四葉真夜の息子~最も自由なる者   作:空陸

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各家のある一日~突然の来訪者

ー西暦2082年9月3日ーー【黒羽家】ーーー

達也が真夜に初めて抱いた夢を語り、ある約束をした日から数ヵ月の月日が経った。黒羽家の文弥と亜夜子も二歳の誕生日を迎え、黒羽家では盛大に双子の生誕の日を祝っている。双子の両親の貢と亜弥も産まれてからこの二年、日々成長する我が子を溺愛している様子だ。重蔵は去年に引き続き双子の誕生日に英作を招いていた。何故、英作が黒羽の双子の誕生日に招かれているかというと、去年の双子の誕生日、英作に魔法解析を行って貰った時の事。

 

「先代様、文弥と亜夜子を視てもらえませぬか?」

「うむ、よかろう。二人をここへ...」

 

自身を慕う重蔵の頼みに応え、英作は双子の魔法解析を行う事にした。

 

まずは姉の亜夜子、結論から云えば魔法力は特段優れてはいなかった。確かに優秀な魔法資質だが、英作は達也も解析していた為どうしても比較してしまう。真夜が母親とはいえ、他を追随させない圧倒的な資質は、やはり悪魔の一族(サタン・ファミリア)の血筋のお陰と云うしかない。その事を重蔵も悟った為、二人は苦い顔になる。そんな二人の顔を見て、貢と亜弥は訝しげな表情を見せる。要らぬ誤解を生んでしまった英作は、二人を安心させる為、更に解析を続ける。すると、次の瞬間には英作の言葉に貢と亜弥が飛んで喜んだ。それは【事象改変領域】が四葉でも他を凌駕している事。それは事象を改変することができる領域の広さを示す能力、英作は深雪の解析には立ち会っていない為知らないが、亜夜子は深雪よりこの能力で優れている。そのぐらい亜夜子はこの能力で優れていた。 次に弟の文弥、こちらも達也に比べれば劣っているが、基準を四葉に戻せば貢を遥かに超える魔法資質を備えていた。更に精神干渉系の固有魔法まで備えている。堂々と次期当主候補を名乗れる、正に四葉の申し子と云えるほどの逸材。それは新発田家の勝成以上の素質で、子供世代の次期当主候補の資格を持つ者の中では一躍首位(トップ)に躍り出るほど。英作の解析結果に二人は亜夜子の時以上の喜びようで、端で見守っていた重蔵も歓喜する。

 

「流石、私と亜弥の子だ。これで将来、黒羽家の安泰ばかりか、四葉家次期当主の座も夢ではなくなったぞ。有難うございます、英作叔父様」

 

「...儂もまさか、勝成以上とは思わなんだ。しっかり教育するがよい、貢よ」

 

「先代様、宜しければ来年も儂らと祝って下され」

 

重蔵の提案に、貢も亜弥も頷いて賛同した。三人から打診された英作は結局、今年も訪れる事になった。重蔵はこれ以上真夜と深夜に好き勝手させないよう、まずは英作を味方に引き入れたい思惑があった。間者(スパイ)の報告で日々凄まじい勢いで成長を続ける達也を、誰よりも危険視している重蔵は、自身の孫があの化物(達也)の抑止になり、四葉の未來を担う救世主になると期待し、貢を通して英才教育を双子に施すようになる。

 

 

ー西暦2083年3月14日ーー【京家】(かなぐりけ)ーーー

深夜の出産した日に真夜が伊吹に打診してから約三年、正式に京家が去年の慶春会で分家の仲間入りをして二年以上が経つ。これまで様々な出来事があった。その中でも訓練を終えた達也と伊吹が敷地内で襲われたと聞いた時は心臓が止まる思いをした。危惧した事が実際に起きてしまったと、冷静では居られなかった。それでも真夜に忠誠を誓う京家の当主として達也を守った事は流石だと、改めて夫に着いていこうと思えた瞬間でもあった。他にも嫌がらせもあったが、最近では当主の伊吹も大して気にした様子もなく、家族五人は毎日幸せな時を過ごしている。伊万里は四月から中学二年生に進級する。伸長もここ一年で大分伸びて、声変わりも始まっている。肝心の魔法技能も兄、伊吹と稽古が増えて、陰密術、体術、古式魔法も格段に成長している。ただ【水晶眼】の制御だけが中々伸びてこない。最大の武器に成得るだけに、本人も口惜しそうである。二年前、出産した穂波は深夜の守護者(ガーディアン)を解任された。家庭と子供を手にした穂波を案じて深夜が解任した。穂波は反対したが、伊織と水波の双子、夫の伊吹と義弟の伊万里との時間を大切にしなさいと、真夜にも進言されて解任となった。四葉に養子として来てから四年弱で、自分ばかり幸福を貰っている気がする穂波は、この恩を返す術で割りと本気で悩んでいる。

そして今日は二卵性双生児の伊織(息子)水波()の二歳の誕生日。少しずつ顔立ちが形成されて来た水波は、とても穂波に似ている。伊織はどちらかと云えば伊吹似、双子だが二人の背格好は全く似ていない。

魔法資質は二人共に充分優秀な範囲で、共に両親を越える魔法師になると期待されている。

 

ー西暦2083年3月25日ーー【深夜の家】ーーー

四葉本邸の別邸に当たるここ深夜と深雪の家は、二日前からの積雪で深い雪に覆われている。そんな日に深雪は三歳を迎えた。深夜は自身が母親になって、こんなに過保護にまでなると予想していなかった。日々自身に似てくる愛娘は、目に入れても痛くないほど可愛く、頬が緩んでしまう。それは念願が叶って母親になれた為だが、幼き日の妹と無意識のうちに重ねている事も原因の一つだ。研究の成果と自身が倒れるまで魔法を行使した甲斐もあって、望み通り深雪の魔法資質は、自分達双子をも越える才能を有して産まれて来てくれた。深夜は将来、深雪が甥の達也の伴侶になり、困難な道も支えて共に歩んで行けるよう望んでいるが、深雪の固有魔法、コキュートスの存在が悩みの種だ。毎日、達也とも顔を合わせているが、万が一を考えて過度な接触をさせない事になっている。深雪が感情に踊らされる事がないよう、深夜は淑女としての教育を徹底して今後行うつもりでいる。それでもやはり、つい甘やかしてしまうのは親の性なのかもしれない。深夜以外にも愛されて育っている深雪は少し泣き虫で、凄く甘えん坊。特に真夜の存在がより拍車を駆けていた。シスコンの真夜にとって深雪は、娘と言って良いほどの存在で、必要以上に可愛がっている。それはまるで自身を可愛がってくれる双子の姉を彷彿させるかのように。

 

「あかあさまー、だっこー」

 

自身の誕生日会が待ちきれない深雪が強請ると、深夜は駆け寄って悦んで抱き抱える。この先、自身の望み通りの教育をしっかり行えるのか、少し不安になる一幕だった。

 

ー西暦2083年4月24日ーー【四葉本邸】ーーー

春の日溜まりが温かいこの日は達也四歳の誕生日。既に伸長は120センチを越えて、とても四歳児になったばかりには見えない。伊吹との訓練もかなり激しさが増して来ており、骨折、切り傷、火傷などは日常茶飯事なほどだ。最近まで激しい痛みに涙する事が多かったが、自身の固有魔法、再生の発動や制御もスムーズになり、体術に関しては伊万里に肉薄するまでになっている。更に成長が見られる事がある。それは威力が大き過ぎる【全方位分解】から【分解】、【オブジェクトの分解】、【部分分解】、【雲散霧消】(ミスト・ディスパージョン)【術式解散】(グラム・ディスパージョン)が派生した事だ。達也は伊吹との訓練の他にも真夜と訓練を続けており、自身の魔法技能を確実に物にし始めていた。そんな達也は強さだけではない。この歳にして興味を持つ分野と種類が凄まじく広く、余りにも熱心に強請るものだから、真夜は達也専用の研究兼実験を行う施設と機材等を用意する羽目になる。暇を見つけては、達也は其処に篭って真夜と何かを行っている。そんな規格外な勢いで成長を続ける、達也の誕生日を皆で祝いながら、息子がどんどん逞しく育つ様を見て、真夜はベンジャミンを毎回思い浮かべている。

 

ー西暦2083年6月某日ーー【新発田家】ーーー

夏の足音と、梅雨の湿った風が入り交じっているこの日の新発田家、達也より五つ年上の勝成は小学三年生、クラスメイト達より頭一つ飛び出ている。理の一人息子でかなりの期待を受けている。魔法力も優秀だが、得意なのは物質の密度を直接操作する収束系魔法の 【密度操作】だ。精神干渉系や特異な魔法を得意とする四葉家の中では珍しく普通の魔法を得意としている。体術の稽古も行っており、体格を生かし非凡な才能を見せ始めていた。そんな勝成は、昨年黒羽家の文弥が英作から自分を越える資質を持っていると診断されてから、少し焦っていた。幼いながらもこれまでは自分がいずれ四葉家当主に選ばれ、担って行くものとばかり思っていた。文弥が産まれる前から...そう、穂波が深夜の養女になると発表された慶春会から父、理にも焦りが見られ、稽古も厳しくなった様に感じていた。勝成も父に触発され稽古に励んでいたが、文弥の才能が発覚してから自身も焦り、苛立ちが増している。そんな勝成を時には諌め、慕うのが、新発田家が囲っている一つ年上の【堤琴鳴】(つつみことな)、三つ年下の弟【堤奏太 】(つつみかなた) の調整体【楽師シリーズ】(がくし)の第二世代の姉弟だ。いずれは弟も姉と同じく勝成の守護者(ガーディアン)になる予定。正確には琴鳴も見習いであるが、自覚を持たせる為に、数年前から守護者(ガーディアン)だと聞かせている。楽師シリーズは【振動系】、特に音波に干渉する魔法を得意とする戦闘用に作られた魔法師。未だ実戦経験は無いが、琴鳴は攻撃魔法より【索敵】や【幻惑】、【探知妨害】、【ダメージ軽減】を得意とする【戦闘補助型】である。特に自分自身と自分を取り巻く空気の層に音の【情報教化】を掛けることで、肉体的に有害な音波攻撃から身を守る常駐型の防御魔法を弟の奏太と共に得意としている。奏太の方は攻撃魔法の素養も充分伺える。将来はこの二人で勝成を守護し、支えていく事になる。

 

ー西暦2083年8月某日ーー【津久葉家】ーーー

真夏の日射しが照り付けるこの日の津久葉家、当主の彩歌の娘【冬歌】は今年で二十六歳になり、精神干渉系魔法を得意としている。婿養子の【青司】との間に一人娘の【夕歌】を二十歳の時出産した。娘の夕歌は自身よりも広範囲で【精神干渉系全般】に適性がある資質を備えている。二年前母の彩歌から【半永続的に精神活動を制限する】効果を持つ精神干渉魔法の開発という無茶苦茶な命令を受けた。理由を聞いても話してはくれず、一族の未來、いや、世界の為だとしか明かされずにいる。彩歌は達也の出生を公表されてから対策を練っていた。母親の真夜の承諾が得られ、尚且つ、達也の能力を制限出来る方法を。そこで一つの策を思い付いた。それは達也の精神活動を制限し、能力を封じ込める魔法を新たに開発する事だった。達也の自我を維持させつつ、マインドコントロールする魔法なら、真夜を説得出来る可能性があった。そこで自身より精神干渉系の魔法を得意とする娘の冬歌に命じる事にしたのだ。自分でも無茶を云ってるのは重々承知している。が、他の分家の当主同様、達也を今のまま野放しには決してするべきではないと考えているのだ。ここは冬歌に是非開発して貰わねば困る、彩歌は何時、内乱に発展するかとかなり本気で心配していた。内乱になれば娘の冬歌や孫の夕歌も巻き込まれると危惧している。新たに加わった京家は確実に敵になる、当主の伊吹は近接戦闘になれば厄介な相手になるし、深夜と真夜、あの双子を本気で敵に廻すと無事では済まないと悟っていた。彩歌は他の当主達より、双子の能力と覚悟を重く見ている。それは四葉の魔法師として、そして子を持つ母親としての確信にも近い直感である。だからこそ何が何でも冬歌に開発させ、他の分家の当主達が本格的に反旗を覆す行動を起こす前に、真夜を説得する必要があるのだ。彩歌の憂いはまだ暫く続きそうだ。

 

ー西暦2083年10月某日ーー【椎葉家】ーーー

秋の色が随分、周りの景色を染め上げて来たこの日、椎葉家の英嗣のもとに真柴家の真佐 、静家の陽人、武倉家の藍霞が集結していた。この場にはいない新発田家と集まった四家は定期的に連絡を取り合い、真夜と達也の動向を注視しその対策と情報の共有を行っている。重蔵が加わってないのは文弥の存在と、英作を味方に付けて手柄を黒羽家で挙げたいからである。津久葉家彩歌は、平和的解決を望み、余り乗り気ではないという姿勢から、甘い考えだとして端から切り捨てている。集まっている四家も腹に一物あれど、真夜のやり方と達也の存在を面白く思わない者達である。間者(スパイ)からの報告で、真夜が施設と機材を与えて何やら行っている事や、達也自身の戦闘技能の向上具合と魔法技能も共有された。達也の予想以上の成長速度にかなり危機感を感じており、本格的な暗殺計画ですらも平気で議題に上がる。問題は真夜と深夜、それに伊吹だ、三人を敵にすれば、達也の殺害は出来ても此方が全滅しかねない。更に洗脳された真夜直属の暗殺部隊も本家には存在し、警護体制も近年生半可ではない。計画遂行は容易ではなかった、毎回、最後の一歩を踏み出せないでいる。仮りに成功しても此方が全滅ずれば、参加する見込みがない黒羽家と津久葉家が漁夫の利を得るという構造も話が纏まらない原因でもある。表面上、真夜が先手を打つ様子は見られない為、決断を遅らせてでも、確実性が求められた。こうした会合は此れからも暫く続く事になる。

 

ー西暦2084年1月1日ーー【慶春会】ーーー

新年の祝いの席、慶春会だけは、達也は大人しくしてねばならない。本人は理由は知らされていない。真夜からは時が来たら話すとだけ言われ、今日は朝から研究兼実験場にもなっている施設の一室に篭り、最近興味があるプログラミングについて學んでいた。施設の周りには真夜直属の暗殺部隊が息を潜めて、達也を護衛している。

 

深夜、穂波は、深雪、水波と伊織の着飾った姿を微笑んで眺めていた。あまり着る機会がない着物に少し窮屈そうにしながら、式が始まるの待っている。しかし、真夜だけは顔色が優れない。そんな真夜が深夜にある事を告げて来た。

 

「姉さん、少し良いかしら?(もよお)しの後に、二人だけで話せるかしら?」

「どうしたの?真夜、急に畏まって」

 

何故か急に畏まった真夜の様子が気になった穂波だったが、空気を読んで子供達を別室に連れていく。そんな穂波に対して目線でお礼を告げて二人になった処で真夜が話し出した。

 

「詳しい話はまた後で話すわ。...さっき【あの方】から電話があったの、今年の新年の挨拶には、四葉(ここ)に御越しになるらしいわ」

 

真夜が何時にもなく、深刻な面持ちで深夜に告白した。真夜の告白を聞かされた深夜の眼が一気に鋭くなる。二人にとってあの方は、いや、四葉家にとっても無碍に扱えない人物だ。

 

「目的については見当が付くけど何故、今年に限って...何処まで知ってるのあの方は?」

「達也の出生は知ってるわ、けど、何処まで計画を知ってるかは...目的は私も姉さんが考えている通りだと思う、何故、今年なのかは...訊ねたけどはぐらかされたわ。けど、私達にとっては間違いなく良くない状況なのは事実よ」

「確かにそうね...あの方は達也に此れまで何か接触はあったの?」

「実は...前から面会を望んでいる様子ではあったわ、それでも今回のように直接的な感じではなかった...だからこれまで波風立てずに居られたけど、今回は流石に無理のようだわ...」

「何故、どうして私に相談してくれなかったの?」

「姉さんには迷惑掛けたくなかったのよ、出来る事なら一人で解決したかったの...」

 

此所で真夜を責めても話は進まないと考えた深夜は、慶春会が終わってから詳しい話と、対策を考える事にした。その後一族の皆が待つ広場に向かい、滞りなく催しは終わりを迎える事が

出来た。達也を穂波達に託して、真夜に詳しい話を聞く為二人は書斎に向かう。

話を聞くと、真夜が云うあの方は二日後に四葉(ここ)に来るらしい。目的は達也と顔合わせをする事と、真夜が感じた限りでは他にも目的がありそうだという事。ベンジャミンの家系の事は話してはいないものの、どうやら情報を得てる可能性が高いらしい。【怪物】と呼ばれるあの方に対して、二人はどう向き合おうか話し合って、当日を迎える。

 

ー西暦2084年1月3日ーー四葉本邸ーーー

今、真夜にとってあの方と表だって対立する訳にはいかない。対立を避ける為の戦に赴こうとしている真夜が発する空気は張り詰めている。達也は、いつもと違う母親の様子に大丈夫か尋ねた。

 

「まや、どうかしたの?顔が怖いよ」

 

達也は真夜を名前で呼ぶ。喃語(なんご)が抜け始めて、言葉を発し出してからずっとそう呼んでいた。何度か、名称で呼ばせようとしたが、何故だか頑なに拒むのだ。真夜自身は達也の中に変な拘りがあるのが可笑しくて、達也が望むように呼ばせている。そんな達也の問い掛けに真夜は決まりが悪そうに苦笑いで答えた。

 

「御免ね、そんなに怖い顔してた?」

「うん、それに何かソワソワしてるみたい」

「達也には分かっちゃうのね、流石ね、達也...今日はね、達也に会いたい人が来るの、良い子に出来る?」

「僕に会いたいの?分かった、いいこにしてる」

 

達也はそれ以上、真夜に質問などはしなかった。少し察しが良過ぎるまだ幼い息子を、真夜は少し心配していた。荒事の話だった場合、察しの良過ぎる息子は大胆な行動に出やしないかと、懸念していた。

 

真夜が達也の行動を懸念してから一時間ほど経ち、一台の黒塗りの車が本邸に到着して、一人の老人男性が葉山の案内のもと応接室に通された。待ち構えていた真夜が立ち上がり、部屋に入って来た人物に一礼して、挨拶する。

 

「謹んで新春の寿ぎを申し上げます。陛下」

「うむ、急に参って余計な気を使わせたか、真夜よ」

 

真夜の出迎えに対して、そう返答した人物は、

【東道青波】頭は僧形であり灰色の太い眉にどんぐり眼。眉目秀麗というわけではないが風格のある顔立ち、白く濁った左目が相対する者の足を竦ませる。もとは【第四研究所】オーナーであり、現在は四葉のスポンサーでもある実業家。しかし、その影響力は単なるスポンサーの域を越えて、政財界にも多大な影響力を有する、言わば、日本を陰から動かす【黒幕】とも云える怪物だ。

 

「滅相も御座いません、ご配慮痛み入ります。然し、年始のご挨拶でしたら私の方から参るつもりでは居りましたわ」

「まあ、そう邪険にするでない、今日はお主と腹を割って話したい事もあった。四葉(ここ)でな」

「陛下を邪険に扱うなど、滅相も御座いませんよ。さて?依頼の件以外には、今の処特段思い至りませんわ」

「この東道青波に向かって、そのような(とぼ)けた話は不要ぞ。小娘」

「あら?お気に障りましたの?ほんの戯れでしたのに」

「否、儂にその様な口を聞ける小娘など、他にはお主の姉ぐらしか思い付かん。悪くないが、出向いた理由(わけ)は察しが付くだろう?」

「...息子の顔を拝むこと以外にですか?」

「惚ける必要はない、お主が獲物を始末しようとしてる事ぞ」

 

東道の発言に真夜は眼を見開く。それは誰にも、姉の深夜にさえ、まだ口にしてない計画だったからだ。しかしこの怪物にはお見通しである。

 

「...その事は誰にもまだ話してはおりませんのに、何処から情報を仕入れられたのです?」

「簡単な事、お主が獲物にしておる者達の動向から推察したまで」

「...なるほど、彼らが私と息子の周りで嗅ぎ回ってる動きとその計画に、私が気付いていると察しられたわけですのね?」

 

東道は無言で頷く。真夜は達也の殺害を目論む分家の当主達が、間者(スパイ)を使って情報を仕入れている事を知っていた。逆に真夜は刺客を放ち、敵の情報を入手している。以前達也が襲われた時の反省を踏まえて、獲物を狩る準備を整えて、わざと情報を入手させていた。そして一週間後、達也の殺害を目論む分家の当主達を、一掃する計画を実行しようとしている。

 

「儂が今日参った理由(わけ)はこれで分かったろう、但し、止めようと、お主が簡単に意見を変えるとも思えぬ。其処で提案だが、計画を八年ほど前倒して四葉を出てはどうか?」

 

何処まで真夜の計画を知っているのだろうか、この怪物は。東道が真夜に提案した通り達也が十三才になれば、真夜は共に四葉を出ていく計画を建てている。何故十三才かと云うと、悪魔の一族(サタン・ファミリア)では成人の儀があり、十三才で成人とする慣わしがある。真夜は遺言としてベンジャミンが一族についての歴史、魔法、慣わしなどの情報を詰め込んだ【記録媒体】を受け取っていた為に知っていた。そして達也にも同様に成人の儀を執り行い、満を持して四葉を去るつもりでいたのだ。が、何故、この怪物は真夜がその通りに行動すると思ったのか。

 

真夜は無言で東道の顔を覗く。白く濁った左目からも眼を逸らさず、逆に鋭い眼光を飛ばす。何分もこの状況は続き、漸く真夜が口を開く。

 

「陛下、その提案を為さる目的は何ですか?」

「目的か...二つある。一つは四葉を存続させる所以、二つめはお主の倅を守る為だ」

「何故、達也をお守り頂けるのでしょうか?」

「儂はもとは四葉(ここ)の所有者だった、それは研究によって【最高作品】を造りたいという願望からだ。しかし今は儂の手を離れておる、四葉直系のお主と悪魔の一族(サタン・ファミリア)の直系の子である倅はまさに究極と云える存在だ。その行く末を見届けたいというのが儂の想いぞ」

 

東道は真夜に面と向かって魔法師を作品だと言い放った、自身の事より息子を作品扱いされた真夜の蟀谷 (こめかみ)が一瞬、動いた。殺意が一瞬沸き上がったが、直ぐに冷静になり、対応を続けた。確かに魔法師は兵器として開発された歴史がある、それは事実なので第四研究所を所有していた東道の価値観がそうだとしても不思議ではない。問題はこの怪物が達也をどう利用しようとしているかだ、真夜の意識は其所に向いていた。

 

「達也を使って何を企んでおられるのでしょう?」

「企みか、不粋なことを申すな、お主の倅が己のしたいように生きれば、儂の想いも成就するだろうて」

「達也の望む通りですか?息子は縛られるのは嫌いますよ、ベンジャミン(父親)の家系は世界に抗う者ですから」

「それでも良い、お主の倅が突き進む覇道を見届けようではないか」

 

東道の言葉は真夜を驚愕させた。ある意味、この国を裏から守護している人物の言葉(セリフ)とは思えなかった。然し、その表情はいずれ来る新しい時代を楽しみにしている顔であった。この日の会談は此にてお開きとなり、後日、返答する事になった。話が終わった真夜は、東道の目的の一つである達也との面通しを行うため、葉山に連れて来させた。部屋に入って来た達也は真っ直ぐに怪物を見詰めていた。ここで初めて怪物と怪物が顔を合わせた。

 

「達也、此方は東道青波陛下よ、ご挨拶さない」

 

然し、達也は真夜の命に答えず、そのまま暫し、見詰めたまま動かない。其れはまるで相手を値踏みするかの様に。流石に、真夜が注意しようとした時、達也は口を開いた。

 

「初めまして、青波おじちゃん、四葉達也です」

 

達也の碎けた口調を、真夜が慌てて注意しようとした。達也は四歳だが、もう少しまともな言葉使いで挨拶出来る。最低限度の挨拶の仕方は心得ているはずだが、わざと碎けた口調で挨拶した様に真夜には見えた。東道もその事を察したのか、珍しく大声を上げて、笑い出した。真夜が何事かと思って、東道に目を向けると、左手を差し出して、真夜を制した。

 

「実に生意気、且つ、面白い童ぞ!この東道青波を敢えて無碍にするか、こいつは大した大物よ。おい、童、そのまま育て。自由を求めてな」

 

一言、達也に告げて、東道は帰って行った。達也とあの怪物の間で、何が起こったのか真夜には理解出来なかったが、予想通り息子の達也が大胆な行動を起こした時は少し肝が冷えた。然し、達也は至って冷静で何事もなかったかの様に真夜の腕を掴み、自身の為に用意された施設に真夜を連れて行くのであった。

 

 




突然の来訪者に真夜の計画が次々明かされてしまいました。今後、どういう展開になるのか...
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