ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第四十一話 義を貫く

「ありがたいことです。我々を受け入れてくださって。愚盲な輩は我々をまるで稀代の大悪党かのように言うのですからね」

 

「いえいえ、他ならぬジブリール殿の頼みでしたら断るわけにはいきませんとも」

 

ジブリールとアズラエルは結局最も良いと思われるオーブに来ることにした。勿論、事前の知らせなどせずいきなり入国することになった。先に連絡だけなどを送っていたならオーブの狸爺ともいえるウナトはのらりくらりと躱したことだろう。だが、こうやって直接国に入ってしまえば断る余地などないのだ。

 

「父上……」

 

ユウナが小声で話しかける。その目は確実にジブリール達を匿うべきではないということを言っていた。

 

「仕方ないのだ―――今の我々では彼を庇わざる得ないのだ……奴がどれほど危険な男かはお前も知っておろう。国への入国を許した時点で我々に取る手段はこれしかない」

 

悲痛に歪めた顔つきをウナトはしながらそう言う。断れば国を焼かれる。受け入れようとも、その内ザフトがオーブを焼き払いに来ることだろう。ジブリールもアズラエルも周到だった。自身の信頼できる部隊を用意してそれなりの規模の部隊をオーブ周辺にかき集めてきたのだ。それも一部の飛行可能なものなどはミラージュコロイドを搭載し、潜んでいたりした。既に断れる状況ではない。更には核で攻撃することも出来ると仄めかされた。

これらの戦力はオーブへの協力を行う為などとジブリールやアズラエルは口々に言っているが、要はこちらを脅すための戦力なのだ。既に懐に入り込んだこれら総てが。潜水艦でやってきた彼らを守るために会談の際に護衛のMS一機であると言われたNダガーNなどが最たる例だ。抵抗すればミラージュコロイド搭載機であり、核動力のこの機体が黙っていないと。爆発など起きれば今後数十年は人の住めない国になるのは確実だろう。

勿論、ザフトもロゴスが隠密行動を取っているとはいえ、そのロゴスの大規模な部隊の移動に気が付いているはずだ。もうすでにオーブに来ているということをデュランダル議長は知っているかもしれない。

 

「私としてもこのような手段は取りたくなったのだがね。何せ世間はロゴスが敵だと言う始末だ。町に買い物に行くのにも一苦労だと考えると万が一ということもあるのでね」

 

アズラエルもそう言いながらオーブに無理矢理協力を取り付けたかのようなことをして申し訳ないと悪びれもせずにそういう。本気でその気があるなら国に来て欲しくはなかったとユウナは思うが口には出来ない。

 

「分かりました。オーブはあなた方を受け入れましょう。ですが、会見でザフトに対してあなた方の存在を容認しているという発言をさせてもらっても?」

 

「何を言う?そのようなことをすれば喜々として奴らにこの国に立ち入らせる事になるぞ!」

 

意図が読めないとウナトですら訝しげな目線で問いかける。

 

「正直な所、あなた方が入国したことをザフトは既に知っているでしょう。これ程の部隊です。気が付かない方が可笑しい。仮に囮だと勘違いしたとしても攻撃を仕掛けてくることは確実でしょう」

 

「その件に関しては私も心苦しく思っている。しかしだ、だからと言って我々を庇わないという気ではないだろうな?」

 

公式会見でそのような発言をする、つまり自分たちを差し出す気ではないかと警戒する。護衛のNダガーNにはいつでも行動を起こせるように命じた。

 

「い、いえ、決してそのようなことをするつもりはありません。私達オーブのもう一つの顔を利用するのです」

 

「もう一つの顔だと?」

 

「オーブの中立の理念です。それを利用して、我々はあなた方に支援していきたいと思っています」

 

 

 

 

 

 

ロゴスの引き渡し要求をザフトはオーブに対して行う。既にザフト軍、反ロゴス連合軍はオーブへと向かっており、回答までの期間を宣告される。そんな中でオーブ本国は慌ただしく動いていく。

 

『皆さん、聞いてください。私はオーブ代表首長代理ユウナ・ロマ・セイランです。既にご存知の方もいらっしゃるでしょうが我々はザフトにある警告を突き付けられました。ロゴスメンバーと言われるロード・ジブリールとブルーノ・アズラエルの引き渡しです。皆さんはこう思っているでしょう。我々は本当にあの大悪党であるロゴスを匿っているのかと?そして匿っているならば一刻も早く差し出せと』

 

オーブ中に、いや世界中に届けられていくこの放送に大勢が目を、耳を傾ける。真偽はどうであれ、オーブにとってはザフトが攻撃を仕掛けてくれば、二年前の二の舞になり、それ以外の世界の人々にとっては世界の敵がどうなるのかが判明するのだから。

 

『事実をお伝えしましょう。我々はロゴスのメンバーである彼らを匿っています』

 

その発言に周囲は騒然となる。国に世界的な悪党が存在しているというのだ。落ち着いてなど要られないだろう。

 

『皆さん、どうか落ち着いてください。私は皆さんに真実を知ってほしいのです。確かにベルリンでのあの悲劇、あれは私にとっても悲痛な出来事だと思います。ですが、だからと言ってロゴスという組織そのものが悪だと、何故そう言えるのでしょうか?』

 

聞いていた多くの人々が反発する。何を言っているのだと。人を虐殺するような行為をしているのだぞと。

 

『私は経済関係が専門の政治家です。そして、だからこそ知っています。戦争を行う事があらゆる形で利益となっていることも。それはごく当たり前のことに過ぎないという事もです。プラントも、連合のあらゆる国の企業も、我々オーブですら戦争を利益にしています―――経済は非情です。私は経済学を学びそういった出来事が存在していると知るたびに酷く悲しい思いをしました。

そして、そういった虐殺行為もまた、あらゆるところで当たり前のように行われていることなのです。ロゴスだけでない。ザフトも、戦争という行為を行う存在は当たり前のようにこんな虐殺行為を行います。それを、ロゴスの虐殺行為だけ見せられ、そして戦争の原因は彼らだと、何故決めつけれるのでしょうか?

だからこそ、皆さんに真実を知っていただきたいのです。我々は今ロゴスを差し出せと言われている。ですが、我々はこの場に会談を持ちたいとそう発言したのです。オーブの理念をもって』

 

オーブの理念と言われて、場が静まる。かつての英雄ウズミ・ナラ・アスハ行った中立宣言を誰もが思い浮かべる。

 

『今回の戦争の発端はユニウスセブンの落下です。そして世間では、ロゴスがそれを引き起こしたかのように祭り上げられています。可笑しいとは思いませんか?何故、自分たちで自分たちの首を絞めるようなことを行うというのでしょう?無論、私にも総ての真実がわかっているわけではありません。本当にロゴスが引き起こした事態なのかもしれません。だからこそ、我々はプラントの評議会とロゴスとの仲を取り持ち、会談を開くべきだとそうザフトに呼びかけました』

 

再び場が騒然としだす。ロゴスが本当に悪なのか?対話による解決が存在しているならザフトはそれに乗るべきではないのか?口々に疑問が飛び出てくる。

 

『しかし、オーブ国民の皆さん。結果はあろうことに、ザフトは武力をもって再三とこちらに要求をしてきました。ロゴスのメンバーを引き渡せ、と。信じられますか?彼らは戦争を止めるためにと行動しているにも関わらず、対話ではなく暴力に訴えてきたのです。オーブは理念をもって戦う為に、この国土に戦火を曝すこととなるかもしれません』

 

更に騒然となる。再びこのオーブが焼かれる。そうなってしまえば我々はどうなるというのだと。

 

『ロゴスを今すぐ引き渡せと、そうおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。ですが、我々は理念を貫く、いえ、最早貫かざる得ない状況に追い込まれてしまったのです。理解してほしいとは言いません。恨んでくれても構いません。ですが、私は一人でも多くのオーブ国民を守るために、非常事態宣言を発令します。国民の皆さんはすぐにシェルターへと向かってください』

 

 

 

 

 

 

「やってくれたな……オーブッ!?流石は前大戦から持ち直しただけのことはある……!」

 

この非常事態宣言を聞き、デュランダルは込み上げる怒りを抑え込んでいた。ザフトとロゴスの会談。確かに持ち掛けられはした。だが、そのようなものはありえないと誰もがそう思い、一蹴したものだ。そして、事実受け入れた所で会談は成り立たなかっただろう。おそらくは延期や中止などと誤魔化している間にロゴスのメンバーを脱出させたはずだ。

だが、この公式会見によって意味合いが大きく変わった。早い話がこちらが先に断ったということでこちらを悪役に仕立て上げたのだ。ロゴスとの対話の場を取り付けたにも関わらず相変わらず世間の敵だとなおも断じて対話の道すら拒むと言うのか?と言った風に。

勿論、ロゴスが敵だという世間の認識はそうそう変わらない。だが、両者に共にそれぞれの義があるということを見せつけられたのだ。こちらの士気は下がり、向こうの士気は上がる事だろう。それだけで済むならともかく、これによって世界中の人々が判断に迷う事となる。

 

「どちらにしてもロゴスを捕らえるためには動かなくてはならない。だが、動けば世論は判断がつかなくなる……」

 

世論を味方につけたからこそ、デュランダルの行いは支持されているのだ。だが、ここでロゴスという悪を討つ事に正当性を見出されなくなれば、後のデスティニープランを含めて支障がきたされることになる。

 

「だが、詰めが甘いな。それが若さゆえの過ちなのだよ。こういった事態に備えて二手三手先を読んでいないとでも思っていたか?」

 

デュランダルは立ち上がり、こちらも演説を行うと言いのける。本当はロゴスを斃したのちのデスティニープランの際に使う切札であったのだが、止む得ないと判断し札を切ることを選んだ。

 

 

 

 

 

 

「まさか、あんな手段で切り抜けようとはな……」

 

「良い息子さんだ。将来が楽しみではないか?」

 

ロゴスの二人ですら舌を巻くような短時間での有効な策に彼の父であるウナトを褒め称える。

 

「いえ、まさか私としても息子があれほど成長しているとは思ってもおらず……」

 

冷や汗をかきながらウナトは対応する。まさかあんな博打とも言えるような方法で切り抜けるとは思わなかった。国民は混乱こそするだろうが、信用は失われずにすんだ。そして、ザフトに対してこちらも対等の義を得ることとなった。

無論、穴も多く存在する上に、成功しきるとも限らないが、上策であることには違いなかった。そう思っていると突然、ザフトのデュランダル議長が放送に入り込む。

 

『皆さん、以前の放送で見知っていることでしょうが、私はプラント評議会議長のギルバート・デュランダルです。先程、多くの方々が今のオーブ代表首長代理の言葉を聞いた事でしょう。私も彼の言葉を聞き、一部ではあるものの彼の意見に賛同することがありました』

 

突然の登場に三人は驚愕する。まさか、これほど早く行動に移してくるとは誰もが思っていなかった。ウナトは冷や汗を更にかきながらサングラスを落としてしまい、アズラエルは紅茶のティーカップをから紅茶を零し、ジブリールは膝にのっていたノルウェージャンフォレストキャットが思わず逃げ出すほど怒りの形相をする。

 

『確かに、彼らの意見も尤もです。私自身、彼らとの会談をはねのけてしまったことに対して非もあるでしょう。ですが、ことは最早そういった段階ではないのです。ここに一つの資料があります。ご存知の方もいらっしゃるでしょうが前大戦の英雄アークエンジェルです。彼らはここ、オーブに匿われていました。そして、知っているでしょうか?彼らはこともあろうに、テロ行為を連続的に行っていたということを』

 

次々と映像が流される。その様子は如何見ても前大戦の英雄と言えるような行動ではない。

 

『さらに最も問題なのは彼らが核動力を搭載したMSを運用していたという事なのです。そして、オーブはそれを匿っていた。わかっていただけただろうか?テロを支援し、あまつさえ己のその行為を正当化しようとする。これこそが今のオーブなのです!だからこそ我々は――――――』

 

流れる光景に思わず腰を抜かすウナト。最早映像に映っている様子は目に入らない。彼らは自身の正当性すらも奪われる事となった。

 

 

 

 

 

 

「なんてことだ!!」

 

思わず壁を叩き付けるユウナ。彼はいま国防本部にて国民の避難の為に軍を必死で動かすように命令していた。声明によって国を守るために行動したというのに、またしてもあの疫病神に邪魔されたのだ。

 

「―――ナ様!ユウナ様!」

 

呼ばれていることに気が付き、とっさに顔を上げる。目の前には先日のタケミカヅチでの戦闘で昇格したトダカ准将がいた。本来なら敗走であった時点で降格ものだろうが、敵がミネルバであったこととアークエンジェルの介入があったということを考慮して昇格が認められたのだ。

 

「ユウナ様、ご指示を。どちらにせよ、こたびの戦闘は避けて通れなかったものです。そして我々としてはあなたの指示が無ければ動けるものも動けないのですよ!」

 

以前のタケミカヅチでの事で仲が良好になったなどと言うことはないが、互いの立場があるという事は理解したユウナとトダカはこの国防本部で互いの指揮に理解を取れる立場にあった。無論、未だ納得いかないことは多々あるが。

 

「あ、ああ―――とにかく、国防陸軍を中心に少しでも多くの国民を避難させるんだ。何なら本土防衛軍の陸戦力を使ってもいい。国防海軍は早期に展開。陸に上がらせないようにするんだ。彼らザフトだって交渉の余地がないわけじゃない」

 

「そのようなことが可能なのですか?」

 

最早交渉は不可能に思えるが、といった様子でこちらを見るオーブ軍。ユウナは思わずその視線に後ずさるが交渉は可能だと判断していた。

 

「勝利条件はどちらか二つだ。一つ目はザフトを一度撤退に持ち込む。二年前の連合のように一度でも撤退させれば向こうに交渉をもう一度仕掛ける機会がある。ザフトも馬鹿じゃない。割に合わないと判断すればこちらの誘いに乗るはずだ。

もう一つはロゴスの連中を宇宙に上げる。こっちの方が簡単だし、責任追及からも逃れれる。国は少なくとも焼かれない」

 

ユウナはそう弱気になりながらもしっかり言い切る。トダカは彼が震えていることに気が付く、戦場を遊びと勘違いしていた以前とは見違える様子だ。おそらく、あの敗走で何らかの得るものがあったのだろうと思う。

 

「そこまで仰るなら、その判断を信じましょう。そして、我らオーブ軍は国を守る剣となって見せましょう」

 

戦闘が始まるまで既に一日を切っていた。

 




作者の技量ではこれが限界……納得いかなかったらその内修正するかも。アンケートは僅差でオーブを火の海との事でしたのでオーブ戦です。
ともかくプロット無しで演説考えてたから酷い矛盾とかあるかも……またアークエンジェルの出番だね(´▽`)

・ユウナの狙い
演説によってロゴス=悪なのか?或いはザフト=正義なのかを問いかける→国民だけでなく世界に向けて発信することでザフトの大義に疑念を持たせる→自らにも義をあることを主張。国を守るために責任は総て自分が負うと断言→ザフトはなおも攻めてくるか?よろしいならば戦争だ
戦闘でロゴスを逃がすまで、或いはザフトが一度撤退するまで戦う。
結果、ロゴスが逃げれば既にいないことでいくらでも言い逃れがウナトの狸爺なら可能(責任追及は来るため、その点はユウナ自身が背負うと演説でも断言)
ザフトが退いたならば今度こそ会談を。中立の立場として会談を開き、所謂日露戦争でのアメリカ的立場に立つ

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