ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

102 / 117
第九十七話 危険な二機

『接近するMSあり――――これは、例の新型です!』

 

「チッ、もう来やがったか……MSの修理はまだなのか!」

 

コックピットに乗り込み、いつでも出れると言わんばかりの状態で待機していたマーレは、機体の修理がまだ終わっていないのかと近くの整備士に聞く。しかし、彼らも全力でやっています、と応えるだけでまだ修理自体は終わっていないようだ。

 

『案ずるな、この僕がいる限りラー・カイラムを落とさせはせんよ。それどころか、逆にその新型とやらを落としてみせようではないか!』

 

「そんなんだからよけい心配なんだよッ……アレック、悪いが頼むぞ。時間を稼いでくれるだけで良い」

 

『任せろ、暴走しそうなルドルフのおもり位はするさ。だが、倒せるのであれば倒してしまっても問題あるまい?これでも実力はあるほうだと思っているからな』

 

アレックはそう言ってルドルフの尻拭いは自分が請け負うという。元々彼の仕事の一つはそれなのだから行って当然という意識があるのだろう。しかし、同時に彼にもプライドがある。時間を稼ぐだけでいいというのは少しばかり気に障る言葉だったようだ。

 

「そりゃ勿論そうだが、そんな甘い考えで勝てる相手じゃねえぞ。俺の機体も修理が完了したらすぐにでも出る。だからそれまで落とされないようにしろ」

 

それでも念押しするマーレ。アレック以上にプライドの高い自信であっても機体の性能差から考えて勝てないと判断したのだ。念を押したくなる気持ちも分からなくはない。些か納得いかないといった表情を見せつつも、最終的にはアレックもマーレの目を見て納得した。

話を終えてアレックとルドルフが出撃する。ガルバルディβとギャンクリーガーは特化している部分こそあれどどちらも優秀な機体だ。彼ら自身の実力も合わさって普通ならそこまで心配する必要などないと思える。だが、今回は相手が悪い。

 

「間に合わせてくれよ……」

 

しかし、そんな中でマーレが出来るのはOSの書き足しや戦況の把握ぐらいであり、酷く辛いものを感じながら作業を進めていく。

どのくらい時間が経ったのか正確に把握していないマーレには分からなかったがようやく機体の修理が終わった。そのままマーレはヘルメットを被り直し、出撃させる為に起動する。

 

「戦況は?アレックやルドルフ達はどうなっている?」

 

『両名は敵との遭遇後に出来る限り艦との距離を取る様に移動しつつ戦闘を継続している模様です。しかし、敵機の実力がかなり高く、彼らも苦戦しています』

 

「了解した。出撃後はあいつ等の支援に向かう。ラー・カイラムの防衛は現状の味方部隊で事足りるな?」

 

『はい、問題ありません。艦長もそうする様にとのことです』

 

マーレは頭の固いどっちかといえば守備寄りの作戦を好む思考を持つグラスゴーであっても、彼らへの支援を許可するとは、などと中々に失礼な事を考えつつ出撃準備を整える。

尤も、ラー・カイラムの防衛に回っているMS隊は元々ラー・カイラムに所属しているゲルググ部隊なので彼らとあまり連携をとらないマーレが居た所で邪魔になる可能性が高い。そういった面も考慮にして判断したのだろう。

 

「よし、マーレ・ストロード、RFゲルググ――――出撃する!!」

 

そう言って再び宇宙へと飛び立つマーレ。彼はこの宇宙に出る際に受ける感覚はある意味何物にも代えられぬ得難いものだと感じさせる。だが今はそれに身を委ねる様な暇はない。

 

「居たな……」

 

マーレは敵機であるナイチンゲールとそれと対決しているアレックとルドルフの搭乗する二機を発見する。赤、白、金と非常に目立つ三色の機体は探すのに全く苦労しなかった。まあ、マーレ自身の機体もどちらかといえば明るめの配色をしているので人の事をとやかく言うつもりはないのだが。

 

「またせたな!落とされそうになった借りは返してやるぜ!!」

 

先手必勝とばかりに介入するタイミングでビームを放つ。アレックとルドルフの機体は損傷こそしているが致命的なダメージを受けたようには見受けられない。勿論、そう見えるだけで実際には違うのかもしれないがとりあえず落とされてはいないから問題はないと判断する。

 

『ようやく来てくれたか。流石に二機で相手をするには辛いものがあったぞ……』

 

アレックが安堵した様子で溜息をつきながらそう言う。積極的に攻撃を仕掛けなかったことで落とされこそしなかったが、彼らもかなり追い詰められていたのだろう。

 

『グゥ、この僕のゴールデンギャンの装甲であっても、あのビームの威力は脅威だ。気を付けたまえ!』

 

いつになく真剣な顔つきでルドルフも注意を促す。どうやらナイチンゲールの攻撃はビームへの耐性が高い金色の装甲とギャンクリーガーの持つ盾を併せもってでも手こずるものらしい。

 

「その位わかってる!議長、今度こそ一矢報いてやろうじゃねえか!!」

 

『フフフ、いいプレッシャーだ。やはり君もニュータイプとしての素質があるのかもしれんな。いいだろう、かかってきたまえ』

 

どこまでも余裕のある態度で構える議長。その様子にマーレは何度目かも分からない苛立ちを募らせる。

 

(すぐにでも吠え面をかかしてやるさ……)

 

今のマーレは議長の考えに対してそりが合うことなどないのだろう。真っ向から彼に対して反骨心を剥き出しにしていた。

 

『この僕も忘れてもらっては困るぞ!』

 

『同感だな。流石にマーレ一人に任せるわけにはいくまい』

 

ルドルフ達も議長に対して一層の警戒を行う。三対一、数字の上で見れば有利に立っているが二対一の時点で押されていた。油断など出来ないだろう。ましてや今の議長から溢れ出んばかりのプレッシャーはニュータイプと全く関係のないルドルフやアレックにすら感じ取れるものであった。

 

 

 

 

 

 

ゲルググによってストライクフリーダムのドラグーンによる攻撃は愚か、他の射撃武器や接近戦も回避、防御をされ、逆にキラの動きが全て読まれているかのように反撃を受けていた。ハイパーデュートリオンエンジンによる高出力、高機動の機体でなければ今頃呆気なく落とされていただろう。

 

「動きが全部読まれている!それに出力は向こうの方が高いッ!?」

 

『畜生、いくらスペックアップしてるって言っても、旧式機じゃまともに対応できねえっていうのかよッ!』

 

クラウの黒いゲルググの動きは秀逸と言わざる得ない。これまでの戦闘データを総て計算して動かしているクラウだからこそ出来る芸当であるが、だとしてもそれを再現するためのゲルググという機体自身のスペックが高かった。

 

『当たり前だろう、君たちの機体とは根本からして違うんだからね』

 

圧倒的な実力を見せつけるクラウのゲルググ。それはクラウ自身の技量によるものではない、機体とデータ、OSに頼った実力なのだが、それを造ったのもまたクラウである。彼の実力は技術による差が生まれ出るからこそ圧倒していると言っても良かった。

 

「いったい、なんだっていうんだ!」

 

ネオの乗っているストライクEは頭打ちになるまで性能を底上げしただけの機体ではあるが、ある意味ではサードシリーズの一機といっても良いストライクフリーダムの方は最新鋭の機体である。しかも、機体をピーキーに仕上げることでキラ専用機といっても良い機体であり、その性能はキラ・ヤマト自身が操縦するという前提が必要になるものの、最強の機体と言わしめたデスティニーに比肩する――――いやそれ以上といっても過言ではない筈だった。

 

『落ちろ!』

 

「当たるわけにはいかない!」

 

だが、目の前に起こっている状況はどうか――――見た目は量産されているであろうゲルググと殆ど変らない機体を前にしているにもかかわらず、一機は最強クラスの二機で戦っているというこの状況で、一撃たりとも明確なダメージを与えることが出来ていないではないか。

 

「なら、これでッ!!」

 

ストライクフリーダムのフルバーストを放つ。マルチロックオンシステムを使ったこの攻撃は一対多において敵に驚異的なダメージを与える攻撃だ。それをたった一機に対して放つのだ。キラの今放てる最大の攻撃だと言える。

 

『己の首を絞めたね。その攻撃パターンのデータは最も多いよ!』

 

しかし、クラウはこの攻撃を見て嗤った――――キラはフルバーストによる攻撃をフリーダムの頃から多用している。それは即ち、クラウの持つキラ・ヤマトの操縦データの中でも、この攻撃が最も多くデータが集められているということだった。

 

『無意識に冷静さを欠いた君の負けだ』

 

フルバーストすらも躱してみせたゲルググはストライクフリーダムの懐に入り込む。更にそのまま後ろへと下がるであろうことを予測して左手で相手の右腕を掴んだ。予想通り、下がろうとしたキラは腕を掴まれたことによって動きを止められてしまい、一瞬ではあるものの膠着する。

 

「しまった――――!?」

 

そして、クラウがその隙を逃すはずもない。右手に握りしめたビームナギナタを構え、振り下ろすように斬りかかる。キラも当然空いている左手を正面に構えてビームシールドを展開させるが、ナギナタの出力の方が上回っている事からクラウはそのシールドを引き裂くと確信していた。

 

『やらせるかよォ!』

 

だが、斬りかかろうとした瞬間、ネオのストライクEがシールドを構えながら突撃してくる。横槍を入れたネオの行動によって間一髪でナギナタによる攻撃は外れてしまった。

 

『クッ、そんな二年も前の黎明期の機体ごときでッ!』

 

折角のチャンスを不意にしたクラウは、やってくれたなとばかりにナギナタでライフルを持っていたストライクEの右腕を断ち切る。そのまま追撃を仕掛けようとするが、ストライクフリーダムのドラグーンによる援護でクラウは下がらざる得なかった。

 

「助かりました!でも、自分の身も案じてください!」

 

『生意気言ってんじゃないよ!少しは年上に意地張らせろ!』

 

今のキラとネオは仲間同士というわけではないが共闘関係にはある。ネオとしてもストライクフリーダムの性能やキラの技量は、自身の機体や技量と比べ物にならない程高いことを理解していた。そんな戦力をネオとしても失うわけにはいかないと判断し、キラを助けたのだ。

 

『チッ、まだまだ!』

 

距離を取ったとはいっても、彼らはまだ十分近接武器の届く間合いに入っている。クラウは追撃を続けようとナギナタを構え、敵を切り裂こうと再び接近する。

 

「これ以上、好きにはさせない!」

 

だがしかし、いくらストライクフリーダムやキラ・ヤマトの戦闘データを調べ、キラの実力を把握していたとしても人は機械のように全く同じ動きを繰り返すわけではない。微妙な動きの差異がキラに対して幸運を呼び、その幸運を逃すことなくつかみ取る。

 

『ツッ!』

 

振り下ろしたナギナタを持つ右腕をストライクフリーダムは捉えた。先程とは逆転したかのようにストライクフリーダムの左手はゲルググの右腕を握り、掴み取る。そのままストライクフリーダムの腰のレール砲が火を噴く。クラウは咄嗟に左腕に装備されているシールドでその攻撃を防いだ。

 

「このまま押し切る!」

 

『やれると思っているのかい!』

 

ゲルググのパワーに押し込まれるストライクフリーダム。キラは片腕では無理なのかと判断して両腕で抑えようとする。その間もレール砲による追撃を行おうとするが、シールドに阻まれてダメージを与えることは出来ない。

そして、接触回線によってクラウは叫ぶようにゲルググが圧倒している理由を、世界のパワーバランスを崩しかねない技術を、キラに告げた。

 

『いくらハイパーデュートリオンであってもこのゲルググが押し負けるわけがないよ。なにせ、この機体は――――核融合炉を使っているんだからさァ!』

 

埒が明かないと判断したクラウは一度蹴りを入れて吹き飛ばした。時間を掛ければ切り裂くことが出来たであろうが、これ以上時間を割いた所でまたストライクEによって邪魔をされると判断したのだ。

 

「そんな!?まさか……!」

 

聞いた内容に耳を疑うキラ。接触回線で他の人に聞かれこそしなかっただろうが、その内容は誰かに話せるといったものではない。だが、それと同時にストライクフリーダムをも上回る出力を持つ理由に納得もした。

核融合炉を使っているからと言っても必ずしも核分裂炉より出力が高いと断言出来るわけではない。しかし、質量単位あたりでのエネルギー発生量は核融合炉の方が上であり、ハイブリッドとも言えるクラウの技術者としての知識によって、どちらが有効かを判断して造り上げた以上――――少なくとも目の前に立ちふさがるクラウのゲルググの核融合炉はストライクフリーダムの核分裂炉を確実に上回るものとしていた。

 

「核融合炉搭載のMSだって……!?」

 

当然のことながらキラは核融合炉だということに驚愕する。核融合炉――――理論上は確かに可能と言われているが、半世紀以上もの時間を掛け、このC.E.においても未だに実現が成されていない、失敗したはずの技術である。そして、それが目の前に存在しているというのは新たな戦争を呼び込む大きな力になりうるだろう。

 

「強すぎる力は、また大きな争いを生んでしまう事になってしまうというのに!何でその技術を兵器として使おうとするんだ!!」

 

今度はこちらから反撃だとばかりにビームサーベルを抜き、斬りかかる。だが、その攻撃も手首を取り押さえられることで防がれてしまう。そして再び接触回線によってクラウは告げた。

 

『君がいえた台詞か?まあいいさ、一ついいことを教えてあげるよ。核融合炉の技術は完全なブラックボックスだ。例え専門家が挙って調べようとした所でセキュリティを突破できることはない。そして、核融合炉を使っているのはこの機体を含めて二機、データも当然その二機にしか搭載していない――――言いたいことはわかるだろう?』

 

一方的に告げるだけ告げてストライクフリーダムを投げ飛ばすクラウ。こんな風にあっさりと投げ飛ばせるあたりもストライクフリーダムとゲルググの出力差を明確なものとさせていた。

 

「データは完全に閉じられている……なら!」

 

つまり、彼を逃してしまえば核融合炉の技術は世界中に展開するという事だ。いや、それならばまだましだろう。危険なのはその技術がザフトに独占された技術となってしまうことだ。

核融合は核分裂と違い事前の中性子の働きを必要とするわけではない。それはニュートロンジャマーが意味をなさず、ニュートロンジャマーキャンセラーの技術は無用の長物となるという事だ。

そして、それを握っているのは目の前のクラウ・ハーケンというパイロットであり、クラウが乗っているゲルググを含めた二機のMSだという。

 

「だとしたら、貴方をここで逃すわけにはいかない!」

 

核融合という技術を兵器としてでしか使おうとしない――――そんな相手を逃してしまえば、どれほど戦禍が酷くなってしまうのか。デスティニープランの以外にもキラにとって負けられない理由が出来た。

 

「僕が貴方を討つ!」

 

『やってみせな、枠を(スーパー)超えた化け物(コーディネーター)!』

 




核融合炉に関しては「ぼくのしってるぶつりがく(笑)」程度のものと思ってください。
真性ゲルググ爆誕!これでクラウに怖いものはない(棒)
急に設定とかスペックとか語りだすキャラって大抵それが負けフラグに繋がるよね~

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。