ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第二十三話 悩み

ミネルバがオーブ艦隊やアークエンジェルと戦っていた頃、ディオキア基地に辿り着いていたラー・カイラム部隊はMSの調整や艦のデータ収集に忙しく、クラウもステラをつれて病院で治療活動を行っていた。

そうした中、ラー・カイラムの艦長であるグラスゴーがステラの居る病室の前でクラウと話し合っていた。いや、正確に言えば要求を突きつけていた。

 

「つまり、あのエクステンデットを解剖しろと?」

 

「ああ、そうだ。あんなもの生かしておいて得なんてないだろう―――解剖してデータを送るべきだと思うんだが?」

 

まあ、意見としては確かに間違っていない。捕虜にしたのは生きたエクステンデットだ。データを取るのなら生きているうちに解剖したほうが良いことは確かだといえる。

 

「俺は医者じゃないけどさ…彼女は俺の患者だ。モノ扱いすることも気に入らないな。何より、そんなことしたらシンに面目が立たない」

 

「断ると?議長にそう報告していいのか?」

 

あからさまに脅してくるグラスゴー。しかし、その程度の脅しは正直意味がない。

 

「構わないさ。大体なんで捕虜に人道的処置をすることに問題があるって言うんだ?報告したいなら好きにすればいいさ。その時は勝手にこっちで見限るからな」

 

「後悔することになるぞ?」

 

鼻で笑い飛ばし、クラウはそのまま医務室に戻る。元々忙しい身で更に自分からステラの治療という多忙を請け負ったのだ。その時、シンにステラのために勝てと言ったのだ。

そのくらいやってのけねばシンに顔向けできないと思い、ステラの治療に戻っていった。

 

「気に入らんな……」

 

ナチュラルの、それもエクステンデットなどという訳のわからない強化人間に情けを掛けるなど信じられない。あれが暴走して他の兵士に被害がいったらどうするというのだと思う。

 

「ラー・カイラムもアイツが造ったというが、それだけで権限が上と言うのか?」

 

フェイスでも無いのにそういった特殊な権限を持つことも余り好ましくない。連合のように上から下まで頭を固くするようなことは無くとも、ここまで柔軟―――というか自分勝手にされてもこちらも困ると言うものだ。

苛立ちを抑えきれないままにグラスゴーは艦に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「さて―――」

 

シンからというかミネルバから預かったステラを治療―――正確に言えば再調整し直すことにする。何故、治療でないのかという理由は主に三つ。

一つ目は単純に薬の問題。現代の治療でも治せない病気というものや薬物の後遺症が残るものは存在する。その時点で完治するというのはどっちみち不可能なのだ。まあ知識を最大限まで使えば出来ないことも無いだろうが余計に厄介ごとを抱え込むことになるだろうし、何より今以上に手間が掛かる。

二つ目はディオキア基地の設備。医療施設としてはまだ充実してるほうなんだろうが流石にプラントの医療施設や大きな設備のある所、連合の研究所には劣る。

そして最後の三つ目がエクステンデットとしての記憶処理と覚醒実験―――早い話が個人的な動機の類だ。しかし、これは言い訳させてもらえるなら善意と打算の両方が入り混じったものだ。今後も彼女の立場というものを考えれば少なくとも何らかの首輪が必要になる。

首輪の存在としてシンが最有力候補だが保険はいくつあっても問題ない。クラウはどちらかと言えばここぞというとき以外は慎重なタイプなのだ。うっかりすることが多いから……。

記憶処理に関してもエクステンデットとして記憶の調整を受けており、シンのことも忘れていた。だが、思い出すと言うことがあることから記憶を完全に消去したわけではない。例えるならネットのゴミ箱に放り込んだだけであり、復元自体は可能だ。だからこそ、余計な記憶は消して、都合の良い記憶を思い出させる。

研究所の人間と同じ穴の狢といえるだろうが、所詮俺はこれを造った奴等と同類だ。戦争でゲルググが活躍することを喜ぶような人間なのだから。とはいえ忘れさせるものは多くは無い。精々人体実験などの後々にトラウマになる可能性のあるものだけだ。ネオのことや連合の事だって覚えているだろう。そこから先の説得はシンの仕事なのだから。

それ以外にも色々とあるが、これ以上の説明は面倒だし省いておく。

 

「そういえば結局リゲルグは再調節ってことで実戦での使用が見送られたんだよな……艦に乗せてる兵器って他に……そう言えばアレ二種を造る為に一機だけ試作した奴があったよな―――アレに乗るか?いや、しかし心情的にも……」

 

ブツブツと呟きながらステラの再調整を施すクラウ。実に不気味というか、遠目から見たら悪役のようにしか見えないだろう。幸いなのはここが医務室で彼と患者の二人しかおらず、更に患者の方は意識を失っていることだろう。

その後も彼は医務室で長い時間治療―――再調整を行うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、オーブ軍も尽力して下さり、軍として良く働いてくれたかと―――」

 

『それで、報告はそれだけかね?』

 

ネオは自分の部屋でロゴスの当主であるロード・ジブリールに先のミネルバとの戦闘を報告していたのだが、御託はいいとばかりに結果をせかす。

 

「その、カオスが大破。ミネルバはMS隊を含めて甚大な被害を被った事は間違いありませんが落とすには至らず――――――」

 

画面の向こう側で机にグラスを叩き付けるジブリールの姿が映る。表情を憤怒に染め上げ、今にも爆発しそうな様子だ。

 

『そこまでお膳立てされていながら、結果が艦一隻とMSに損傷を与えただけだと?冗談では無いぞ!!』

 

期待してないと言いつつも失敗すればこうやって癇癪起こされる。ネオとしては早いところ話を終わらせたいのだが、それは無理な話だろう。

しばらくの間、ジブリールの怒声を浴びながら対応する。それが終わった頃に漸く本題を切り出してきた。

 

『まあいい、貴様の次の仕事は元から決まっていたのだからな……デストロイで街を焼き尽くせ。スペックは見ただろう?アレならそのくらい容易く出来る』

 

確かにとは思う。デストロイのデータを見たが異常な性能と言えた。VPSやTP装甲による実弾への高い防御力。全方位に放てるビーム兵器やミサイル、収束ビーム砲を束ねた砲撃。圧倒的といえるそれらの火力。

そして何より、Iフィールドと呼ばれる新兵器―――ビーム攻撃の無力化を行えるという、尋常とはいえない兵器だ。近接戦のビームサーベルは流石に無力化しきれないようだが、そもそもこれだけの火力と防御力を持っているのならまともに近づけさせることすら出来ないだろう。

 

「しかし、こんな兵器……一体何処で?」

 

『Iフィールドが気になるのか?当然だな、それがあればこれまでの既存の技術を覆しかねないものなんだから』

 

「これに、そこまでの価値が?」

 

急に機嫌を良くするジブリールに思わずネオは声を出す。確かにIフィールドは脅威だが、そこまで重要とは思えない。わざわざ射撃系のビームを防ぐためだけに背面の大きな円の部分に大型ジェネレーターを付けるのだ。それならビームシールドやラミネート装甲を使ったほうが接近戦にも対応でき、効率がいいのではないのだろうか?

 

『まあ、そう思うのも無理は無いか?だがな、それを応用することが出来れば最終的に総てのビーム系統の攻撃を防げる。バッテリーの問題も核動力を使えば良い。その上、PS装甲系統を取り付ければ最強の盾が出来ることだろうさ』

 

確か同じようなことを豪語していたアルテミスの傘もあっさりと落とされたような気がする。アレもハイペリオンとかいう全身防御の装備だってあったはずだ。しかしそれもあっさり落とされたって聞く。結局は夢物語の類だろう。

大体実戦に使えるかも分からないような兵器を持ち出すなんて余り喜ばしいことじゃない。とはいえ、上司の命令に逆らえないネオは受け入れざる得ない。

 

「わかりました。では、デストロイで作戦を行いたいと思います」

 

『今度ばかりは、くれぐれも失敗するなよ――――――』

 

「ハッ!」

 

まったく、宮仕えは辛いね、と思うネオだった。

 

 

 

 

 

 

「いいな~スティングだけ新型なんてさ~」

 

「仕方ねえだろ?俺の機体はぶっ壊れちまったんだからな」

 

スティングとアウルはこれから配備される新型について話しながらバスケットボールで遊んでいた。

 

「まあそれなら、仕方ないか?」

 

そう言いながらバスケをやめて、アウルは近くの海を呆然と見つめる。

 

「どうした?なんか見つけたのか?」

 

「いや、何か足りねえなーって思って……こう、ずっと海見てたやつが居たような気がするんだけどさ……」

 

何か思い出せそうで思い出せない記憶。そんな違和感だらけのちぐはぐな記憶が頭の中を巡っていた。

 

「―――確かに、な?」

 

スティングも違和感を消しきれないのかそう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

「どうした、アスラン?」

 

ミネルバが港に着き、補給を受けている間、アスランが甲板でたそがれている様子にマーレが声を掛けた。

 

「マーレか……いや、大したことじゃないんだ」

 

「アークエンジェルのことか?」

 

「……ああ」

 

溜息をつく様子を見せながらアスランは自身のやったことが本当に正しかったのかを思い悩んでいた。キラ達を止めたことは必要だったことだ。だが、自分にも他にやり方があったんじゃないかとそう思ってしまう。

以前あったときにもっとうまく説得できたんじゃないのか?戦闘に参加してきたときにすぐに撤退させる事だって出来たんじゃないのか?そう思ってしまうのだ。

 

「お前な、自分がやることは何でも成功するって思ってるのか?」

 

「―――え?」

 

アスランにとって突然見当違いと思えるようなことを言われてしまう。何でも出来るなんて思ってはいない。ただもう少しだけうまく出来たんじゃないのかって思ってるだけなのだ。

 

「ハァ、ガラじゃねえんだが……もう少し、ちょっとだけ―――そういう言葉って言い出したら際限ないだろ?例えばお前、料理人が自分の作る料理に完全に満足できる日ってあると思うか?」

 

そう言われてハッとなる。確かにそうだろう。そういったことに限度なんて無い。一つうまくいけば別の事に目がいくものだ。

 

「だけど―――俺は……本当に討ってよかったのかって―――」

 

そう思いつつも愚痴をこぼすようにそう言おうとした瞬間、マーレが睨みつけていることに気付く。

 

「チッ、だったら討つ以外に手段があるって言うのか?戦闘中に説得してたんだろ、どうせ?無理に決まってるんだよ。敵は討たなきゃ始まらねえ」

 

「だが、撃たれたから撃って、撃ったから撃たれて―――」

 

「戦争が終わるのかって?じゃあ聞くが、終わらなかった戦争ってあるのか?」

 

「あ―――でも」

 

有史以来、戦争が途絶えたことなど無いが、終わらない戦争もまた存在しない。

 

「そういうことだ。結局は終わるんだよ。それがどういう形であれ、な……」

 

「……」

 

アスランは黙り込んでそのまま海を眺める。マーレはその様子を見てこれ以上は面倒くさいとばかりにその場から離れだした。

 

「俺達がやるのはその終焉をどれだけマシなものにするかなんだよ。今修理が間に合ってる機体はお前のセイバーとシンのインパルス位なんだ。俺達を不安にさせるなよ―――トップガン」

 

敵の連合の称号を使ってるのは皮肉か?と思いながらアスランは笑みをこぼす。

 

「ああ、ありがとうな」

 

「フンッ!」

 

そのままマーレは振り返ることなく艦内に歩き去っていった。

 




久しぶりにクラウの登場。しかし出番は殆ど無い(笑)
寧ろマーレの方が主人公やってますね。

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