不条理なこの世界で   作:夕@ハーメルン

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偽『結』

 川にしか住めない魚と海でしか住めない魚がいる。

 その理由は水の種類が川と海ではまるっきり違うからだ。

 それぞれ身体の中の塩分を過ごしやすいように調節しながら生きているが、川と海では塩分の濃度が全くと言って良い程違う。

 本来と違う場所へと入れられたら身体の調整に支障をきたし、すぐに死んでしまうことだろう。

 要は身体の作りが違うのだ。

 そしてそれは人間も同じだ。

 わかりやすいように簡単に言おう。

 表に生きる者と裏に生きる者。

 前者は己の見ているモノが世界の全てと思っている者たちだ。

 平和に暮らしていても、貧しく暮らしていても、それが全てだという者たち。

 そして後者は世界が暗闇の中にあると確信している者たちだ。

 己が世界の裏側に立っていることを自覚しながらも、その深淵を知らない知りたくないと信じている者たち。

 そんな者たちを別の世界に混ぜたらどうなるか。

 表の者は裏の不条理に嘆き、裏の者は表の眩しさに己の身を焼く。

 どちらにせよ待っているのは破滅だ。

 そして人間は、周りの者まで巻き込んで破滅していく。

 それを自覚した時には既に遅く、抜けることのできない蜘蛛の巣にその身を捕らえられてしまっている――

 

 

 

 

「ん……」

 

 外が騒がしい。

 昨夜、結論を出して戻ってきたイサミは泥のように眠った。

 今日中にこの家を出ていく。

 それがイサミの出した結論だ。

 昨夜の死合いでイサミは自身が根っからの裏の人間だと自覚した。

 表に戻るには裏に浸かり過ぎたのだ。

 鳥がどんなに太陽に恋い焦がれても、太陽には届かない。

 それでもその翼を伸ばせば、たちまち燃え尽きてしまう。

 ここはお前の居場所じゃないと突きつけられるのだ。

 あれを失うくらいなら、自分は消えた方が良い

 だから大人しくイサミは去り、ナイトレイドへ行く。

 ただ最後にもう一度だけ彼女に会いたいと思うのは己の弱さか。

 何故か心に引っ掛かるあの笑顔。

 その理由を知りたくて――

 

「……?」

 

 何やら未だに外が騒がしい。

 窓を見ると外は寝る前と同じ雨だ。

 しかし何やら焦げ臭い。

 未だ寝惚けている頭で窓の傍へと行き、外を見る。

 

「なっ……!?」

 

 外の様子を見て、寝惚けていた頭が覚醒する。

 立ち昇る黒煙。雨の中でも消えることのない火の手。

 焦げ臭いのも当然だ、今この家が燃えているのだから。

 今まで気付かなかった自分を殴りたい。

 

「ッ――ミラ!」

 

 イサミはグローブだけを掴み取り、思い立ったように部屋を飛び出る。

 その瞬間、イサミの身体を尋常ならざる熱気が包み込んだ。

 

「ッ――!?」

 

 既に二階にまで上がってきている火の手。

 イサミは燃える向かいのドアを蹴破り、中へと入る。

 本来この部屋はぬいぐるみや可愛らしいもので彩られているミラの部屋だ。

 それも今や存在する物全てが燃えている。

 そしてこの場所にミラの姿はない。

 イサミが再び廊下へと飛び出し、その身一つで燃え盛る階段を飛び降りた。

 一階は二階の比ではない程の惨状だ。

 火の勢いが尋常ではなく、この場はさながら灼熱地獄。

 

「ごほっ、いるなら返事しろ! いないのか!」

 

 口元に手をやり大声を上げる。

 返事はない。

 当然だ、こんな場所に数分もいたら煙と熱気で倒れ、炭と化してしまうだろう。

 一瞬、そうなった姿が脳裏を掠めたがすぐさま振り切る。

 姿がない、ということはここにはいなかった可能性も高い。

 

「そもそも、今何時だ」

 

 イサミは今にも崩れ堕ちそうな階段を再び上がり、自室の時計をひったくる。

 

「くそっ寝過ぎだバカがっ!」

 

 見れば既に正午を越えている。

 この時間、本来なら全員店の方に行っているはずだ。

 この時間までイサミが無事だったことを考えれば、恐らく火が上がったのもそれほど前ではないはず。

 そうなると、午前中から店へと向かっているはずのミラたちはこの被害に遭っていないということだ。

 そう考えると少し安堵の息が漏れた。

 だが安心はできない。

 今すぐあの小料理屋へと向かわねばならない。

 既に火の手は部屋の中まで広がっている。

 もう一階から外に出ることは不可能だ。

 だとすれば、残る出口は一つ。

 昨晩と同じ場所だ。

 イサミは勢いよく窓へと飛び込んだ。

 ガラスが舞い、火の手によってガラスが眩く輝きを得る。

 外へと飛び出したイサミは地面へと着地を果たす。

 周囲には雨にもかかわらず、この火事の野次馬で人だかりができていた。

 

「おいアンタ……ここの家の――」

 

 そのうちの一人が心配そうにイサミへと声を掛けるが、それを無視して疾走する。

 小料理屋まで全力で走れば五分も掛からない。

 その間にイサミは先ほどまで眠っていた頭をフルに稼働させる。

 火の強さから考えて、火元は一階だ。

 しかしあの家に二階で寝ていたイサミ以外はいなかった。

 そうなれば一体何が原因なのか。

 まさかミラたちが火事になりそうなものを放置していったとはあまりにも考えにくい。

 そう考えると残るは放火の線だ。

 そして放火されそうな理由など、居候である自分以外に考え付かない。

 

「くそっ!」

 

 雨の中走るイサミに嫌な予感がよぎる。

 どれだ、何が原因だ。

 イサミは頭の中でこれまでのことを思い返す。

 店で皿洗いしていたのが見つかった?

 ――否、あれが原因なら昨日のうちに行動に出ているはずだ。

 ならレオーネがイサミを騙した?

 ――それも否だ。

 レオーネの瞳に嘘はなかった。

 彼女は間違いなくナイトレイドのメンバーでイサミを勧誘してくれていたのだろう。

 だとすれば深夜の殺害か。

 ――これだ。

 これしかない。

 恐らくはあの死合を何者かに見られていたのだ。

 そしてイサミ自身があの家に戻るところを見られてしまった。

 自分自身の事に精一杯で見られている可能性を全く考えてなかった。

 

「何やってんだ俺は……ッ!」

 

 自分おろかさをこれほどまで恨んだことはない。

 己で言っていた危惧を己で起こしてしまってどうする。

 あの時あの家に戻ってしまったのが悪かった。

 あと一度だけと縋ってしまったのがいけなかった。

 それがあの現状だ。

 全てはイサミが招いたことだ。

 だからどうか、どうかあの家族は無事でいてくれ。

 そう願い、イサミは店のある通りへと曲がり角を曲がり、

 

「――――――」

 

 声を失った。

 

 小さな店だった。

 それでも人の笑顔が溢れる場所だった。

 それが今や入口が壊れ、屋根も切り刻まれ、店自体が傾いている。

 店の前には力なく項垂れる二人の男女が黒服の男たちに運ばれていく。

 ミラの両親だ。

 その姿を見た瞬間、頭の中で何かが弾けた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 猛々しい咆哮を上げながらイサミは一人の男の頭を吹き飛ばした。

 鮮血を撒き散らせながら、飛び散った眼球を踏み砕く。

 いきなりの出来事に動揺する黒服たち。

 イサミはその姿を確認することもなく、両親を運ぼうとしている男たちへと疾走し――斬撃によって阻まれた。

 

「やっぱりきたね」

「黙れ殺すぞ」

 

 間に割って入ったのは十歳半ば程の黒いセーラー服の少女。

 腕に篭手、腰にも楯と刀。

 理解した、敵だ。

 それもとんでもなく強い。

 イサミは大きく後ろへ退いた。

 こちらに微笑み掛ける少女の顔は笑顔だが、逆にそれが怖い。

 彼女の存在を認識しただけで血が上った頭が一気に冷めていく。

 むやみやたらとツッコめば死ぬと、そう直感が告げている。

 そんなことを気にしないと言うばかりに少女はこちらに微笑み掛ける。

 

「昨日の夜、あっちの通りで殺してたでしょ?」

「――――ッ」

 

 やはり見られていた。

 それもこんな危険な奴に。

 普段ならこんなやつを相手にはしない。

 イサミとて分は弁えているつもりだ。

 勝ち目が殆どないことぐらいはわかる。

 けどこの向こうにはミラの両親がいる。

 恩人でもある彼らを見殺しになど出来ない。

 

「名前なんていうの?」

「……イサミ」

「イサミかぁ。イサミ、そこそこ強いよね」

「……アンタほどじゃねぇよ」

「あ、相手の力量がわかるほどなんだ。うん、やっぱりイサミは強いや」

 

 手を合わせ喜ぶ少女。

 何がそんなに面白いのか。

 イサミの心は現在進行形で急降下中だ。

 一体どうやってこの少女を突破して二人を助け――

 

 ……二人?

 

「おい、あの二人の娘はどこだ! どこにやった!」

 

 いない。

 ミラの姿がどこにもない。

 まさか、と考えがどんどん悪い方へと進んでいく。

 

「娘? そんなのいたんだ。私は見てないけどなぁ」

「見てない……? くそっ」

 

 首を傾げる少女の様子を見るに本当に知らないようだ。

 だとすると少女たちにミラのことを教えてしまった事になる。

 どこにいるのかわからないが、捕まっていないのならまだ大丈夫だ。

 イサミは右足を半歩下げ、半開きした両手を軽く前へと突き出す。

 雨音など既に聞こえない。

 それほどまでにイサミの神経は研ぎ澄まされている。

 

「あ、やるんだ。まぁこっちも初めからそのつもりなんだけど」

「……そういう場を作ったのはアンタだろ」

「そうだね。あぁコレクションに欲しくなる」

 

 イサミは前に飛び込むことはせず、横へと駆け抜けた。

 それを追う少女。

 走りながら鞘から抜き出された刀が斬撃のようにイサミへと飛ぶ。

 イサミは両手を抜刀に合わせるように突出し防ぐが、小さな少女のものとは思えない力に大きく跳ね飛ばされる。

 しかしイサミはその力を利用し、宙で反転。そのまま壁へと足をバネとし大きく跳躍する。

 その先にいるのは三人の黒服とミラの両親。

 飛び込むように突っ込んだイサミはその勢いのまま掌底を二人の黒服にぶち当てる。

 凄まじい音と共に風船のように頭を破裂させた二人を後目に残る一人に回し蹴りを放つ。

 流石に武術の心得があるらしく、しっかりと防がれてしまうがその身体を大きく吹き飛ばすことが出来た。

 その隙にイサミは二人を起こそうと頬を叩く。

 

「おい、起きてくれ! 頼む!」

 

 黒服はまだ幾人かいる。

 先程の感じからそこまでの手練れではない。

 帝具の力があればそれこそイサミだけでも全滅させることができる。

 しかし、黒い少女だけは違う。

 あの少女がいる限り、こちらの勝利は限りなく薄い。

 イサミ自身が二人を背負って逃げるとなるとすぐさま追いつかれ三人揃って斬られることになるだろう。

 だからここは二人に起きてもらって自ら逃げてもらうしかない。

 イサミは必死に呼び掛けるが、

 

「残念、時間切れ」

「くっ」

 

 再び肉迫してきた少女に大きく引き離されてしまう。

 次々と繰り出される斬撃の嵐。

 銀閃の軌跡はイサミの瞳では全てを追いきれず、瞬く間に傷だらけにされてしまう。

 それでも致命傷だけはなんとか防いでいる。

 

「へぇ、思ってたけどやっぱり防ぐのが苦手みたいだね」

「だから、どうしたァ!」

 

 隙をついて少女へ蹴りを放つがもう片方の手で持つ鞘で容易に防がれてしまう。

 そのまま流れるように掌底と蹴撃の連撃を少女へ放つがその全てを避けられ、防がれてしまう。

 

「これが防ぐってことだよ」

 

 まるでこちらに諭すように零す言葉にイサミは耳を傾けない。

 ミラの両親は起きる気配がない。

 ならばこの場でこの少女を殺すほか助かる道はない。

 ツギハギだらけの連撃を一息の間に繰り出し続ける。

 

「んーだいたい力は見れたかなぁ。だからぁほい」

「――ッ」

 

 掌底を放つその腕を掴まれ、地面へとその軌道をずらされる。

 そしてその先にはつい先程頭を吹き飛ばした黒服の死体があり、掌底が死んだ黒服へと穿たれる。

 勢いよく打たれた掌底により大地に大きな血染花が出来上がる。

 

「やっぱりその帝具も合わさった力は凄いね。やっぱりコレクションに欲しいや」

「生憎童女の玩具になる趣味はない」

 

 ぱちぱちと拍手し、完全に舐めきっている少女。

 イサミは素早く体勢を立て直し、再び構える。

 少女はまだ余裕だが、なんとかまだ戦えている。

 こちらの帝具は当たれば一撃破殺。

 ならばチャンスもいずれくる。

 そう心の中で言い聞かせ、気持ちを奮い立たせる。

 チャンスを作る為、再び攻めに転じようとするイサミだが、少女は何やら考え事をしている。

 それは絶対的好機。

 全ての胆力を脚力に込め、その掌底を少女へと向ける。

 そして少女は唐突に、自身に向けた言った。

 

「うん、もういいや」

 

 次の瞬間、何が起こったのかわからなかった。

 イサミは腕を突出し少女の命を断とうとしていた。

 なのに何故だ。

 少女の後ろにいるのは。

 なのに何故だ。

 自分の右腕がないのは(・・・・・・・・・・)

 

「――――――――――――――ッッ!?」

 

 身体に奔る激痛。

 今までに感じたことのないそれは容赦なくイサミに襲い掛かる。

 あげそうになった絶叫を歯を食いしばり耐える。

 血走った瞳で後ろへ振り向く。

 

「帝具ゲット、だね。ああまだ半分か」

 

 微笑みながらイサミの右腕を持つ黒い死神。

 この時初めて思い知った。

 愚かだった。

 何が分は弁えているつもりだ。

 何が勝ち目が殆どないだ。

 勝ち目なんて全くない(・・・・・・・・・・)

 今まで少女は本当に遊んでいただけだ。

 勝負にもなってない。

 ただのままごとだ。

 それを相手に勝負できていると勘違いしていた。

 この少女はあのレオーネと同等、いやそれ以上の強さを持つ死神だ。

 不可能だ。

 そう諦め、身体を倒すその瞬間、

 

「きゃあああああああああああああああ――」

「ん?」

 

 それはよく聞いた、一番聞きたかった声。

 顔を上げるとその先には恐怖に満ちたミラの姿があった。

 彼女の下に買い物袋があるところをみると、運よく買い出しに出ていたのだろう。

 その姿を見た刹那、イサミの瞳に別の姿が映った。

 すぐさま立ち上がったイサミは脱兎の如くミラを抱えて逃亡を計った。

 あまりに早すぎるその行動に唖然とした少女はその場で笑う。

 

「ははは――あぁ、今度は鬼ごっこ? 凄い頑張るね。でも、逃がさないよ。八房のコレクションにするんだから」

 

 少女もすぐさまイサミを追う為に疾走した。

 

 

 

 

 アツい。アツい。

 傷口から感じる痛みは既に麻痺している。

 今はただひたすらアツく、同時に肺が酸素を強く求めている。

 片腕がなくなり、方向感覚も定まらず、人ひとりを抱えながら走るのは至難の業だった。

 だが止まるわけにはいかない。

 止まれば皆お終いだ。

 イサミが壊してしまった一つの家族。

 父と母は捨てた。

 見殺しにした。

 だからせめてこの子だけは助けると限界を超えて走り続ける。

 

「離して! 離してよ! パパとママが!」

「ムリだ! 諦めろ!」

「いやあああああああ――!!」

 

 絶叫が雨の帝都に響く。

 どうせ零れる大量の血が居場所を教えているのだ、今更叫び声で居場所がばれても構わない。

 

「なんで!? なんでこんなことに!?」

「これが今の世界だ! お前が信じた神様のいる世界だ!」

 

 それはいつかミラが言った言葉。

 

 ――ちゃんと真面目に生きている人間から神様が幸せを運んでくれるのよ。

 

 嘘っぱちのありもしない世界だ。

 世界を創るのはいつの世もその時代に生きる人だ。

 どんなに信じたって、それが真実だ。

 

「覚悟はあったんだろ! だったら割り切れ!」

 

 いやいやと顔を腫らして泣き続けるミラ。

 信じられない信じたくない。

 いきなりの事で何がなんだかわからない。

 けど、こんな最悪の状況でわかってることは一つだけ。

 これはミラが――

 

「これがお前の選んだ選択だ!」

 

 そう言ったイサミは静かにミラを地面へ下ろす。

 可愛らしい服装は今や血と雨で台無しだ。

 だがそんなことは知ったことかとイサミは残った左腕に嵌ったグローブを口で抜き取り、そのままミラへと渡した。

 

「ここを真っ直ぐ進んで帝都を抜けてすぐに小さな森がある。そこにレオーネがいる。そのグローブを彼女に渡してくれ。そのままアンタもレオーネについて行け」

「え、イサミは? イサミはどうするの?」

「時間を稼ぐ。アンタらの家族をめちゃくちゃにした代償には足りないが、アンタが逃げ切る時間だけは死んでも稼いでやる」

「いや、いやだよ……一緒に逃げようよ」

「二人じゃ逃げれないからアンタだけを行かせるんだ」

「ムリだよ……私一人じゃムリだよ……」

 

 顔をしわくちゃにさせ懇願するミラ。

 だが決してイサミは頷かない。

 時間がない。

 いつまで経っても動かないままではすぐに追いつかれる。

 それじゃあ彼女を護れない。

 

「今度こそ、護らせてくれよぉ」

 

 それは在りし日の幻想へと向けた言葉。

 だがこの世は今を生きる者の為のものだ。

 

「生きてくれ――ミラ」

 

 イサミは泥だらけの顔でそう言った。

 こんな状況で、死にそうなのに、笑いながら。

 きっとだからだろう。

 ミラが立ち上がれたのは。

 

「イ、イサミもきっと後から来てくれるよね?」

「そいつは約束できない」

「イサミ!」

「早く行け! 死なれたら困るんだよ!」

「――ッ」

 

 怒号を皮切りにミラは走り出した。

 真っ直ぐ、イサミの言った場所へと。

 イサミは見えなくなっていく彼女から視線を外す。

 

「嗚呼、ようやくわかった」

 

 ミラに感じていた違和感の正体。

 

「似てるんだ」

 

 人の話を聞かないとこ。

 こっちの世話ばかり焼くところ。

 すぐに手が出るとこ。

 そのくせおっちょこちょいで。

 

「ああいう人だったな、姉さんも」

 

 だがあそこにいたのはミラだ。

 死んだ姉さんじゃない。

 だったら、

 

「ミラの為に、時間稼がないとなぁ」

「あれ? もう鬼ごっこは終わり?」

 

 残った素肌の左腕を構え、イサミは少女へと向かい合う。

 少女はクッキーを齧りながら、こちらを観察し、あることに気付く。

 

「あれ? もう片方の帝具は?」

「教えると思うか」

「いなくなってるあの子が持ってるの?」

「さぁな」

「ふーん、ならいらないや」

 

 次の瞬間には数多の鮮血と、四つの肉片が転がっていた。

 あっさりと、そこに初めから何もなかったように。

 

 

 

 

「あーあ、新しいコレクション欲しかったなぁ」

 

 少女はいじける様にそう言った。

 彼女の持つ刀の帝具、【死者行軍八房】は切り殺した者を呪いで操ることのできる帝具。骸の能力は生前のままとなるが、今目の前に転がる死体は力の大半である帝具が半分しかない。

 最大八つまで操ることができ、ちょうど今は一つの空きがあるからイサミが欲しかったのだが。

 

「全力出せないんじゃなぁ」

 

 あの程度なら探せばいくらでもいる。

 ならあれにこだわる理由なんてない。

 

「あ、そう言えば逃げた女……まぁいいか」

「おい、もう終わったのか」

 

 いつしか追い付いてきた黒服の男が話し掛けてくる。

 彼らは仲間だ。

 裏切っていない、姉とは違う仲間だ。

 

「うん、あの捕まえた二人は?」

「あのまま連れて行って、たぶん公開処刑じゃないか?」

「だろうねー」

 

 帝国を裏切ったのだ。

 仕方ない。

 バカな事をするからだ。

 少女はそう思いながら自前のお菓子袋からお菓子を取り出す。

 

「そろそろ戻るぞ、クロメ」

「うん」

 

 パクリとクッキーと口に咥え、クロメは踵を返す。

 地に落ちた肉片のことを思いだすことはもうなかった。





実はこの箇所の最後。
ミラが逃げ延びてますが、もう一つミラもクロメに殺された√というのも考えていました。
この場合はクロメの八房によってイサミが傀儡にされるパターンです。
これを書いてみるものありかなぁとは思いましたが脳内設定だけにとどめました。

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