リリカルフルカウンター   作:ハーゼ

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とある街の宿。

そこでテーブルを囲って会議が行われていた。

やっているのはもちろんメリオダス達だ。

 

「さて、そろそろ次の次元を目指す訳だが…」

 

「はーい、私は綺麗なところが多いところがいいと思います!」

 

「あたしは面白いとこ。なんかこうグワァーって感じの」

 

「温泉がある所が良いですね。この前初めて入りましたがあれは良いものです」

 

「主と共に行けるのならばどこへでも」

 

議題は次の次元世界について。

思い思いの場所を上げていく面々だが・・・

 

「金がない」

 

両手を上げ、肩をすくめるメリオダス。

強かろうが金に関してはまさにお手上げだった。

 

「・・・メ、メリオダスちゃんたら冗談ばっかり~。つい先日、食事処で仕事をしたばかりじゃないですか。ねぇ、シグナム?」

 

「わ、私に振る必要はないだろ!?思い出すだけで恥ずかしい・・・大体あそこの服はなんなんだ?あんなフリフリした服では動きにくいではないか・・・」ブツブツ

 

「似合ってたわよ?」

 

「い、言わんでいい!」

 

「アタシは楽しかったけどな」

 

「ヴィータちゃんも可愛かったわねー」

 

「シャ、シャマルには敵わないって。一番馴染んでたし。シグナムもそう思うよな?」

 

「そもそもああゆう服はシャマルに似合うのだから私が着る必要はなかったのでは…?」ブツブツ

 

「・・・ふむふむ、完全に自分の世界に入っちまってるな」フニフニ

 

シグナムの胸を揉みながらメリオダスが言う。

しかし、その頭にチョップが炸裂する。

 

「めっ、ですよ!メリオダスちゃん。お話は終わってないんですから」

 

「いやいや、終わっても良くないって!?」

 

「シャマルはずれているからな。それにしてもあれは結構な稼ぎだったはず」

 

「それで、お金はどうしたんですか?まさか使っちゃったんですか!?」

 

「いや、残ってるんだけどよぉ・・・・足りねえんだよな次元渡んのには」

 

次元を渡ると言う事は本来ならばそうそうあることではない。

一般的な生活を送っていれば渡ることなど一生に一度あるかないかだ。

その理由は単純で次元を超えるための船は金がかかるからだ。

使うものは金持ちや商人あたりしかいない。

メリオダスの金欠の原因の一つである。

 

「今までは何とかやって来たんだがさすがに五人分はちょっとな…」

 

「・・・・次元を渡るのにお金がかかるんですか?」

 

「そりゃ、船に乗るからな」

 

目をぱちくりさせて驚くシャマル。

ヴィータとザフィーラも首をかしげる。

因みにシグナムはまだ帰ってこない。

 

「というかなんで船に乗るんだ?」

 

「お前はなし聞いてたのか?次元を渡るからって言ってんだろ」

 

「いや、だからなんで次元渡んのに船なんかに乗るんだよ?」

 

「・・・お前馬鹿か?」

 

「はぁ!?馬鹿とはなんだ!お前の方が馬鹿じゃねーの?ばーか」

 

「これだからガキは」

 

はぁー、とため息をついて呆れるメリオダス。

その態度にヴィータの怒りがさらに高まる。

 

「だいたいお前がわけわからないこと言うからだろ!」

 

「お前にはちと難しい話だったか?わりぃな」

 

「っ!言ったな!」

 

「ストップ!ストーップ!」

 

グラーフアイゼンを取り出し殴りかかろうとしたヴィータだったがギリギリのところでシャマル達が仲裁に入った。

ヴィータの前にシャマル、メリオダスの前にはザフィーラが立つ。

 

「落ち着いてヴィータちゃん」

 

「止めんなシャマル!こいつには1回ガツンと「怒りますよ?」で、でも「お・こ・り・ま・す・よ・?」・・・わ、わかったよ…」

 

普段のシャマルからは考えられないほどの威圧感に思わずアイゼンを引っ込めるヴィータ。

そのあまりの威圧感に「あいつだけは怒らせてはいけない」とその場にいる全員が思った。

 

「で、でもアタシが悪いわけじゃないよな!?な、ザフィーラ」

 

「まぁ、確かに船に乗るというのはいささか不思議ではある。我々で次元転移を行えば良いからな」

 

「はっ?」

 

「あっ、それ私も思ってました」

 

「・・・次元転移出来るのか?」

 

「当たり前だろ。だからアタシはなんで船乗るんだって言ってんの!」

 

因みに次元転移は高度な魔法だが実は個人でできないという訳では無い。

単に使える者が珍しいだけなのだ。

 

「・・・ヴィータ、悪かった」

 

「な、なんだよ素直に謝って気持ち悪いな…」

 

「でも、そういうことはもっと早く言えよな。まさか使えるなんて思わねぇんだから」

 

「なんだよ、メリオダスは使えないのか?」

 

「何度も覚えようとはしたんだがダメなんだよな。前にも言ったっけか?魔法は苦手みたいなんだよ」

 

「へぇー、ふーん・・・」

 

その言葉にヴィータはニヤニヤしながらメリオダスを見る。

 

「そっかー、メリオダスは使えないのかー。あっ、じゃあもしかしなくてもアタシって凄いのかなー?」

 

いつものお返しと言わんばかりにヴィータの反撃。

 

「あぁ、ほんとにすげぇって」

 

「っ!?///」

 

はずだったのだが・・・

突然、メリオダスに頭を撫でられたことで動揺してしまう。

 

(お、落ち着け、そういう作戦なんだ…)

「で、できて当然だろ!」チラッ

 

チラリとメリオダスの表情を伺い、さらにヴィータは動揺する。

なぜならその表情が本当に嬉しそうな笑顔だったからだ。

 

「次元転移をできて当然とは、ほんと頼もしい限りだな」ニシシッ

 

(な、なんか負けた気分…)

 

ヴィータは嫌味で仕返ししてやろうと考えていた自分を酷く小さく思うと同時に、改めてメリオダスを見直していた。

 

「これで酒も飲み放題ってわけだ!」

 

「えっ…」

 

「いやー、今までは次元超えるために控えてたんだけどよ。それが必要ないってんだから最高の節約技だな!」

 

「・・・」

 

が、急速にヴィータの中でメリオダスの評価が落ちた。

それと同時に恥ずかしくなっていく。

こんなやつに一瞬でも尊敬しそうになったことを。

 

「メリオダスちゃん、ほんとにお酒が好きですよね?」

 

「そういうシャマルこそ結構好きだろ?たまに飲む時グビグビ飲んでるしよ」

 

「あはは…バレちゃってました?」

 

馬鹿野郎…

 

「ん、どうしたヴィータ?」

 

「メリオダスの馬鹿野郎!」

 

「うおっ!?急にハンマー振り回してどうした。それにお前顔真っ赤じゃねぇーか?」

 

「うるさいうるさいうるさーい!」

 

今日もにぎやかなメリオダス一行だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次元転移で新たな次元世界に移動してから一週間。

一行は温泉街に来ていた。

 

「おぉ~!ここが温泉街か!すっげぇ、湯気だらけじゃん!」

 

「ほんとにいろいろな温泉があるのね~。どれにはいろうかしら?」

 

「えー、地ビールにあつかん?飲んだことねぇ酒もあんな」ニシシッ

 

「主、ほどほどにしてください。先日も酔いつぶれたではありませんか」

 

反応は三者三様だが皆浮かれた雰囲気が漂っている。

一人を除いて。

 

「・・・なぁ、シグナムのやつどうしたんだ」ヒソヒソ

 

「そうね、ちょっと目が怖いわ」ヒソヒソ

 

そう、シグナムである。

この温泉街を一番楽しみにしていたであろうシグナムは鋭い目で街を見つめていた。

 

「あー…予想と違かったか?」

 

「えっ?突然どうしたのです?」

 

「いや、あんま楽しそうに見えねぇから予想と違ってガッカリしてるんじゃないかと思ってよ」

 

「そ、そんな滅相もございません!?むしろ見とれていたぐらいで――」バサッ

 

「なにか落ちたわよ?」

 

あたふたとするシグナムの懐から一冊の本が落ちた。

シャマルが拾って見るとかなりの付箋が貼ってある。

 

「これは、温泉旅行ガイド?」

 

――バッ!

凄まじい速度でシャマルの手元のガイドブックシグナムが取られた。

 

「こ、これはだな…守護騎士として事前に調べていただけだぞ…?決して、浮かれていたとかではないからな///」

 

本を後ろに隠しながら口をとがらせるシグナムの顔は赤い。

 

((((あの顔、ほんとに見とれてたのか…))))

 

少し驚くがシグナムの珍しい一面に一同はほっこりする。

 

「主の安全を確保するのは守護騎士として当然のことで・・・な、なにをニヤついている!///主まで…!///」

 

「いや~悪い悪い。シグナムがあまりにも可愛いからよ」

 

「かっ、可愛い!?私が!?か、からかわないでください!///」

 

「からかってなんてねぇよ?なぁ?」

 

「えぇ、シグナムは可愛いもの」ギュッ

 

ギューッとシャマルがシグナムに抱きつき、頭を撫でる。

 

「や、やめないか…恥ずかしい…!///」

 

そうは言うもののシャマルを無理に引き剥がそうとはしない。

 

「あはは!シグナム顔が真っ赤だ、真っ赤」

 

「ヴィータまで…」チラッ

 

シグナムは残る最後の希望ザフィーラの方を見るが・・・

 

───諦めろ

 

そう言うかの如く首を横に振るだけだった。

こころなしかその顔は微笑んでいるように見える。

がくり、とシグナムは膝から崩れ落ちた。

 

「んじゃ、満場一致したとこで行くか」

 

「はーい」「はぁ、笑った笑った」「御意に」

 

「・・・」

 

「シグナム、行くぞー?」

 

「───です」ボソツ

 

「ん?なんだって?」

 

「不公平です!」

 

ガバッ、と顔を上げるシグナム。

 

「私ばかり振り回されているのは不公平です!」

 

先程隠したガイドブックを前に突き出す。

 

「ですから、今日は私のプランに皆付き合ってもらいます!」

 

シグナム今日一番の迫力であった。

思わず目をパチクリとする一行。

 

「別に構わねぇけど、そんなことでいいのか?」

 

「そんなこと?主メリオダス、軽く見ていますね?」

 

ズイっ、とメリオダスに前のめりで近づくシグナム。

謎の凄みにメリオダスも一歩後ずさった。

 

「主はここを侮っています。いいですか、そもそも───」

 

そこから始まったのはシグナムの温泉街に対する考えや温泉街の事細かな詳細、魅力についてだ。

かなりの饒舌でシグナムは喋り続けている。

そして、地雷を踏んでしまったメリオダスが逃げようとするが…

 

「どこへ行かれるおつもりですか?話はまだまだおわってませんよ?」

 

「あー、シグナムさん。これはやりすぎでは…?」

 

「いいえ、これも主のためです。さて、続きを話しましょう」

 

シュランゲフォルムで拘束され、話を聞かされ続けた。

そんな光景を遠巻きに見ている3人は苦笑いしつつも嬉しそうだった。

 

「まさか、あのシグナムが我儘を言うまでになるとはな」

 

「いい事だと思うけど、あれはちょっとね…」

 

「いいじゃん、シグナム楽しそうだしさっ!」

 

小さいけれど大切な変化。

それは彼女達にとってかけがえのないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

温泉街を巡ること5時間、一行はようやく旅館のチェックインを済ませ部屋で休んでいた。

 

「だぁ〜、疲れた〜!」

 

「主、お疲れ様です」

 

男部屋にてメリオダスは大の字に寝そべる。

 

「1日で隅から隅まで観て歩かなくてもよぉ…」

 

「ふっ、シグナムは少々せっかちですからね」

 

「それに話が長いんだよな〜」

 

今日一日、メリオダスはシグナムに名所の解説を逐一されていた。

それもシグナムとしてはメリオダスに少しでも楽しんでもらいたい一心からなのだが、疲労の原因でもあった。

 

「あー、ひとっ風呂いくかー。ここの温泉は疲労回復にいいらしいし」

 

「お供します」

 

着替えを持ち、二人は大浴場に足を運ぶ。

廊下の途中には休憩室に遊戯室と言った様々な部屋があり、宿の充実さを改めて体感出来るものだった。

 

「あら、メリオダスちゃん達もお風呂?」

 

「ん、お前達もか。奇遇だな」

 

男湯、女湯に別れる直前のスペースで一同は会した。

 

「シグナムが直ぐに入りに行こうってうるさいんだ」

 

「むっ、それは当然のことだろう。ここは温泉街でこの宿の温泉はだな―─」

 

「はい、ストップ。続きは入りながら聞くから、ね?じゃあ、二人ともまた後でね」

 

「おう、楽しめよ」

 

「あまりはしゃぎすぎんようにな」

 

お互い別れて暖簾をくぐろうかという瞬間、ヴィータが身体を翻した。

 

「あっ!風呂から出たら卓球だかんな!絶対だかんな!」

 

「わかったわかった・・・・さっさと入れって」

 

今度こそ暖簾をくぐる。

服を脱ぎ、タオルを片手に浴場の扉を開け放つ。

 

「おっ!」

 

「広いですね」

 

入口から見ただけでも五つの温泉が見え、そのどれもがよく手入れが行き届いていることが伺えた。

 

「こりゃシグナムが熱くなるわけだ」

 

「納得です」

 

「えーっと、まずは身体をあらうのがルールだっけか」

 

シグナムからマナーについては事前に叩き込まれていた。

 

「主、お背中をお流しします」

 

「おっ、サンキュー。・・・・そうだ、礼といっちゃなんだが俺もザフィーラの背中を流してやるよ」

 

「れ、礼などと…!俺がやりたいだけですので──」

 

「そういうなって。俺も俺がやりたいからやるんだから。ザフィーラはいつもよくやってくれてるしな」

 

「・・・・では、お願いします…」

 

見事言いくるめられたザフィーラだったが、そのまま終わる男ではない。

配慮を忘れぬ素早い動きでメリオダスを座らせ、その後ろにしゃがみ込んだ。

先に奉仕する、その事だけは譲らない。

 

「俺からお背中をお流しさせていただきます」

 

「おっ、なんかやる気満々だな」ニシシッ

 

当のメリオダスはそんな心情梅雨知らず肩にかけていたタオルを端に置く。

 

「たのむぜ」

 

「はい。では、やらせていただ・・・・主、この痣はどうしました?」

 

「痣?」

 

そう言われメリオダスは鏡で確認をする。

背中、正確には右肩甲骨を中心に直径七センチほどの黒い痣が出来ていた。

その痣はまるで中心から広がっているかのようだ。

 

「こんな痣いつの間にできたんだ?」

 

大きな痣だがいつ出来たのかメリオダス自身には分からない。

なぜなら鏡を見なければ自分では確認が出来ない箇所に出来ている事や普段の水浴びは個人で済ませていたりなど、放浪しているメリオダスには気付きにくい理由があったからだ。

 

「これ程の痣、痛みなどはないのですか?」

 

「・・・・ねぇな」

 

数秒間、指で押したのちケロッと答える。

その表情にザフィーラも少しホッとした。

 

「大方シグナムとの模擬戦で出来たんだろうよ。夢中になってると気付かねぇし。ま、大丈夫だから続き頼むわ」

 

「わかりましたが、主あまり心配をかけないでください」

 

「悪ぃ悪ぃ、今度から控えるし、こんなん寝ときゃ治るって」ニシシッ

 

「はぁ、なら良いのですが」

 

「──あぁ、だから心配すんな」

 

その一言で痣についての会話は終わり、彼らは何事もな湯を漫喫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂から上がり、メリオダスとザフィーラはロビーで三人を待っていたのだが戻って来たのは顔が随分火照った二人だけだ。

 

「あれ、シグナムはどうした?」

 

「もう少し入ってるって言うので先に出てきちゃいました」

 

「はぁ、あっつぅ〜。シグナムのやつ、よくあんなに入ってられるよな」

 

「ヴィータちゃん、あんまり浴衣をパタパタしちゃダメ。はしたないわよ?」

 

「えぇー、だって暑いじゃん──あっ!二人だけでずるい!」

 

ヴィータが見ているのはメリオダス達の前にあるテーブルの上。

そこには空になったカップアイスが二つあった。

 

「別にずるくはないだろ。ほら、好きなの買ってこい」

 

呆れながらも小銭入れをヴィータに渡すメリオダス。

小銭入れを受け取るやいなやヴィータはさっきまでの気だるそうにしていたのが嘘のようにルンルン気分だ。

 

「……二個買っていい?」

 

「いいぞ」

 

「マジで!?」

 

予想外の返答にパーッと表情を輝かせる。

 

「ただし、シャマルとお前の分で二個な」

 

しかし、それも一瞬だった。

 

「ケチ!いいじゃんか」

 

「ダメだ。お前、アイスの一個ぐらいで騒ぐなんてガキだぞ?」

 

「メリオダスだってアイス一個ケチるなんて大人として心が狭いんじゃないか?」

 

「はいはい、そこまでにしましょうね。意地悪な言い方しちゃうのメリオダスちゃんの悪い癖ですよ」

 

「げっ」「そーだそーだ」

 

「ヴィータちゃんもよ。二個も食べたらお夕飯たべられないでしょ?」

 

「うっ…た、食べれるもん」

 

「ほんとうに?もし食べきれなかったらシグナムに相談しちゃうけど、いいのね?」

 

「そ、それは…」

 

シャマルの言葉にヴィータはバツの悪そうな顔になる。

ヴィータは仲間内で特にシグナムには子供っぽいと思われたくないのだ。

これも頼もしく思って欲しいという子供ながらの考えではあるのだが。

 

「……が、我慢するよ」

 

「うん、我慢できてえらいえらい」

 

「頭ポンポンするなぁ……」

 

「ごめんごめん。さ、アイス買いに行きましょ?」

 

そんな会話をしながら二人は売店へ向かった。

 

「……シャマルにはかないませんな」

 

「ほんとにな」

 

「主ももう少し素直におっしゃればよろしいのでは?」

 

「あぁ、そうだな……」

 

「主?」

 

「ん、どうかしたか?」

 

一瞬、ほんの一瞬だがザフィーラは違和感を覚えた。

何がと言われればザフィーラ自身も上手くは説明出来ないだろう。

 

「……いえ、なんでもありません。すみません」

 

「なんだよ、変な奴だな~」ニシシッ

 

(フッ、やはり気のせいか)

 

それに加えメリオダスのいつも通りの笑顔、ザフィーラは先の違和感は思い違いだと結論づけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜二時、誰もが寝静まったこの時に一人起きている者がいた。

その者──メリオダスは屋根の上で酒を飲んでいた。

傍らには分厚い本が一冊。闇の書だった。

 

「さてさてさーて、どうしたもんかな」

 

闇の書を手に取るとページをパラパラとめくる。

本来白紙であるはずのページには文字の羅列が刻まれていた。

──否、刻まれ続けていた。

一文字、また一文字とゆっくりとだが確実に文字が刻まれていく。

その文字からは微かにだがメリオダスと同じ魔力が漂う。

 

「俺を喰っても美味くねぇだろうに」

 

呟いてみるが文字は変わらず刻まれていく。

その様子に頭をポリポリと搔き、倒れ込む。

 

「ちょっとやばいかもな……」

 

メリオダスがこの事に気がついたのは痣を指で押した時だった。

 

(何も感じねぇ……)

 

痛みどころか押された感触すら感じなかった。

それに対し、一番最初に抱いた感想は「喰われた」だった。

次いで思い浮かんだのは闇の書。

 

「不思議なもんだ。認識してみればはっきり繋がってるのが分かっちまう」

 

気づかなかったのが馬鹿みたいに繋がりを感じている。

それも命が吸われ続ける感覚を。

 

「だからってあれはないよな……」

 

ヴィータに対してトゲのある言い方をしてしまったことを後悔していた。

神経質になっていたとしてもメリオダス自身はそれが許せない。

 

「お前も関係あんだ。今夜は付き合えよ」

 

闇の書の前にグラスを置き、酒を注いでいく。

自分の分も注ぐとグラスをかち合わせる。

 

「乾杯」

 

当然返事など帰ってこない。

 

「無視か。まぁ、それでも構わねぇけど──」

 

メリオダスは自分の分を一気に飲み干す。

 

「プハ〜!……お前に意思があることぐらいわかってんだぜ?なにせ俺達は繋がっちまってんだからよ」ニシシッ

 

「……だからよ、お前も気にすんな。お前の意思じゃないことはわかってる」

 

繋がって感じるのは命の危機だけではなかった。

闇の書の意思から痛いほどに伝わってくるのは悲しみの感情。

メリオダスも何も酔狂で本に喋りかけてるわけではない。

 

「俺は大丈夫だ。──それにお前がずっとそんなんだと俺まで参っちまうぜ」

 

ニシシッ、と笑い新たに酒をつぐ。

結局、一人と一冊の酒盛りは朝まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の底、一人涙を流す女がいた。

 

「ごめんなさい、もう止まらない……」

 

彼女の目には笑いかけてくるメリオダスが映っている。

彼女は泣きながら謝り続けた。

ごめんなさい、と──

 

 

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