地味に九州の防衛を任されていたクロヴィスは『重大な過失』とやらで本国に強制連行された。
しかし、それでもシャルルの怒りは収まらなかった。
口には出さないが、すぐにでもC.C.を見つけるために、急ぎ世界征服をするようにと命じた。
「ユフィ。私はEUに向かわねばならない。留守の間、ここエリア11を頼んだぞ」
コーネリアも戦地に向かうようにと指示されてしまった。
「はい。お姉様」
「他の者、ユフィをよろしく頼む」
「イエス、ユアハイネス」
返事はいいが、コーネリアはひどく心配だった。
テロ組織はほぼ壊滅させたとは言え、まだ怪しげな組織が、特に腐敗したブリタニア貴族達が多く残っている。
そんな荒波の中にこんなかわいい妹を残すのはとても危険だと思うのである。
しかし、命令なのだから仕方がない。
それに、いずれは総督になるのだから、こういう経験も必要だろうし。
「ごほっ、ごほっ」
と、しかしここで、憚らずに咳き込む音が聞こえてきた。
コーネリアは小さく舌打ちする。
「ジェレミア卿! お前が一番しっかりしていなければならないのだぞ!」
「イエス、ごほっ。ユアハイネス」
返事は弱々しい。この男は誤算だった。
ユーフェミアに恋しい人がいたことに気付きもせず、徹夜で探させても見つけることができず、あげく体調を崩してしまった。
これほど頼りないとは思わなかった。
コーネリアは強くジェレミアを睨んでから、興味が失せたように視線を逸らす。
するとジェレミアはさらに消沈してしまう。今夜も気分よく横になることはできないだろう。
反対に、これがチャンスだと意気込んでいる者もいた。
その代表がカレン、そしてスザクである。
総督がいなくなるのだから、当然副総督が代わりを務めるのである。
次期総督にアピールするチャンスであるし、その機会も与えられる。
ユーフェミアはコーネリアと違って特派が戦地に出ることを咎めないからだ。
とは言え、その戦う機会がほぼなくなったのだから、出番はなかなか訪れないが。
「咲世子さん、何かありませんか。特派が動くようなことが」
カレンは咲世子を頼った。
危険な情報を知っているとは思えなかったが、ちょっとした噂とかを聞いていて、それが実は腐敗した貴族につながっていたりしないかなと思ったのである。
「そういうことでしたら、ルルーシュ様に尋ねるのがよろしいと思います。貴族の方とチェスをなさっているようですから」
「なるほど。あいつですね」
一理あると思った。
学生と賭けチェスをするような貴族にまともな人間がいるとは思えない。
だから、あまり頼りになるとは思えないが、ダメ元で聞いてみることにした。
場所は特派の一室である。
ナナリーがロイドに診てもらっている間に、カレンがルルーシュに話しかける。
「そう言えば、何か知らない? 特派が動くような話を」
「特派が動くような話?」
「そう。私やスザクくんが動くような黒い話。その、できればブリタニア貴族のことがいいんだけど」
こう言っておかないと、日本のテロ組織の話をされるかもしれないと思ったからである。
「それは、もちろんあるが……。賭けチェスなんてしていると、いろいろと耳に入るからな」
これは真実であるが、実はネットで勝手に侵入して調べた情報の方が多かった。
それを口にする気はないが。
「本当! 教えてよ! 今がチャンスなのよ!」
「僕も聞きたいな。カレンさんの言ったように、コーネリア総督のいない今が動けるチャンスだから」
「うーん、そうだなあ。まあ教えてやってもいいか。ブリタニアとか日本とか関係なしに片付けておくべき問題だしな」
「ありがとうルルーシュ!」
「やけに自信ありげね。聞いた私がこんなことを言うのも失礼だけど」
スザクは身を乗り出すが、カレンは逆に一歩引いて腕組みする。
「面倒なら放っておけばいいさ。とりあえず、今一番深刻なのはリフレインだな。知っているか?」
「知らない」
「僕も」
スザクはそうだろうと思ったが、カレンまで知らないとは思わなかったので、ルルーシュは意外そうな顔になる。
「で、それが何なの?」
「麻薬さ。過去のよき日を見せる幻覚作用がある。これが日本人にバカ受けしているんだ」
「過去、か……」
「許せないわね」
スザクはどこか遠くを見るようになり、カレンは怒りを露わにする。
「で、その密売組織がどこにあるかは知っているわけ?」
カレンが眉をつり上げたまま尋ねる。
「だいたいの位置はな。本気を出せば今日中にも特定できると思う」
「よし。じゃあ早速つぶすわよ」
「そうだね。僕も早く対処するべきだと思う」
カレンは好戦的な笑みを浮かべて右拳を左の手のひらに打ちつける。
男子学生2人はその態度に苦笑しつつ、静かに闘志を燃やした。
無論、ルルーシュにとってもやつらは許せない存在だったのである。
特派にある能力の高いパソコンを手にしたルルーシュは、わずか1時間で密売組織の中枢を発見した。
この情報はロイドを通じてユーフェミアに届き、特派のナイトメアを発進させる許可も簡単に降りる。
ただし当然のことながら、ルルーシュはカレンとスザクの身を案じているし、彼等の才能がどれだけ飛びぬけているか、またランスロットがどれだけ優秀かを知らないから、2人だけで敵に立ち向かうことをよしとしなかった。
そのこともユーフェミアに伝えられて、過ぎるほど特別なことに、ジェレミアが貸し出された。
これは、最近調子の悪いジェレミアに息抜きをさせる意図もあったようである。
ともかく、これでエリア11の誇る3ランスロットがそろい踏みすることになったのである。
「アスプルンド卿! 一体何を考えているのか! 学生に新型のナイトメアを貸し与えるなど!」
が、その作戦会議にて、カレンとスザクを紹介されたジェレミアが憤った。
「いえいえ、彼等はデヴァイサーとして優秀ですからぁ」
「こんな時にふざけるな! これはユーフェミア副総督が総督代理として受理なされた最初の業務なんだぞ! 少しのミスも許されんのだぞ!」
ジェレミアが身を乗り出す。
「分かってますってぇ」
ロイドは相も変わらずへらへらと笑うだけだ。
「チッ」
ジェレミアは忌々しげに舌打ちする。
説得は早々に諦めることにした。彼がこうなのは分かっているからだ。
しかも今回は周到に手回しがなされていて、特にユーフェミアからの許可、というか命を承っていたから、人事を覆すのは難しそうだった。
「もういい。正面突破はこちらでやるから、彼等には残兵を任せよう」
「そんなぁ」
「作戦指揮は私が執るように命じられている。文句は言わせない」
「ええー。でも僕、厳密にはシュナイゼル殿下の管轄なんですよねぇ」
「だが、連帯が乱れれば双方にとってよいことがないだろう」
「まあ、それは分かっていますけどぉ」
ロイドはしぶしぶ食い下がった。
おそらくルルーシュは他にもネタを持っているから、そこで挽回すればいいと考えた。
いくら密売組織が巨大だとは言え、いくらナイトメアを持っているとは言え、いくらジェレミアの体調が悪いとは言え、第七世代機擁するジェレミア達に敵はいなかった。旧純血派の面々も十分に洗練されていた。
それに、裏に控える2機がやけに強くて、しかも知らない内にでしゃばってきたりして、少なくないダメージを受けさせられた。
よって密売組織は抵抗らしい抵抗もできずに壊滅した。
しかしその建物の中に薬物中毒者が大勢いて、しかもとあるパイロットの肉親までいたものだから、些末な事件として片付けることはできなかった。
特にパイロットはひどく憔悴したらしく、次の日の学校を休んでしまった。