とある町の一角。
そこに一軒の食事処があった。
しかしただの食事場ではない。
【可愛い従業員に癒されよう!本日オープン!】
扉の前にある看板にでかでかと書かれた文字。
その脇にはメイド服を着た従業員の写真が所狭しと張られていた。
そう、所謂メイド喫茶だった。
「ここだな。あいつら撒くのに苦労したぜ」
そしてその扉の前に立つは我らがメリオダス。
彼の手にはこの店のパンフレットがしっかりと握られていた。
「開店時間前にはちと早いがあいつらに見つかると面倒だし・・・入っちまえっ」
カランカラン、と軽快な鈴の音と共に扉が開かれる。
「邪魔するぜ・・・・って誰もいねぇ?」
開店時間まであと一時間だというのに店内には人っ子一人いない。
これではメイドを見て眼福しながら待つメリオダスの計画は台無しになってしまう。
「ん?誰か倒れてんな」
メリオダスが向かったのは奥のカウンター。
そこの隅から足が少し飛び出ていた。
引っ張り出してみれば通信機を持ったまま泡を吹いている男が出てきた。
「おいおい、こんな調子じゃ開店時間が遅れちまうって」
楽しみに来たメリオダスとしてはそれは避けたい。
少し強めに男を揺すってみることにした。
「おーい、おきろー」
「・・・はっ!?こ、ここは!?私は一体なにを・・・」
「ここは新しくオープンする店であんたはそこの隅で泡吹いて倒れてた」
「店…?・・・・そうだったー!?」
外にまで響きそうなほどの声量。
思わずメリオダスも真顔で両耳を塞ぐ。
「な、なんと言う事だ…もうおしまいだ…」
「泡吹いて倒れてたり、起きた瞬間叫んだりしてどうしたんだ?」
「・・・というよりも君は一体…?・・・それは」
男の視線はメリオダスの手に向いていた。
その手には握りしめられたこの店のパンフレット。
「そうか…君はお客さんだったのか…」
「わりぃ、開店時間前に入っちまってよ。それで開店まで中で待ってていいか?準備ぐらいは手伝うからよ」
「・・・残念ながら開店するときはこなくなってしまったんだ…楽しみにしてくれていたようなのにすまない…」
申し訳なさそうに俯きながら男はメリオダスに謝る。
その顔には悔しさが満ちていた。
「どうしてだ?」
店内を見渡せば掃除が行き届いた椅子やテーブルに装飾品。
厨房からの料理のいい匂いはここまで届くほどだ。
あとは従業員さえくれば何も問題はなさそうだった。
「・・・従業員が風邪でこれなくなってしまったのさ…全員ね…」
「そいつは災難だな。それじゃあ数日は開けねぇな」
「いいや、今日オープンできなきゃもうこの店はお終いなのさ…」
「そりゃまたなんでだ?」
「こういう店を開くことは私の夢でね。料理の腕を見込まれて店を持たないかと言われたときは舞い上がったもんさ。しかし、僕の提案したこの店にスポンサー側は反対派だった。そんな意見を絶対にうまくいくとなんとか押し切ってオープンまでこぎつけたんだ。だからオープン実績を見せつけなければこの店はすぐに他の店に変えられてしまうんだ。まぁ、オープンすらできないなんて問題外だけどね…」
男の表情からはいつの間にか悔しさはなくなっていた。
代わりにあるものはあきらめだ。
「あーあ、やっぱり無理だったのかな…反対されてばっかだったし…」
「・・・俺はよ、最初にこいつを町で受け取った時驚いたぜ?世の中こんなすげーこと思いつく奴がいるのか、ってな。そんですげー楽しみにしてた」
「・・・」
「だから、あんたは間違ってねぇ。少なくともここに一人はあんたの夢が心をつかんだ男がいるんだからな」ニシシッ
嘘偽りない言葉に無邪気な笑顔。
そんな純粋な男を前に男は再び決意した。
「・・・ありがとう、救われたよ。・・・私はいつかまた自分の力で店を開こうと思う。だからその時は君のことを招待させてくれ」
男の顔はとてもすがすがしいものに変わっていた。
否定され続けてきた夢をたった一人にでも肯定してもらえた。
それだけのことだがそれはとても大きい。
だから男は夢を追い続けることができる。
「断る」
「えっ?」
えっ?そこで断るの?
男の顔にはまさにこのような言葉がかかれていた。
「なに諦めてんだよ?俺はこの店がいい」
「む、無理を言わないでくれ!?」
「オープンさえできればあとは何とかなるんだろ?」
「そのオープンが無理だと先ほども言っただろう…?従業員の代わりを今から見つけるなんて無理だ!」
「そうでもねぇさ。俺に考えがある」
メリオダスの表情は自信に満ちていた。
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「というわけだ。頼むぜお前たち」
「いえ、我々まったく状況が呑み込めないのですが…?」
男―――ハバラとの会話を終えメリオダスは店を飛び出し、宿まで戻ってきていた。
ヴォルケンリッターも探していた主が帰って来たと思ったら開口一番にこれで困惑する。
「仕事さ、仕事。とにかく時間がねえからついてきてくれ。あっ、武器はいらねえから」
「ど、どういうことですか?」
「まぁまぁ、いいからいいから」
メリオダスに言われるがまま付いて行くヴォルケンリッター。
「戻ったぞ」
「メリオダス君本当に大丈夫なのかい!?君だけが頼りだからね!」
「まぁ、見て見ろって。入ってきてくれ」
メリオダスの掛け声でヴォルケンリッターが続々と店内に入る。
「わぁ!可愛いお店ですね!」
「なんとも変わった食事処ですね…」
「ここが今日の仕事場か?」
「いやいや、腹ごしらえじゃないか?えへへ、あたしオムライスってのにしようかなー」
「か、完璧だー!?」
「「「「っ!」」」」
「だろ?」
「完璧だよメリオダス君!これならなんとかなりそうだ!」
「ならさっそく指示をくれ」
メリオダスの手を取り、ブンブンと振るハバラ。
どうやら彼のイメージと一致したようだ。
「あのー我々は一体何をするのですか?」
「まだ何も説明されてませんね」
「俺達の仕事はこの店の運営だ。因みにこっちが店長のハバラ」
「急なお話ですがよろしくお願いします」
「えぇー!なんだ、ご飯じゃないのかー…」
「もちろん皆さんには後でご馳走しますのでご安心ください」
「えっ、マジ?やったー!」
「それで何をすれば?」
「とりあえず皆さんあちらの更衣室で店の制服に着替えて頂けるでしょうか」
そう言ってそれぞれに袋を渡していくハバラ。
そして各々、更衣室に入り十分ほど。
全員の着替えが終わる。
「じゃーん、どうですか?」
「た、丈が少し短くないか…!?///」
「気にしすぎよ」
「おぉお~~壮観!やっぱり俺の見立てに間違いはなかったみてえだな」
メイド姿のシャマルとシグナム。
そのコンセプトは【見えそうで見えない】である。
「これは少々首元がきついですな」
「似合ってるぜーザフィーラ」
「恐縮です」
ザフィーラの服は執事服となっている。
役目としては従業員に手を出させないための客への牽制だ。
「・・・納得いかない…!」
そしてヴィータはというと・・・
「どうしてアタシはエプロンなんだよー!」
いつもの服にエプロンをつけただけだった。
「落ち着け、俺もエプロンだ」
「そんなフォローいるか!アタシも可愛いのがいい!」
「・・・ごめんね。君たちに合うサイズの制服がないんだ」
「まっ、当たり前だわな。それぐらい我慢しろ」
「・・・わかった…」
渋々納得をするヴィータ。
「では皆さんもうすぐ開店ですのでよろしくお願いします。接客のお二人には今から軽くこの店独自の接客についてお教えしますので」
「独自ですか?なんか難しそうですね?」
「大丈夫ですよ。逆にこれさえ守ってくれれば他は多少つたなくても構いません」
「それならば私たちでもできるかもしれない」
「気張らずいきましょう。いいですかまず――――」
・
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「お、おかえりなさいませご主人様!」
そして赤面。
シグナムの身体がプルプルと震える。
シグナムは恥ずかしすぎて死にたい気分だった。
「よき…」
しかし、皮肉なことにその反応が客の心を掴んでいた。
一方、シャマルもまた客の心を掴んでいた。
「おかえりなさいませ~ご主人様~!こちらのお席にどうぞ~」
まるで熟練の従業員のような動きで客をさばいていく。
その仕事ぶりに眩しい笑顔がついているのだから視線を集めるのは当然だった。
そしてその視線を感じ、目が合えば優しく微笑み手を振る。
「ふふっ」
「結婚したい・・・」
二人が客から女神のように見られるまでにそう時間はかからなかった。
「どう?問題なさそう?」
調理の合間をぬってハバラが様子見に来る。
「今のところ問題はない。シャマルがドリンクをうまく作れない以外はな…」
「えっ?結構簡単なはずなんだけど…」
「ちょうど持って行ったから見ておくといい」
男性客のもとにシャマルがコップを置く。
「お待たせしました、こちらメイド特製ドリンクになりまーす」
「こりゃ美味しそうだ。いただくよ・・・まずっ!」
「えぇー!?」
男性客は思わず吹き出してしまう。
「た、大変だ!?すぐに止めないと!?」
「いや待て。それがだな…」
ザフィーラはハバラを止め、遠い目をする。
「いやしかし・・・メシマズもありだな!」
「そんな~!?」
なぜだか男性客は喜んでいる。
というよりその反応を見て他の客も注文している。
これにはハバラも遠い目になってしまう。
「というわけだ」
「おーけー…問題はないみたいだ…」
そういって厨房に戻る。
そしてその厨房はというと。
「うおぉぉぉ!すごい注文の数だ!厨房は私が守らねば!」
ハバラが死ぬ気で鍋を振るっていた。
「これなら俺にも出せるぜ!【特製ミートパイ】に【アップルっぽいパイ】だ」
「美味しそうだ!さすがメリオダス君だ!頼りになる」
「おーいザフィーラ!シャマル達にも料理どんどん運ばせてくれー!」
「うおぉぉぉ!」
「あっ(察し)」
ただ一人状況を察したヴィータはなにも見なかったことにして皿洗いを続けた。
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「ふむ、なぜか俺も皿洗いになっちまった」
「いやまぁ、前があんだけまずいまずい騒いでんだからそうなるだろ」
「うおぉぉぉ!うおぉぉぉ!」
十数分後にはハバラ一人で鍋を振るっていた。
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「皆さん今日はお疲れ様でしたー!本当にありがとうございます」
「つ、つかれた…」
「そう?楽しかったじゃない」
ガクンッ、と一番に崩れたのは珍しくもシグナムだった。
逆にいつも最初に崩れるシャマルが一番元気だった。
「とりあえずこれで終わりだろ?はやくオムライス食いたい!」
「お前は食い意地が張っているな」
「別にいいだろ?皆だってお腹空いてるだろうし」
「確かにお腹減りましたね」
「では作ってきますから皆さんくつろいでいてください」
どんっ
ハバラが言い終えた瞬間、シグナムは座り込んで机に頭を突っ伏した。
そしてそこからピクリとも動かなくなる。
「シグナムでこれって前の仕事はそんなに大変なのか?そのわりにはシャマルが元気だけどさ」
「相性だ。我らが将にはこの仕事は堪えるらしい」
「えぇー、楽しいのに?シグナムも可愛かったわよ?」
「・・・・いうな…」
「あれ、メリオダスは?」
「さっきハバラさんと一緒に厨房入っていきましけど?」
「「「っ…!」」」
その言葉に突っ伏していたシグナムさえ顔を上げる。
シャマル以外の顔が青ざめていく。
「やばい!今すぐ止めろ!」
三人は急いで厨房に向かうが・・・
「お待たせしました」
「お待ちかねのオムライスだぞー」
時すでに遅し。
既に人数分の皿を持ったハバラとメリオダスが出てくるところだった。
「遅かったか…」
「いやいや、全然待ってねえだろ?」
「そういうことじゃない…」
「?へんな奴らだな」
「ささ、皆さん席についてください」
テーブルには人数分のオムライスが並べられていく。
見た目はよだれが出そうなほど美味しそうな出来だ。
(シャマルもメリオダスも見た目だけは美味しそうなもの作るんだよな…)
(せっかく作っていただいたものだ。食べなければ失礼だが…)
「どうした?食わねえの?」
「そうですよ。美味しいのに」
(シャマルは味音痴だからあてにはならないんだよな…)
「い、いただきます!」
(ザフィーラ、行くのか!?)
(さすがザフィーラだ!)
「・・・・うまい…うまいぞ!?」
「「えっ」」
食べたザフィーラはもちろんの事、その反応に二人も思わず声を上げてしまう。
そして恐る恐る一口運ぶと・・・
「・・・うっまー!」
「・・・おいしい」
「気に入っていただけて何よりです。おかわりもありますから」
「いくらでも食べられるってこれ!でも、なんでだ?メリオダスも一緒に作ったのに・・・あっ」
「ふむふむふーむ、なるほどなぁ。さっきからなんかおかしいと思ったらそういうことか・・・」
ビクッと肩が震える三人。
シャマルはよくわかっておらず頭の上にははてなマークが浮かんでいる。
「あはは!そんなこと心配してバカだなぁ。俺が料理できる奴がいるのにするわけないだろ」キリッ
「かっこつけて言う事じゃない・・・って、じゃあなんで厨房に?」
「あぁ、ちょっと許可をな・・・ほらよ」
いつの間にかメリオダスの足元には紙袋があり、その袋をヴィータに放り投げる。
突然のことでギリギリ受け止めるヴィータ。
「あぶないだろ!」
「まぁまぁ、中身見て見ろって」
「・・・服?」
「出してみろ」
言われるがまま紙袋から服を取り出す。
出てきたのはフリルが付いた可愛らしい服だった。
「それ着てれば前に出ていいってよ」
「えっ?」
「着たかったんだろ?お前にやる」
ポカンとしていたヴィータだが徐々にその顔がパーッと晴れやかになっていく。
「マジ?ほんとにほんと?」
「嘘ついてどうすんだよ」
「やった!ありがとう!」
服をもってくるくると回り始めるヴィータ。
その光景は皆を自然と笑顔にした。
しかしその中で一人真顔なものがいた。
シグナムだ。
「あのー、主メリオダス。この仕事は今日で終わりなのでは…?まだ終わってないかのような口ぶりですが…」
「ん?最低あと二日はやるぞ?ここの従業員の風邪が治るまでちょっとかかりそうだからな」
「それは責任重大ですね!今日より頑張りましょシグナム」
「・・・・」
「シグナム?・・・・き、気絶してます…」
「で、では皆さんこの調子でよろしくお願いしますね」
こうして犠牲を出しながらもハバラは実績を出し、この店は存続していくことになる。
そしてこの数日間の売り上げは伝説となった。