この日も英作は荒れていた。真夜が出産してから五日経っても面会謝絶の状態は解かれていないばかりか、その後の説明が一切なかったからである。既に癇癪を起こす寸前の英作は、真夜が出産した施設の前で足止めを食らっていた。そんな英作の前に、最愛の息子を抱きながら歩いてくる真夜と、それに付き添う深夜と葉山が出てきた。
「ご機嫌よう。英作叔父様、この度、多大なご尽力のお陰で無事に息子を出産する事が出来ました」
真夜が英作にそう言いながら軽く会釈をすると、真夜に続いて深夜と葉山が深く一礼した。
未だ冷静さを取り戻せていない英作は、言いたい事が山程あったが、頭に血が昇った英作は上手く言葉を紡げなかった。そんな英作を見て真夜がクスっと笑みを浮かべると、英作の顔が更に赤くなった。遂に爆発しそうな英作を真夜は左手を差し出して制した。
「英作叔父様、そんな怖い顔をしていては、この子が怖がって泣いてしまいます。五日間も面会謝絶していた事と、説明を一切しなかった事に関しても心が痛みましたが、まずは産まれたばかりの我が子の事を第一に考えた結果ですので御容赦下さいな。私自身も体力を著しく削ってしまった故に回復するまで時間が掛かりましたの。...子を産むというのは本当に大変な事なのだと改めて実感致しました」
感慨深そうに真夜が英作に向かって告げる。
そんな事を言われてしまえば、子を産む事など出来るはずもない英作には思う処はあれど、それを口を出せる筈もなかった。そんな英作を見て微笑んだ真夜だったが、微笑みの奥に一瞬、言い知れぬ深い闇のようなものを感じ取った英作は身震いした。英作の心境を知ってか知らずか
「英作叔父様も積もる話がお有りでしょうから、一先ず話は場所を屋敷に移してからに致しましょう」
真夜はそう言うと先導して屋敷へ歩き出し、その後ろを深夜と葉山が続く。真夜と深夜の後ろ姿を見ながら、英作は恐ろしい事を真夜と深夜が企んでいるのではないかと悪寒がした。
屋敷内は既に、今回の出産を知る者以外が屋敷から出され、別々の業務に振り分けられている。自身の書斎に到着した真夜と深夜は隣り合わせに
英作は向かいのソファーに座る。執事の葉山が真夜と深夜には紅茶を出し、英作には日本茶を出した。三人が一息入れたところで英作が口を開いた。
「真夜よ、取り敢えず無事に出産して良かった。おめでとう」
「ありがとうございます、英作叔父様」
「...して真夜よ、これからどうするつもりじゃ?何時までも、その息子の存在を隠せはしまい
?このままでは問題が増えていく一方じゃ。些か現実的には思えんのう。...そこで、まずは儂がその子を診断しよう。一見しただけでもかなりの魔法力を秘めていそうじゃが、詳しく診断してその結果と共に息子の存在を分家達にも知らせ、【次期当主候補】として教育した方が良いのではないか?」
「...叔父様の言い分も確かに一理ありますわね。しかし出生の真相を明かして分家の皆様にご納得頂けますでしょうか?」
「...その点に関しては儂からも進言しよう。奴には大漢の時の大恩もある。皆も話せば納得するはずじゃ。...外からの外聞もあるから反対する者も出るじゃろうが、儂も此れからの四葉に必要だと説得するのに力を貸そう」
真夜は一時考える素振りを見せるが
「分かりました。それでは、この子...達也と名付けました。達也の診断をお願い出来ますか?英作叔父様」
真夜の返答を聞いた英作は拍子抜けした気分だった。真夜を説得するつもりで提案はしたが、
何の抵抗も見せずに事が運ぶと思うほど英作も単純ではない。 釈然としない英作の様子を見兼ねて真夜は
「...私自身も息子を出産して、このままではいずれ綻びが生まれてしまうと思い至りましたの
。ですから、程度はあれど分家の皆様には公表した方が良いと判断しました。何処まで話すかは四葉家当主として私が決めます」
英作は言動の裏にある真夜の思惑を見透かそうと訝しげな目を向けるが、現実的にこれ以上ない話であるのも英作は理解しており、万が一にも真夜の気が変わらぬよう、話を進める事にした。
「うむ...では早速その子の診断をしてみるか」
そう言うと、英作は立ち上がって真夜の側まで来て真夜に抱かれている達也の胸に手を軽く当てて、英作は静かに瞳を閉じる。英作の固有魔法は、対象の魔法技能を解析する事が出来る。この技術は
四葉の者は代々【特異な固有魔法】か【精神干渉系魔法】のどちらかを得意として産まれてくる事が多く、それはランダムで発生する。精神に関する研究を行っていた第四研究所は、設立当時、【精神干渉系】が得意な魔法師の他に、【特異な魔法】を持つ魔法師も密かに集めて実験に加えていた。その為、代々四葉家はどちらかの能力を有して産まれてくる事が多い。
暫く達也を視ていた英作の額に冷や汗が滲み出て来た。と同時に英作はゆっくりと目を開く。
「なんだ...この子は...」
英作はそう呟くと思わず後退り、真夜は驚愕している英作を見てクスッと笑みを溢した。英作はそんな真夜を一瞥した後、
「...この子は【世界を破壊する力】を秘めている。それに魔法力、想子保有量共に既に真夜...お前と同等はあるかも知れん」
驚愕の結果を信じられない。しかし英作の驚きはまだ終わっていなかった。
「その魔法以外に...これは治癒魔法?いや..違う【再生】か?...まだ他にもあるようだが儂でもはっきりは視えん。これほど魔法を有しても【魔法演算領域】にはかなりの空きがあるように視える。...本当に人の子なのか?」
何とか正気を保ちながら英作は真夜に呟いた。しかし、真夜ばかりか深夜も動じる様子は微塵もない。その様を見て英作は悟った。この双子はこの赤子の能力を予め予測していたと。それどころか、そういう能力を秘めて産まれて来る事を願っていたかもしれないとさえ思った。英作が双子に本能的に恐怖する中、真夜が口を開く。
「そうですか。英作叔父様、お疲れ様でした。達也の存在は一ヶ月後、分家の皆様の集めて報告致します。達也の能力についても、私が判断して何処まで話すか決めます。宜しいですね?英作叔父様」
英作の思考を止めるのには真夜の有無を言わせぬ表情だけで容易かった。
産まれたばかりで真夜に匹敵する魔法力に想子保有量、【分解】と【再生】の他にも固有魔法が存在する事が明らかに。
ある理由から英作でもはっきりと視えなかったようです。その能力には真夜と深夜も関わっています。展開はゆっくりですが今後も宜しくお願いします。