コードギアス 戦わないルルーシュ   作:GGアライグマ

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arcadiaに一瞬載せた短編。本編とつながりはない。


【IF】マリアはルルーシュの母親だった女性だ

 ピンクの髪を後ろに束ねた女児が、ベッドの傍に突っ立っている。そこで眠るのは、黒髪を無造作に伸ばした女児。黒髪の女児の方が小さい。ピンクの女児は6つくらいの年齢。対して黒髪の女児は3つくらい。

 

「では、始めるか」

 

 ベッドを挟み、ピンクの女児の向こう側。高いところから男性の低く他を圧するような声。

 

「ええ、お願い」

 

 ピンクの女児はその風貌に似合わない大人びた態度で応える。不意に黒髪の女児に手を伸ばし、肩を揺すった。

 

「うっ……。あー、あー」

 

 黒髪の女児は目覚め、赤子が物をねだるように、ピンクの女児に手を伸ばす。

 ピンクの女児は黒髪の女児を無視し、ベッドの向こう側にいる巨漢を見上げる。

 2メートル近い壮年の巨漢。白髪はこれでもかと巻かれていて、中世ドイツ音楽家の肖像を思わせる。

 

 不意に、その巨漢のアメジストの瞳が、赤く輝いた。

 

「シャルル・ジ・ブリタニアが刻むぅ。マリアンヌよ。心臓の動かし方を忘れよ」

「うっ」

 

 巨漢がそれを口にした途端、ピンクの女児は胸を押さえて苦しみ始める。冷や汗を流しながら、しかし、黒髪の女児の両目をじっと見つめた。ピンクの女児の目は、壮年の巨漢と同じように赤かった。

 

 不意に、ピンクの女児が脱力し、ベッドに倒れ落ちる。

 巨漢は慌ててその両肩に手を伸ばし、支える。

 

「心臓の動かし方を思い出せ」

 

 時を置かず、もう一度命じる。

 ピンクの女児はビクンと反応すると、気を失ったようにうつむいた。

 

 壮年の巨漢はピンクの女児を軽々と持ち上げ、その胸を耳に当てる。そのままじっと固まり、5秒ほどするとふっと肩を下ろした。

 

「マリアンヌよ。どちらにいる?」

 

 壮年の巨漢が、落ち着いた声で尋ねる。

 反応したのは黒髪の女児だった。

 

「成功よ。あなた」

「ふむ。そうか。ふふふっ」

 

 壮年の巨漢はまるで似合わないおだやかな笑みを浮かべた。

 

 

 ブリタニア最強の12人の戦士、ナイトオブラウンズ。マリアンヌはその中でも飛び抜けて強かったらしい。女性でありながら、おそらく世界最強だった。

 その美貌は、平民の身で、爵位持ちの男性から両手で足りぬ数の誘いを受けたほど。結局、皇帝の寵愛を一身に受けるまで上り詰めた。

 そんな、強さと美しさを兼ね備えた超人。欲しがる愚か者がいてもおかしくはない。そんな愚か者の中に、クローンを作ってしまった者がいた。それがマリア。シャルルとマリアンヌはそういう設定を作った。実際は当の愚か者がその2人。

 そうして、マリアがアッシュフォード家に預けらるよう、2人で簡単な工作をし、その通りとなった。

 

 遺伝的な期待から、密かにだが、アッシュフォードはマリアを養子にした。が、本人の希望と警備費用節約のため、マリアはルルーシュ達と共に育てられることになった。どうしようもなくルルーシュと顔が似ているから、血縁関係を隠すのは不可能で、マリアはルルーシュ達のいとこ、という設定で通すことにした。年齢は、これも本人の希望でナナリーと同じ。実際は数年下だったろうが、マリアンヌが女性にして180センチを超える長身だったために、クラスで浮く程小さくは無かった。

 

 そうして数年が経過した。

 

「なー、なー、ちゃん!」

「ひゃいんっ」

 

 突然背中から衝撃。自分と同じ小さな胸が押し当てられ、兄と同じながらブリタニア人には珍しい黒髪が視界の左右になびく。

 

「あっ、だめっ。マリアさんっ」

 

 いつものことながら、華奢な手が、獣のように女の子のイケない所を撫で回す。

 隙を見て、兄が作った弁当のおかずを手に取り、口に放り込んだりもする。

 だんだん人が集まってくる。男子生徒が息を飲む声が聞こえる。女生徒は、「やめなさーい!」と仲がよく正義感の強い何人かが助けようとしてくれる。

 

「うふっ。うふっ。どこを撫でられて恥ずかしがってるのかな? ナナちゃんは。言ってくれないと分からないわよね?」

「アッ、アアンッ。うっ、うう……」

「ちょっとマリア! やり過ぎよ! いっつもいっつも!」

「こら男子! 見るな!」

「「「ブー! ブー!」」」

 

 ナナリーを覆い隠す女子達にブーイングが飛ぶ。

 

「アハハハハハ。分かった。分かったって。昼はこんくらいで許してあげるっ」

 

 マリアは女子達にウィンクをして、パッとナナリーから両手を離す。

 

「だけど」

「ふえ?」

 

 しかし不意に、ナナリーの両肩をつかむと、くるっと180度回転させた。

 

「あっ」

「待っ」

 

 と、女子達が静止を命じる間にも、ぶちゅり。ナナリーの唇が奪われる。

 

「ちゅっ、ちゅっ、むちゅっ」

 

 しっかり舌まで入れている。ナナリーは慌てて押しのけようとするが、感じてしまって力が入らない。「ぷはっ」。呼吸のためにやや離れると、とろりと2つの舌を結ぶ体液が見えた。すかさず、もう一度唇を覆う。

 

「うおぉー!」

「し、舌ァー!」

「さすがマリア様! 俺達にできないことを平然とやってのける!」

「ちょっ、ダメっ」

「キャー!」

 

 男子達から歓声が上がる。女子も何人かが赤面し、悲鳴を上げながら顔を両手で覆う。が、その指の隙間から見ていたりする。

 

 喧騒の中、しかし接吻は10秒もせず終わった。「ああ」。元気だった男子が急減に静かになっていく。

 そんな中、マリアはナナリーにウィンクして、人差し指をとろんと開いた唇に添えて、ねだるように円を描いた。

 

「ふふっ。今日は寝かせてあげないぞ?」

 

 そして、爆弾発言。唖然とする教室。マリアは「あっはっはっはっは」と豪快に笑いながら去って行く。

 うおぉーー。また男子達が盛り上がる。

 女子達は、マリアの背中と男子達を一睨みした後、気遣うようにナナリーに近づく。

 

「大丈夫? ナナリー」

 

 ナナリーは赤い顔で恥ずかしそうにうつむいている。

 

「はい。大丈夫です。ありがとうございます」

 

 ナナリーは口元を押さえながら顔を上げ、閉じた瞳で音を頼りに声のする方に感謝を述べていく。

 そうして、『悪がきに遊ばれた弱くて大人しい子』の絵ができたわけだが、実は手で覆っている口元はにやけていた。それに気付いたのは、メイドにして、周辺の筋肉の動きから表情を推測できるような、人体のスペシャリスト。いつも陰から少女を見守っている篠崎咲世子だけだった。


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