ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第九十八話 名前の意味

二機の機体が変則的な軌道を繰り返し、互いに撃ち合い、落とそうとする。いや、より正確に見るのであれば片方はコックピット以外を狙い落とそうとし、もう片方は本気で落とす気が無いのか牽制にしかならないような射撃を行っていた。

 

『なんで、なんだってこんなことを続ける!』

 

「止めるよりも続ける方が楽だからさ。その上で死なないように生きているだけだよ」

 

彼、クラウ・ハーケンは人生における己の歩みを止めた男だ。ご都合主義のような運命に導かれ、本来ありえることのない、また多くの者が信じることのない転生などという出来事を体験させられ、戦死や病死、老衰を含めて都合十五回の死、そして十六回もの転生を繰り返した。

 

「他人がどうとか、関係ない人間が如何とかそんなの考えるのは飽き飽きしてるんだ。地上やこの宇宙のどこかで何人の人間が、どんな風に生きて、どう死んでいるかなんて考えたことがあるのかい?それを理解したことは?答えは否だ。人類が神様にでもならない限り、そんな他人の事をずっと気に掛ける事なんて出来はしないだろうさ」

 

移動を繰り返しながら戦闘が続いていく。クラウは残骸となった艦やMSといったデブリすらも利用し、一見逃げるように移動をしていた。核融合炉の話を聞いた以上、キラは追わざる得ない。メサイアとの距離は徐々に遠ざかり、キラ自身相手の術中に嵌っていることを理解しても、それをすぐに解決する手段は見つからなかった。

 

『だからと言って世界中の人を恐怖に陥れるなんて、そんなことを認めるわけにはいかない!それに、僕たちは皆を救う事だって――――!』

 

「出来る、とでも……それこそありえない。人の枠を超えた(スーパー)人類(コーディネーター)はそこまで傲慢不遜でいらっしゃると?誰もかれも救うなんていう事は、結局、誰も救わないというのと一緒さ」

 

極論だ――――そう反論するキラ。ま、当然だな……とクラウは心の中で反応を返す。彼は己の持論が全面的に正しいなどと思っているわけではない。

しかしながら、彼にとっては人生とそうあるものであった。経験談、などと年寄染みたことを言うつもりはない。だが、経験したことのない事実をまるでそうであるかのように語るよりは余程マシだと思っている。

 

「人は人として生きようと思うなら見知らぬ他人などよりも、目に見える身内を気に掛ける。

簡単な話だろう?命には価値がある。優先順位も存在する。誰だってそうして生きてきた。君もそうだろう!味方であるアスハと敵であったアスラン。君は選んだ、アスランを討つと。それだけである種、人は人足り得る事となる!」

 

『違う!人はそんなちっぽけなものなんかじゃない!人は誰だって他者を救える!確かに、一人で皆を救うなんてことは出来ないかもしれない。でも、救った人が、また別の誰かを救う!その輪が広がって世界中の人が皆を助け合えるようになる!!そんな世界を、そんな明日を、僕たちは信じているんだ!!』

 

落とされていない数少ないドラグーンと共にキラが逃げ道を塞ぐようにビームを放つ。だが、その攻撃も予想していたのか、造作もなく振り払うかのように残ったドラグーンも撃ち落とした。

 

「ならそこに、逆の結果も考慮すべきだな。幸福の連鎖が広がるなら、不幸の連鎖もまた広がるものだと」

 

結局は堂々巡り。人を信じたいキラと、人を信じていないクラウでは水掛け論にしかならないし、その意見にクラウが譲歩することなどありえない。何故なら、彼の人格を、この理屈を形成させたのは長い年月と数多くの世界だからだ。

 

『だとしても、貴方のその機体を認めるわけにはいかない!!』

 

「違う違うと結局は他人を否定するばかり。いや、納得できない意見や在り方は聞く耳すら持たないというべきか?」

 

追随するキラを鬱陶し気にナギナタを抜き、振り向いて斬ろうとする。キラはその不意の攻撃を躱して、ビームサーベルで反撃したがそれはナギナタの持ち手の部分によって防がれた。

 

「さて、問題だ。これまで逃げるように俺は移動し続けたわけだが、ここには誰がいるか?」

 

いきなり訳の分からないことを言われるが、キラは索敵による周辺情報によって何を尋ねたのかに気付く。

 

『なッ、アークエンジェル!?』

 

キラは、いやキラだけではない。アークエンジェルも含めて彼らは移動先を誘導されていたのだ。

 

「命令通り任務を果たせるかは微妙なラインだったけど、リリー・マルレーンはきちんとその役割は果たしてくれたみたいだね。さて、ここからどう動く?」

 

キラは戦力が増えたなどと素直に喜べる状況ではない。彼らの動きは総て盤上の駒のように見透かされていたという事なのだ。つまり、アークエンジェル(ルーク)キラ(ナイト)の両方を刺せる位置にクラウ(ポーン)がいる。

 

「チェックをかけることすらまだ遠いけど、追い詰められているこの状況でどう対応する気だい?」

 

『……ッ!こんな、狡い手を使って!?』

 

そんな風にキラは言ってくるが、それに対してクラウは冷ややかな目を向けるだけだ。戦争でそれを言ったらおしまいだろうに、と思いつつクラウは淡々と追い詰める。

 

『キラ君!?MS隊に下がる様に伝えて!こちらから砲撃で援護します!』

 

アークエンジェルのラミアス艦長達も追い詰められている状況に気付いたのだろう。そして、自分たちがある意味で足を引っ張っている事にも。だからこそ、彼らはアークエンジェルの艦砲射撃による援護を行うとする。前にいるMS隊は射線の邪魔になると判断したマリューはMS隊を後方に下がらすようにも指示した。

 

「甘い……甘い過ぎるよ。本気で落とそうっていうのなら、味方ごと射線に巻き込んででも先制打を放つべきだろうに!」

 

ナギナタを左手に持ち替え、右手にビームライフルを握り、正面のストライクフリーダムと戦闘を行いながら右腕だけをアークエンジェルに向けて連射する。

 

『しまった!?』

 

キラ達にとってその攻撃は致命的なものだ。片手間で攻撃しているにも関わらずアークエンジェルの砲塔が次々と破壊されていく。艦橋を撃たないのは脅しか、狙いを定めきれないからか、それとも他に何か理由があるのか。分からないが、キラ達にとってすぐに落とされないというのは不幸中の幸いと言える一方で、危険な事に変わりはなかった。

 

「そら、そっちにばかり気を取られてたらいけないだろう?」

 

ナギナタがストライクフリーダムの左脚を遂に切り裂いた。こちらの意識を割くことが狙いだったのかとキラは内心舌打ちしつつ、ビームサーベルを振り下ろして距離を取り直そうとする。

接近戦では分が悪い。だが、射撃戦は攻撃パターンを読まれている。パターンを変えれば何とかなるのではないかという考えもよぎったが、目の前の敵を相手にそのような小細工は逆に自分の首を絞めることになると簡単に予想がつく。

如何するべきか――――悩み続けるが答えは出ない。

 

『ようやく追い付いたら、追い込まれんじゃねえか!一旦下がれ、手立てがないままに戦ったんじゃジリ貧だぞ!!』

 

そう言って彼ら二機の上部からビームを放ってきたストライクEが介入する。高機動で移動する彼らを必死に追いかけてきたのだろう。元々はキラも敵なのだから、無視されたのならば捨て置けば良かったものを態々彼は援護しに来たらしい。

 

「右腕を失ってよくやる……」

 

右腕を断ち切った際にビームライフルを失った筈だが、どうやら辺りの残骸からEパック式のザクのビーム突撃銃を拾ったらしい。

機体からのエネルギー直結式のビームライフルの方が何かと便利であるし、ストライクEの本来のライフルもその筈だが、拾ってもエネルギー接続時にセキュリティが存在する普通のビームライフルと違い、拾った際に使えるという利点がEパック式には存在している。

 

『おら、こいつでどうだ!!』

 

無駄弾だらけの乱射だが、気を引きつけるという意味では大きく役割を果たしていた。クラウとしては嫌でもそちらを気にかけざる得ない。その隙にキラはいったん距離を取る。ネオはビームによる攻撃をしながら突撃した。

 

『無茶です!ムウさん!!』

 

『何度も言わせるな!俺は、連合の、元ファントムペインで、大佐のネオ・ロアノークなんだよォォォ!!』

 

クラウもビームを撃ちこむが、前傾姿勢で視認できる面積を最小限に抑えつつ、Gの負荷も無視して無理な回避行動を取るネオに中々命中しない。

 

『チッ、どうせあと何発も残っているわけじゃないんだ!』

 

連射し続けたビーム突撃銃の残弾は心許ない。いつ弾切れになるかも分からないビーム突撃銃を投げ捨てる。勿論、武器が無いまま無防備に突撃するわけではない。腰のストライクE最後の切り札であるビームライフルショーティーを抜き連射した。

 

『ウオオォォォ――――!!』

 

ストライクEのエネルギーをここで使い果たしても構わないとばかりに連射して接近するネオ。だが―――――

 

「その程度の武器が今更脅威になるとでも」

 

攻撃は通じなかった。いくらストライクEが連合の現行機の中で優秀な機体だと言っても所詮は旧式の再生機に過ぎない。一方でクラウのゲルググはストライクフリーダムすら上回っている機体だ。結果は火を見るよりも明らかだった。

 

『グォッ!畜生ォ……!?』

 

呆気なく接近してきたところを切り裂かれ、吹き飛ばされるストライクE。止めを刺そうとクラウはゲルググのビームライフルを構え直した所で、再びキラが攻撃を仕掛ける事によりネオは何とか一命を取り留める。

 

『マリューさん!そのパイロットを回収して!!』

 

『え、ええ……わかったわ』

 

この状況で何を、と思ってしまうが何か考えがあるのだろうと判断してMS隊に回収するよう命じる。

 

「まあいいさ、一機にはご退場願った……次は君の番だ。尤も、君は彼みたいに逃すつもりはないけどね!」

 

 

 

 

 

 

「どけ!なんだっていい、MSを寄越せってんだ!それが無理だっていうなら俺の機体に乗らせろ!」

 

「む、無茶いわないでください!?こっちにだって余裕は無いんですよ!それに貴方の乗っていた機体は何時機能が停止してもおかしくないんです!!」

 

「余裕がないだって?パイロットが足りてなくて余らせて置いとく機体はあるのにか!」

 

アークエンジェルの格納庫では騒動が起こっていた。回収した連合パイロットであるネオがMSを要求しているのだ。曰く、元々助けてほしいと言ったわけでもないのに勝手にこちらに連れてきたのだから代わりのMSを渡すか、元の機体を返せと。

勿論、整備士達がその要求に従う気は一切ない。何なら半壊したストライクEを返してやっても良いとすら思っている者もいるが、整備士のプライドとしてそんな機体にパイロットを乗せるなど認めるわけにはいかないのだろう。

 

「しかし――――」

 

しかも寄越せと要求する相手は連合でしかも胡散臭い仮面をつけた相手だ。こんな相手に、はいそうですか、と渡す方が馬鹿だと言えるだろう。

 

「なら勝手にさせて貰うぞ!」

 

「待ちなさい!」

 

それでも諦めきれないネオは、勝手に機体に乗り込んでやるとばかりに移動しようとして、後ろから女性の声に呼び止められる。

 

「ヒュゥ~、何か用かい、美人兵士(ウェーブ)殿は?」

 

振り向いたその先にいたのは拳銃を構えたマリュー・ラミアス艦長だった。アークエンジェルやMS隊に回収するように言うのではなく、マリュー・ラミアス本人に名指しで回収するよう言われ、キラの言葉に気になった彼女は自らここに来たのだ。

ネオも流石に拳銃を向けられては手を上げざる得ない。

 

「私はこのアークエンジェルの艦長であるマリュー・ラミアスです。貴官のお名前と正式な所属を―――――」

 

「……これはこれは、どうもご丁寧に、艦長さんでしたか。自分は地球連合、第81独立機動軍ロアノーク隊のネオ・ロアノーク大佐だ。尤も、今も軍籍が残っているかは不明だがね」

 

「……ファントムペイン、あのブルーコスモスの……」

 

場はますます騒然とする。マリューも思わず手にしている拳銃に力を込めてしまう。

 

「オイオイ、そんな物騒なものは仕舞ってくれよ。それにそんな怖い顔したんじゃ、美人が台無しだぜ?何も俺はこの船を欲しいって言ってるわけじゃない。MSを一機貸してほしいって言ってるんだ。そっちだって余らせて無駄にしているMSがある。お互い利口に行こうぜ?」

 

ネオとしてもこんな所で殺されるわけにはいかない。口巧者にこの場を乗り切ろうと目の前の艦長に話しかける。

 

「……ええ、確かにそうね。でも、貴方みたいに本音を隠そうとするタイプは嫌いなの」

 

「つまり、仮面を取って誠実さを見せれば貸してくれるって事か?」

 

あたりに漂う沈黙。騒然としていた騒めきも、ただならぬ気配からか小さくなっていく。その様子から顔を見せる程度でMSを貸してくれるっていうのならいくらでも取ってやるさとばかりにネオは被っていた仮面を外した。

 

「傷があるからあんまり見せたかねえんだがな……まあ、いいさ。これで満足だろう?」

 

しかし、返ってきた反応はネオの予想していたものは大きくずれていた。沈黙、そして周りの表情から感じられるのは困惑。顔の左側に大きな傷跡があり、それに驚いているのかとも思うが、それにしても大袈裟だろうとネオは感じる。

まるで時間でも止まってしまったかのような様子から、この際ネオは無視してMSへ向かおうとした。

 

「……、待って!ムウ!!」

 

(またその名前!一体誰だっていうんだよ、そのムウとかいう少佐は!?)

 

一瞬、頭の中で痛みのようなデジャヴを感じるが、無視する。ネオにとっては自分のこのデジャヴや違和感が何であれ、ネオ・ロアノークという人格や記憶の否定にはならない。餓鬼の頃に酒に入り浸っていた親父から逃げ、軍に入って飯を食らい、自分を含めた不良共と一緒に馬鹿やって、面倒な部隊に配属されてからも必死に生きてきた。

そんな記憶を否定されることになってしまいそうな、鬩ぎ合う喪失感と充足感。それが彼にとってアークエンジェルという居場所を余計に苛立たせているのだ。

 

「俺は、今も昔もネオ・ロアノークだ。そのムウとかいう誰かじゃねえ。アンタ等、いったい何を勘違いしてるっていうんだ……」

 

ネオとしても、別の誰かと勘違いされるのは苛立つし、目の前で涙を流しながらムウという彼女を前にして何故か心苦しさを感じる。

これ以上、ここにいてもなにも良い事はないと考え、止まったように動かない周りのアークエンジェルクルーの隙をついて一番近くにあった機体に乗り込んだ。

 

「待て、機体から降りろ!」

 

そんな言葉は当然無視してハッチを閉じ、機体を起動させる。

 

「そう言えば、これ……適当に選んだけど使えるのか?」

 

機体に勝手に乗り込んだことで周りが再び騒然とするが、この際ネオは無視を決め込む。

 

『オイ、退かないっていうんなら無理矢理壁を壊してでも出ていくぞ!さっさと出させろ!』

 

外部スピーカーを使いそう叫んで出撃する事を伝える。茫然としたままのマリューは周りの人に連れられてその場から離れ、他の整備士などの人員も大急ぎで蜘蛛の子を散らすよう離れていく。

幸い、機体は連合のナチュラル用OSと大差はない。そのことに安堵の溜息をつきつつ出撃する。

 

「ムウだとかいう奴にあったら絶対に一発殴ってやる。あんなイイ女泣かせてんじゃねえってな……」

 

自分でも良く分からない苛立ちを見せながらネオは機体のデータを見る。機体の名前欄にはリ・ガズィと記入されており、変な名前だと訝しく感じつつも戦線に再び身を投じた。

 




ネオ、その台詞は記憶が戻ったらブーメランのように自分に返って来るんだぞ(笑)
それにしても乗り換えの多いネオ。エグザス→ウィンダム→ライゴウ→ライゴウ(核搭載改良機)→ストライクE→リ・ガズィ。
そして、次話は多分我らが議長のターン。

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