「こちら枢木スザクです。日本最後の首相枢木ゲンブの1人息子として、説得に当たらせていただきます。間違った手段で得た結果には何の意味もないので、おとなしく人質を解放し、投降していただきたいです」
ただただ絶望している中に、ホテルの外から日本語が聞こえてきた。
人質達は少しだけ安堵し、手を合わせて彼の成功を祈り始める。
しかし、ルルーシュとナナリーだけは頬をゆるめていた。
「スザクさんですよね」
「ふふっ、そうだね。しかし、相変わらずのバカだなあ」
こんな事態なのに、急に緊張感が解けていく。
大したものだと勝手に賞賛させてもらう。
「僕は話し合いを望みます。一度中に入れてください」
「証明できるものはあるのか? いや、そもそもあいつは裏切り者だ。お前の言葉に耳を貸すことはできない」
「分かりました。では、この身1つで参りましょう。もしや、武器も持っていない相手を遠くから撃ち殺したりはしませんよね。日本人の誇りがあるのならば」
「チッ。この痴れ者があ!」
解放戦線の指揮官が叫ぶ。
スザクはあくまで冷静に、しかし痴態を露わにしているのだろう。
「スザク、あいつもしや」
「危ないことになっていなければいいのですが」
その応酬に、ルルーシュもナナリーも途端に恐怖し始めた。
もしや、裸でここに乗り込むつもりではないだろうか、と。
「ルルーシュ、日本語は分かるの?」
ユーフェミアがのんきに尋ねる。
武装した男は指揮官と何やら連絡を取っており、今だけは会話しても怒られそうになかった。
「分かる。今、日本最後の首相の息子がテロリストの説得に当たっている」
「そう。それで、成功しそうなの?」
ルルーシュは何も答えない。
「そう」
ユーフェミアは視線を下げてそれだけつぶやいた。
「ところでルル、彼女は?」
シャーリーがユーフェミアを見ながら尋ねる。
ルルーシュは何も答えない。
シャーリーは首をひねり、眉をひそめる。
しかしその瞬間、真っ白な光があたりを包んだ。
「オオオルハイイイルブリタアアアアニアアアアアアアアアア!!!!!!」
よく分からないが、おそらくブリタニア軍が急襲をかけてきたのだろう。
そう理解したルルーシュは、すぐさまナナリーを抱き寄せて、己の身でその身を隠す。
咲世子は立ち上がり、隠し持っていたクナイを次々と投げ放つ。全て足音を頼りにしてである。
「ぐあっ」
「あううっ」
しかし、その全ては軍人の急所をとらえた。
室内にいる軍人全員が崩れ落ちる。
恐るべき能力、そして集中力である。
部屋の外では銃声が鳴り響く。
怒鳴り声、悲鳴も聞こえてくる。
ユーフェミアだけは、その声から、助けに来た軍人にジェレミア・ゴットバルトが含まれていることに気付くことができた。だからなんだという問題だが。
4人の少女はこの隙に、またルルーシュに抱きついていた。
リヴァルも隙ありとばかりにミレイに抱きついていた。いや、間違ってニーナに抱きついていた。
咲世子はクナイを回収していく。証拠は残さない。
しばらくすると、銃声が鳴りやんだ。
緊張の一瞬である。
果たしてどちらが勝ったのか。
「オールハイルブニタアアアニアアアアアア!!!!」
初めに聞こえてきたのはそれだった。
歓声が沸き起こる。
勝ったのはブリタニア側だ。
「ユフィ。俺達のことは秘密にしておいてくれ」
「えっルルーシュ、どうして?」
「俺達はもう戻れないんだよ。戻ったとしても、また戦地に送られるだけだから」
「それは、でも今度は、私達が守るから」
「悪いが、信用できない。一度見捨てられた身だから」
「そんな……」
ルルーシュはこの間にユーフェミアの説得を試みる。
うまくいくかどうかは五分五分と考えている。だから、覚悟を決めなくてはならない。
今日に比べればマシな覚悟だが。
「ユーフェミア様! ご無事ですか!」
ジェレミアが飛び込んできた。
彼はまず室内を見渡し、ユーフェミアを見つけると、くしゃりと表情を歪める。
「ううっ。ユーフェミア様、ご無事で何よりです。そして申し訳ありませんでした。私どもが情けないばっかりに」
「いえ、お気になさらずに。それよりも、まだ解放戦線のメンバーは残っているはずです。引き続き警護をお願いします」
「イエス、ユアハイネス」
キリリッ、とジェレミアは背筋を伸ばし、敬礼する。
それから急いで無線に手を伸ばし、部下に指示を出していく。
「ユーフェミア様、私について来てください。他の人質は前に4名、それ以外は後ろで頼む」
と、ここで女の軍人が出てきた。
人質は、ユーフェミアが何者かは分からないが、とても偉いらしいので、文句を言わずに後ろについた。
前の4人は緊急用の盾だろう。それは分かっているが、特に人選で揉めることはなかった。
ミレイ、シャーリー、リヴァル、ニーナと、年の近そうなのがちょうど4人いたからだ。
ルルーシュとナナリーと咲世子はいつの間にか遠くにいた。
しかし、その姿がジェレミアの目に止まる。
「ん? ちょっときみ」
「ジェレミア卿! こんな時に何をなさっているのですか!」
待ちたまえ、という言葉はユーフェミアによってかき消された。
「も、申し訳ありません」
ジェレミアは平謝りし、再び任務に集中する。
ユーフェミアは心の中でホッと一息ついた。
ルルーシュはそんなユーフェミアを見て、少しだけ信用してもいいかもしれないと思った。