四葉真夜の息子~最も自由なる者   作:空陸

17 / 20
双子の生き甲斐~達也の成長

西暦2092年4月24日、達也は十三才の誕生日を迎え真夜達に盛大に祝福を受けていた。四葉を出てから色々な事があった。八才の時八雲の弟子になり、十一才の秋まで毎日稽古に励んだ。真夜達の事業も年々拡大し、全国に二十店舗を構えるまでに成長した。四十二才になった真夜と深夜だが、その美貌はたゆまぬ努力も相まって二十代にしか見えない若さを保っていた。

二人が美容に気を掛ける最大の理由は達也の存在である。達也は年々凛々しく成長を続け、今では真夜達の身長を越え、その見た目も父親の中学時代にそっくりに育っていた。そんな達也は帰国した際に二人をデートに誘う。それは二人にとって生き甲斐でもあった。達也は十一才の秋に【MIT】(マサチューセッツ工科大学)に通う為に渡米した。達也の護衛には東道が手配した部下が二十人現地入りし緊急時に備えている。その為、休みの期間しか日本には滞在していない。

 

今回の誕生日には真夜から達也へ遂に全てが語られる事になっている。この春休みを利用した帰国は、達也にとってそれだけの意味ではなかった。勿論八雲や東道へ挨拶に出向くが、真の狙いはある人物のスカウトだった。真夜と深夜にも協力をしてもらい、手筈をある程度は整えてある。達也は自身が考案したループキャストシステムを実現すべく、水面下で新会社設立を目論んでいた。その為にはその人物の協力が不可欠なのだ。

 

誕生日会を終えて、達也と真夜、深夜の三人はリビングにいた。深雪は京家に預け、いよいよ全てが語られた。父親の事、事件の事、家系の事、名前の由来、真夜の野望...話を黙って聞き終えた達也は微笑みながら、泣いている真夜を抱き締めた。

 

「真夜、よく今まで耐えて来たね。親父はこんなにも想われて幸せだ思うよ」

 

達也は泣いている真夜をあやしながら更に深夜にも声を掛けた。

 

「深夜もこっちにおいで、深夜もよく頑張ったね。此れからは俺が二人も深雪達も守るよ。約束する」

 

達也はそう宣言すると、深夜も一緒に抱き締めた。大事な双子がその腕から零れないように。

その後ベンジャミンから託された記録媒体を受け取り、達也は真夜と深夜に見守られながら、記録されていた通りの手順で成人の儀を執り行った。こうして正式に達也は成人の儀を終えて、十三才にして一家の当主に就く事となった。しかし留学中の為、卒業するまでは真夜が業務を担当する事になる。重大な決定に関しては達也の意思に委ねる形にし、それ以外は引き続き双子で取り仕切る事になった。

 

翌日、達也は予め真夜を通して面会をセッティングした人物との待ち合わせの店に来ていた。その人物はFLT、CAD開発第三課主任の牛山だった。達也は自身のループキャストを実用化する為、ハード面に優れた人材を自身が一年前に作製した【AI】(人工知能)をネットワーク上に放ち、情報を集めて人選を行っていた。あらゆるシステムから情報をかき集めた結果、牛山なら実現可能だと結論が出た。

 

「初めまして牛山さん。自分は【祈葉(いのりは)達也】という者です。本日はお越しくださりお礼申し上げます」

「御丁寧にどうも。...ん?兄ちゃんが俺に面白いアイディアを披露してくれるってか?見た目は日本人には見えないが...年は幾つだ?」

「父親が外国の人で母親が日本人です。つまりはハーフですね、年は昨日で十三才になりました」

「十三才でハーフねぇ、其れで俺にどんな面白いアイディアを披露してくれるんだ?」

 

牛山は挨拶もそこそこに本題に入った。それは達也に対して余り良い印象を持っていなかったからだ。いきなり何処かの会社の社長から電話で面会を求められ、今日呼び出された。来てみたら十三才のガキが話の相手だという。金持ちの道楽なら直ぐに席を立つつもりでいた。達也は牛山の心境を悟って早速本題に入る事にした。

 

達也の話を聞いた牛山は眼を見開き、実際に達也が考案したループキャストシステムの設計図とプログラムを見せて貰う事にした。端末を暫く黙って目を通していた牛山の手がブリブルと震え出す。全てに目を通した牛山は口を開いた。

 

「これを兄ちゃんが考えてプログラムしたってーのか?...こいつはすげーや。天才だな兄ちゃん」

「...確かに考案して設計したのは僕ですが、実用化するにはハード面を担当してくれる方の協力が不可欠です。ですので牛山さんに是非お願いしたいのですよ」

「何故FLTに勤めている俺に?それにどうやって俺を選んだ?」

「理由はFLT内で不遇な扱いを受けてる第三課のメンバーを引き抜きたいと考えているからです。人選方法はAI(人工知能)を使い、情報を集めて才能が特化した人物を選定しました」

 

達也は牛山にそう告げると、「A215、オープン」と口にした。すると、牛山の手元の端末画面がAIにより達也が選定した構成員のプロフィールに切り替わった。牛山はまたもや信じられないといった表情で画面上のプロフィールに目を通していた。其処には何人か知らない人物がいたが、第三課のメンバーが全員揃っていた。

 

「牛山さん、僕が考えているのはループキャストだけではありません。新魔法の開発も新しい技術もまだまだ沢山設計中です。そして僕には大きな夢があります。会社を設立する所から、一から牛山さん達に携わって貰い、存分に暴れて欲しいと思っています。如何でしょうか?」

 

達也の眼は情熱に燃えていた。技術者の牛山にとっては最高の誘いであった。FLTでは不遇な扱いを受け、年々予算や機材も満足に与えられず開発にも集中出来ない状態である。それでも牛山だけではなく第三課全員が奮闘していた。しかしリストラ寸前の者達が幾らアイディアを練っても第一課が手柄を横取りするなど、第三課のメンバーの士気は最悪な状態であった。牛山は現状から脱却すべく達也の誘いを受ける事にした。

 

「...分かったぜ!兄ちゃんの誘いを受けてやるよ。そして存分に暴れされて貰うぜ!」

「ありがとうございます、はい、牛山さんがワクワクするような素材を提供し続けますよ」

 

達也の誘いを受けて牛山は第三課のメンバーを集めて、達也が考案したループキャストシステムや達也の構想、熱意などをメンバーに聞かせた。始めは訝しげな表情を浮かべる一同だったが、実際に牛山がループキャストの設計図を見せながら説得すると歓喜の声が続々と上がる。苦楽を共にして来た彼らは牛山に賛同し、一から出直す覚悟を決めて、第三課全員で辞表を提出した。開発部門の総責任者、司波達郎は厄介者達が自ら退職した事を喜んだ。実は彼らを窓際に追い込んだ人物こそ司波達郎であった。

 

牛山の勧誘に成功した達也は東道青波と面会していた。達也の新会社設立の資金と設備などは東道から融資して貰ったからだ。達也にしてみれば東道がどのような思惑から協力してようが関係なかった。それはその上で東道を利用する事さえ考えているからである。

 

「青波、今回も色々と世話になる」

「相変わらず餓鬼が生意気言いよって、お前は少しも変わらぬ、達也よ」

 

達也は事も有ろうに東道を名前で呼び捨てにし、敬語も滅多に使わない。東道がどのような人物か知っている者からすれば卒倒物の態度である。しかし二人の間には緊張した雰囲気は全くない。初めて面通しした日から二人は互いの【本質】を見抜いていた。そんな二人に遠慮の二文字は存在しない。

 

「今更、青波に畏まる理由がないからな」

「お前は初めて(ツラ)を見た時からそうじゃ、この東道青波にそのような態度が許されるのはあの【御方】(おんかた)しかおらん。まぁあの御方はお前のように下品な言葉使いはせぬがな」

「...比較する相手を間違っているぞ、青波」

「伝説の家系という意味ではあながち間違ってはおらんわ、否、確かに身分が違い過ぎるな、お前とは」

 

達也が青波に指摘すると一旦は反論するが、身分の違いだという意味だと悟り笑いながら達也に同調した。そんな東道が達也は少しイラっとしていた。

 

「其れで、大学の方はどうだ?お前を渡航させた儂の手間に見合う成果は得られそうか?ん?」

「一々恩着せがましいぞ、青波。成果は想定以上だ、後二年も学べば理論は纏まりそうだ。その時は今までとは桁が違う資金が必要になる。頼りにしてるぞ、青波。」

 

達也の留学は東道が様々な手を加えて初めてUSNAに送り込めた。戸籍の改竄から住居と護衛の手配、緊急時の帰国ルートの確保など有りとあらゆる手段と根回しを駆使して渡航させたのだ。そんな東道は棘のある言葉で達也を少しおちょくってみたが、逆に達也から更なる支援を求められる形になった。

 

「こんな時だけ頼りにするでないわ。糞餓鬼が」

 

東道のその言葉で二人は悪い笑みを浮かべ笑い合った。

 

東道と別れた達也は八雲に挨拶すべく九重寺に足を運んだ。辺りは日が落ち始めており、オレンジ色の空から段々と暗くなり始めている。達也が門を括ると、八雲がいきなり全力の蹴りを達也に繰り出した。咄嗟の事だったにも拘わらず、達也は両腕をクロスさせ八雲の蹴りを防いだ。防がれた八雲は後方に跳んで距離を取り、反撃に備えた。

達也は自身のリミッターを外す一族の直系に継承される秘術を発動した。極限まで筋力が引き出された右足で地面を蹴り、八雲に高速で迫る。一気に間合いを詰めた形になった二人は其処から互いに攻撃と防御を高速で繰り返す。最後は八雲の加速術式が加わった正拳突きが決まり決着が着いた。

 

いきなり始まった勝負に漸く決着が着くと、二人は大の字になり地面に寝転んだ。二人は全身汗だくになり、肩で息をしている。二人の近接戦闘能力はかなり拮抗している所まで来ていた。息を整えた二人は立ち上がり、言葉を交わす。

 

「いやー達也君、年明けからまた腕を上げたねぇー。此れで僕の十の勝ち越しだけどね」

「ここ一年なら、俺の二つの勝ち越しですよ。師匠」

「あれ?そうだっけ?でも確かに達也君と互角に競えるのも、後一,二年だろうね」

「そうですね、大学を卒業するまでには完全に追い越して見せますよ」

「ゆーね達也君。僕もまだまだ修行が足りないかな。其れで今日はどうしたんだい?」

「俺も此処に通い出して五年になりますから、何時までも足踏みしてる訳には行きませんので。今日は師匠に帰国の挨拶と、四葉と七草弘一の動向について進展があれば聞かせて頂きたく伺いました」

 

九重八雲という人物はかなりの腕前だ。世界中を探しても彼を倒せる者はそうはいないだろう。然し達也にとっては体術と近接戦闘の師であっても、あくまで通過点に過ぎなかった。

 

「酷い言い草だね、達也君。まあ僕も本気で稽古出来る相手は達也君ぐらいしかいないから助かってるけどね。七草弘一の方は相変わらず閣下が押さえているようだよ。四葉も相変わらず裏の世界で悪名を轟かせているよ。内部の権力争いがますます激化してる様子だね」

「気を悪くしないで下さい、師匠。そうですか、青波が...四葉の方も相変わらずですか、此方まで迷惑な事に巻き込まれなければ良いですが」

「達也君の向上心は知ってるから気にしてないよ。閣下にそんな言動を出来るのは達也君ぐらいだね、全く。今の所は問題は其れほど無さそうだけどね」

「青波に言わせれば俺の他には御方(おんかた)だけだそうですよ」

「ああー成る程ね、それはまたとんでもない御方(おかた)と比べられたものだ」

 

八雲は東道が達也と比べた相手に納得したと同時に、そんな相手と比べられた達也に苦笑いで同情した。その後軽く雑談して達也は九重寺を後にした。

 

九重寺から自宅に戻った達也はそのまま風呂に入って一日の疲れを取り、真夜達が待つリビングに向かった。そこには帰省した達也と一緒に食事を取ろうと皆が揃っていて、二人の家政婦が食事を並べていた。達也は二人も共に食事を取るよう告げて総勢十一人で食卓を囲む事になった。

 

「達也兄さま、水波の隣にお座り下さい」

 

水波は満面の笑みを浮かべて達也に席を勧める。一瞬、真夜と深夜の蟀谷(こめかみ)がピクリと動いた。双子が水波を牽制するかのように自分達の間に座るよう告げるが、

 

「真夜様と深夜様は、明日達也兄さまとデートに出掛けられるではありませんか!昨晩もお誕生日会の後は、お二人で独占して...狡いです」

 

テーブルを両手で叩きながら水波は抗議する。水波は随分と勝ち気に育った、この双子を前にしても変に臆したりしない。それだけ四葉を抜けてから皆が仲慎ましく過ごして来たからか。

 

「水波!その言動は何ですか?後で私の部屋に来なさい!真夜様、深夜様(おかあさま)、娘が大変不躾な態度を取りました事、御詫びします」

 

否、そんな事はなかった。淑女としての教育を普段から叩き込んでいるだけに、流石にこの態度は穂波の怒りを買う事になる。穂波は二人に一礼しながら詫びを入れた。勿論、水波も普段はこのような態度を二人に取ったりしない。只、自身も達也に構って貰いたいという一心が水波の言動の原因だ。

 

「穂波さん、水波も悪気があっての言動ではないよ。真夜と深夜も水波に意地悪しない。俺は水波の傍に座らせてもらうよ」

「全く、伊吹や伊万里君もそうだけど、達也君も水波に甘いんだから!叱る時はちゃんと叱らないと駄目なのよ?」

 

達也の一言で双子は唇を噛み締め、水波は満面の笑みで喜んだ。この場は水波の味方に着いた。達也にとっても自身を慕ってくれる水波は妹のように可愛いのだ。達也と巻き込まれた形の伊吹と伊万里に対して穂波が呆れたように注意する。穂波に注意された三人は互いの顔を見合せ、達也は苦笑いし伊吹と伊万里は反省した表情を浮かべた。

その後は会話に花を咲かせながら食事を取り、楽しい時間は過ぎていった。最後に真夜から達也が【祈葉(いのりは)家】の当主に就いた事が皆に告げられた。各々が祝いの言葉を達也に掛けるが、深雪だけは余り祝福している様子はなかった。それは深雪が達也に対して言い知れぬ感情を抱えているからである。深雪とって達也は何か得体の知れない者という認識で、魔法力や体術、勉学も優秀過ぎるという印象だ。昔から魔法と体術の訓練、地下に籠って研究する事に殆んどの時間を費やしており、結局小学校も通わなかった。それが深雪が五年生の秋、突如MITに留学してしまう。同い年なのに何時も自分の遥か先を行く達也に追い付きたくて必死に努力してきた。しかし達也に対しての劣等感は少しも薄れない、それ処か何故か凄く気になる存在であった。その葛藤が達也に対しての態度に表れていた。どう接して良いか深雪自身も解らなくなっており、つい冷たい態度を取ってしまっている。

 

翌日、早朝から九重寺で稽古を行い帰宅した達也は、昨夜は実家に泊まった伊万里と久しぶりに手合わせする事になった。伊万里は去年魔法大学を卒業後、普段は真夜達の会社を手伝いながら、伊吹と共に裏の家業を行っている。水晶眼の制御も一高時代に克服し、今では兄の伊吹を越える逸材に成長していた。

場所を地下二階の訓練場に移した二人は向かい合い、一瞬の静寂の後ほぼ同時に動いた。リミッターを外した達也が伊万里の右側頭部めがけ拳を繰り出す。それに対し伊万里は達也の廻りの霊子(プシオン)から殺意という不快情動をいち早く察知し、拳を寸前で回避した。その威力は物凄い風圧が物語っている。

 

「おいおい、お前は僕を殺す気か!」

 

伊万里の問い掛けに達也は悪い笑みを浮かべ、

 

「そんな気はないよ。もし頭蓋骨が砕けたら死ぬ前に元に戻すつもりだったよ。其れにたまにはこういう訓練も必要でしょう?」

 

サラっと洒落にならない事を述べる達也に伊万里は呆れていた。 再生を行使すれば結果的に自身も苦痛を被る事になるというのに達也には躊躇いはなかった。そんな達也に対し、伊万里は自身も達也を仕留める気で行く事にした。其処からは互いの殺気がぶつかり合い、まさに死闘と呼べる内容に様変わりする。 結果伊万里は顎の骨と肋を六本砕かれ内臓は破裂、更に右膝の靭帯断裂という大怪我、一方の達也は無数の切り傷と左の眼球を潰され、右耳を削がれたが、最後まで立っていたのは達也であった。決着が着くと達也が再生を行使し、二人の死闘と呼べる訓練はこうして幕を閉じた。

 

伊万里との訓練を終え達也はシャワーを浴びてから朝食を皆で取った。伊万里には先程の訓練については口外しないよう口止めしていた為、この場で話題になる事はなかった。

朝食を済ませ、深雪と水波、伊織の三人は登校の為見送り、自身は部屋へ戻り大学で専攻している課題に目を向けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。