ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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Another2 結婚式 前編

戦争が終結し、はや一年。大戦の終わりから臨時としてザフトの指導者の一人となっていたアスランは正式にその役職を受け、今やプラントのトップの一人に数え上げられる人物となっていた。

 

「はぁ……」

 

しかし、彼自身はその役職を好んで受けているわけではなく、あくまでも代役が居ないからという理由で受けているに過ぎない。戦後の復興の為、酷く人材不足という事もあり、たかが一年程度では後任を任せることの出来る人材も育成されておらず、アスランが辞めるのはまだ大分先であろうという事が予測された。

 

「一々溜息をつくな。鬱陶しい!貴様も人の上に立つ立場だというのであればそれを自覚しろ!」

 

「十分自覚しているさ、イザーク。だからこそ、こうやって溜息をつかざる得ないんだろ?」

 

横に並んで共に歩いているのはイザークだ。彼も戦後にプラントの重要な立場に就くこととなり、日々アスランと同様に忙しく駆け回っている。同等の立場となったアスランとイザークは今のように仕事に関して話し合う立場でもあった。

 

「ラクス――――いや、ミーアがラクスを演じることを辞めてくれたのはありがたいが、事実として彼女が居ない影響というのは大きい……デュランダルのやり方は問題もあるが、確かに有効だったと認識させられる」

 

デュランダル前議長という言い方も、死刑判決が下されてからは流石に問題もあるだろうと思ってか、デュランダルと呼び直すようにしている。しかし、彼のやってきた行動がいかに政治的に有効だったかを近い立場に立ったからこそ実感させられていた。

ミーアを偽者のラクスとして政治的なプロパガンダとして有効活用した方法は決して誉められた手段ではないが、国民には大きな影響を与えたのは間違いない。

 

だが、ミーアは自分自身思う所があったのか、アスランに相談するという間接的な行動ではあるものの、ラクスを演じることを辞めたいと言ったのだ。様々な葛藤があったのだろうと思わせるそのミーアの表情からアスランは――――

 

『それは俺が決める事じゃない。だが、君がそうしたいというのなら俺はその選択を支持しよう』

 

そう言ってミーアは結局時間こそかかったもののラクスを演じることを辞めた。しかし、その影響が全くなかったというわけではない。

前もって引退という名目で辞める準備を整えることから、政治的な影響から切り離す為に行った事から、事後処理からと、思わず弱音を吐いてしまうほどに、やらなくてはならないことが大量に存在していた。

 

「そう言えばイザーク。お前が結婚すると聞いたんだが?」

 

「な、何故貴様がそれを!?」

 

仕事の話ばかりでは気が重いとアスランは思って、話題を変えようとつい最近聞いた話を持ち出す。イザークは何故知ってるとばかりに驚愕する。

 

「いや、普通にディアッカから連絡が来ていたんだが……」

 

「あいつ、何を勝手に!」

 

どうやらイザークにとって相当恥ずかしい事だったようだ。出来る限り遅くまで知られたくなかったのだろう。まあ、友人の結婚に関する話などというのは話題にされやすく、本人が聞くものとしては恥ずかしいのは事実だろう。

 

「フン、まあいい。そういう貴様の方は如何なのだ?」

 

「え、いやどうって言われてもな――――」

 

「自分の立場を自覚しろ。これから先、一年や二年ならともかく貴様もいつまでも独り身というわけにはいくまい」

 

そう言って、この話は終わりだとイザークは早歩きで先に進む。アスランはその言葉に考えさせられ、結局、その日一日はあまり仕事が捗らなかった。

 

 

結婚――――類義的な言葉として婚姻なども存在し、結婚することは互いの愛を確かめ合うことの出来る至福の一つである。尤も、政略結婚や、子を産むために恋愛感情のない相手同士が結婚することなどもあり、他にも結婚後に破綻して離婚したりすることもあるので、一概に幸福を得られるとは言い切れないが、少なくとも大多数にとっては幸福な出来事の一つだと言えた。

 

「結婚か……」

 

仕事を終え、自室に戻ってきたアスランはそう呟きながらベッドに倒れ込む。考えてこなかったわけではない。寧ろ、これまで随分と先延ばしになってきた事柄だろう。

ラクスとの許嫁の関係――――これは最終的に本人同士が納得した上で解消した。その偽者を演じていたミーアに関してもアスランに対する好意が消えたわけではないが、ラクスを演じることを辞める以上、アスランは彼女との関係を深めることはないだろう。

 

「今なら、君を迎えに行くことも出来るのか――――カガリ」

 

胸の奥に温かみが増すように思い浮かんだのはオーブに居るであろう金髪の女性、カガリ・ユラだった。今の彼女はオーブの国家元首でもアスハの人間でもない。であれば、ザラの人間であるアスランが彼女と結ばれるのも決して不可能なことではない?

 

「だが、そうだとしても今は無理な話だな……」

 

決して不可能なことではないが、難しい。ましてや今の情勢は戦争こそ終結したものの、その下火が完全に消え去ったわけではないのだ。戦後の復興の為に、アスラン達プラントの人間の忙しさは増すばかりである。

そんな状況で、自分の為だけにカガリと結婚しようとすれば、オーブとの関係や手間を考える限り、プラント全体に負担が掛かるだろう。だからアスランは諦めの気持ちを浮かべながら、溜息をつく。

アスランの結婚は、別に今すぐに必要というものではない。なら、プラントを優先すべきだと考え、ベッドにそのまま寝入った。

 

 

 

 

 

 

「――――というわけだ!」

 

「……何がというわけなんですか?」

 

話が見えない――――いや、それ以前に、というわけだ、としか言ってないイザークの会話内容からシンは何が言いたいのかすら分からない。せめて話の本筋を説明してほしいと思う。

 

「つまり、アスランが結婚を先延ばしにしているせいでこのままじゃ、カガリが報われないって話ですよね?」

 

「いや、何でわかってるの?」

 

キラが話の内容を要約するが、そもそもそんな話は聞かされていないのに何故わかると訴えるシン。

 

「でもさ、それってカガリさんがオーブで結婚しようとしてた時と同じじゃないの?それに、別に今すぐ結婚しなくちゃいけない理由もないんでしょうし……」

 

「ルナまで!?何これ!何でアンタ達話の内容理解してる前提で進めてるの!?」

 

自分だけ仲間外れにされたのかと叫ぶシンだが、誰もシンの相手はしない。それよりもアスランの方が重要だからだ。

 

「確かに、国を優先するっていう意味としてはアスランの選択肢は前にカガリとしていたことと同じかもしれない。でも、別に結婚自体に問題はないのに、結婚するのに必要な手間を考えてるせいで止めるなんて言うのはあんまりにもカガリが可哀想じゃないかな?」

 

「言いたいことはわかった。要は俺達が裏で根回しすればいいという事だな?」

 

キラの意見やイザーク達の話を聞いて、理解したとばかりに納得し、纏めるマーレ。それにまたしても裏切られたと言わんばかりの顔でシンはマーレの方を向いて叫ぶ。

 

「マーレまで状況理解してるのかよ!?何だよ、アンタ等は一体何なんだー!!」

 

「「「五月蠅い!!」」」

 

自身を除く全員に咎められるシン…………とにかく、ここに『アスランとカガリを結婚させ隊』が結成された。

 

「だからツッコミどころ満載だろ!そのネーミングセンスはどっから来たんだよ!?」

 

シンのツッコミは最後まで誰にも相手にされることなく、彼らは動き出した。

 

結成後の彼らは張本人であるアスランやカガリにはばれないように動く。ばれてしまえば頑固な部分がある彼らは意固地になってしまう可能性が高いからだ。ばらすなら彼らがプロポーズした直後が一番望ましい。

 

まず、舞台裏を用意する際に財力に関してはルドルフに協力を取り付けた。その際、暴走しないようにアレックをお目付け役として付けたのは当然の行為だろう。

 

「任せておきたまえ!プラント史上、最も豪華絢爛な結婚式の舞台を用意してみせよう!」

 

「あー、抑えは任せておけ……出来る限り酷い事にならんように努力はする」

 

次にコネに関しては大戦の英雄である彼らにとっては容易いものだった。オーブはセイランが、プラントはイザークが中心になって動く。アスランやカガリにばれないようにする為、アスランの方にはミーアが、カガリの方にはキラが誤魔化すように動いた。

ミーアがラクスを辞めるというのもこの作戦の一環だったのだ。尤も辞めること自体は事実な上、ミーアは諦めきれない部分があったのか、アスランを誘惑していたのだが。

 

「まさか、僕にも仕事が回って来るなんてね。まあ、それはいいさ。セイラン家も全力をもって支援しよう。式には僕も呼んでくれよ?流石にここまで手伝っておいて招待されないなんて想像したくもないし」

 

厳しかったオーブやスカンジナビア以外での地上の国家に対する調整もジャンク屋やサハク家などに協力を仰ぎ、サングラスをかけた男性に黙っている代わりにという条件で協力を取り付けていた。後日、幾つかの国で技術的な事に関して存在していた問題が解決するのだが、その話は割愛する。

 

「今後脅すのは止めてくれない?故郷巡りにヨーロッパ歩いてたらこれだよ……」

 

何はともあれ、舞台となる準備は整った。

後はアスランとカガリを出逢う様に仕向け、そして彼らが実際にプロポーズするのを待つだけだ。流石にプラントにいるアスランをオーブへと連れていくには色々と無理があったのでカガリの方をプラントへと連れていく事にした。

 

「全く、キラ。一体プラントに何をしに行くというのだ。そりゃあ、私もアスハ家を取り潰したことで多少の余裕はあるが、だからといってお前のように年がら年中暇というわけじゃないんだぞ?」

 

「アハハ……僕も一年中暇ってわけじゃないよ。今日プラントに来たのは議長の言っていたニュータイプに関する手掛かりがあるかもしれないって情報が手に入ったからなんだ」

 

もちろん嘘である。だが、キラがカガリを連れていくのに他の良い理由も思い浮かばなかったので、適当にでっち上げただけだ。

 

「別に私はニュータイプなんてものには興味はないんだがな」

 

「そうかもしれないけど、たまにはこういうのも良いんじゃないかな?」

 

そう言って一つのプラントに辿り着くキラとカガリ。とはいっても、今はまだこのプラントにアスランはいない。プラントのコロニーは数も多く、その一角にやってきたところでアスランと偶然会える確率など殆どない。

例えるなら東南アジアの島々のどこかに過ごしている特定の人物と会えというようなものだ。尤も、そんな偶然に頼っているわけではない。アスランも今日このプラントに来るように周りの人間がスケジュールを調整したのだ。夜になればアスランとカガリを出逢わせることも出来る筈である。

 

「さて、じゃあホテルに荷物を預けに行くとするか」

 

「そうだね」

 

こっそりと無線で他のメンバーと連絡を取りつつキラ達はアスランとカガリを出逢わせる為に作戦を開始した。

 

 

 

 

 

 

「来ましたよ、アスランさんです」

 

やってきたアスランを見つけ、無線で他のメンバーとの連絡を行う一人の女性。それを気だるげな様子で後ろから見ながら不自然に思われない程度の様子でアスランを追いかける男性が問いかける。

 

「メイリン。なんで俺達は尾行役なんだ?」

 

帽子と色眼鏡を掛けた二人は一見すれば恋人か兄妹にでも見えるが、実は変装したメイリンとショーンだった。彼は明らかに面倒だと言わんばかりの態度を見せながら自分の役回りに不満を訴えた。

 

「しょうがないじゃないですか。ショーンは別に地位が高くてコネがあるって訳でもないですし、こういった事で役立てそうな特筆すべきこともないんですから」

 

「……それはお前だって一緒だろ」

 

「残念でした。私は情報処理に優れてるんで色んなところで役に立ってます。尾行しているのは当日にやる事が特になくて暇だったのと、こういうのに向いてなさそうなんで、仕方なく私が手伝ってあげようと思ったわけですよ」

 

言い訳がましく言ったショーンの言葉に反論するメイリン。ショーンはぐうの音も出ない。尾行の技術などやったこともない以上、稚拙なものであるのは明らかであり、自分一人では今頃ファッションに見える様な変装など出来ず、マスクにコート、サングラスといった不審者顔負けの服装をしていたかもしれない。

 

「でも、よくこんな変装の仕方が思いつくな。なんでこんなの知ってるんだ?」

 

「ショ、ショーンが知らなさすぎるだけですよ!女の子のファッションセンスは色んな所で必要とされるんですからね!?」

 

苦し紛れの反撃に意外と焦りを見せたメイリン。もしや以前にも尾行などをしたことがあるのではないかと疑ってしまうが、とりあえず追求はせずアスランを追う事に集中する。下手に追求すれば藪蛇になりそうだと思ったからだ。

 

「で、アスランをどうやっておびき寄せるんだ?」

 

「一応計画はありますが、こういうのは本人の予想外の行動が多いものです。ですから、各々が臨機応変に今から対応するんですよ」

 

今まさに、アスランとカガリを引き合わせるための作戦が開始されることとなる!

 




後日談その二。今回はアスランとカガリがメイン。
後編に続きます。

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