穂波が四葉本邸で真夜達と会食して達也の存在と真夜達の計画を知ってから一週間後、正式に退職の話が纏まった。急な退職話にも係わらず上から許可が出る。実は、裏で真夜が上層部にコネクションを使って圧力を掛けていた。
英作は名古屋で義弟の黒羽重蔵と会っていた。目的は達也のお披露目会で真夜達と分家が内乱にならぬよう手を打つ為。
重蔵は婿養子として四葉に嫁ぎ、英作の妹、四葉
「お待たせしました、先代様。急に会って話したいとは珍しいですな」
「まぁ、隠居した身になるとこうでもしないと、新年の慶春会ぐらいしか顔を見て話す事もなかろうて...」
「確かに先代様にお考えがあったとはいえ、急遽、真夜殿に当主を譲ってからは、中々お会いする機会も無いですな...しかし、やはり四葉の為を思えば真夜殿には男性不審を克服してもらい、七草家に嫁いで頂いたほうが宜しかったと今でも思っております。深夜殿もおりましたのに七草弘一からの話を再三蹴って、何故、真夜殿に当主を任せられたのですか?」
重蔵達、分家の者には真夜が誘拐事件以来、男性不審になり、拒絶反応を見せると話している。その為、真の理由、英作と真夜が長年、達也の父親を探していた為だと重蔵は知らないのだから疑問に思うのも無理はない。十師族の四葉にとっては、本来、その程度の理由では一族の賛同は得られなかったのだ。それを英作が兄の元蔵から意向を引き継ぎ、半ば無理矢理、分家の者達を黙らせた。
「お主達、分家の皆が納得したとは儂も思ってなどおらん。...儂は先代の元蔵兄上の意向と真夜の気持ちを汲んでそう決めたのじゃ」
「初代当主様の意向?それは本当なのですか」
「ふむ、元蔵兄上が亡くなる間際に遺言として真相を聞かされた。そして真夜と奴の力になってやれと...」
「奴とは?どのような遺言だったか聞いても宜しいか?」
重蔵が聞こうとするが、英作は首を左右に振る。
「それについても、次の日曜日に真夜から話があるだろう。長年秘密にしてきたが、もう分家の者達に隠しきれない所まで来ておる」
釈然としない回答を聞いた重蔵は、じゃあ何故先立って呼ばれたのか分からなかった。すると栄作は切羽詰まった表情で...
「今日、呼んだ理由は真夜が皆に真相を話す前に、お主には言っておきたい事があったからじゃ。...真夜からどんな話をされようが決して反対するでないぞ。場合によっては四葉内で死人が出る。今の真夜は何を仕出かすか本当に分からんからのう...」
英作のただならぬ言葉と表情に重蔵は思わず身構えた。いきなり呼ばれ、真相も話してもらえず、先代当主の英作ですらも切羽詰まった様子から、自分達にとって良くない事だと直感した。英作を切羽詰まらせる程の事を真夜は企んでいると悟った重蔵は、もしもの為に戦闘の準備を進めておこうと心の中で決める。
「良いか...くれぐれも余計な事を考えるでないぞ?」
「了解しました」
しかし英作の思惑と違って、最も厄介な者に備える口実を与えてしまう事になってしまう。
英作との会談を終えて帰宅した重蔵は、すぐに息子の貢に電話を掛けた。当日は、分家の当主とその家族、皆が本邸に来るよう通達が真夜から出されている。英作から聞かされた話を貢に聞かせ、当日に何があっても良いよう準備するよう言い聞かせる。いきなりの本家への反逆とも言われかれない指示に貢は戸惑っていた。貢にとって真夜達、双子は従姉であり、長年憧れた存在でもある。あの忌まわしい事件の後からは、すっかり印象も変わり何かに執着しているような印象に変わったとはいえ、それでも貢にとって真夜達は憧れの存在であり、畏怖の対称でもある。そんな相手との戦闘も覚悟せよという黒羽家の当主にして父の重蔵からの命は貢を混乱させるには十分だ。
「しかし、父上ーー」
反論しようとした貢の言葉を遮って重蔵が口を開こうとする。
「これは黒羽家としての決定だ!逆らう事は許さん」
「しかし、それでは反逆の意思を持っていると言っているようなものです。父上は内乱でも起こすつもりですか」
「そうではない。しかし先代当主様が、あれだけ切羽詰まった様子なのだ。何もなく済むはずがない。用心しろと言っている、お前も嫁は守りたいじゃろうが。それに真夜も、姉の深夜もいい歳じゃ、それなのに未だに相手を見つける気すらない。四葉の将来の為には他の十師族に嫁いで地位を磐石にするか、婿を取って優秀な子を産んで貰わなければ困るのじゃ...これは他の分家の者達も思っている事じゃ。これ以上あの二人に好き勝手されては将来、四葉は廃れるかもしれん。それだけは避けねばならん」
重蔵の鬼気迫る熱弁に貢は決心がつかないが、一応納得する事にした。
真夜から指示されている準備が整った葉山は真夜の書斎で報告をしていた。部下の報告で英作が重蔵に接触した事も真夜に知らせる。と、真夜は直ぐさま英作の所に向かう。
「失礼します。英作伯父様、聞きたい事がありますのでお時間を頂けますか?」
真夜は目が笑っていない笑顔を英作に向け、本邸とは別にある英作の屋敷に乗り込んできた。
「うむ、よかろう。それで何用か?」
英作が真夜に問うと、同時に部屋が闇が襲い、頭上には夜空のように光の粒が輝いている。
真夜の魔法
「それでは英作伯父さん、この間の重蔵伯父さんとの会談について説明を求めます」
真夜の顔は嘘を付いたら即、魔法を英作に向けて打つと物語っている。英作は覚悟を決めて口を開いた。
「随分と物騒じゃな...今のお主では仕方ないか。...簡潔に言えば重蔵には詳細は話してはおらん。当日にお主から分家の者達に真相を話すから、何があっても反対するなと釘を刺したのじゃ」
「それが本当だとしても余計な警戒をさせて、攻撃の準備をする時間と口実を与えたに過ぎない思いますが?」
「...儂はそうは思わん。それに重蔵はあの者を最も警戒してる一人じゃ、急に達也の存在を知らされたら、その場で咄嗟に強硬な策に出ないとも限らん。それを阻止する為に、どのような話をされても反対するなと釘を刺したのじゃ...それでも行動を起こすならそれは儂が責任を持って阻止しよう」
「分かりました。しかし、あれほど戒厳令を出したのに行動してしまうとは...英作伯父さんは私の覚悟を甘く見過ぎではなくて?」
そう言うと真夜の目は一層厳しくなった。
「お主の覚悟を甘く見たつもりなどないわ。寧ろ、その逆で、今のお主では同族の者達を一掃するとさえ思ったから、最も懸念の重蔵には覚悟させる時間が必要だったのじゃ」
英作は息を飲んで答える。
「しかし、どのような考えを持っていたにせよ、私の言い付けを破った事には変わりません。このまま処断しても良いですが、英作伯父さんには当日、反逆した際に重蔵伯父さんの相手して貰う事で良しとします。ですが、英作伯父さんには地下牢で当日まで過ごして頂きます。これ以上余計な事をされても迷惑ですから」
真夜が非情な宣告をすると、英作は顔を真っ赤にして怒った。
しかし、
そして、遂に達也のお披露目会の日を迎えた。穂波も前日から本邸に来て、最終確認をした後、真夜達と会食してこの日を迎えた。時間が迫って来ると続々と分家の者達が屋敷にやって来た。各分家の当主だけが広間に通され家族達は別の一室に一集めに案内された。英作の話を聞いていた重蔵は配下の者を連れて来ており、もしもの為に屋敷を取り囲むように配置していた。当主達が広間で待っていると真夜と深夜が広間に入って来た。分家の当主達は一同に頭を下げ、真夜が上座に着いた。姉の深夜は定位置の一番近くの席に着く。分家の当主達は十日前に突然、案内状が届いてこの日集められた。このような事は【異例中の異例】で、分家達は何処か緊張した様子。しかしその中でただ一人、英作から
「御当主様、集められた理由をお聞きする前に、先代当主の英作様の姿が見えませんがどういう訳ですかな?」
重蔵が英作がこの場にいない事を不審に思い口を開く。すると真夜は分家の当主達にとって信じられない事を口にする。
「挨拶の前にとは随分せっかちですね、重蔵伯父様。...まぁ、いいでしょう。お話します。
英作伯父様は先日、重蔵伯父様と今日の事について会談をされました。しかし、私は今日を迎えるまで内密にしておくように戒厳令を出しておりましたの。重要な話はしてないようですが、英作伯父様が戒厳令を破ったのは事実です。その場で処断しようかと迷いましたが、それを止め今は地下牢に幽閉しています」
真夜の口から出た衝撃的な言葉の数々に分家の当主達は怒り狂った。
「どういう事だ!先代様に対してそのような無礼許されまいぞ」
真っ先に口を出したのは英作の息子で【椎葉家当主】、【椎葉英嗣】。
「いい加減にせんか!真夜、今すぐ先代様を解放しなさい」
椎葉家当主に続いて端を発したのは黒羽重蔵、その意見に同調する新発田家当主の新発田理。
そして、真夜の返答を待たず声を発したのが津久葉家当主の津久葉彩歌。
「そうですよ。先代様は貴女にとって伯父というだけではなく、あの事件で救出に参加した恩人でもあるのですよ」
「それは出来ません。今は私が四葉家当主であり、今回は私の覚悟を甘く見た英作伯父様は迂闊だったと言わざるを得ません。今日の為に、私は準備して命懸けでこの場を設けています。それを邪魔する者は誰であろうと容赦はしません」
真夜は今にも誰かを殺しそうな表情で分家の当主達に言い放った。それを聞いた者達はさっきまでの怒りをしまい一様に口を紡ぐ。真夜の覚悟した表情は一瞬にしてその場に静寂をもたらす。
「それでは本日お集まり頂いた件をお話します。その前に、まずは姉の四葉深夜より報告があります」
報告?この異様な空間でも眉一つ動かさず、無言だった深夜からの報告に一同は面を食らった。英作の処遇など大した事ではないと言わんばかりに深夜が口を開いた。
「では私から二つ報告させて頂きます。入ってらっしゃい」
深夜がそう言うと、広間に穂波が一礼してから入って来た。そのまま深夜の側に腰掛けると、
「紹介します。この度正式に
深夜のいきなりの報告に一同が呆気に取られた。刺すような視線を浴びながら、穂波は物怖じせずに口を開いた。
「只今、四葉深夜様からご紹介に預かりました、旧姓桜井穂波と申します」
穂波は三つ指を突いて頭を下げ、分家の当主達に挨拶した。
「これは一体どういう事ですか!!?」
今まで口を閉ざしていた武倉家当主の
「彼女は、私が以前から目を付けていました。つい間まで公安に勤めていましたが、私の長女兼
「なっ!!」
深夜は誰かが発した言葉を目線で遮り言葉を続けた。
「そしてもう一つですが、私は魔法資質を持つ男性から精子を提供してもらい、四葉の調整体技術と私が独自に研究していた調整技術、固有の構造改変魔法と、遺伝子操作を用いて受精させた子を妊娠しております。産まれて来る子は私を上回る魔法力と魔法耐性、美貌を兼ね備えて産まれて来る事でしょう。調整体の欠点など全くない、云わば、完全調整体とでも申しましょうか」
深夜から告げられた衝撃的な発表に分家の当主達は目を丸くする。すると新発田家当主の理が口を開いた。
「言いたい事は山ほどあるが、まず何故今になって今回のような事になったのか?本来なら、何処かに嫁ぐなり、婿を取るなどをして、四葉の安泰の為尽力するのが筋ではないか?」
一族内でも野心家の理は深夜の話を聞いて随分と取り乱していた。今までは、この双子が理由は何であれ、結婚して子を成す事に乗り気ではなく、いずれは自分の倅の勝成が次期当主に就くと算段していたからだ。それが深夜をも上回る資質を持つ完全調整体なる子が産まれては、その算段も霧に霞んでしまう。
理の問いには意外にも真夜が答えた。
「姉さんがそう至ったのは私の方から説明します。姉さんには報告をして貰うだけのつもりだったのですから」
突然、真夜が真相を語ると言い出したので、皆は真夜の言葉を聞き逃さんとばかりに静まり返った。
「それは本日の最大の報告に関係しています。私は去る4月24日にベンジャミン・ルキフェルとの間に出来た子を出産しました」
遂に明かされた達也の父親の名。果たして、どのような人物なのか、次回お楽しみに!