ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第百一話 死を求む愚者

ゲルググは一対多の状況に圧されることなく、周りの最高スペックに並び立つように、いやそれすらも圧倒する様に戦闘を続けていた。サードシリーズと言えるデスティニーやストライクフリーダムを上回る核融合炉搭載やAI、機械接続を持つゲルググは未だ正式にサードシリーズというジャンルが完成していないにもかかわらず、フォースシリーズと呼ばれてもおかしくない程のスペックを持つ。

その上、単機であるが故に味方を気にすることもなく自由に動くことの出来るクラウは、連携をとることの出来ない彼らを翻弄し続け、一対多の状況下を最大限まで有効活用していた。

 

「俺が何故こうも君達を集めたのか、その理由はわかるかい?」

 

そうした中でクラウが問いを投げかける。確かに、考えてみれば違和感は存在していた。何故、彼には味方もおらず、誘い込む様に多数の敵と対峙しているのか。

 

『……一人で僕たち全員を落とせるという自信があったから?』

 

クラウの問いかけに、キラが自分の予測を言う。しかし、クラウはその的外れな答えに笑いを押し殺すかのように肩を震わせた。

 

「的外れだよ、言っただろう。俺は凡才だと――――だから他から手繰り寄せるって」

 

一対多の状況で敵を翻弄する。それほどの実力はあるが、逆に言えばそこまでしか実力はない。クラウが一人で全員を同時に落とすことは出来ない。だが、一対多で圧倒できるのなら、一対一であれば敵を落とせる筈である。にも拘らず、彼は一対多で戦い続けていた。

 

『……複数を相手取る事に意味がある?落とせる自信がないっていうなら……時間稼ぎが目的なのか!』

 

「正解」

 

シンが叫んだ答えに対してクラウはまるで気の抜けた拍手でもするかのように、哂いながらシンの回答が正解だという。時間稼ぎ――――つまり、彼自身は実力で勝つつもりなどないということだ。

デスティニーがアロンダイトによって切り裂こうとして来るが、クラウはビームナギナタでその攻撃を防ぐ。出力の関係上、鍔迫り合いをしようとすれば十中八九、アロンダイトが切り裂かれることだろう。シンはすぐにアロンダイトを下げ、距離を取り直しながらビームブーメランを投擲した。

ここで落とそうというのならクラウは間髪入れず距離を詰めようとしたはずだ。そうすればビームブーメランの攻撃も受けず、懐に潜り込めた筈である。だが、それをしなかった。落とす気はあるが時間稼ぎだというのは事実だという証明だ。

 

「俺自身がいくら歴史を変えた所で運命は変わらない。なら直接運命を変えるのは他者に委ね、間接的に影響を及ぼす事もする。尤も、殺せるなら俺が殺しても問題はないだろうけど――――」

 

一方で落とす機会があればそれを逃そうとはしなかった。要は彼にとっては確実性の問題なのだ。落とせる可能性が高いなら討とうとし、落とせないと判断したら引き下がる。

 

『何を……一体何を言っているんだ!』

 

だが、彼が先程から言っている言葉の意味は分からない。運命だとか、死ぬためだとか――――彼の考えは最早世間一般からしてみれば常軌を逸している異常者でしかない。そして、彼は破綻者であることは否定しようのない事実だった。

ビームブーメランを左手に持っていたビームライフルで撃ち抜く。そのままビームライフルの銃口をずらしてショーンのゲルググJG型のコックピットめがけて放つ。それはショーンが回避することでぎりぎりコックピットに当たらなかったものの致命傷だった。

 

『ショーン!』

 

『機体の回収を、早く!!』

 

味方機の一機がミネルバにショーンの機体を回収する。それにすら追撃を仕掛けようとクラウがビームライフルを構えるが、流石にそれをさせるわけにはいかないとキラがビームライフルを連結させて攻撃した。

 

『わけ分からないこと言って……仲間まで躊躇いなく討とうとして……アンタは、アンタはそうまでして死にたいなんていうのかよ!!』

 

「分からないか。当然だろうさ……だが、目指すべきことは互いに単純だ。君らは俺を殺せばいい。俺は君らを、世界の運命を崩せばいい」

 

言うは易く行うは難し――――シン達では今のクラウを落とすには荷が重い。機体の性能差があり過ぎるのだ。そして、それを突破できる可能性を持っているの機体は、理論上はヴォワチュール・リュミエールによって無限加速を行えるストライクフリーダムや、クラウが自らこの世界で再現可能な技術をもって最高の機体に一度は仕上げて見せたデスティニーの二機のみである。

 

『何が狙いなんだ!』

 

キラがクラウの時間稼ぎによって何を狙っているのかという事を疑問に思う。自分自身が足止めに動いているという事は、外部からの変化を待っているという事だ。何を待っているのか?どうして待つなどという迂遠な手段を取っているのか?

今のクラウの実力であれば一機で戦局を覆す事とて不可能ではないはずだ。

 

「言った筈さ、死を求めているんだと――――これはその為の準備なんだよ」

 

彼の応える言葉は変わらない。クラウは本質的な死を求めて続けているのだ。どうすればその死を得ることが出来るのか?仮説ならばいくらでも立てられるが、それを証明することは実際に死を得るまで分かることは出来ない。

だから確かめるために繰り返す。繰り返す、繰り返し続ける――――だが、未だにその成果は出ない。歴史通りに舞台を進めれば死を得られるかもしれないと試し、自身が動いて歴史を変えようとすれば変わるかもしれないと戦場で戦い確かめ、そして過去十五回に至り成果を得ぬまま彼は新たな人生となる十六回目を迎えてしまった。

 

「苦しんだ、理解に及ばない死の遠さに……感情を抑制し続けたからこそ、垣間見せる感情の裏には最早世界に対する憎しみすらあった……だからシン。世界の中心としてあるべきお前たちの事が、俺は嫌いだった(・・・・・)

 

完全に八つ当たりといっても良い。だが、それほどまでに死を迎えれない事にクラウは追い詰められ、絶望していたのだ。感情の抑制が、機械と繋がれたことによって崩壊してしまった彼は理不尽なその怒りを、絶望を、嘆きを叫び続ける。

 

『クラウ……ッ!?』

 

その言葉に傷つくシン。兄のような存在として慕っていた彼にそんな事を言われたのだ。動揺するなという方が難しいだろう。動揺を見逃すはずもなくクラウはデスティニーに向けてビームを放つ。

 

『気持ちはわかるけど、ぼうっと突っ立っていたら死ぬぞ!』

 

そう言ってキラがデスティニーに体当たりすることで射線から躱させる。シンもその言葉に嫌々ながらも納得を示し、クラウに対して再び敵意を向けた。

そのタイミングを見計らったかのようにクラウは一つのモニターに目を向け、己の時間稼ぎという行為の目的を口にした。

 

「もうすぐメサイアが発射される。そう、この射線軸上に――――」

 

『なッ!?』

 

時間を確かめつつクラウが今まで足止めに専念していた理由――――メサイアの発射を告げられ誰もが驚く。

 

『それが狙いだったのか!?』

 

『そんな、メサイアの発射まではまだ時間が――――!』

 

短い方のインターバルを計算していたにもかかわらず、それよりも短い時間で発射されるという事を聞き、シン達は愕然とする。

 

『一体どうやって……』

 

メサイアのネオ・ジェネシスがいくら小型化によって発射時間を短くしているのだとしても明らかに間隔が短すぎる。どこからエネルギーを用意しているというのかと考え、唯一手掛かりとなる情報を知っていたキラが答えに辿り着く。

 

『核融合炉……ッ!MSだけじゃなく、まさかあの要塞に!?』

 

「その通りだ。二機のMSに搭載したとは言ったけど、用意したのは機体にだけとは言っていないだろう?予備の小型エンジンとしてだがメサイアにも一基だけ用意されている。尤も、元々は機体用に用意したものだから出力が追い付かなくて、中途半端な代物となっているけどね」

 

だが、そうだとしても機体用の規格サイズで戦略兵器のエネルギーを賄えるという事実。やはり見て見ぬふりをするにはその力は強大すぎる。

 

『マリューさん、すぐにこの場から離れて!僕はあの要塞の砲塔に!』

 

「もう遅い。俺がこの事実を言葉にしたのは逃げられるほどの時間が残されていないからさ。いや、光の翼を持つ二機なら逃げるだけなら出来るかもしれないが、味方を見捨てられるほど君らは非情になり切れまい?」

 

『クラウ、アンタは!!』

 

信頼を裏切られ、馬鹿にされ、仲間を殺すと言われて、遂にシンが激昂した。デスティニーが光の翼を広げ、アロンダイトを振り下ろす。しかし、その単調な攻撃ではクラウを落とすことは出来ない。幾度となく繰り返される攻撃を、先程の焼き直しの様に同じような動作によって躱される。

デスティニーやストライクフリーダムが人に近い動きを再現できると言っても、クラウのゲルググは人そのものといっていい動きをするのだ。そんな機体の動きはクラウからしてみれば単調といっても差支えないのだろう。

 

『メサイアがここに撃たれるのなら貴方だって死んでしまう!なのに、何故!?』

 

「何度も言わせるなよ。その果てに死を得られるというのならここで殺されることは、俺にとってこれ以上ない本望さ!」

 

アロンダイトの連撃を躱し、ストライクフリーダムの砲撃をシールドで防ぎつつ、ルナマリアの乗るインパルスをナギナタでバラバラに切り裂く。

 

『えッ、そんな!?きゃぁぁぁ――――!?』

 

『ルナ!?――――メイリン、チェストフライヤーとレッグフライヤーを!このままじゃルナが落とされる!!』

 

『は、はい!』

 

シンはルナマリアを庇うように移動し、メイリンにインパルスの換装をするよう頼む。コアスプレンダーさえ無事であればインパルスはそうそう落ちない。

 

「何をやっても無駄さ!すぐにメサイアが撃たれる。そうなればこの場にいる誰も助かりなどしないさ!!」

 

だが、そんな事をしても総てが無駄だとクラウは高らかに言う。誰が誰を庇った所で、ここにいる全員の運命は変わらない。

 

『だとしても、こんな所で諦めるわけにはいかないんだ!!』

 

キラは叫ぶ。しかしその叫びも、それと共に放つ攻撃も届かない。根本的に彼らが勝てぬ理由はシンとキラの二人が動きを合わせるというのが無いという事だった。

いくら彼ら個々人がトップクラスのエースだと言っても、クラウのゲルググに届いていないというのは事実である。だが、それでも彼らは背中を預けれるほど互いの事を信用できない。此処にいたのがアスランであったなら、どちらも背中を預けれただろうが、アスランはこの場にはいない。

 

「諦めないからなんだと言える?吼えるだけなら畜生でも出来ることだ。君らに必要なのは選択さ、見捨てるか、道連れになるか程度の選択肢だけどね」

 

『そんなのはアンタが決める事じゃない!!』

 

シンはそう言ってもう一度接近戦を仕掛ける。再びぶつかり合ったナギナタとアロンダイト。だが、アロンダイトの対ビームコーティングは限界を迎えてしまい、分断される。

 

「その通りだ、生まれながらに異端である俺が他人の運命を決めるなんてことは出来る筈もない。だが、俺は世界の運命を引き込んだ。此処までの変革を生み出す為に十五回も犠牲にした!傲慢な神は、今まで見下ろしていただけであろう神は、今頃心底慌てふためいてるだろうさ!!」

 

クラウのその考えはあまりにも傲慢な上に的外れだ――――きっとクラウを弄んだ神は慌てふためく所か、狂ったクラウを見て嗤っているだろう。だが、憎しみの対象とも言える存在に対し、感情のタガが外れた今のクラウにそんな理性的な思考を求めることなど出来はしない。

機械に繋がれた脳は嘘をつかず、AIはただ事実を淡々と認識する。故に深層心理に刻まれた彼の本質の一端が暴走するかのごとく、彼の感情として表面化させた。それはある意味、彼自身が望んだクラウ・ハーケンという人間性の崩壊というある種の死だったのかもしれない。

 

「これで、終わりだ!」

 

ゲルググのコックピットにあるモニターの一つがメサイアが発射されるまでの残り時間とその範囲を示す。時間は既に十秒を切っており、最早デスティニーやストライクフリーダムが最大限に加速しても、その射線から逃れることは不可能だ。

 

『こんな所でッ……!』

 

ミネルバやシン達が落とされれば、まず間違いなく戦線は崩れる。そうなれば自分たちについた味方は敗北するしかないだろう。だが、もうどうすることも出来ない。

堅牢な戦艦や最強の一機であるクラウのゲルググであっても生き延びることは不可能なのだ。それ以下の性能でしかない他の機体では生き延びられることなど出来ないだろう。

 

「これで俺の勝ちだ!」

 

そして、残された時間が零となり――――メサイアから一つの光が射された。

 




読者様の感想にもいくつかあったけどクラウの突然の変化は仕事のし過ぎによる徹夜明けのテンションが関係しているような気がします(笑)
つまりクラウがこうなったのは休みを無くした議長のせい。

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