、インフォメーションとして提供する』

「なんか鼻につく言い回しですね。私達は一蓮托生の同じ部隊の人間じゃないですか」

『そうだ。だからこうして話している』

 

 通話主はそう言って会話を進めた。青葉は聞く体勢に入って、次の言葉を待つ。

 

『セントルシアはわかるな?』

「カリブ海の英国連邦加盟国ですね。学徒艦隊は北アメリカ側を通過することになるので近寄らないと思いますが。そこでなにかありました?」

『クーデターが起こった』

 

 端的な答えに、青葉は吹き出しそうになった。

 

「日常茶飯事じゃないですか、このご時世。ニュースにならないだけでどこの地域も政変ばかりだ」

『不謹慎だぞ』

「これは失礼。でも、この航海において、障害になり得る可能性は比較的低いかと思いますが。確かセントルシアは軍隊を持っていなかったはずです。海洋戦力なんて小規模なブルーマーメイドがいるだけでしょう」

『だが、周辺列強が複雑すぎる。巻き込まれる可能性はゼロじゃない。だからこうしてインフォメーションを流している』

 

 心配性と切り捨てるのは容易い。だが、通話の向こうが言うことも間違いないのだ。だから、ため息に留める。

 

「要は『何があっても係わらせるな』と言うことですね」

『そうだ。そしてもう一点、セントルシアのエネルギー系商社カリビアン・エナジー・グループが日本側の取引先を万里小路重工から大日本技研に変えた』

 

 こっちが本命だ、と青葉は判断する。

 

「民間同士のやりとりですから口を挟めることではないとはいえ……このタイミングで乗り換えたと言うことは……」

『ほぼ間違いなく無く、ヘファイストス計画に賛同しての事だろう。大日本技研と言えば、金鵄友愛塾の息の掛かった企業だ。しばらくは様子見だとはいえ、日本も漁夫の利を狙ってODA増額等を狙う可能性もある。実際日本は対セントルシアODA支援額は世界トップだ』

「状況は分りました。とりあえずこちらでも情報を収集します」

『頼む』

 

 それだけで通話が切れた。青葉は一人ため息。

 

「あーあ、仕事が増えていく。しばらくミケちゃん関連はもえかちゃんに任せるとして、青葉はこちらを優先ですかねぇ」

 

 そんなことを言って青葉はデスクのPCを起動する。全てはこの航海に万全を期すために。

 

「さて、クソッタレな世界を飛び回る簡単なお仕事の始まり始まりっと」

 

 青葉の指が、キーを叩いた。




いよいよ始まりました、いきなり世界一周遠洋航海も折り返し突入の欧州編。いかがでしたでしょうか。

しばらくは動き的には穏やかな日々が続きそうです。前作では赤道祭ができなかったので、その分華やかにパーティーをしたい今日この頃です。


次回 造花の中に紛れる薔薇は
それでは次回もどうぞよろしくお願いします。
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