コードギアス 戦わないルルーシュ   作:GGアライグマ

8 / 25
今回は恋に酔ったような文に挑戦してみました。


初恋は特別

 ユーフェミアは泣き止むどころか、幸せに満ちていた。

 ルルーシュの部屋で、ルルーシュに背中をさすってもらっているのだ。

 その手のひらが温かくて、息づかいがやさしくて、かつてアリエス宮で遊んでいたころの美しい思い出が、また、好きと憧れが合わさったような感情が、ふつふつと沸き上がってくる。

 

 それはルルーシュも同じだった。

 先日ミレイに搾られてしまったとは言え、まだまだ奥手である。

 自分の部屋に、血のつながった妹ではあるが、確実に愛し、また恋していた女性がいるのだ。

 そう考えると、それに、現在もふつうに美しいものだから、いや、以前より女性的な魅力にあふれているものだから、どうも緊張してしまう。

 

 それを知らないだろうユーフェミアは、スッと顔を反転させた。

 とても近い。あと少しで唇が重なってしまいそうだ。

 そう意識してしまうのは、先日ミレイに奪われたからだろうか。

 ユーフェミアの方は、どう思っているのか分からないが。

 

 そのユーフェミアは、やさしく目を細める。

 本当にあの時のままのような表情で、ルルーシュは思い出したようにドキリとしてしまう。

 

 いや、認めよう。

 自分は未だ、彼女に恋しているのだ。

 

 しかし、認めたからと言って、心に余裕が生まれるわけでもない。

 顔はすぐそこなのだ。

 いや、さらに近づいて来る!

 

「お、おい」

 

 心の準備が、と思ったが、キスではなかった。

 肩をつかまれたかと思うと、桃色のきれいな髪が視界を覆った。

 

 そのまま押し倒されてしまう。

 

 ふつうに力強かった。

 兄ながら、自分では敵わないと思えるほどに。

 

 ともかく倒れたので、胸やら顔やらが、自分の体に押し付けられてしまう。

 

 幼いクセに、ミレイのものよりも立派だと思われる。

 香水は真実最高級だろう。気品のあるものであり、やさしくて甘い香りが、桃色の魅力を引き立てる。

 

「しばらくはこうしていましょう。昔のように」

 

 耳触りのいい音が告げる。

 しかし、全く昔らしくない。

 確かに、かつても一緒に寝ていた。体をすり合わせたこともあった。

 しかし、感情が、あまり好ましくない類の情が、その量が、違い過ぎる。

 

「あっ。おっ、おいっ」

 

 だと言うのに、この豊満な妹ときたら、こちらの左足を両足で、肉付き豊かな足で挟んできて、それも絡めるようにして、くっ付いてきたのだ。

 これがイタズラのつもりなのだろうか。

 信じられない。本気で誘っているようにしか思えない。

 

 しかし、こんな場でなのか。

 思いつきだろう行動で、突然現れて、自分はそのことに怒っていたというのに、みんなが帰りを待っているというのに、始めてしまうのだろうか。

 

「ふふんっ」

 

 しかしユーフェミアは、気持ちよさそうな声を漏らした。

 見ても、一点の曇りもなく表情をゆるめている。

 つまり彼女は、現状でかなり満足しているということだ。

 

 ミレイのような行為ありきではない。

 

 そこから導き出される答えは、つまり。

 やはり彼女は、こんな心臓に悪い行動ですらも、スキンシップの1つだと言うのだろう。

 

「あ、ありえない。ありえない」

「うん? どうしたの?」

 

 やはりやわらかい笑顔だ。まったく少しも慌てていない。

 

「ふふっ、ふふふっ」

「ちょ、きつい。きついって」

 

 胸や下腹部を、さらに強く押し付けられてしまった。

 いつの間にか、ルルーシュの背には腕が回され、左太ももの辺りも両足でがっしりとはさまれていた。

 もうどうしようもない。この興奮には逃げ場がない。

 ならば、ぶつけるしかない。

 

「ふふっ、離さない。ずっとこのままでいましょうよ」

「くっ、くくくっ。ユフィ、だったら俺からもお返しだ」

「う、うん」

 

 あふれる力の全てを込めて、妹の体を抱きしめる。

 最高のしなやかさだ。やわらかく、しかし弾力がある。

 この匂いもおいしい。

 稀にぶつかるほほ、唇の肌触りもやさしく、心地いい。

 

 ずっとこのままでいたい。

 

 妹はそう言ったが、自分はどうなのだろう。

 ナナリーのことを考えると、認められない感情だ。

 だが、頭から否定することができないのは、なぜなのだろうか。

 

「ふふっ、お返しよ」

 

 と、ユーフェミアの腕にも力がこもる。

 やわらかい肉が押し付けられる。

 

「うっ、あぐうっ」

 

 強い、とても強い。

 ありがたくはあるが、さすがに苦しい。

 

「ちょっ、ギブ。ギブだユフィ」

「ふふっ。分かった」

 

 本当にすんなりゆるめてくれた。

 しかし、笑顔は先ほどよりも深くなっている。

 また何かやらかしそうだ。

 

 顔が近づいてくる。

 今度こそ、今度こそなのか。

 

「あっ」

 

 声が漏れたのは、唇ではなく眉の上だったからだ。

 しかしその声に反応して、ユーフェミアは唇を遠ざけてしまう。

 

「ごめんなさい」

 

 しかも、急に冷めてしまった。

 場の空気も、驚くほど唐突に、味気なくなってしまった。

 先ほどの甘さはなんだったのだろうか。理性を経ずに苛立ってしまう。

 

「そういうわけじゃない」

 

 不意に、そうつぶやいてしまっていた。

 もっと甘さに酔っていたかったから。もっと彼女を味わっていたかったから。

 

「そうなの?」

 

 彼女は首を傾げる。

 しかし、尋ねたっきりで、こちらに倒れてきてくれない。

 もう少し進むだけで、触れられるのに。

 

 しかし、ルルーシュも動けなかった。

 時間だけが過ぎていく。触れていない時間だ。

 そのもったいなさに後悔しつつ、しかし、なぜか動けなかった。

 いや、これ以上進めば本当に抑えが利かなくなってしまう。それを恐れて動けないのだろう。

 しかし、それに気付くとほぼ同時に、ユーフェミアは立ち上がってしまった。

 

 続きがしたい。

 

 これは男としての感情、そして後悔だ。

 確かなそれが、ルルーシュの心に刻まれた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。