~とある森~
「ハッ、ハッ、ハッ…」
木々の間を少女は走り抜ける。
(どうして…)
後ろを確認しながら少女は考える。
どうしてこんなことになってしまったのか、と。
後方から木々をなぎ倒す音が少女に近づいてきている。
(あんなのいるなんて聞いてない!)
行き場のない怒りで頭がいっぱいになる。
ただ薬草を取りに来ただけなのに今少女は人生最大の危機にあった。
(いや!こんなところで死にたくないッ!)
少女は精一杯走る。
走って走って、とにかく走る。
既に数分は走っているだろう、身体からは玉の様な汗が出ている。
しかし音は少女に近づいていくばかりだった。
その事実に背中には冷たいものが走り、かいていた汗が余計に冷たさを意識させる。
「キャッ!?」
疲れからか恐怖からか地表に出ていた木の根に足を引っかけ転んでしまう。
起き上がろうとするものの痛みと疲労でうまく立ち上がることができない。
「早く…逃げなきゃ…」
少女は近くの木に縋りつき立ち上がるが足は震えるばかりで前に進まない。
そしてそんな事情は知らないとばかりに無情にも音の正体はすぐ後ろまで来ていた。
「あっ…」
少女は振り返ってしまった。見てしまった。
それは触れるもの全てを切り裂くであろう爪、砕けぬものはないであろう牙を持つ体長15メートルは優にある獣だった。
今度こそ少女の足から完全に力が失われ、膝が地面についた。
「あぁ…」
獣が腕を振り上げる。
その腕が振り下ろされれば少女は原型をとどめない肉塊になるであろう。
(お父さん…助けてッ!)
獣の腕が振り上げたところでピタリと止まる。
標準を定めるためではない、少女の恐怖を煽るためだ。
少女の目からは大粒の涙が零れる。
(誰でもいい…誰か…)
そして獣の腕が振り下ろされる。
「助けて!!」
「はいよ」
少女の叫びに誰かが応えた。
「えっ…?」
振り下ろされた腕が少女に届くことはなかった。
獣の腕は止められていた、たった一人の人物に。
「うそ…」
少女はこれが夢なんじゃないかと疑う。
それもそのはず、その人物は少年なのだから。
あまつさえ片手で獣の腕を止めている。
こんな光景を見たらまず自分がおかしくなったのだと思うだろう。
「よいしょっと!」
少年は獣の腕を掴み、数十メートル投げ飛ばす。
やはり夢なのかもしれない、そう少女は思ったが足に痛みがはしる。
その痛みがこれが夢でないことをつげていた。
「大丈夫か?」
「えっ!?あっ、うん」
「ならよし、ちょっとそこでじっとしてろよ?」
そう言うと少年はそこらに落ちている枝を何本か拾い、見比べ始める。
少女がそんな少年を不思議そうに見ていると木々をなぎ倒す音が響き渡る。
「嘘!?まだ動けるの!?」
それは獣が少年に向かって猛スピードで突っ込んできている音だった。
少年の耳にもその音は届いているはずだが気にした様子はなく枝を見続けている。
「ん~、どれにすっかなぁ」
「ちょっ!?キミ、後ろ!後ろ!」
既に獣は少年の後ろまで来ており、勢いそのままに噛みつこうとしていた。
「よし、これだな」
少年は振り向きざまに枝を一振りする。
それだけで勝負はついた。
一瞬の突風の後、獣は真っ二つになり絶命した。
「にしし、晩飯ゲ~ット」
「・・・・」
少年は獣から剥ぎ取りを開始する。
その光景に少女は言葉を失う。
しかし目の前の少年が獣を殺したということだけはわかった。
(助かった…)
獣の脅威が去り、少女の緊張の糸が緩む。
すると足の痛みがより鮮明になってくる。
「よかったぁ~!」
少女は仰向けになって生きていることを喜ぶ。
目の前の少年が味方かどうかはわからないことぐらい少女にもわかっていたが、死の淵を体験したことと少年の圧倒的強さの前では考えるだけ無駄だと感じているのだろう。
(でも一体何者なんだろう?)
少女が体を起こすと獣をロープでしっかりと結んでいる少年の姿が見える。
「ねぇ、君いったい何者なの?」
少女がそう尋ねると少年は手を止め少女の方を向く。
「俺はメリオダス。
「メリオダス・・・・ううん、聞いたことない」
「そうか・・・・・それじゃあな。気をつけて帰れよ」
いつの間にかロープを結び終えた獣を引っ張り、メリオダスはその場を去ろうとする。
「・・・・ん!?ちょ、ちょっと待って!」
少女は急いでメリオダスの服の裾を掴む。
「どうした?」
「私まだお礼してないよ!」
「そんなこと気にすんな。俺は飯を確保しただけだしな」
「いや、でも結果的に助けられたし、なにかおr『グウゥ~』―――・・・///」
「まずは飯だな。」
・
・
・
・
「ほいよっ、こんがり獣肉だ」
「ごめんなさい、助けてもらっただけじゃなくこんなおいしそうなご飯まで…」
「気にすんなって」
「うん―――――
「うまい飯とは言ってねぇからな」
不味いなこりゃ、と言いつつもメリオダスは食べる手を止めない。
「よく食べられるね…」
「慣れってやつだ。それよりお前なんていうんだ?」
「リーフだよ。この先に行くと村があってそこに住んでる。メリオダスはどこからきたの?ここらへんじゃ見たことないけど」
メリオダスは残った骨である方向を指す。
「あっちだな」
「あっち、ってそう言う事じゃなくて出身地は?」
「はて?どこだったか」
「いいじゃん教えてよ」
リーフの言葉にメリオダスは頭をポリポリとかく。
「ほんとに覚えてねぇのさ」
「えっ…」
「覚えているのは名前と名称だけでそれ以外はさっぱりだ」
「誰か教えてくれなかったの?家族は…?」
「目が覚めたときには誰もいなかった。あった物といえばこの剣一本だけだ」
メリオダスは背負っている剣を指さす。
「・・・・・」
「お前が暗くなることじゃねぇ~よ!」
そう言うとメリオダスは立ち上がり、荷物をまとめる。
「そういうわけで俺は自分探しの旅の途中なんだ。じゃあな」
「―――――待って」
「うんにゃ、待たない」
リーフの声を無視してメリオダスはこの場を去ろうとする。
行く当てもなくさまようのは目に見えて明らかだった。
「自分のことが分かるかもしれないのに?」
その一言でメリオダスの足が止まる。
「―――――どういうことだ」
「うちの村にすっごいもの知りなおじいちゃんがいるの。メリオダスはすっごい強いからもしかしたら知ってるかも」
「なるほど、行ってみる価値はあるな」
「じゃあ決まり!ついでに美味しいごはんも食べさせてあげる」
「んじゃ、案内頼む」
・
・
・
・
「ねぇねぇ、なんでさっきその剣使わなかったの?」
道中リーフは気になっていたことを尋ねる。
先ほどの獣との戦闘でメリオダスは剣を抜く素振りすら見せなかったからだ。
「余裕だったから」
「剣使えばもっと余裕じゃないの?」
「ちと名剣すぎんだよ、これ」
「どういうこと?」
「最低限に抑えたつもりでもかなりの威力が出ちまうのさ。例えばさっき使っていたなら森の一帯の木がなくなっていただろうよ」
「それってすごすぎ…―――あっ、でもそんなすごい剣を持っているなんてメリオダスはやっぱり騎士様なのかもね」
「騎士様?なんだそれ」
「えぇ!?そんなことも忘れちゃってるの?騎士様ってのは―――――」
騎士とはたった一人でも一国の兵力に匹敵する力を持ち、その力の強さから英雄などとも呼ばれる存在のことである。
民からは尊敬や畏怖の念から騎士様と呼ばれている。
「へぇー」
「どうでもよさそうに聞いてるけどメリオダスは騎士様かもしれないんだよ?」
「かもな。それで、村にはまだ着かないのか?」
「えぇーっとね、村までは後すこs・・・・・煙…?」
向かっている方角から煙が上がってることにリーフは気づく。
その煙はリーフの住む村から上がっているものだった。
「みんなっ!?」
リーフは走り出し、メリオダスも合わせるように走る。
「あれはお前の村からか?」
「うん、何かあったんだわ!」
「そうか、なら急ぐぞ!」
メリオダスはリーフを抱え、負荷がかからない速度で森を駆ける。
近づくほどに焦げ臭いニオイが二人の鼻につく。
「村が…」
「賊か」
村についた二人が目にしたものは焼かれている建物と暴れまわっている賊の姿だった。
その光景を目にし、リーフは固まってしまう。
「み、みんなは…」
「安心しろ、村人は広場に集められているみてーだ。拘束されちゃいるがな」
「メリオダス、皆を助けて…」
「リーフ、お前はここにいろ」
頷くリーフを見てメリオダスは広場に向かって疾走する。
道中の賊は通り過ぎざまに倒していく。
「よぉ!小悪党ども」
「なんだこのガキィ!」
「まだ隠れていやがったか」
広場に姿を現したメリオダスに対して賊が近づいて行く。
「ガキじゃねぇよ」
拳を横に一振りすることで数人まとめて吹き飛ばす。
「このガキ何もんだ!?」
「数でおしゃーいいんだよ!」
「懲りないやつらだな」
「やめとけ、お前たち」
メリオダスが拳を構えたところで奥から一人の男が出てくる。
「お前が頭か」
「あぁそうさ。で、お前もただのガキじゃねぇな」
「だからガキじゃねぇって言ってんだろ」
「お前がガキかどうかなんてなぁ、どうでもいいんだよ!重要なのはお前が俺達に喧嘩を売ってくれちゃったってことだけだからなぁ」
男が指を鳴らすと巨大な獣が建物の陰から数匹出てくる。
その獣たちは先ほどメリオダスが仕留めた獣に酷似していた。
「その獣、お前たちの仕業だったわけか」
「おっ!知ってんのか?こいつらはなぁ俺が独自に品種改良しているやつらでよぉ、結構な自信作なんだぜ?」
「ふ~ん、味はいまいちだったけど・・・な!」
そこらにある小石を蹴り飛ばし、村人に近づく賊を倒していく。
「あ~あ、つまんないことするからやられんだよお前たちはさぁ~。ていうか一匹戻ってこないと思ったらお前が
これならどうかな?
男の言葉とともに村中から獣が出てくる。
その数は優に三十体を超す。
「なん十体来ようと関係n――――――ッ」
突然メリオダスの脳内にある風景が映る。
燃える民家。
何重もの悲鳴。
飛び散る鮮血。
赤き光を閉ざす暗闇。
「なんだ…これ…――――」
「――――グオォ!!!」
「キャアァ!?」「何てひどい…」
頭を押さえたメリオダスを獣が殴りつける。
そこに続々と押し寄せる獣たち。
メリオダスに希望を見出し始めていた村人たちにも精神的にこたえるものである。
(今のは・・・・俺の・・・記憶・・・?)
殴られるごとに身体がミシミシと悲鳴を上げる。
しかしそれよりもメリオダスは頭が痛んだ。
燃える炎に絶えず響く悲鳴。
「あれれ~?余裕な態度はどこ行ったんだぁ~?まぁ、もうミンチか。ハハハハハ!!」
「―――――せぇ…」
「ハハハハハ―――――あ?」
「うるせぇ!!」
獣が集まる中心地、そこから黒い何かが蠢く。
そして次の瞬間獣がすべて消し飛び、突風が村中を駆け巡る。
座らされていた村人たちは転がり、賊達はひっくり返り、民家についていた火はすべて消えた。
その中心地に立つのはただ一人、メリオダスだけだ。
「はっ?」
「おっ!声が消えた」
かろうじてその場で堪えていた男は目の前の光景が信じられなかった。
自信作である獣が一瞬にして吹き飛んだ、男を唖然とさせるには十分すぎるほどの出来事である。
「で、まだやんのか?」
にしっと笑いながらそういうメリオダスは男にとっては悪魔にしか見えないだろう。
「こ、降参だ。俺らが悪かったからせめて命だけでも!?」
「じゃあさっさと子分全員集めろ」
「わ、わかった。そのかわり命は――――」
「
「わ、わかりました!」
「うし、一件落着だな。お前らの処分は「化け物!これを見ろぉ!」―――リーフ!」
振り返ると男の部下がリーフを捉え、首元にナイフを突きつけていた。
「隙を見せたなぁ馬鹿め!!」
振り返ったメリオダスに対して男は渾身の魔力弾を発射する。
そのタイミングは完璧であり回避は不可能――――
「【
――――なはずだった。
メリオダスを飲み込もうとしていた魔力弾は数倍にも膨れ上がって男を飲み込んだ。
「へっ?―――グヘッ!」
呆けた部下の男の隙をメリオダスが見逃すわけもなく、リーフは無事に救出される。
「あ、ありがと」
「動くなって言っただろ」
「ごめん…でもメリオダスが負けそうなの見てたら居てもたってもいられなくて…」
この言葉にはメリオダスも微妙な表情をする。
今回の落ち度はメリオダスにあった。
「でもどうやってあの攻撃を防いだの?ていうかなんで相手がくらったの?」
「俺の魔力である【
「魔力?魔力に名前がついているの?」
「なんかおかs「リーフ!!」―――ん?」
一人の男性がリーフに抱き着き、そのまま抱える。
「お父さん!無事だったんだね、良かった」
「帰ってこないから心配したんだぞ、本当に無事でよかった」
「メリオダスが助けてくれたの!」
「メリオダス?こちらの賊を退治してくれた騎士様のことかい?騎士様、本当にありがとうございます!」
「騎士かどうかはわかんねぇけど俺が
「メリオダスは記憶喪失で自分探しの旅の途中なんだって、何か知らない?お父さん」
「う~ん、聞いたことないな。村の者にも聞いておきますからなにかわかったらお伝えします」
「サンキュー」
リーフと父親は村人の手当てなどに戻り、メリオダスは瓦礫の上に座った。
きびきびと動く村人たちを眺めながらメリオダスは考える。
(さっきのは俺の記憶なのか?)
断片的なものだったためメリオダス自身よく把握できていないようだ。
しかし、ひとつだけはっきりしていることがあった。
「歩き回んのも無駄じゃないってことか」
収穫はあった。
それだけでメリオダスの足には力が入る。
「メリオダス様・・・でよろしかったでしょうか?」
メリオダスのもとに一人の老人がやってくる。
「そうだけど、爺さん何か用か?」
「リーフから事情は聞きました。なんでも記憶をなくされているとか。儂なんかの知恵でよければいくらでもお貸ししますぞ」
「妖精が知恵を貸してくれるとは頼もしいな」
「っ!気づいておられましたか」
「まぁ、魔力量の違いだな。爺さん目立つんだよ、人間と一緒にいる妖精族ってのも珍しいからな」
老人は既に数百年は生きているであろう妖精族であった。
ならばその知識は人間の何倍もあることだろう。
「それで
「・・・・一つだけ、一つだけ聞き覚えがあります」
「ほんとかっ!」
「いや、しかしこれは…」
「どんな情報だっていい!教えてくれ!」
老人は何やら口にするか迷っている。
しかしメリオダスの方も自身のことが分かるかもしれないため老人を急かす。
「・・・・・
「七つの大罪…」
そのワードがどうしようもないほどメリオダスの心に刺さる。
「その者たちの強大な力は一つの世界だけでなく他の世界にまで影響を及ぼそうとしていたのです。そんな彼らは大罪人とされ、激闘の末滅ぼされたと聞きます。そしてその中の大罪の一つが――――」
「
「はい。しかし、これは子供に聞かせるおとぎ話のようなもので実在したかは定かではありません。恐らくはその名称はその七つの大罪の話をモチーフにして名付けたのでしょうがそんな忘れ去られているおとぎ話を一体誰が…」
「なるほどな!サンキュー爺さん、それだけわかれば十分だ」
七つの大罪、それがメリオダスにとって重要ななにかなのは間違いないだろう。