HIGH SCHOOL FLEET -His Order has Priority- 作:オーバードライヴ
「つ、疲れた……」
「お帰りなさい、ミケちゃん大丈夫?」
「だいじょばない……」
へろへろという擬音がぴったりな様子で、岬明乃が晴風に戻ってきたのは既に二三時をまわったタイミングだった。ずっと正装での行動を強いられていたこともあり、だいぶ振る舞いが板についてきた明乃だったが、大分参ってるようだった。黒の外套を腕にかけ、黒いトランクとなにやら長い箱を抱えてラッタルを上る彼女の姿を見て、舷側まで迎えに来た今日の当直担当士官の西崎芽依が苦笑いだ。
「ミカンちゃんたちがどら焼き焼いてたから、食堂にでも行こう?」
「どら焼きたべる……食べる……」
「だーめだこりゃ、死ぬほど疲れてる」
芽依がトランクを半ば奪うようにして持った芽依はそのまま明乃の背中を押していく。
「それでどうだったのベルリンは」
「すごい人だったし、列車に乗りっぱなしでおしりが痛いし、ドイツの王様に会うとか緊張しっぱなしだし……」
「こういう時の肝っ玉は小さいよね、うちの艦長は」
芽依に言いたい放題言われながら食堂まで連れてこられる。珍しく消灯されていないらしく、明かりがともっていた。
「はーい、艦長さんのお帰りだよっと」
おかえりなさーい、と言う声が響く。食堂兼教室兼休憩室となっている部屋に入るとそこではトランプに興じる当直組、砲雷科から水測員の万里小路楓、航海科から航海管制員の片割れの山下秀子、機関科から応急員の和住媛萌、主計科から給養員の杵崎あかねがいた。別のテーブルでは律儀にセーラー服を着ている艦隊付作戦参謀の知名もえかがひらひらと手を振って挨拶をした。
「よう、おじゃましとるぞ」
「あれ、ミーちゃんなんで?」
「なんじゃい。おったらいかんのか」
なぜか食堂でサンドイッチをつまんでいるヴィルヘルミーナが笑った。それにつられて明乃は笑う。
「艦長、ほっちゃん特製のどら焼きあるよー」
ばば抜きに興じながら、媛萌がそう言ってお皿を差し出した。黒の外套を椅子にかけてそれを受け取った明乃は手近な椅子に座ってそれを頬張る。
「はい百円―」
「有料っ? そんなー」
あかねの声に目をうるうるさせてみる明乃。それを見て冗談冗談と手を振って返すあかね。
「もー、作った人に許可とらずに商売しないでよ、あかね……あ、艦長おつかれー」
「今帰ったの? おつかれさまー」
「ほっちゃんにみかんちゃんもお疲れ様。……あれ? 当直だっけ?」
明乃が粒あんのどらやきをちびちびと食べながら首を傾げると、美甘が笑って首を横に振った。
「ほっちゃんが当直だけど、艦長疲れて帰ってくるだろうしなーって給養員全員でどらやき作ってました。ホテル組の人には内緒ね?」
いたずらっ子ぽく笑ったミカンちゃんに明乃も笑い返す。
「ベルリンは楽しかった?」
会話に割り込んできたのはもえかだ。
「自由時間がほとんど無くてあんまり見て回れなかったし、お偉いさんだらけで疲れちゃった。もう大変。貴族の仲間入りの証でサーベルもらったけどこれ日本に持って帰ったとき大丈夫かな……」
「その大きな箱、中身サーベルなの?」
いきなり目をきらきらさせて飛び込んでくるのは媛萌だ。カードぐらい片付けてよー、とあかねがぼやいているところを見るとどうやらばば抜きで最下位になったらしい。
「ヒメちゃんばば抜き終わったの?」
「みんなポーカーフェイス過ぎてつまんない」
「ヒメさんが顔に出すぎるのでしてー」
「万里小路さんこういうときだけ毒舌―」
媛萌が頬を膨らましてそう言うが、既に興味は明乃の持っている段ボールの中だ。
「ね、開けてみていい?」
「まぁ、いいけど……」
段ボールを明乃が開けると段ボールの中から革張りの細長いトランクのような物が出てくる。ドイツの国章入りのバックルを開けば、中から出てきたのは銀細工輝く細身の剣だった。
「すごー、ほんとにサーベルだ……初めて見た。と言うことはミケちゃん、アレやられたの? 肩に剣を乗せられて『ナイトに命ずる!』みないなやつ」
「い、一応……」
爵位授与式なんて心臓ばくばくで覚えてないけど、とは言わないでおく。目の前でハイテンションになっている媛萌にはとりあえず盛り上がっておいてもらおう。
「舞踏会とかもあったんでしょ?」
そう聞いてきたのは美甘だ。おいしい料理とか出たんだろうな、いいなーと言っているあたり、華より団子である。
「踊るので精一杯だったよ。ご飯もあんまり食べられないし、ドイツの人と踊るときはちょっと背伸びしないと身長差がひどくて、男の人も踊りづらそうだった」
「そ、そうなんだ……」
どこか顔を赤くする美甘。ほまれも似たような顔で視線をずらす。ずらした先にいたもえかがどことなく黒いオーラを出しているのを見て慌てて視線を戻した。この艦長、隣でこんなオーラ出されて気づかないのかと思わなくもない。
「爵位授与式に、騎士団加盟式、ドイツ国防省への表敬訪問……二泊三日でもタイトだったよ。日本人が珍しいのか、いろんな人がやってくるし、いろんなおじさんとかお兄さんからドイツに住む気は無いのかとか何度も聞かれたし」
「ほんとにお疲れ様だったね……ミケちゃん」
「? もかちゃん?」
がしっという擬音が似合う勢いで明乃の肩をつかむもえか
「帰ってくる場所は晴風だからね?」
「? うん」
謎の念押しに明乃が首を傾げる。どこか不安そうな顔でもえかは肩に回した手を解いた。
「これでとりあえずはミケちゃんの怒濤の式典ラッシュはおしまい?」
「うん、やっとこれで『女男爵』とか『新男爵』とか呼ばれなくてよくなる」
ホッとした顔でそう言った明乃。それにはもえかも嬉しそうだ。
「そうそう、なんか大きな旗もらったんだけど、これどこに仕舞おう。どこかの備品倉庫の一部借りとこうかなって思うんだけど」
明乃がそう言ってトランクを漁るとサーベルに引き続き革のケースがまた出てくる。何個ケースが増えるんだと言いたくなるが、今度はドイツ国章の他に見たことのない紋章がついていた。
「これって……?」
「なんだか、私の紋章なんだって、これと同じ物が大聖堂に奉納されてるし、家に帰って飾るといいって渡されたんだけど……」
そう言って広げられた旗は青地の旗だった。銀色の盾を海から飛び上がった姿勢の二匹のイルカが支える図案。銀の盾には錨や三つ叉の槍が描かれている。
「なんか……かっこいいね」
「ミケちゃんっぽい……」
「そ、そう……?」
感心しきりの媛萌や美甘の声にどこか困惑しながら明乃がもえかの方を見る。もえかは小さく頷いた。
「ミケらしいしっかりとした紋章をもらっとるの」
そう言って図案を後ろから覗き込んだのはヴィルヘルミーナだ。
「そうなの?」
「クラウンは七つの枝に真珠、ヘルメットは正面で鉄、盾を護るマントは波しぶきのように裂けた銀と青。これだけで戦闘に参加した経験のある男爵であることがわかる」
正面向きのヘルメットは貴族の特権じゃからの、と言ったヴィルヘルミーナに周りは感心しきりだ。
「サポーターにイルカを使うのはかなり珍しいが、ブルーマーメイド関係者に多い図案じゃ。盾の図表に錨や三つ叉の矛が入っているのは海の英雄らしい紋章じゃな」
「まぁ確かに艦長に海の要素なかったら、うん、違和感あるわ」
媛萌が腕を組んでそんなことを言って勝手に納得している。
「そういえばこれってなんて書いてあるの?」
美甘がそう言って紋章の一番下を指さした。長い帯のような物にアルファベットが刻まれている。
「ここにはモットーを刻むんじゃ、たいていフランス語なんじゃが、……これ、ラテン語か?」
ヴィルヘルミーナが顎に手を当てて悩む。どうやら彼女もラテン語までは網羅していないらしい。
「マーレ・エト・メイ・ファミリア」
「もかちゃん?」
もえかがさらりと読んでみせたので、明乃達の視線が集まる。
「『
「海と我が家族、か……」
「確かにミケちゃん何度も『海の仲間は家族だから!』って叫んでたよね」
美甘にそう言われて顔を赤くする明乃。それを見て皆が微笑む。
「たしかに
ヴィルヘルミーナはそう言って明乃の肩を叩いた。
「そろそろお暇しよう。テアに怒られそうじゃ」
そう言ってヴィルヘルミーナが出て行く。おやすみの挨拶を交わしてそれを見送ってからもえかが笑った。
「ヴィルヘルミーナさん、ミケちゃんがちゃんと帰ってくるか心配してたの」
「そうだったんだ、今度お礼言っておかないとなぁ……」
「そうした方がいいかもね」
「うん、そうする。そういえば、私がいない間、晴風は大丈夫だった?」
「大丈夫、マロンちゃんとかがホテルで暴走したけど大丈夫」
「なにがあったの……?」
その問いにはだれもが曖昧な笑みを浮かべていた。後で情報通のココちゃんにでも聞いてみようと決めた明乃だが、一瞬もえかの表情が曇った。
「あとこの後の行程に変更が一つ入るかもしれない。ミケちゃんこの後時間大丈夫?」
「うん」
明乃がそう言って立ち上がると、もえかが先導する形で部屋を出る。そのときに明乃が手を振ると、部屋の面々全員が手を振り返してくれた。
「危ない話?」
もえかが連れ出すときは、それなりの事情があるときだと明乃は知っていた。もえかは一般のクルーにもかなりの情報をオープンにしている。明乃をわざわざ連れ出した段階で『不確定な情報』を『内密に知らせないと対処ができない可能性を含む』ということはほぼ確定だ。
「高峰教官が呼んでる」
「わかった」
もえかの端的な説明に明乃は了解だけを返す。ここでは話せないと言うことらしい。そんなことを思っているとどこか胸の奥がちくりとする気がした。大親友とどこかビジネスライクなやりとりをしていることがさみしいのか。そんな考えを振り払う。そんな思いなど今はノイズだ。教官執務室に入れば、艦長としての対応を求められる。
「知名もえか、岬明乃両学生、入室します」
教官執務室の扉をもえかが叩けば、すぐに「どうぞー」と間の抜けた答えが返ってきた。
「もえかさんいらっしゃい。そしておかえりなさい、明乃さん」
「ただいま戻りました、高峰教官」
「だから青葉でいいって言ってるじゃないですかー、明乃さん」
鴉の羽のような黒い髪を揺らして高峰青葉が笑った。明乃は改めてこの部屋を見回して、入学当初からかなり様変わりしたと思う。前の持ち主はかなり整然と部屋を整えていたのに対し、今回の持ち主は資料を積み上げる癖があるらしい。大量の付箋がファイルからちらついていたり、棚のファイルも適当に差してあるだけに見えた。
「それで二人ともそろってきたって事はもえかさんから話は聞いてるわけですか?」
「いえ、話していません。私の主観が入ることを避けたいと思い、情報はクローズしてます」
「それぐらい話してもいいんですよ、もえかさん」
全部ここで話すのもめんどくさいですし、と言って青葉は肩をすくめた。
「まあいいでしょう、話は二つあります。めんどくさい話と、とてつもなくめんどくさい話がありますがどっちから聞きます?」
「どっちにしてもめんどくさいんですね。では重要度の高い方から」
明乃がそういえばケラケラと笑う青葉。
「いいですよ。それでは、とてつもなくめんどくさい方から。ドイツの出港の日程が変わりました。三日前倒しの明後日十二月十九日、ヒトマルマルマル時出港になりそうです。あわせてカリブ海方面での日英米独仏のブルーマーメイド養成校合同演習が中止になります」
「……それは英国側の要請ということですか」
そう明乃が返せば、青葉は口笛を吹いた。
「さすが岬男爵、もしくはルックナー中将あたりから聞きました?」
それには明乃は答えない。青葉も答えを求めていないらしく話を進める。
「正確にはイギリスとフランスが下りた形です。カリブ海の方の治安悪化が原因です。カリブ諸国に寄港する予定はないのでそこまで神経質になる必要はないのですがね」
「それで演習が中止されたのに、早く出港する理由はなんでしょう」
「本校の判断です。それ以上の質問が必要ですか? ……と言って棄却していいところですが、二人には話しておきましょう。セントルシアの情勢変化は知っていますね?」
「はい」
明乃は即答。あれだけニュースで騒いでいれば、嫌でも耳にする。
「イギリス連邦からの離脱を掲げたカストリー公爵率いる自由党のクーデターが成功し、暫定政府が成立しているわけですが……、日本国政府はこの政権の賞味期限を、二ヶ月程度とみています。そこで本艦隊は、その賞味期限が切れる前にカリブ海を抜け、パナマ運河を通過して太平洋に出たい」
「そのために急ぐというわけですか?」
明乃の質問に頷く青葉は人差し指をぴっと持ち上げて続ける。
「そうです。物わかりのいい生徒は大好きですよ。遅くなればおそらく、イギリス対フランスの泥沼の植民地の攻防に巻き込まれる」
「フランス……? イギリスはわかるんですが、なんでフランスが出てくるんです?」
「元々セントルシアはフランス語圏で、フランコフォニー国際機関にも所属する国です。昔からイギリス対フランスで領有権が争われていた地域で、今はイギリス連邦で落ち着いていただけに過ぎません」
「またそこで戦闘になる可能性があるんですか?」
明乃からその問いがくることを予測していたかのように、青葉教官は笑った。
「戦闘が起こるものと本国は考えています。関係ない国の戦闘に巻き込まれて疲弊するわけにはいきません。ですからさっさと抜けてしまいたいわけです」
青葉はそう言ってテーブルから手帳を取り上げ、ページを繰りながら続ける。
「艦隊代表生徒たる明乃さんの意見なら上に伝えてもぞんざいに扱われることもないでしょうし、どうします? この方針で大丈夫ですか?」
そう言われ、逡巡。
「南アメリカ大陸を南に大きく迂回する手は?」
「手段としてはアリですが、日程と補給の都合が今からではつきませんね。後続艦の補給まで考えれば補給艦の同行が必須です。間宮がいればいいんですが。今回は同行してませんから」
「陸での手配は……今からだと難しいですか」
その問いを発したのはもえかだ。それに首を横に振って答える青葉。
「というよりお金の問題です。お金さえあれば用意は容易い。だけれどもこの追加予算を横須賀に認めさせないとなりません。
「そして方針を決めなきゃいけない三日後までにそれは難しい、ですね?」
貧乏艦隊はいやですね、と明乃に同意する青葉。
「わかりました。変更を承諾し、日程を早めカリブ海方面に向かいます」
「ではその方針で本校には連絡を入れておきます」
「それで、もう一つのめんどくさい話というのは?」
明乃が話を振る。青葉は手帳のページに目を落した。
「ドイツ海軍幼年学校から打診がありました」
青葉の声に明乃はわずかに眉を顰めた。脳裏に浮かんだのはディートリンデ・ヴェラースホフ上級大将の言葉だった。――――海軍にはお気をつけなさい。あなたの艦隊を利用して良からぬことを企てている気配がある。
「打診というのは?」
「本艦隊に一人便乗させたいとのことです。来年四月期から横須賀海洋中等教育校へ配置される交換留学生です。文字通りの渡りに船であったこと、そして本人の強い希望により本艦隊への同行を希望するとのことでした」
「……本人の強い希望によりってことは、晴風配置希望でしょうね」
もえかが苦笑いでそう確認すれば青葉も笑った。
「聞くまでもないことでしょう。そして、クルーによるドイツ語でのコミュニケーション能力の意味から鑑みても晴風が一番適切……というよりは他の艦に押しつけられないっていうのが正直なところです。岬明乃艦長を筆頭に、宗谷ましろ副長、納沙幸子記録員、伊良子美甘給養長は日常会話程度のドイツ語能力を認めますし」
航海研修をさせてやってほしいと言われたのもありますし、という青葉の一言が明乃たちに追い打ちをかけた。研修を受けさせると言うことは、相手に実際に艦の運用に係わらせると言うことである。英語でのやりとりがメインにはなるだろうが、向こうの母語であるドイツ語での指示が必要になる場合もあろう。万が一の際の安全を考えれば晴風で預かるのが一番無難であるし、明乃はクルーの練度には自信を持っている。うまくやれるだろうという確信があるが、他の艦となると把握し切れていない。
「……断る理由はない、ですね」
明乃はそういって笑った。
「わかりました。晴風航洋艦長の権限をもって、その交換留学生の乗艦を許可します」
「
「彼女の部屋……ですよね……」
そこで肩を落すのはもえかだ。それにぽかんとした様子で首を傾げる明乃。
「現状、空きベッドに余裕がないんですよね。副長室の予備ベッドは私が占領してますし。医務室のベッドを占有させるわけにもいきませんし……」
「その子の専科は……っていっても、中学生じゃ決まってないですね」
「そういうことです」
もえかと青葉の会話を聞きながら明乃は首を傾げながらなんでもないかのようにいった。
「艦長室に泊めようよ。あそこなら予備のベッドぐらい入るし」
その提案にもえかと青葉の会話が止まる。
「……本気で言ってます?」
「ミケちゃん、よく考えよう? 艦長で代表生徒で、海に出たらまた激務だよ? 最低でも二ヶ月半は個室がなくなるよ?」
二人の心配をよそに、明乃はあっけらかんと笑って見せた。
「大丈夫大丈夫、人の気配があった方がよく寝られるし」
そう言われると言い返せなくなるもえか。RATt連続テロ事件の後から明乃は寝るときに誰かの部屋に押しかけることが増えたのは知っている。最近は減っていたようだが、それを切り札として出されると笑いたくても笑えない。
「まぁ、ミケちゃんがいいなら……いいけど……」
「ソファベッドみたいなやつになるので寝心地最悪でしょうが、致し方なしですか。セキュリティ上ヤバいのはとりあえず教官執務室に引き上げますから、そういう仕事が必要な時はここに来なさい」
「了解しました」
明乃はそういって敬礼。もえかもそれに遅れて敬礼の姿勢を取れば、青葉はラフにそれに答えた。
「話はこれで終わりですが……明乃さん」
「なんですか?」
「カリブ海は火薬庫です。そこに突っ込むことをこの艦隊は強いられる。賢明な判断を期待します」
「わかってます」
「なら結構です。こちらもあなたたちをサポートします。晴風に沈まれると私も困りますから」
その発言は教官としてのものなのか、それとも別の意図をもって言われたものなのか、明乃には判断がつかなかった。
「では、おやすみなさい。高峰教官」
「おやすみなさい、明乃さん。もえかさんもしっかり休んでくださいね」
「はい、失礼します」
二人は退出。扉を閉めると明乃はふにゃりと笑った。
「さて、歓迎会の用意かな。ミカンちゃんに張り切ってもらわないと」
「ミケちゃん……」
「いろいろ一筋縄ではいかないみたいだけど。晴風なら越えられる」
心配そうな顔をするもえかに向かって明乃はそう言い、笑みを消した。
「もかちゃんには話しておくね。ドイツの上級大将から海軍に気をつけるように言われたの。おそらくドイツ海軍は交換留学生の子と私を利用して晴風に首輪をはめようとしてくると思う」
「それが分ってたならなんで……」
「断る理由もないし、その子もきっと海が好きだと思うから。海の仲間は家族でしょ? だったら家族として迎えてあげなきゃ。ようこそ晴風へ! って言ってね」
そう言って、明乃は前を向いた。
「大丈夫、なんとかなる。なんとかなると信じてる。晴風のみんななら、なんとかできる。だから力を貸して、もかちゃん」
あぁ、またこの子は。ともえかは思う。
「――――わかった。一緒に頑張ろう、ミケちゃん」
そして、また私はこの子を止められないのだ。
「さぁ、日程が短くなったから明日にはクルーを呼び戻さなきゃ」
岬明乃は前に進む。その背中を守る、それが私の仕事だ。
「七つの海が晴風を待ってる、でしょ? ミケちゃん」
「うん!」
夜中の晴風に明乃の明るい声が響く。夜の海に小さく雪がちらつき始めた。
……いかがでしたでしょうか。
少しずつ事態が動き始めました。そろそろ晴風の出港ですね。
本当にどこまで強くなっていくのこの子達……。
次回 いざ荒波砕ける海原へ。
それでは次回もどうぞよろしくお願いします。