ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

101 / 117
一日遅れの St. Valentine's day!

バレンタインデー――――元々は兵士との結婚を禁じていたローマ帝国で聖ウァレンティヌスが秘密裏に兵士との結婚を取り次いでいたという彼の処刑された日である。その為、世界では男女の愛を誓い合う日なのだが、プラントやオーブでは紆余曲折あってか何故かチョコレートを贈る日になっていた。

 

「いや、オーブはわかるんだけどね。日本との繋がりが強い国なんだから……でも、何故にプラントはチョコレート文化が発祥したわけ?欧米圏ではチョコ贈る文化なんて主流じゃないでしょうが……普通花とかケーキだろ?クソ、二か月後にブラックデーでも出来ろ!」

 

彼、クラウ・ハーケンはチョコをもらえずに一日が過ぎ去っていた。確かに彼に本命となる人物はいないし、本命を貰っても正直に言ってしまえば困るだけなのだが、義理チョコの一つぐらいは貰えても、という思いがあるものだ――――面倒な奴である。

 

「やっぱりここ最近ゲルググやナイチンゲールを造るために開発部に引きこもっていたのが悪かったのか……しかし、ほぼ軟禁状態だったし、有給だって許可が下りなかったんだ。仕方ないだろう……というか開発部にも女性は居たよね?彼女達そんなに世間体気にしないタイプなの?」

 

なまじ日本やオーブの文化を知っていたのも問題だった。実はプラントには義理チョコなどという文化は存在していない。社交性が高いといえばそうであるが日本人は基本的に空気を読む。義理チョコというのは社会における人間関係を円滑に進めるための一種のアイテムなのだ。

 

別に嫌ってはいませんよというアピール、本命を隠すためのカモフラージュ、ホワイトデーのお返しを期待する利益重視、周りがやっているからという日和見。つまり、義理チョコというのは内向的ともいえる日本人だからこその発想だろう。彼の出身国であるオーブはそれをそのまま受け継いだために義理チョコの文化が存在していた。

しかし、プラントは元々能力主義の実力社会である。他人の目を気にしない、社交性自体はともかく空気を読むといった意味合いを理解しない、或いは自己主張が激しいといった者が多い為、特別親しい人に贈るチョコはあれど、義理チョコなどというものは存在しないのだ。

 

「あ、クラウじゃん。どうしたんだよ、こんなところで?」

 

ぶつぶつと自分に言い訳するかのようにチョコを貰えなかったことに対する呟きをしながら歩いていると、シン達ミネルバのパイロット男性陣と出会った。そう、出会ってしまったのだ!

 

「シンじゃないか。いや、なに……開発部に引きこもっているのも健康に悪いからナ!散歩でもしようかとオモッテナー、ハハハ」

 

語尾が上ずっているのは仕方のない事だ。バレンタインデーの翌日というのは貰えなかった人間にとってはとてつもなく恐ろしい話題が存在している。

 

バ レ ン タ イ ン デ ー に 貰 っ た チ ョ コ の 数 を 尋 ね ら れ る と い う 話 題 が !

 

イケメンやリア充と呼ばれる存在にとっては今日の天気を聞くかのような話題に過ぎない。単純な話題作りの一環だ。しかし、貰わなかった者にとっては酷く苦しい話題なのである。元日本人の性というものが根底に存在しているクラウにとって、チョコを貰えない=非リア充というC.E.ではありえないほど古いといってもいい方程式が成り立っていた。

 

「へー、じゃあ俺らと一緒に飯でも食いにいかない?」

 

そうやって尋ねるのはショーンだ。

 

(ここ最近は俺以上に空気だったくせに空気は読めねえのかよ!)

 

何という理不尽。何という悪態。『荒んだ心にバレンタインは危険なんです。クロノクルさん』という幻聴すら聞こえる。というか色々と言ってはならないことを言っているような気がするが気にする必要はない。

 

「クラウもその服装からして仕事の途中だったんだろ?だったら、俺らが飯誘うにしてもクラウは忙しいんじゃねえ?」

 

ここでクラウの不機嫌な様子を感じ取ったのはハイネだった。コミュ力の高い彼は何故不機嫌になっているのかまでは理解できずとも、空気を読んでクラウの意思を尊重する様にしながら退出してもらうよう発言することは出来る。とりあえずこの場を収めようとハイネはそう思って発言した。

 

「あ、ああ、そうだな。次の納期も迫っているし、気分転換も出来たからそろそろ戻るとするよ」

 

それに乗っかるクラウ。しかし、ここで普通に戻る事となっては物語は成立しない。

 

「やあ諸君、奇遇だね。こんな所で偶然にも出会うとは」

 

何ともまあ最悪なタイミングで議長とミーア(歩く地雷達)がやってきた。偶々仕事で外に出て、偶々近くを車ではなく徒歩で移動することになって、偶々彼らと出会った。全く持って偶然(・・)とは恐ろしいものである。

 

「ぎ、議長!そ、それにミー……ラクスも!?」

 

全員一斉に敬礼する。いや、クラウだけは一拍遅れて敬礼をしていた。どうやら彼の頭の中で仕事が終わらなかった=チョコが貰えなかった=仕事を押し付けた議長が悪いという、明らかにおかしい方程式が成立したらしい。

 

「アスラン!酷いですわ。昨日はお相手してくださらなくて、私寂しかったのですよ?」

 

そんな事を言いながらアスランに突撃して腕を組んでくるミーア。その言葉に過敏なまでに反応したのはクラウとアスランだった。前日はバレンタインデー……となれば何があったのか誰もが察する。

 

「折角、バレンタインでの鎮魂を歌っていたのにアスランは顔も見せてくれないなんて、酷いですわ。チョコだって用意したのに」

 

「いや、悪いミー……ラクス。俺は……母さん達のお墓参りに行ってたからな……そんな日に食べるチョコは苦いだろうからな。そんなのは君にも失礼だろ?」

 

『血のバレンタイン』の事を思い出してか、憂鬱気な表情で苦笑いしながらそう言う。ミーアは思わずばつの悪そうな顔をする。だが――――

 

「カーッ(゚Д゚≡゚д゚)、ペッ。何良い子ちゃんぶってんだよ。あー、アレですか?憂鬱気な顔つきも絵になるってやつですかぁ?良い身分っすね。そんな風にやってもモテるんですから。俺なんて一個もチョコもらってないっているのにさぁ」

 

クラウの中で何かが弾けた(SEEDではない)――――遂に切れたクラウ。チョコレートを貰えなかったのがそんなにもほろ苦かったのだろうか?最早最低を通り越して畜生以下である。こいつは一度三悪道にでも落ちるべきではなかろうか。

 

「あんたって人はァァァ――――!」

 

シンは思わず急にそんな事を言い出したクラウを殴りつける。修正してやる――――とクラウの中で脳内再生がされた。

 

「これが若さか……」

 

議長が何かつぶやいているが誰も気にしない。

 

「ハァ、そんなんだからチョコ貰えないんだろ?」

 

ハイネは小さく溜息をついた。レイやショーンも同意する様に頷いている。

 

「二か月後にチャジャンミョンでも食べよ……」

 

殴られたクラウは地面に倒れながらそう呟いたという。

ちなみにアスラン――――墓参りで気持ちが落ち込むから、そんな中でチョコを受け取るのは相手に失礼だとか何とか言っているがカガリからのチョコは郵送で受け取っているあたり、ちゃっかりしていた。

 

 

 

 

 

 

「今日こそ、今日こそは絶対に渡してみせる」

 

ハートマークの梱包を持ったルナマリア。言うまでもない、チョコレートだ。しかし今日は2月15日――――もうとっくにバレンタインデーは過ぎていた。昨日渡そうとしたのだが、バレンタインデーに渡すチョコはプラントでは当然本命だ。オーブのように義理に隠れて渡すなどという事は出来ない。結果、機会を完全にルナマリアは逃したのだ。

それでもせっかく作ったチョコレート。渡さないなどありえない。例え一日遅れだとしても渡したい。乙女心も何たる複雑なものたるやいなや。昨日渡せなかったのになぜ今日渡せると思える?

 

「――――いた」

 

曲がり角からこっそりのぞくルナマリア。シンが普段からここを通る事は一か月前からリサーチ済みである。昨日はここに来た段階でシンが手にチョコの沢山入った紙袋を持っていたから打ちひしがれて渡せなかったのだ、と自分に言い聞かせるように言い訳をして出ようとする。

 

「大丈夫、チョコだっていってもバレンタインは昨日過ぎた。だから告白だなんて思われないはず……ってそれはダメじゃん!?」

 

本命を渡しに来たのに本命と思われない。明らかに失敗である。今更そのことに気が付いたルナマリアは思わず叫んでしまう。そして、近くにいたシンは当然その声を聞きつけた。

 

「あれ?ルナじゃん。そんなところでどうしたんだよ?」

 

「え、あ……シン!?あの、バレン……じゃなくて、そう!チョコ、昨日メイリンが作ってたんだけど材料が余ったらしくてそれを使って作ったの!だから、アンタにも、あ、あ、あげるわ!」

 

緊張し過ぎである。しかもバレンタインの為のチョコレートだという事を誤魔化した。

 

「え、でも……昨日チョコレート大量に貰ったから……他の奴に渡しなよ。例えばアスランとかさ」

 

そんな事をいって受け取るのを断ろうとする。実はシン、意外とというと失礼だがかなりモテる。フェイスでエリートの赤でエースパイロット。子供っぽいとよく言われるが物の好み自体は年相応であり、性格が子供っぽいのだ。そのおかげで話題は他者と意外と合い、性格の子供っぽさから女性の母性本能を刺激するという何とも都合のいい人物なのである。

 

「……シンの、バカァァァ―――――――!!!」

 

シンもシンだ。学習しない奴である。ハロウィンの時にもぶたれたことをもう忘れていたようだ。ちなみにもらったチョコレートも全部義理だとシンは勘違いしていた。オーブには義理チョコの文化が存在しているのである。

結局、今日もルナマリアは思いを伝えることは出来なかったとさ。

 




平和な平行世界のお話。本編とは全く関係のない外伝です。クラウは結局チョコレートを貰えませんでしたとさ(笑)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。