「それは、本日の最大の報告に関係しています。私は去る4月24日にベンジャミン・ルキフェルとの間に出来た子を出産しました」
真夜が発した【ベンジャミン・ルキフェル】という男と面識がある重蔵、理の表情は怒りで見るからに顔が真っ赤になり、同じく面識のある彩歌の表情は絶望により顔面蒼白していた。他の面識はないがベンジャミン・ルキフェルの所業と噂を知っている真柴家当主の真柴真佐、静家当主の静陽人、椎葉英嗣、 武倉藍霞も事態を把握し、各々が一斉に真夜を攻め立てる。思わず耳を塞ぎたくなるような怒号の中、分家の当主達の中でも一番頭に血が上っている重蔵が真夜に向けて罵声を飛ばす。
「馬鹿にするのも大概にせんか!我々分家に嘘を吐いてまで....それと七草との縁談を反故にして、四葉家の者として責務を放棄してまであの者の子を産んだと言うのか!そんな事認められるか。どこじゃ、あの者との子は、この場で始末し...」
重蔵が当主達の怒号に後押しされて、達也の殺害を仄めかした瞬間、広間は夜に包まれ、光の粒が重蔵の両足に穴を穿った。真夜の
「うぐっ...真夜...貴様、伯父である儂に..このような仕打ちを...」
いきなりの出来事に他の分家の当主達は一斉に静まり返った。重蔵が真夜を睨み付けながら言葉を発したが、その言葉の先にいる真夜の目は重蔵を見下す様な目つきだ。穂波が他の者達の攻撃を想定し咄嗟に障壁魔法で真夜と深夜をガードしようとしたが、真夜に目線で制さる。穂波から重蔵に目線を戻した真夜は、
「我が子に危害を加えようと企む輩を、黙って見ている母親がいる訳がないでしょう。先程も言ったはずです。私は今日、命懸けでこの場を設けたと...詳しく説明します、これに懲りたら黙って説明を聞いて下さいな」
真夜がそう言って魔法を解除した。
「大丈夫ですか?重蔵さん、少しじっとしていて下さい。治癒魔法で治療しますので...それに今は御当主を刺激しないで下さい。一歩間違えば、大惨事になります」
彩歌は重蔵に向かって小さい声でそう呟いた。重蔵は痛みと怒りから冷静さを喪っていたが、彩歌の何か思い至った表情と、声で少し冷静さを取り戻し、黙って真夜の説明を聞く事にした。それでも、心中では本当に真夜との戦闘で死人が出るかもしれないと思いながら...
「まずは事後報告になりますが、先程も言った通り私はベンジャミン・ルキフェルの息子を出産しました。彼は私が大漢にあった崑崙方院の魔法師によって誘拐された時、命懸けで戦い、そして私を見つけ出して助けてくれた恩人です。この事は皆さん存じ上げていると思います。そして崑崙方院を壊滅させる報復の後、初代四葉家当主の父、元造らと共に帰還し、翌日には行方を眩ましました。彼のその後は、皆さんも耳した事があるように【今世紀最悪の犯罪者】と呼ばれるほど暴れまわっています。その
それでもベンジャミンと面識がある者も、面識はなくとも数々の噂だけは知っていた者も、真夜が今世紀最悪の犯罪者の子供を自分達に黙って出産した事実を未だ納得してなかった。
説明の続きを促す者達の目線に促され、真夜が続きを話出した。
「皆さんは知っていますか?遡れば3500年以上前から、時代や国、宗教も異なる、逸話として語られている人物達が実は同一族だという事を...」
魔法師にとっても
「話の流れから推測出来るとは思いますが、一応ハッキリ伝えさせて頂きます。ベンジャミン・ルキフェルはその悪魔の一族の血縁者であり、それも直系に当たる者です。私を救出する際に、彼の異質な強さを目の当たりにした重蔵伯父様は納得出来る事でしょう?」
話を振られた重蔵は、当時の事を鮮明に思い出していた。確かに若干、十五才の少年にしては、考えられないほどの魔法力と技能、現代魔法、古式魔法どれとも違う想子の流れや魔法の発動兆候。それに歴史通りの強靭な肉体とその肉体から繰り出される尋常ではないほど速く、強力な体術...思い返してみればどれも伝承に該当する事ばかり。
そうなると、あの少年の家族も....重蔵が物思いに耽っていると、
「心当りがあるようですね...そうです。彼の父親は一族の直系で、母親は血統は薄くなったいましたが、確かに一族の血を引いていました。彼の大漢での武勇と伝承通りの容姿を聞き付けた研究所や政府機関が、悪魔の一族の遺伝子採取と人体実験を目的として捕獲に乗り出しました。約三万の敵を撃退し続けた彼の両親は、帰国して彼が駆け付ける頃には敵の手に堕ち、耐え難い恥辱と実験を受けて帰らぬ人となりました。私を助ける為に鬼神と化して戦ったばかりか、その事が原因となって両親が殺された事を知った彼は自身を責めました。私や四葉ではなく、救援に間に合わなかった自分自身を...」
ベンジャミンの家系と壮絶な過去を知らされた分家の者達は、どう反応して良いか分からぬまま無言を貫いていた。 真夜の目頭に薄っらと涙が浮かんでいたが、原因を作りだした自分への怒りのほうが強いらしく、握られた拳は少し血が滲んでいた。
「では、初代当主の元造様は彼の家系を知って尚、七草弘一との婚約を破棄して彼を真夜さんの相手に迎えようと考えておられたという事ですか?」
一人この場を無事に乗り切る事を最優先にした彩歌が真夜に問い掛ける。
「...少し時系列を説明します。短期留学で彼は日本に来ました。しかし彼が予定していた学校と手違いがあり、紆余曲折があって私と深夜が通っていた中学に通う事になります。彼とは日本語を教えながら親しくなり、親密になるにつれて私が彼に惹かれて行きました。しかし当時、私は父よって縁談を組まれ七草弘一と婚約していましたから、自身の想いは気付かない振りをしてました。四葉家の者にはそんな自由はないと自分自身に言い聞かせて。...ある時、彼の噂を聞きつけ、怪しんだ父が彼を屋敷に連れて来いと私に告げました。そこで父が彼に素性を聞いたそうです。父だけに自身の家系の事を話して、その後、父は彼の話を確かめる為、部下達と戦わせて見たそうです。その戦いを見た父は彼をより危険視した、と事件後、語ってくれました。しかしそれから直ぐに私が誘拐され、父らと共に大漢に乗り込んだ彼の武功と、私を救出してくれた感謝の気持ちから、彼に対して最大限の誠意を示そうと思い至ったそうです。大漢から帰還したその夜に、彼の両親が襲われている情報を手に入れた父は、それを彼に伝えます。帰国の際、出国の難航が予想された為、手続き等を便宜したと語ってくれました。それを聞いて私は、家を捨てて彼の元に行くと父に直談判しましたが、当然、父には反対されました。しかし彼が両親を救出した後に四葉に迎えようと言ってくれ、七草弘一との婚約も破棄しました。その後、父は遺言として英作伯父様に真実を告げて、協力するように言って亡くなりました」
ここまで真夜の話を聞いた者達は、素性を隠蔽すれば、世界から今世紀最大の犯罪者と呼ばれているベンジャミンと真夜の息子を四葉家の戦力として扱えるのではないかと思い始めていた。ただ一人重蔵を除いては...
その張本人、重蔵は今の話に引っ掛かりを覚えた。初代当主の元造からベンジャミンの素性を遺言として聞かされ、協力までして捜索した英作は、ベンジャミン自身を四葉に迎えようと考えて動いていたはずだ。ならばベンジャミンと真夜の子供もいずれは産まれて来る事は当然、想像出来るはず。しかしその本人の姿は見えず連れ帰って来た様子もない。にも拘わらず、あれほど切羽詰まった様子になるとは考えられないからである。
重蔵はまだ重要な事実があると思い、まずは懸念のベンジャミンの行方について真夜に聞いてみた。
「彼は...十六年ぶりに再会した彼は幾度の戦闘と、魔法の酷使によって随分と弱っていました。結局、私が滞在していた一ヶ月に満たない間に亡くなり私が海葬しました。一族所縁の島に行き着けるように...」
悲壮な真夜の表情とは裏腹に、重蔵にとって最大の懸念であったベンジャミンは死亡している事実に、重蔵は心の中で安堵した。それは他の者達も同様である。四葉家内に彼を引き入れては外聞が悪い。
真夜はそんな分家の者達の心理などお見通しだったが、ここで怒ってもどうしようもないので気付いていない振りをした。真夜の考えなど微塵も興味がない重蔵は更に斬り込む。
「お主とあやつの経緯と、初代当主様と英作様の意向は分かった。だが、その話と深夜の妊娠と、どう関係あるのかそろそろ聞かせてもらおうかのう」
真夜に穿たれた両足の痛みを堪えながら、目を細め真夜を見詰めた。重蔵の目線など微塵も気にした様子がない真夜は、
「そうでしたね、私とした事がつい熱くなって姉さんの妊娠については話していませんでしたね...姉さんの妊娠については英作伯父様も知りませんから、此処で英作伯父様もお呼びしましょう。葉山さん」
真夜が葉山の名を呼ぶと、五分程して広間に英作が入って来た。約一週間、幽閉されていた英作は白毛の無精髭を囃していた。真夜の顔を見るなり怒りが甦ったのか、顔を真っ赤にした英作を真夜が言葉を遮った。
「真夜...貴様っ..よくも....」
「お静かにお願いします。重蔵伯父様のように両足を穿たれたくはないでしょう?」
部屋が再び夜への変貌し、真夜の目つきが鋭くなった。英作が重蔵を横目で見ると、応急措置を魔法で行った様子が伺える、両足の痛みに脂汗を額に浮かべながら堪えている姿だった。英作は予期していた事が生じてしまっている事に焦りと怒りを覚えながらも、未だ死人が出ている様子は見られない事に内心安堵する。彩歌に促されて、ここは大人しく用意されている席に着くことにした。
「では、英作伯父様も席に着いた事ですし、姉さんの妊娠の経緯についてお話します」
英作にとっては、寝耳に水の話が始まろうとしていた。英作が一言発しようとした瞬間、真夜に目線で制され、そのまま真夜の説明を聴くことにした。
「私が妊娠した事を話した時から姉さんは、自身も子供が欲しくなりました。私が出産して一緒に達也を愛でている内に姉さんは決心します。然し、私と同じで愛した相手以外と結ばれる事は受け入れられないというのが問題になります。姉さんが愛した人は一人だけであり、その相手も私と同じ人でした。それでも姉さんは私をずっと支えてくれました」
双子揃って厄介な相手を愛してしまった事、四葉家に産まれながらそんな理由で、これまで結婚してなかった事を知った分家の者達は、今日何度目か分からないぐらい腹腸が煮えたぎっていた。
「そんな姉さんに政略結婚をしろなんて私は言えません。姉さんは私の妊娠初期から、決意した時の為に、自身の遺伝子と相性が良い相手の選定を進めていたそうです。そして、私が出産後、念願だった子供を身籠る為、提供して貰った精子を遺伝子操作と、独自に発案した調整技術、これまで四葉が蓄積してきた技術を用いて、不必要な因子を排除し、更に構造改変魔法も行使して完全調整体とも云える娘を妊娠しました。ハッキリ言って二度と成功しない試みです。そこまで優れた娘を産む事に姉さんが拘ったのは、私の息子...達也の為でもあるそうです」
達也の特異魔法や、魔法力などを既に診察して知っている英作は、誰よりも早く深夜の子供の父親を聞く。
「提供者はFLTに勤めている司波龍朗という者です。圧倒的な想子量を備えている事以外は至って平均的な魔法師です。どのみち調整する事は決定してましたから、それだけで十分でした。それに加えて彼への接触も出資者として出来ましたし、お礼の方もFLT内の希望部署への異動と、ある程度の役職を与えるだけで済みました」
話をある程度聞いた英作は、納得出来ないが将来はその娘を当主に据えれば、四葉も更に発展し、上手く行けば達也の能力を抑えられるかもしれないと思い始めていた。しかし達也の特異魔法や魔法力を知らされていないだろう分家者達、特に勝成を次期当主に推したい理は憤った。
「そんな我儘で産まれてくる子供に四葉の将来は託せん!一族は二人の所有物ではない!勝手な事ばかりされては、一族内の秩序も崩壊してしまうではないか」
理の物言いに他の者達も共感するようで一様に頷いた。その様子を見た英作は、真夜に達也の潜在能力を話したのか尋ねた。何か知っている英作の様子を見て、一同はまだ問題があるのかと真夜を問いただすような目線を向け説明を求めた。
「...達也は産まれながらにして、幾つかの固有魔法と、生後五日で私と同等の魔法力を有しています。生後一ヶ月を過ぎた今では私をも超えて、確認出来ている固有魔法は最高難度の分解と再生、血筋から原始魔法も行使出来ると思われます」
驚愕の能力に一同はもう何も言えなかった。ただ、本当に人の子かという驚きと、暴走した時の事を想像し、このまま見過ごして大惨事を引き起こす可能性を考えて、皆、内心消したいという気持ちが胸を一杯にしていく。そんな中、英作は真夜が暴走を起こしそうな空気を感じ取り、提案をしてみた。
「皆の者少し良いか...深夜の娘は調整した子が産まれて来るという事、恐らく固有の精神干渉系魔法を備えて産まれて来るじゃろう。経緯はどうにせよ、優秀な子が産まれて来るなら、いずれは四葉を担うだけの能力を開花し、真夜の倅の抑止にも期待出来る。何年か様子を見てはどうか?」
英作の提案に真っ先に反対したのが、重蔵、理、真佐、陽人、 藍霞だった。
真佐が「いえ、四葉の中核からは外して、四葉からも出さない方針で行くべきです!」
藍霞が「それだけでは不十分です!」
理が「そうだ!そんな悠長な事を言ってる場合ではなく、やはり、今すぐに処分すべきだ!」
重蔵が「儂もその方が良いと思っておる」
間髪入れずに言い合い出す。すると真夜の流星群が発動する変わりに、深夜の精神干渉系魔法が発動し、四人は沈黙し項垂れた。
「よせ!!早まるでない深夜!」
英作が咄嗟に声を上げ深夜を弾圧しようとしたその時、深夜が鋭い眼光で言い放った。
「...先ほどから黙って聞いていれば、皆さまこそ好き勝手言い過ぎですよ。この場に命懸けで望んでいるのは、真夜だけではありません。私も居ります事お忘れなく、其れに部下達も配備済みなのですよ」
項垂れている四人以外の面々は、深夜の言葉で最悪の事態を理解した。
「本日は、皆さまの家族も別室に招いております。人の子供の生死を決めるおつもりなら、
私どもは容赦はしません」
別室には、黒羽家次期当主の貢と妻の亜弥、理の一人息子の勝成、彩歌の娘の冬歌と婿養子の青司、その間に産まれた夕歌がいる。
一同の頭の中にまさかという思いと緊張が一気に走る。
「気でも狂ったか!二人とも!そんな事をすれば只では済まんぞ!四葉を潰すつもりか!」
静陽人が怒鳴り出した。津久葉彩歌は、最悪の現状から脱却する術を必死に考えていた。真夜と深夜が分家の当主だけではなく、その家族まで標的にするとは思ってもいなかった英作は、完全に二人の覚悟を甘く見ていた。
「狂ってなどおりません。我が子に危害を加えようとする相手なら、身内だろうと外敵と変わりませんわ。貴方方が行おうとした事と同じ事ですのに、何故狂っているとお考えになったのか、理解出来ません」
深夜の言い分に反論出来る者はこの場には居なかった。この場にいるのは自分達の保身に走っている者ばかりだから。深夜は魔法を【半発動】したまま、殺気立った空気が
「ハァ...ハァ...ハァ...」
息を整えながら、話を聞いていた四人は奥歯を噛み締めながら深夜を睨んだ。
「姉さんも言ったように、私どもは身内であっても危害を加えようとする者には躊躇なく処断します。しかし、皆様の言い分も四葉家当主として少しだけ考慮しようかと思います。葉山さん、達也を此処へ...」
真夜が葉山に告げると、達也を抱えて部屋に入って来た。そこには白みがった銀髪に整った顔立ち、ベンジャミンの面影が少しずつ表れてきた赤子だった。しかし、皆の者が押し黙ったのはそれだけが原因ではなかった。真夜に抱かれた達也の身体は、真夜と深夜の殺気立った空気の名残に触発されて、【黒い想子】が活性化してしていた。
それを見た当主達と、英作は思わず一歩下がった。
「よしよし、そんなに怒る必要はないのよ、達也、ママと姉さんは大丈夫だから」
真夜の優しい声を聞いた達也は安心したのか、黒い想子は収まる。
「...改めて紹介します。息子の四葉・ルキフェル・達也です。ご覧になったように、達也は愛情を注いでくれる私と姉さんを無意識に守ろうとしてくれました。達也は大切な人を守れる人物に成長するでしょう。ですから、くれぐれも敵対しない事をお勧めします」
真夜はニッコリと笑って当主達と英作に忠告し、更に続けた。
「それと達也についてですが、四葉家の最重要機密とし、皆様にはご家族にも話す事を禁じます。達也が私の子だと知ってるのは、皆様と、序列三位までの執事と、世話役をお願いした白川メイド長とその部下二人だけです。これを破った者は処断します。皆様もご家族をどうぞ大切にして下さいませ」
真夜の言葉は殆んど脅しに近かったが、家族を含めて人質に取られてはもうどうしようもなかった。このまま何もかも泣き寝入りかと分家の者達が諦めかけた時、
「四葉家当主として、先ほど言ったように少しだけ皆様のご懸念も考慮しますわ。達也と、産まれてくる姉さんの子は次期当主候補からは除外します。達也には偽の
真夜の発表に、自身まで次期当主候補になると告げられた、分家の当主兼次期当主候補達は、内心に一物抱えながらも真夜の提案を受け入れた。
真夜から退室の許可が出て、続々と去っていく中、重蔵の側まで来た真夜は去り際に呟いた。
「重蔵伯父様の部下の者達は処分しておきました。悪く思わないで下さいね。怪我の方もゆっくり静養して下さいな」
そう呟いて去っていく真夜の後ろ姿を見ながら、重蔵は奥歯を噛み締めた。波乱のお披露目会はこうして幕を閉じた。
部屋に戻って来た真夜達はソファーに腰掛けて深く息を吐いた。特に、深夜は魔法を暫く半発動したままだったので疲れていた。深夜の精神干渉系魔法と精神構造干渉系魔法は最高難度の魔法の上、行使するのも身体に大きな負荷が掛かる。妊娠時の実験といい、今回の半発動という特殊な魔法の使い方は、深夜の体力をその都度、著しく奪う。
「深夜様っ...お身体は大丈夫でしょうか?」
穂波は自身も精神的疲労で疲れていたが、
「ありがとう、大丈夫よ穂波さん、貴女も立派でしたよ。分家の当主達に物怖じせず娘としても、
薔薇の香水の香りに鼻孔を擽られながら、深夜の豊満な胸の柔らかさと、褒美の言葉に穂波の疲れは癒された。
「ありがとうございます。
穂波は初めて深夜を母と読んだ。それは心の底から出た言葉。
「嬉しいわ、初めてお母様と呼んでくれたわね...」
親子の優しい時間を側で眺めていた真夜は、何を思ったのか、達也を抱えたまま深夜に近付いて来た。
「姉さん、私と達也も頑張りました。褒めて下さいな」
いきなりの出来事に穂波は目を丸くし、深夜はクスクスと笑いながら、放心状態の穂波から離れて、達也を抱く真夜を優しく抱き締めた。
「折角、穂波が甘えてくれたのにこの子は...幾つになっても甘えん坊ね、真夜は」
真夜がシスコンだと知らなかった穂波は自身の目の前で起きている事を疑った。穂波を見かねて深夜が教えた。
「穂波さんも驚いたかしら?真夜はね...シスコンなのよ、まぁ私も大概ですけどね」
深夜がそう穂波に告げると、真夜は頬を膨らませ、ふんっと首を右に向けた。驚いた穂波だったが、意外な一面を見せたこの双子を可愛らしいと思ってしまった。
「達也も...いい子だったわ。ママと私を守ろうとしてくれて、かっこ良かったわ」
深夜は続けて優しく達也を褒めた。 しかし、達也のあの黒い想子の活性化はそんな生易しいものではなかったと穂波は思っていた。強大な魔法力を有していると聞いてはいたが、本来見える筈のない想子があれだけ活性化して視認出来るまでとは想像もしてなかった。それも黒い想子だ。知覚した感じでは激しい怒りの塊のようだった。それも生後一ヶ月ちょっとの赤子がである。達也の未来を少しだけ憂いながら、穂波は激動のイベントを乗り切った安堵感をこの時だけは噛み締めていた。
結局、今回は最悪な事態は避けられ、死人は黒羽の部隊だけに留まった。葉山に準備させていた計画も使われる事がなかったが、いつ敵が襲って来ても良いようにまた、達也の成人した時の為に真夜はこの計画を存続させ、拡大する事を決定した。
書いていて刺激が足りないと思い、重蔵を消す事も考えましたが部隊だけに留めました。
穂波の出番の少なさなど反省材料は多々ありますが、今度の展開で活かして行きたいと思います。